6話 グリモア鉱山
上空に飛んでいる二匹の『のじゃー』。
彼女達が向かっている先は、新大陸パンゲアである。
目的は、奴隷解放……ではなく、古代遺跡に眠っている古代兵器の破壊である。
だが、肝心の古代遺跡がどこに眠っているのかが分からず、相手から情報を聞き出す事が『のじゃー』では不可能に近いので、相手のほうからあぶり出す策を思いつく。
先住民達の解放によって引き起こされる反乱は、『のじゃー』にとっては、都合がよいのだ。
占領軍が追い詰められ、古代兵器を所有していたならば、『のじゃー』と先住民を標的に撃つに違いない。
所有していなかった場合は、二匹の『のじゃー』でゆっくりと探し出して、発見しだい破壊すればいいだけである。
そんな二匹の『のじゃー』は、ついに新大陸パンゲアへと到達し、これからの事についての作戦を話し合った。
「それで、のじゃー3よ。どの街を襲撃するのじゃ?」
「そうだな……ここから近いエリアだと、多くの先住民の奴隷が働かされている、グリモア鉱山がいいかもしれないな。あそこには、大量の奴隷が居る筈だ。その奴隷達を開放させれば、きっと凄いことになるぜ」
のじゃー3は、奴隷から解放された先住民達に力を与えて、大陸各地にその暴動を広げる策を提案した。
「なるほどのぅ……確かにワシらの記念すべき血祭りの第一回目は、そこが良さそうじゃ! では、その鉱山までの案内は任せたぞい!」
「……いや、もうグリモア鉱山は、この真下から通り過ぎたんですが」
「……先に言えのじゃー!」
不機嫌になった『のじゃー』は文句を言いながら目的地に引き返す。
そして数分後……目的地のグリモア鉱山の上空へと到達した。
上空から見下ろしてみると、そこには、多くの先住民が奴隷として働かされている姿が見えた。
「ほほう、凄いのぅ……鉱山の中にも大量の奴隷がいるのう……この数なら雇い主に牙を向けるれそうだとは思うのじゃが……先住民達は根性なしじゃのぅ」
だが、その疑問に、のじゃー3は真面目でのじゃーに向けて顔で答えだす。
「それは、無理だな。既に殆どの土地を奪われた先住民には、帰る場所が無い。討伐軍によって、すぐに鎮圧されるだけだ。それに、反乱分子の危険がある人物には、首輪をはめられ、その首輪には、痛みを流す装置が設置されているんだ。だから今の彼らでは、反旗を翻す事は、不可能だ」
『のじゃー』は、その首輪をはめられた奴隷をじっくりと観察した。
その首輪は、本来……太古の昔に喪失した筈の「服従の首輪」にそっくりなのである。
だが、話を聞く限りでは、かなりの劣化版のようだ。
本物なら、本当に服従してしまう、恐ろしい洗脳の道具なのである。
「ふむ……大方、手に入れた古代の兵器を複製させたようじゃな。未だに全てに首輪が行き届いていないのを見る限り、量産とコストの問題が解決しておらぬな」
「……さっきから、何をブツブツと言っているんだ?」
「単なる独り言じゃよ」
その後、ある程度の下見をした『のじゃー』は、目的地のグリモア鉱山の地上へと着地する。
そこに居たのは、大量に働かされている奴隷達。
彼らの殆どが先住民である。
突如と飛来した少女の出現に、奴隷達は口にあんぐりをかけて、ただひたすらに
少女を物珍しいように見つめていた。
『のじゃー』は、その視線を感じとり、思わず子供のような仕草をした。
「ふむ、そんなに見つめられると照れてしまうのじゃー」
「……まあ、幼い少女が突如として現れたなら、注目の的になるな。それにお前って、ワザと子供のフリをしているだろ……本当はもっと年をいっている筈なのに」
「…………ワシは永遠の美少女なのじゃー!」
のじゃー3のツッコミに多少、不機嫌となったその時
3人の飼い主が、こちらを警戒するように近づいていた。
彼らからすれば、突如に空から飛来した謎の少女だ。
警戒するのは、間違ってはいない。
だが、彼らの選択は誤りである。
逃走こそが正解だったのだ。
『のじゃー』が彼ら3人に手を振り下ろした途端、彼らはこの世から消滅した。
「さて、鬱々しい害虫も処分した事じゃし、さっさと始めようかのぅ」
「おっかねえな……」
3人の飼い主が消滅たのを目撃した奴隷たちは、『のじゃー』の力に驚き、期待と不安に満ちた表情で少女を見つめる。
新たな魔族との契約なのか……それとも救いの女神なのか……
そのどちらかだと、奴隷たちは感じていた。
「…………言葉は、通じないじゃろうが、ワシの力を少しだけ分け与えてやるのじゃ。醜い侵略者どもを血祭りに上げるのじゃー! 存分に暴れるがよい!」
『のじゃー』が与えたのは、のじゃー3が開発した、パワーブースト。
効果は、身体能力の強化と魔力抵抗の強化。
さらには、術者の魔力が供給される限りは永続に効果を発揮する。
不思議な光を浴びた奴隷たちは、驚きと恐怖を感じてしまうものの、奴隷は、次々と自ら授かった力に気付き始めた。
そして、大幅に力を増した奴隷たちは、その場で一斉に歓喜が響き渡るのであった。
今まさに、先住民の反撃が始まったのである。
…………
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「ひゃっはー! 働け、働けー!!」
「仕事をサボった奴隷は、鞭撃ち100回の刑だ!」
仲間のモヒカンと共に、鞭を撃ちながら先住民を重労働で働かせている奴隷主。
その奴隷主のさらに上の存在には、強大な財閥の一族の影がチラついていく。
フェリー総督……
彼らの一族は、いち早く新大陸パンゲアに移住し、親族には、新たなる企業を立ち上げた。
土地を奪い、多くの略奪によって、もともと、莫大な富を独占していた一族が、さらに大金を手に入れたのである。
そんな彼らは、さらなる開拓を行う。
これも全ては、この新大陸がもたらされた奇跡だ。
だが、その富が先住民達に流れる筈もなく。
ここは、極一部の特選階級が支配する。
絶望の大陸でもあるのだ。
「うう……」
「オラァ! さっさと歩けこのカスが! 家畜の分際で休憩しているんじゃねーよー!」
飼い主は容赦なく子どもに鞭を振るう。
「待ってください! どうかこの息子だけはご勘弁を……!」
「ならば親子仲良くお仕置きをしないといけないなぁ! オラァ!」
「ひいいい!」
子どもを庇いながら叩かれた鞭を受ける父親。
長きに渡る重労働で既に先住民の身体はズタボロだ。
神であった龍神ですら滅ぼさせる力を持つ魔族。
先住民の彼らは、訪れた侵略者を魔族と呼んだ。
その無慈悲なる略奪と殺戮は、先住民に恐怖をどん底に陥れ、伝承の魔族をも超える悪行なのである。
侵略者は自分たちが邪悪なる魔族だとは思ってはいない。
むしろその逆である。
我らは神に選ばれた民族なのだ。
蛮族は所詮、人以下の動物(家畜)である。
故に彼らは、この虐待を気にも留めないどころか、ゲームを楽しむかのようにエスカレートしてしまっている。
もはや先住民の未来は無い。
このままじわじわと滅ぼされる未来を待つか……それとも………………
「な、なんだ貴様は! 一体、いつの間に………………!」
「のじゃー」
………
………………
……………………………
ある日、一人の部下がドタドタと廊下を駆け寄り、大慌てで扉を開き、オーナの部屋に飛び出した。
息を切らしながら、走ってきた部下の姿を見たオーナは、あまりの慌てように、何か不吉な事でも起きたのか心配していた。
…………そして、その予想は的中する。
「…………た、大変です! 親方! 急激に力を増した奴隷達と……謎の幼い少女が暴れています! グリモア鉱山で働いていた飼い主の殆どが死亡した模様です!」
「…………な、なんだとー!」
その速報が届いた時。
既にグリモア鉱山は、『のじゃー』と奴隷によって制圧させた後であった。