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黒の波動を携えて  作者:
第1章 力の覚醒
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第5話 死亡フラグだぞ

 レイトが召喚された異世界「ネニヴァス」の中央には、魔物領と呼ばれる獰猛な魔物が多く住んでいる地域がある。それを囲むように人間領が存在し、人々や亜人たちはそこで暮らしていた。


 原因は分からないが、その魔物領から大量の魔物が溢れ出すことがある。しかも、人間領に迷い込む普段の魔物領の魔物よりも、何故か凶暴になった状態で。


 一説には魔物領には、高濃度の魔素が蓄えられている場所があり、それが何らかの原因で離散することで、魔力の供給量が飛躍的に増大。これにより、暴走状態に陥った魔物たちが出てくるのではないかと言われている。


 真実は分からない。東に位置する「ストレニア王国」も西に位置する「帝国」も、魔物領の最深部には到達できておらず。魔物の大侵攻が起こった状態では戦力を分散することも難しく、魔物領の調査は一向に進まなかった。


 終わることの無い迎撃を繰り返す。いつか終わると信じて戦い続けるしか、今の段階では有効な手段は存在しなかった。


 「魔物が出た場所がそんなに問題なのか?」


 馬車に揺られるレイトがアリッサに尋ねた。レイトとアリッサは現在、王都に駐屯していた一番隊の3割程に連れられ、襲撃を受けた街へと向かっている。街へは別の隊も向かっており現地で合流する手筈となっていた。


「魔物領から離れた地域なので予想外と言うことです」


 遠征用の白いローブを着たアリッサが答えた。今回、魔物に襲撃された地域は魔物領からまだ距離があるため、最前線の守りが突破されない限り、襲撃されるのはまだ先だと予想されていた。


 取りこぼしの魔物が到達することはあるが、大きく展開している騎士団がそれを狩るため、今回ほど人間領の奥に大量の魔物の侵入許すことは希だった。そのため、その街に居た兵はわずかで、バリケードをつくりなんとか持ちこたえているとのこと。


「最前線の守りが壊滅した可能性は?」


「それならばとっくに王都以外の場所で、より多くの魔物が確認されているはずです。今回は騎士団の包囲網を上手くかいくぐって到達したとしか……」


 アリッサが言葉を言い切る直前、馬をひいている若い男の兵が声を上げた。


「それが問題なのです」


「えーっと……ケロフだっけ? どうゆうこと?」


 今回、団長のガノの推薦でレイトとアリッサの護衛を任された若き騎士ケロフ。剣の腕は一番隊の中でも上位に位置し、レイトと歳も変わらないのに将来を有望される若手のホープだ。


 レイトの質問にケロフは、金色の髪を馬の揺れに合わせて揺らしながら言葉を続ける。


「魔物たちが包囲網の隙間をかいくぐった原因です。一つは魔物たちが学習し隙間を突いた可能性。そしてもう一つは騎士団の一部が全滅し隙間が広がった可能性です」


 どちらにせよいい話では無かった。前者の可能性はまだ魔物領の魔物には不透明な点の多いモノもいる。知恵のある魔物がいても、不思議ではないということ。そして、後者の可能性は現在、確認を急ぐ為、各隊の隊長には王都への召集がかかっている。そのせいでガノは王都を動けないらしい。


「どちらにせよ、街は兵が少ないので急がないといけません」


 アリッサが不安そうな顔で呟いた。多くの戦場で怪我人を見て来た彼女には、どうゆう状況なのか想像が出来るのだろう。本来なら彼女は今回の遠征に帯同するはずではなかった。


 しかし、怪我人が多いと予想されたこと自由に動ける魔術師がアリッサしかいないことから王を彼女自身が説得し、レイトが一緒に行くことが条件のもと許可が下りた。


 一方、レイトは初めて向かう戦場に不安しかなかった。本当に自分が役に立つのかどうか、命のやりとりとなる場で、自分は冷静さを保ち戦えるのか。


 腰にさしたロングソードに視線を落とした。ガノがくれたこの剣は、銘のある剣だそうだが真剣を握った事の無いレイトにはよさが分からない。


「大丈夫かな……俺……」


「大丈夫ですよ」


 ケロフの明るい声が響いた。


「勇者様とアリッサ様は私が命をかけて守りますから」


 かっこよすぎると心の底から思った。頼りになる人がいると言う安心感と同時に死なせてはならないという責任感が生まれ出す。ケロフはきっといざとなったら自分の命を投げ出すだろう、目の前で親しい人が死ぬのは見たくない。レイトは拳にぎゅっと力を入れた。







 街に着いたのは日が傾き始めた夕方だった。その街の兵によると魔物が何故か引いていったので、なんとか助かったらしいのだが被害が大きく、半壊した建物や応急処置を済ました怪我人などで街は溢れかえっていた。


 引いていった魔物がもう一度くれば街は持たない。レイトらは街から離れた平原で防衛線を張ることとなった。


 夜、数人が交代で平原に斥候として魔物の動向を探り、残りの兵は街で身体を休めた。使える建物は怪我人が寝ているため街の広場でキャンプを張った。


 もし魔物が確認されれば急いで平原へと向かわなければならない。その緊張感からか、休まなければいけないと思いながらもレイトは寝つけずにいた。


 テントから出ると焚火の前に座るケロフの姿があった。隣のテントではアリッサが寝ているのだろう。彼女は街に着くと同時に、重症患者の治療を始めた。


 完治させることもできるが時間がかかるので、一命を取り留めた段階で次の怪我人と言う風に何人もの怪我人を治した。終わった時には疲労困憊の顔でテントに入って行った。


「姫様の心配ですか?」


 アリッサが眠るテントを見ていたレイトにケロフが尋ねた。


「あんなしんどそうな顔、始めて見たから」


「いつものことと言えば、いつものことなんですが。私なんかは毎回ハラハラして見ています。それより、御身体をしっかりと休ませておいてくださいね。私たちの大切な勇者様なのですから」


「それだよ、ずっと疑問に思ってたんだけどさ」


 レイトはケロフの隣に座り、同じように焚火にあたる。


「まだ、何もしてない俺にどうしてそこまで期待するのさ。何の実績もないのに」


「私たちのような若い世代は知りませんが、50年前に現れた勇者も異界人だったと言うではありませんか。こんな希望も無い状況に希望が現れたとなれば期待してしまいます」


 50年前にも今と同じような魔物侵攻が発生した。規模は今に比べると小さかったらしいのだが、当時の人々は世の終わりだと絶望したと言う。そんな人々を救ったのが異界人から来た勇者と言われている。

 

 『幻の勇者』と言われるその勇者はどんな攻撃も効かず、無傷で魔物たちを倒していったと言い伝えられていた。


(そんな力おろか、魔術系の魔法の使えない勇者だぞ)


 この7日間レイトはアリッサに魔法を教えてもらっていたが、一つも発動させることはできなかった。魔力はあるので訓練次第では使えるとのことだったがそれは間に合わなかった。


 レイトにとって、未知の魔法を発動させるのは、暗闇を手探りでモノを探すのと同じような感覚で、センスが圧倒的に足りないと考えた。そして、その劣勢が覆るほどの時間も用意されていない。


 魔法はおろか幻の勇者のような超常的な力も持っていない。人より優れた魔力と身体能力を駆使した体術しか取り柄が無く。その取り柄も歴戦の猛者たちに比べると心もとない。レイトが漫画などで読む勇者とは程遠い力。そんな自分に彼らは期待を寄せている。


「勇者様は不安かもしれませんが。私はあなたならきっと家族を守ってくれると信じています。初めて言葉を交わした時、そう感じました。この人なら私たちを救ってくれると」


 街までの道中でケロフに「何故、若くして騎士団に入ったのか」聞いた。彼は一言「家族の為」と答えてくれた。剣を握らなければ大切なモノを守れない、だから剣を握ったと。確固たる信念と覚悟を持ってケロフは騎士団に入った。きっと、他の人もそうなのだろう。


 それに比べ、アリッサの上目遣いが可愛過ぎて思わず頷いて今の状況になってしまったと、言う勇気を持ち合わせていなかった。


「あんまり、期待するとガッカリするかもしれないぞ」


「あなたはそうさせないために、一日中、ボロボロになるまであれほど訓練を頑張っていたのでしょう? 見知らぬ世界、見知らぬ土地、始めてあう人々。常人なら受け入れられない運命をあなたは受け入れた。理不尽なこの世界で理不尽な私たちの願いを……だから私はあなたを信じます。そして、絶対に希望の灯は消させません」


 ケロフの金色の瞳が真っすぐレイトへと向けられる。人を助けるとかそんな大きな志もなければ、できる力も無い。ただ、自分の居場所を守るためにやっていたレイトに彼は大きな期待を抱いている。この信頼と期待を裏切りたくないと改めて思った。


「勇者様、この遠征が終わったらご飯でもどうです?」


 ケロフが屈託ない笑顔で言った。それは自分と変わらない歳の少年が見せる笑顔だった。


「お前、それ死亡フラグだぞ」


「死亡フラグ?」


「いいか、死亡フラグってのはな……」


 2人の会話が途切れることは無かった。夜が開け太陽が昇り始め少しずつ辺りが明るくなってゆく。もしかすると魔物は去ってしまったのか? そんな考えが過り始めた時、その声は響いた。


「魔物が来たぞ!!」


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