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黒の波動を携えて  作者:
第3章 帝国生まれの傭兵たち
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第27話 勇者VS鬼人


 ベルソスの横に居たガノとネセリンに説得もあって、レイトはミフアを解放した。


「あんたは?」


「元帝国騎士ベルソスだ。「鬼人」と言えば王国の人間は分かりやすいか?」


「本当にあの鬼人のベルソスなんですか?」


 アリッサの問いにベルソスは腕を組み、近くの席に座り答えた。


「ああ。あの鬼人だ。初めまして、女神さん」


「あんたもアリッサが狙いか?」


 レイトがアリッサの前に出た。


「違う、俺の娘も俺もお前が目当てだ。黒の勇者」


「意味がわからん」


「なら付いて来い。今から、俺と一戦交えてもらう」


 ベルソスは席から立ち上がり、店の外へと行ってしまった。ガノとネセリンも彼について行ってしまったため、選択肢はなくなった。


「アリッサ、俺たちも行くぞ」


「は、はい! でも、ちょっと待ってください」


 アリッサはミフアに駆け寄ると彼女の右手を握った。ミフアの右手はレイトの黒い波動により空いた小さな穴から、流血していた。傷口に医療魔法をかけると、傷口は塞がり血が止まった。


「はい、もう大丈夫ですよ」


「あたしらはおたくらを危険にさらしたのになんで……?」


「けが人に敵も味方もありません。それにレイトさんが守ってくれましたし」


 アリッサは笑顔で言うと、レイトと共に店を出ていった。


「噂は本当なのか……」


 ミフアが呟いた。


 王国史上最高の医療魔法の使い手にして、医療魔法の術式をある程度レベルの高い魔術師にも使えるよう、簡易化し公表した。しかも、帝国にもだ。本来ならそれはありえない、自国の技術を他国に売るなど。しかも、対価はなし。帝国には魔術師は少なく、ましてやある程度の熟練者でなければ、医療魔法は使えないので、実際に使える人間は限られていた。


 それでも、本来ならば秘匿するはずの技術を開示したのは、アリッサが多くの人に助かってほしいと願ったからだと噂されていた。ミフアは嘘だと思っていた。こんな魔物と戦うご時世とは言えそんな善人のような人間が本当に存在するはずがないと、王国内部に裏切り者がいてそいつが術式を横流ししたのだと。


しかし、当人はなに食わぬ顔で自分の傷を治してみせた。


「あたしは……なに、やってるんだい……?」


 黒の勇者には実力の圧倒的な差を痛感させられ、王国の女神には人としての器の違いを見せつけられた。小さな自警団で強くなって満足していた。世界にはまだまだ上がいて、天井知らずなのだと痛感した。


 そんな世界で最強クラスにいる父と勇者が戦う。見に行かなければならない、ただそんな気がした。


「ロス! いつまでノビてんだい! 行くよ!」


 黒の勇者に殴られ意識が飛んでいたロスブルクに水をぶっかける。


「あ、姉御?」


「寝ぼけてないで、さっさと立つ!」


「へ、へい!」


 二人は急ぎ足で店を出ていった。
















 レイトは街の外でベルソスと対峙していた。彼が言うには、ここなら街を破壊する心配はないので思う存分暴れても構わないとのこと。立会人として、ガノ・ネセリン・アリッサ、そして遅れてきたミフアとロスブルクも居る。


「さて、黒の勇者……始めるか」


「ちょっと、待ってくれ。俺はあんたと戦う理由がない」


「理由ならある。俺はガノに協力要請を受けている。承諾するかどうかは貴様の腕を見てからだ」


 ガノに目をやると彼は首を縦に振った。どうやら、ベルソスの言っていることは本当らしい。


「本気で来い。死にたくなければな」


 ベルソスは背中に背負った、大槌を握った。レイトの身の丈ほどある大槌を軽く振る。どう見ても、重いはずなのにベルソスは軽々と振っている。


「レイト! 本気で行かないと本当に死ぬぞ!!」


 ガノの檄が飛ぶ。死ぬ可能性があるのなら最初から、やらせないで欲しい。


「あんた、ガノのライバルなんだって?」


 ベルソスがどういった人物か、この場所に来るまでにアリッサから大筋は聞いた。ガノのライバルにしてかつて帝国最強の男と言われた鬼人。それほど、強い男が聞いておかなければならないことがある。


「魔物領に入ったことはあるの?」


「当然だ。あの場所はこことは違う世界だ。生半可な覚悟で行く場所じゃない」


「そこにはあんたやガノより強い魔物がいるの?」


「……いる。かつて王国と帝国の双方に多大な被害を与えた化物がな」


 どんな化物か知りたいが、ベルソスが大槌を構え、戦闘態勢に入った。これ以上の会話には付き合ってくれそうにもない。レイトも腰に挿したアグナの宝剣を手にとった。


「ガノが切り札と称するその実力……しかと見せてもらおう。行くぞ!!」


 ベルソスが大槌で地面を殴った。その場所の地面が隆起し、レイトの方へ一直線に伸びてくる。横に飛び、隆起した地面を避けると、眼前には大槌を振り上げたベルソスが鬼の形相で居た。


 アグナの刀身で大槌を受け止める。足元の地面がミシミシと音を立て、足が少しだけめり込む。ひと一人を地面にめり込ませようかという、純粋な力に戦慄を覚える。


「よく防いだ。反応はまずまずだな」


「もうちょっと、加減してくれると嬉しいんだけど?」


「それはできない相談だな!」


 ベルソスの蹴りがレイトの左の脇に突き刺さる。


「がっ!」


 腹にめり込んだ足により、息が一斉に肺から出てゆく。一瞬、呼吸困難に陥り、気が付くと身体は宙に浮いて吹き飛ばされていた。空中でなんとかバランスを取り直し、足から着地する。勢いはまだ死なず地面を滑る。足を踏ん張り、勢いを殺し、顔を上げるとベルソスが再び地面を隆起させていた。まるで蛇のように動く地面が真上から襲ってくる。このままでは間違いなく生き埋めにされる。


(あの人は俺を殺す気だ)


 改めてベルソスの本気度を認識する。向こうは帝国の生きる伝説だ。ミフアの時と違って手を抜くような余裕はないだろう。こっちも殺す気で行かなければ、殺される。魔物領に入る前にこんなところで死ぬわけにいかない。


(やるしかない……)


 レイトがアグナに魔力を注ぎ込むと刀身が黒く染まる。


「黒の処刑」


 黒い刀身を地面に突き刺すと、無数の槍が地面から出現し、襲いかかる隆起した土たちを木っ端微塵に粉砕した。アグナが国宝として特別な魔装具と言われる最大の理由、それは魔装具の武器としての性能と魔術媒介としての性能が共存しているからである。


 魔術師たちが使う長杖は、魔法を使う際の補助的な役目を担っている。無しで使うよりもより大規模で複雑な魔法操作が可能になる。一方、魔装具の武器は魔力を流すことであらかじめ決められた属性の魔法を刀身に纏わせるのが普通だ。しかし、アグナにはそれがない。


 ないというよりもどんな属性でも纏わせることが出来る。しかもその属性の魔法を使う際には長杖のような補助的な役目も果たせる。近遠攻防一体の魔装具、それがアグナの宝剣が特別扱いされる理由だ。


 レイトが使えば、黒い波動を刀身に纏わせ切れ味を飛躍的に向上させることや。持っていない時よりも、遥かに大きい体積の黒い波動を複雑な形で扱うことができる。レイトの戦闘能力は宝剣一本で飛躍的に上昇している。鬼人と言われたベルソスの攻撃を一瞬で防ぐほどに。


 剣を地面から抜き、再び魔力を流すと刀身が黒く染まる。


「黒の槍」


レイトの声と同時に周りに、丸太のように太く黒い槍が4本現れる。アグナの宝剣をベルソスに向けて振ると、剣の軌跡に合わせて黒い槍はベルソスへ飛んでゆく。


 ベルソスは大槌で地面を隆起させ、4重の土の壁を形成するが、黒い槍はいとも簡単にそれを突き破る。バックステップで一本目を回避する。地面に突き刺さり黒い槍が消えた。当たった場所の地面は消失し、黒い槍の威力を物語っている。当たればベルソスといえどタダでは済まないだろう。


「面白い魔法だなぁ!」


 ベルソスは渾身の魔力を魔装具である大槌に込める。ビリビリと大気を震わせるほどの魔力を込められても、大槌は原形を保っている。残り3本の黒い槍を叩き落とし、レイトの方を見るがそこに黒の勇者の姿はない。


 ――ヒュ


 背後から殺気がする。振り向くとそこには剣を持った黒の勇者がいた。視線から首に狙いをつけていることは予想できた。距離的に完全な回避も防御も間に合わない。ベルソスは向かってくる刃に対し背中を向けた。


 左の肩に背中方向から刃がくい込む。血飛沫が舞、意識が飛びそうになるが歯にグッと力をいれて、意識を保つ。刃がベルソスの肩に食い込み無動きが取れないレイトに、ベルソスは右手に持った大槌をレイトに向かって振り抜いた。


腹に直撃し、手に重い手応えがする。レイトは吹き飛び地面に叩きつけられた。ベルソスは感触から意識を刈り取ったと思った。しかし、黒の勇者は口から血を流しながらも立ち上がる。


 そして、手に持つ剣の刀身が黒く染まる。また、魔法を発動しようとしている。今度はどんな魔法を繰り出すのか、ベルソスは動く右手で大槌を構える。集中力を高め、視線を黒い髪を持った少年から逸らさんとしていると、炎の壁がベルソスとレイトの間に割って入った。知っている、これはあの男の能力だ。


「ガノ、なんのつもりだ?」


 右手に刀身を紅くした剣を持つガノは笑顔を浮かべた。


「これ以上は本当に殺し合いになる。その辺にしとけ」


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