第22話 拡大する闇と最前線を走る閃光
魔装具。魔法石を格、もしくは術式を付呪させ半永久的に発動させ続ける、魔具の中で、武器や防具に使われる物のことをそう呼ぶ。
防具の魔装具は誰でも使えるが、魔力を流すことでその力を発動させる武器の魔装具には適応率と呼ばれる、その武器の力を引き出せるかどうかの指標がある。力が大きい魔装具ほどクセが強く、適応する人物は限られてくる。
帝国は汎用性の高い魔装具の製造技術を持っており、魔術の遅れをそれでカバーしている。もちろん、クセの強い武器を使う猛者もおり、近接戦闘になった場合、王国は帝国に勝てないと言われている。
「で、このブレスレットを付けて剣を抜けば大丈夫だと」
レイトはネセリンから渡された腕輪を見て言った。指導係をかってでたガノはその言葉に頷いた。ネセリンに腕輪を巻いてもらい、準備が整うと深呼吸を繰り返し、集中力を研ぎ澄ませてゆく。
3人がいるのは騎士団の寮の地下にある、特別演習場と呼ばれる、魔法や魔道具など周りに危険が及ぶ訓練をする時にのみ、使用する場所だ。広い円形の形をしていて、足元に平らな石が敷き詰めてある。地下ということもあって、少しひんやりとした空気が漂っている。
「いいか、そのブレスレットはあくまで、お前自身を殺さないためのものだ。やばいと判断したらすぐにアグナを離せ」
アグナのような国宝クラスの魔剣になると、クセも強く適応率の低い人間が握るとその瞬間に死んでしまう。過去にもそれで何人もの犠牲者を出してきた。ネセリンが開発したブレスレットは、想定では死ぬ事態は避けられるはずとのこと。
「でも、アグナのような魔剣に使うのは初めてなので上手くいくかどうか……」
「ネセリンが造ったやつなら、大丈夫ですよ」
レイトはアグナの柄を握った。
城の内部、その最上階に位置するイェノムの執務室にサラドルは訪れていた。イェノムは窓の外を遠い目で眺めている。サラドルはソファーに座り、目の前に置かれたティーカップを手に取った。
「アグナの使用。よろしかったのですか?」
サラドルはティーカップに口をつけた。
「構わん。魔物を排除してくれるならな」
「ふむ……しかし、南のドラゴンが原因を知っているのは盲点でしたな」
「フッ、それも時間の問題なだけだ。計画に多少の狂いはつきものだ」
「多少ですか……今回の遠征にアリッサ様も帯同されるのでしょう? それも計画のうちですかな?」
「当然だ。異界人とアリッサは常に行動を共にしてもらう」
「リスクが高いようにも思えますが……ワシは総隊長にさえなれればなんでもよいですな」
「もう少し待て、計画の最終段階にならなければ叶わん」
「分かっております」
「もうすぐ、重要な局面を迎えるであろう。気は引き締めておけ」
「あなたの母を殺した、同族の異界人を殺すためにですかな?」
「昔の話だ。母を連れて逃亡した勇者が何を思っていたのかなど考えたくもないわ」
王国の闇は静かに、でも確実に、その勢力を拡大しようとしていた。
王都より離れた魔物領最前線にして、王国領と魔物領の境目に建てられたセイケラン要塞。個々に小さな砦はあるとはいえ、最前線で戦う隊たちはセイケラン要塞を中心に魔物領より王国へ侵入する魔物を狩る。
戦いの絶えない雑音の多い日常が普通のセイケラン要塞には、今日も魔物軍勢が押し寄せてきていた。いっときに比べれば規模は小さくなったが、それでも王国領内では最も多く魔物を相手することに変わりはない。
力の無い者は死に、生き残った者はその腕を上げてゆく。特に三番隊はレイトがこの世界に来てからずっと最前線で戦い続けてきた。失った者も多いが、生き残っているのは歴戦の猛者たちばかりだ。
「まぁ、そう云う訳だからフロリーさんは、下がっていてもいいよ」
三番隊隊長にして、隊長格の中では最年少の22歳、ヌーイ・リイナールは毛先まで金色に染まった髪を揺らし、横に居る四番隊隊長であるフロリーに言った。彼女は両腕を組み、眉間にシワを寄せた。
「目の前に魔物の群れが押し寄せているのに、隊長が下がるわけにはいかないだろう」
2人は今現在、セイケラン要塞に押し寄せる魔物の群れに対し、部隊を展開し迎撃の体勢を整えている最中だ。目を凝らせば見える位置まで魔物たちは迫っている。もう、数十分すれば魔術師の射程圏内に入る。そうすれば、魔術による先制攻撃、近距離部隊がトドメを刺す。という、一連の流れの沿った殲滅戦が開始される。
魔術が飛び交い、魔物と戦う戦場で一人だけ逃げる余裕などない。後退するなら今しかないがフロリーはヌーイの言葉をハッキリと拒否した。
「黒の勇者もひとりで魔物群れをやったんでしょ? あいつに出来て僕にできないわけがない」
「ヌーイ、貴様は少し自分の力を過信しているようだな」
「過信じゃないさ。サラドル隊長が王都に帰った今、この最前線の最も過酷な場所で戦ってきたのは僕だ。自負があるのさ、アリッサ様に相応しいのは僕だって」
ヌーイは貴族の出身だ。騎士団に入るのには身分は関係ないが、貴族のコネを利用したほうが入りやすいのは事実である。しかし、隊長となればコネだけでは不可能である。王国騎士団の中でも屈指の戦闘力や、他の武力を持った国や地域に警戒心を抱かえるだけのインパクトがいる。
その中でも分かりやすいのが、魔装具の武器持ちであるということだ。フロリーとヌーイも隊長であるならば当然のように魔装具の武器は扱える。例外はサラドルと魔術に特化したネセリンだけだ。
自分以外にも魔装具の武器持ちはいる。にも関わらずヌーイが絶対の自信も持つのには理由がある。
「さて、魔物たちが近づいてきたね。フロリーさん、この戦いが終わったら一緒に風呂でもどう?」
「つまらんことを言ってると死ぬぞ。それに、昨日はうちの女隊員を口説いて、部屋に連れ込んでいたらしいじゃないか。そんな軽薄な男はこっちから願い下げだ」
「相変わらずお堅いことで」
ヌーイはポーチから魔石を取り出すと天に向かって投げた。目がくらむほどの光は後衛にいる魔術師たちへの合図だ。光が消えると、後衛の魔術師たちが魔法を繰り出し、魔物たちは爆発に巻き込まれていく。
「さて、行くよ! フロリーさん!」
ヌーイは両脇に挿した剣を抜いた。そして、魔力を込めると右手の剣は雷を左手の剣は風をそれぞれ纏った。世にも珍しい、二刀一対の魔装具。双剣の魔装具は数は少ないが存在する。その中でも左右の剣でそれぞれが違う属性を持つ双剣は極めて貴重だった。
かつて、それぞれ違う属性の魔装具二つを両手に持とうとした者がいたが、魔装具二つに適応する者は少ない。クセの少ない、能力値が低い魔装具なら可能かもしれないが、高レベルでの実現は不可能と言われていた。
しかし、ヌーイが適応した双剣は左右両方の剣に適応しなければ、魔装具として意味を成さないものだった。その希少性の高い魔装具を使えるということと、ヌーイ自身の戦闘能力の高さもあり、いつしか『閃光のヌーイ』と呼ばれるようになった。自分は特別な魔装具が使える、それがヌーイの持つ絶対的自信だった。
閃光と呼ばれる男はあっという間に、魔術で生き残った魔物群れに飛び込んだ。左右の剣を振れば魔物たちの体が面白いように真っ二つになる。魔術に耐えた強い魔物を隊長クラスが狩り、瀕死になった魔物は隊員らが狩る。これが最も安全で効率のいい殲滅の仕方だった。
「全く、あいつは……少しは落ち着けんのか」
フロリーは愛用の槍を手に持つと、ヌーイ同様、魔物の大群へと飛び込んだ。
今日も最前線は戦闘が行われている。




