5話 『のじゃー』の休日
ワシの名は『のじゃー』。
この名を付けてくれた主は既にこの世から去ってしまった。
この島は、来航者が訪れる事が皆無なのじゃ。
故にワシは、たった一人でこの島に暮らしている、只の『のじゃー』に過ぎない。
じゃが……今は、過去とは違い、ワシのテリトリーに侵入する愚か者も多くなってしまったのじゃー。
おかげで永い眠りから目覚め、再びワシの住み家を荒らす侵入者を始末しなければならない。
所詮は、ワシの敵ではないが、中には、中々驚かせてくれる実力者もこの島に侵入してくる。
どうやらこの孤島の島へ訪れる程に、新人類の文明が大幅に発展してきたようじゃ。
侵入者とはいえ、全てを殺すわけではない。
時には、わざと侵入者の逃走を見逃し、ワシの恐ろしさを外に広めた。
お蔭で、最近は、侵入者の数も激減し、のんびりとこの島で暮らしておる。
そして、特に気に入った侵入者は、ワシの仲間としてスカウトをしているのじゃー。
まあ、殆どは、のじゃーウイルスの浸食に負けて死亡してしまうのじゃ……
のじゃーウイルスが強力すぎるのも困ったものである。
そして、そのウイルスに耐え抜いたのが二人もいるのじゃー。
黒髪の少女には『のじゃー2』
金髪の少女には『のじゃ-3』
どれも元は、男性じゃったが、ワシの『のじゃーウイルス』のお蔭で素晴らしい美貌を手に入れたのじゃ。
やはり、美少女と肌を重ねるのは、格別なのじゃ!
じゃがしかし……記憶を失わなかったのじゃー3はかなり恥ずかしがっておったのう……
ワシの肌を触れ合う名誉を手に入れたというのに、強気な性格の割には、ウブな奴じゃ。
「のじゃー様。のじゃー3がまた新たな魔術を発明したようなのじゃが、あのまま放置して大丈夫かのう?」
「大丈夫じゃ、問題ない。のじゃー3が会得した魔術は、全てワシがトレース出来るのじゃー。ワシらは運命共同体。新たな魔術も唱えられるようになって一石二鳥なのじゃ!」
ワシは、新世紀に突入してから、侵入者が訪れる事が無くなり、長い眠りに入っていた。
そのため、新人類の開発した新しい魔術には詳しくないのじゃー。
今までは、古代の魔術や物理で殴っていただけである。
だが、のじゃー3は、様々な新魔術を開発する事が出来る逸材で、初めて遭遇した時は非常に興奮したものじゃ。
じゃからワシは、のじゃー3を生かして、ワシの僕にした。
のじゃーウイルスに耐え抜いた肉体と、記憶を失わない精神力……かなりの掘り出し物を拾いあてたのじゃー。
そして、大変良い掘り出し物であった、のじゃー3がワシの部屋に訪れ、何やら嬉しそうに来場したのじゃ。
似合っている魔法少女の衣装を着ながら、可愛い少女の姿で放たれる笑顔は、非常に絵になるのぅ……
ワシまで、驚くほどの美貌を手に入れるのは、悔しいが、やはりこの娘をのじゃー化させて正解じゃったな。
「いやーこの肉体は凄いな! 魔力切れが起きないなんて、なんて素晴らしいんだ!」
「当然じゃ。『のじゃー』は永久式なのじゃ。魔力は無限に湧き出るのじゃー」
「……私も魔力が湧きあがるのを感じるのじゃー」
二人とも『のじゃー』の素晴らしさを実感しているようじゃ。
ふふふ……流石はワシのウイルスじゃ。
「それよりものじゃー3。お主の記憶は殆ど失っておらぬのじゃな?」
「ああ、オレは伝説のS級ハンターだった元男だ」
そう言って自信満々に答えるのじゃー3。
どうやら記憶が本当に失われてはいないようじゃ。
不完全なのじゃー化ではあったが、これはこれで都合がよいのかもしれんのぅ
「では、最近の世界がどうなっているのかを、詳しく教えて貰おうかの」
「なんだ……本当にこの島で引き籠っていたのか。のじゃーなら簡単に新大陸ぐらいには上陸出来そうなのに……」
「のじゃー様は私が誕生してから、一歩も島から脱出した事がないのじゃー」
「そうか……まあ、詳しく話すと……かくかくじかじかな現状だ。オレの祖国は、最盛期を迎えるかのように巨大になっているぜ」
「なるほどのう……そうじゃったのか!」
のじゃー3の話によれば
今は大航海時代であり、列強国は新天地へと航路を求めて
世界各地に散ったそうじゃ。
そして新大陸を発見したパンゲア大陸には、先住民が住んでいたようなのじゃが、その住民は『魔術』 を知らず、さらには狩りが専業であり、田畑を耕す文化が無い。
先住民には『文明』と呼べるモノが殆ど栄えていないのである。
その為、異国からの侵略者は容易く騙し、数多くが襲撃された事によって、先住民の殆どが虐殺されてしまった。
……今は生き残った先住民の殆どが奴隷として生き残っている有様のようじゃ。
新大陸を発見した国は、確かに豊かになった。
だがその代償に植民地となった先住民が犠牲になったのじゃ。
実に許しがたい悪行じゃ!
…………まあ先住民の話は置いといて、その新大陸とやらはワシの島からは近い位置にあるのじゃ。
だとすれば、あの大陸にはあれが眠っている筈じゃ……
先住民なら、その使い方に理解できないはずじゃが、新しく移住した異民族なら、使いこなす事が出来そうじゃな。
クローネ人が余計な事をしなければよいのじゃが、放っておけば、ワシの島が標的にされて、甚大な被害が出てしまう可能性が高い。
そうなる前に、ひと暴れをしに向かおうかのう……。
……それにしても、島を出るのは、いつ振りになるのじゃろうか?
まあ、遠い昔の話は、今は置いておこう。
「……決めたぞい。ワシは新大陸……パンゲアへと向かう。のじゃー2よ。お主はこの島を守るのじゃー!」
「了解したのじゃー」
「お、おい。この島を出て行ってもいいのか?」
「ちょっと気になる事があってのぅ……とある古代遺跡に向かうついでに、侵略者共を血祭りにしようかと思うのじゃ」
「……お、おう」
のじゃー3も先住民を血祭りにした筈なのじゃが
何故か引いている。
まあ、気にしないでおこう。
のじゃーは寛大なのじゃー。
こうして二匹の『のじゃー』は新大陸パンゲアへと向かった。
『のじゃー』達の行いで、異国から侵入者と先住民達の未来がどうなってしまうのかは、また次項のお話である。