7話 軍師のじゃー
グリモア鉱山が奴隷である先住民に占領された速報は、周辺地域の軍に次々と拡散する。
ここは、この大陸でも有数に発展した開拓街の拠点であり、占領軍の数も多い。
奴隷主とフェリー財閥の一族は、直ちに討伐軍を結成し、グリモア鉱山で引き起こされた暴動の鎮圧にあたるのであった。
占領が長引く程、鉱山からの金が取れず、フェリー財閥の利益がどんどんと落ち込んでしまう。
占領軍もメンツが掛かっている。
祖国にこのような報告などできるはずがない。
貧弱な先住民に後れを取るなど、あってはならない一大事件なのだ。
故に討伐軍は、様々な思惑が重なり、すぐに結成する事が出来た。
火縄銃隊、騎馬隊、歩兵隊、魔術師隊……
それらを合わせると、約4000人に膨れ上がっていた。
たった300人ほどしか居ない、先住民には、あまりにも多すぎる戦力だ。
彼らは、多くの先住民を虐殺したスペシャリストである。
質でもこちらが上、量もこちらが上
もはや、先住民に勝ち目はない。
誰もがそう思えるような、完璧な戦力であった。
…………だが、彼らは知らない。
この幼い少女が超危険生物のS級の化け物であるとは夢にも思ってはいなかったのだ。
「しかし、蛮族も馬鹿なことをしたものだ。我々に敵うはずもないのに、愚かなにも刃向ってくるとはな」
「ですが、流石に300人以上の労働力を失うのは、痛いですね……またいつものように、複数の見せしめをするだけで終わらすのですか?」
「いや、前回よりもさななる制裁を行おう。今度こそ二度と刃向わんように徹底的にな……」
司令官は、そういってニヤリと笑う。
最近は、先住民の抵抗が大人しくなり、占領軍が鎮圧にあたる回数が激減していた。
今回は、久しぶりの獲物が沸いたのだ。
ならば、徹底的に蹂躙しよう。
そのような思考が今の司令官にあったのである。
討伐軍を率いている軍団もお気楽であった。
所詮は、貧弱な蛮族がたまたま鉱山を制圧したのだ。
幼い少女が暴れた情報も只の誤報。
故に彼らは恐れない。
神に選ばれた自分達が負ける筈がないのだ。
今回も愚かなる蛮族をどうやって殺すのかを仲間と共に楽しみながら会話をしていた。
誰もが殺される側だとは思ってはいなかった。
だがその陽気なムードは、思いがけない不意打ちによって、一瞬にして崩壊してしまったのである。
「て、敵襲ー!」
「なっ! 何処から現れたのだ!? 偵察部隊は、何をやっている!」
なぜ低俗なる蛮族が奇襲に成功させたのか……
それは数時間前にさかのぼる
……………
………………………
…………………………………………
「……よく言葉が理解できない相手にここまで誘導できたな」
「ふふん、ワシの可愛い姿を見たものなら、誰だって信じてくれるのじゃー」
「……単に仕方なくついてきているように見えるがな」
グリモア鉱山を制圧し、奴隷からは、解放されたものの、先住民達は、すぐに討伐軍がやってくるのを知っている。
それは、過去にも暴動の発生で、奴隷から解放する事に成功した先住民がいたものの、すぐに討伐軍によって鎮圧されてしまったからだ。
さらには、見せしめとして残虐な拷問や処刑を行い、二度とこのような行為をさせないように徹底的な恐怖を植え付けられたていた。
先住民は、確かに力をもらったが。
相手の力が巨大すぎるのだ。
だから彼らは、圧倒的な力で自分たちを救ってくれた『のじゃー』について行く。
それは、救いを求めるかのように、『のじゃー』の命令に従っていたのでる。
そして先頭の屈強そうな男性が、これから何をするのかを確かめるかのように、『のじゃー』に話しかけてきた。
「…………………?」
「なるほど、分からん」
だが……のじゃー3には聞き取る事が出来なかった。
「ふふん、そこがオリジナルと量産型との違いよ。ワシは、ちゃんと聞き取れたぞい」
「なんていったんだ?」
「……貴女は女神様ですか? と言っておるのう」
「なんじゃそりゃあ?」
「まあ、せっかくじゃし、それらしいポーズをしようかのぅ」
そう言って『のじゃー』は祈りのポーズをとり、先住民達に癒しの力を与える。
心に傷をついたモノ、身体に傷をついた者、そのどちらも一瞬に回復したのである。
これは、単なる強化された治療魔術に過ぎないが。
魔術を知らない彼らからしたら女神の祝福を授かったかのような者だった。
「おや……丁度よい場所に、討伐軍らしき軍団が近づいてくるのぅ」
「お前がそこへ誘導したわけじゃなかったのか?」
「そ、そうじゃよ。ワシはこれを予想しておったのじゃ!」
『のじゃー』が軍団に背後を突ける位置に移動できたのは、単なる偶然である。
グリモア鉱山で先住民を反乱軍の育成をするために。戦闘訓練で鍛えていた時、のじゃー探知に引っかかった集団を発見し、直ちに返り討ちをするために『のじゃー』は向かう。
しかし『のじゃー』は、先住民を引き連れてながら、街道を無視して、何もない道で『のじゃー』は、力に任せて無理やり道を切り開く。
そう……道なき道を突き進んで、ショートカットをしようとした。
本来なら、先住民達にとっては、過酷な行軍であるが、今までの訓練と、身体能力を大幅に激増させるパワーブースト、癒しを与える治療魔術の二つを与えられたお蔭で、先住民達の士気が高いままだ。
そして、どんな過酷な行軍でも疲労しないほどに、疲れ知らずとなっていた。
さらに、道が整備されていない場所では、モンスターに遭遇する危険性が高いものの、圧倒的なる強者である『のじゃー』を恐れて誰も駆け寄ってはこなかったので、スムーズに突き進む事が出来たのである。
「まあ、結果オーライじゃな」
「……確かにこれなら、先住民の死傷者は殆どでなくて済みそうだ。ここまで考えていたとは、流石だな、のじゃー。……全く、本当に敵わないぜ」
そして今も行軍中の討伐軍は、先住民が崖の上に隠れ潜んでいるのに気付いていない。
今こそ背後を突ける、絶好の機会が到来し、『のじゃー』は叫ぶ。
「では、そろそろ出発するのじゃー!」
……そして、『のじゃー』二匹と先住民は、待ち伏せに全く警戒していなかった討伐軍にめがけて、一斉に崖から駆け下りたのであった。