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月姫の涙

泣き虫月姫の唄

作者: 朝露機重郎

むかしむかしの そのむかし

天道様(てんとさま)が さらわれた

天道様(てんとさま)は 童神(わらべがみ)

きらめく蝶を 追いかけて

魔王の罠に 捕まった


お月様は お姉様

天帝様に 泣きついた

「父様父様 お父様

どうか助けに 向かわせて」

「魔王ラゴウの 根城(ねじろ)に向かい

お前の弟 救ってまいれ」


だけどどうする 何をする

悪も(いくさ)も 解らない

姉神月姫 下界に降りて

世界の勇者に 呼びかけた

だけどどいつも 臆病ぞろい

女神の声に 耳ふさぐ

泣き虫月姫 困り果て

大空見上げて 泣き出した




ヴァンダーゲインは 大男

大きな河も ひとまたぎ

ヴァンダーゲインは 大食い男

お昼のおかずは 牛一頭

いつもお腹を すかしてる


ヴァンダーゲインは 怪力男

大岩持ち上げ 手玉に遊ぶ

ヴァンダーゲインは 愉快(ゆかい)な男

いつも子供に 囲まれる

みんなの笑顔が 大好きだ


ヴァンダーゲインは やさしい男

困った人を ほっとけない

「そこで泣いてる 娘さん

俺は勇者じゃないけれど

なんか知らんが 手伝うよ」




ギーとヒューイは 双子の剣士

二人でかかれば 二騎当千

ギーとヒューイは 二人で一人

離れていたって 心は一緒

だけど時々 喧嘩する


ギーとヒューイは 名門貴族

だけど誰にも 微笑みかける

ギーとヒューイは 色男

二人に恋せぬ 乙女はいない

だけどどの()も 泣かせない


ギーとヒューイは 騎士(ナイト)(かがみ)

乙女の涙は 見過ごせない

委細詳細(いさいしょうさい) (ぞん)ぜぬが

貴女(あなた)に剣を (ささ)げます」

「勇者の(いさを)し 求める者は

我らの後にぞ 続いてまいれ」




二人の騎士(ナイト)の 呼び掛けに

百姓(ひゃくしょう)千人 (あらわ)れた

(いさを)しとかは いりません

それより畑が もう危ない」

「お天道様が 戻るなら

畑が元に 戻るなら

戦場(いくさば)とかに 参りましょう」


「馬には乗れぬし 弓矢も出来ぬ

けれど力は ございます」

「畑で鍛えた この力

いかようにでも お使いを」

「親に(もら)った この命

我が子の為なら 捨てましょう」


ギーとヒューイは (さく)()

戦支度を 整えた

馬と弓矢は (あきら)めて

(やり)の扱い 教え込む

「十人ごとに 組になれ

(やり)(くわ)だと 思って殴れ」




魔王を捜して (たたか)い進む

来る日も来る日も (いくさ)は続く

十人死んで 一匹殺す

三人殺され 一匹殺す

十人死んで 一匹殺す

六人殺され 一匹殺す


魔物の群が やってくる

百姓たちは 立ち向かう

十人死んで 一匹殺す

三人殺され 一匹殺す

十人死んで 一匹殺す

六人殺され 一匹殺す


夜のしじまに 声がする

夜の底から 攻めてくる

十人死んで 一匹殺す

三人殺され 一匹殺す

十人死んで 一匹殺す

六人殺され 一匹殺す

ヒューイが死んで 一匹殺す

ギーが殺され 千匹殺す




百姓死んで 月姫泣いた

泣き虫月姫 何度も泣いた

千人死んで 千回泣いた

ひとりひとりの 名を呼び泣いた

泣いて魔王の お城についた


ヴァンダーゲインは 大男

大木(たいぼく)引き抜き 振り回す

ヴァンダーゲインは 怪力男

お城の門を 突き破る

卑怯な魔王は(わな)を張る

毒針毒霧 落とし穴

ヴァンダーゲインは 大暴れ

魔王の(わな)を 打ち壊す

若君(わかぎみ)見付けて 救い出す


ヴァンダーゲインは 谷の底

崩れる山を 押し戻す

魔王ラゴウは 卑怯者

動けぬ背中に 弓を射る

何度も何度も 弓を射る


ヴァンダーゲインは 針ねずみ

それでも山を 押し返す

ヴァンダーゲインは 膝をつく

それでも山を 押し留める

それでもやさしく 微笑みかける

「弟さんが 寝むそうだ

早く帰って おあげなさい」

泣き虫月姫 泣きながら

弟抱き上げ 走り出す




天道様(てんとさま)は 天にと戻る

姉神月姫 天にと帰る

だけど月姫 泣きやまない

「ギーとヒューイと ヴァンダーゲイン

みんなみんな みんなが死んだ

父様父様 お父様」


天帝様は 困り果て

勇者のたましい 天へと上げた

昼間は見えぬ その光

夜空を(かざ)る 星となる

夜昼かまわず 天に()


魔王ラゴウが ()りもなく

お天道様を 狙う時

お天道様が 欠ける時

天には全軍 (そろ)()

魔王が勝てる (わけ)がない

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