4話 『のじゃー』VS伝説のS級ハンター
「…………ここが、のじゃー島か。なかなかいい島じゃないか」
島に着陸したオレは、辺りをキョロキョロと見渡し、周辺を確認する。
今のところは、『のじゃー』の姿が見かけない。
魔力探知からの反応も無い。
このオレを恐れて姿を隠したのだろうか?
まあ、その考えは流石に無いだろうな。
「まあいい……姿を現さないのなら……この島を破壊するだけだ!」
オレは直ぐ様にフライと唱えて上空を飛出し、魔術を唱える。
空を飛びながら、魔術を唱えられるのは、オレ様しか扱えない高度な技術だ。
地上から『のじゃー』の攻撃を受けたとしても直ぐに回避できる。
だが……オレの考えは甘すぎたようだ。
……のじゃー島から、一人の少女がオレの近くに飛来してきたのである。
「のじゃー」
「……へえ、お前も空を飛べるのか」
白いワンピースを着た銀髪の少女。
生き残りの証言から得られた情報通りの姿だ。
大きく動けばパンツも見えそうだな。
非常にけしからん奴だ。
……こんな少女の何処に化け物じみた力が備わっているのだろうか?
「全く……空を飛べるなら、こんなちっぽけな島で引き籠りなんてする必要が無いだろうに……」
「のじゃのじゃ、のじゃー!」
なんて言っているのかがさっぱり理解出来ない。
まあ、真面目に話しかけてくるという事は、多少は話の内容に理解しているのだろうか?
「だが、所詮……お前も蛮族であり、人の姿をしただけの……只の化け物だ。このオレが直々に処分してやる!」
「のじゃ!」
何やらくるくると回り始めた『のじゃー』を無視して
オレは、高速で旋回しながら、『のじゃー』に向けて風と水の混合魔術を唱える。
ナマクラ武器である平民が扱う火縄銃なんかよりも早く……
超高速で襲い掛かる回避不能の雷魔術だ。
「ライトニングボルテックス!」
激しい稲妻が『のじゃー』に直撃する。
オレはさらに追い打ちをかける。
「くらえ! バーニングフレア!」
稲妻を襲った『のじゃー』に今度は灼熱の業火をプレゼントさせた。
このコンボで生き残れた化け物は居ない。
あの龍神ですら、このコンボを食らってボロボロとなっていた。
人の姿をした『のじゃー』ならば……今頃は真っ黒に炭化しているだろうな。
オレの魔力がそれほどに強力だって事だ。
「おかしいな……海に落ちた痕跡が無いぞ?」
未だに煙が立ち込める中、『のじゃー』の反応が煙の中に佇んだままだ。
どうなっている?
まだ『のじゃー』は生きているのか?
ならば念の為にさらなる追い打ちをかけなければならない。
オレは次なる一手を唱えようとしたその時。
突如として煙の中から雷がオレに襲い掛かる!
「ぐぅ!!!!」
油断したオレは、それを真面に食らい、辛うじてマジックバリアーを唱えた事で致命傷は、避ける事を成功させる。
「くそっ! ……どうなってやがる……なぜオレのオリジナル魔術であるライトニングボルテックスが『のじゃー』にも使えるんだ!」
ライトニングボルテックスは一朝一夕で扱えるような魔術ではない。
オレが数年の年月を要して完成させた、新しい混合魔術なのだ。
それなのに……っ!
「のじゃのじゃー」
動揺している彼をしり目に、全く焦げていないワンピースを着た……無傷の『のじゃー』はゲラゲラと笑っていた。
まるで彼の魔術など、いともたやすく唱えられる簡単な魔術なのだと……
「くそ……! あれを真面に食らって無傷で……オレの魔術を唱えられるとか……とんでもない化け物だな」
「のじゃ!」
当然とばかりに胸を張る『のじゃー』。
実に舐められた態度だ。
「だが覚えておけ! オレは天才魔術師! 今までの魔術は所詮、前座に過ぎない。今こそ最大奥義を食らうがいい!!!」
「のじゃ?」
オレは両腕と両肩に装備させていた龍石が輝き始める。
これは龍神から手に入れた戦利品だ。
効果は、オレに限界を超える魔力を高められる性能を持っている。
あの魔力結晶よりも強力な効果を発揮する事が、この龍石にはできるのだ。
この大量に溜めこまれた魔力によって、オレは新しく開発した、とある魔術を唱える事が出来る。
これを食らえば、いくら『のじゃー』といえども一溜りもあるまい。
これはオレだけが使える……5つ目の元素である『光』。
その名は……
「ジャッジメント!」
天から突如として『のじゃー』に襲いかかる閃光の柱。
降り注いだ光に浴びれば、肉体は一瞬にして消滅し、塵ですら残らない神の裁きだ。
これは聖書で描かれた内容をオレが独自にアレンジして、実際に唱えられるようになった魔術である。
つまりは、オレだけが使える神の裁きだ。
これで戦いが終わった。
強敵ではあったが所詮はオレの敵では……
「…………おいおい、嘘だろ……!?」
ジャッジメントは未だに降り注いでいた。
だが……あの化け物は……
「のじゃー」
『のじゃー』がジャッジメントから逃れた途端に
ジャッジメントが消え失せてしまった。
このような出来事は初めてだ。
ジャッジメントから逃れられる術はない
だのに何故!?
だがオレは瞬時に理解してしまう。
それは、どうしようもない絶望的な現実……
「ははっ……簡単な答えじゃないか……『のじゃー』はオレよりも化け物だったって事か」
「のじゃのじゃー」
『のじゃー』は可愛らしく笑う。
その姿を見た者はこう思うだろう。
天使でもあり、悪魔でもあり
今から裁きを下す神でもある存在……
そして……オレの隣に閃光の柱が出現する。
あと数ミリで、光の柱を浴びるギリギリの距離だ。
これはオレが唱えた訳ではない。
あの化け物が唱えたジャッジメントだ。
…………この化け物との戦闘で理解した事がある。
『のじゃー』は先制攻撃を仕掛ける仕草を全く行わず
オレの攻撃を待ち構えていた。
つまりは……オレのオリジナル魔術を会得しようとしたのだ。
たった一回の魔術を見ただけで……
「完敗だな……まあこの死にざまも悪くない」
オレの頭上に降り注ごうとしている光の柱。
もはや未練はない。
寿命でくたばるような事と比べたら
華々しいチリざまだ。
光の柱が到達した時……オレの意識は失った。
……
…………
……………………
「……はっ!」
オレは生きていた。
だが、身体の動きが封じられて身動きが取れない。
ここは何処だ?
この鉄の部屋はなんなのだ?
オレは死んだのではなかったのか?
「おや……? 目を覚ましてしまったようじゃの」
「そのようなのじゃー」
「なっ!」
そこに現れたのは、オレを殺した『のじゃー』が二人。
もう一方は黒髪の長髪で非常に可愛らしい姿をしている。
「まずは理解していると思うが、お主はワシの捕虜となったのじゃ。お主が悪いのじゃぞ?
ワシのテリトリーに侵入したのじゃからな」
捕虜にされたのは瞬時に理解したが、納得いかない点が一つだけある。
………………なんで普通に喋れるんだよ。
「そ、それよりも普通に喋れるじゃないか! 今まで騙していたのか!」
「それはワシが注入させた『のじゃーウイルス』のお蔭じゃ……まあ、ワシら以外では誰とも話せなくなってしまうデリメットがあるがのぅ」
「本来でしたら、私のように記憶も失われ、のじゃー様の下僕となるだけなのじゃが……貴女はかなりの自我意識を持っているようなのじゃー」
その話を聞いたオレは愕然とする。
つまり……オレは、のじゃーの下僕となって……ってあれ?
「まさか……オレは『のじゃー』となってしまったのか?」
それを聞いた『のじゃー』は当然とばかりに話しかけた。
「まあ、不完全じゃが、お主の身体は完璧に可愛らしい『のじゃー(少女)』となっておるぞい!」
「っ!!!!」
その一言で理解した。
俺の大事な相棒が失われたのだ。
道理で声が高くなり、下半身がスカスカとしていた訳だ……
男性であるオレの外見が少女へと姿を変える能力。
まさに神のような力ではないか……
「では聞こう……ワシの下僕となるか、ここで死ぬか……まあ正直に言って、ワシら限定で、のじゃのじゃ言ってくれないお主は不完全なのじゃ。故にワシはどちらでもよい」
のじゃのじゃ言わないって……
それが不完全の原因かよ……。
だがもう答えは決まっている。
既にオレはのじゃーに生かされた身
ならば……
「それはもちろん……オレは、アンタの下僕になってやるさ」
こうしてオレは、のじゃーの仲間として迎えられたのであった。
これからは今まで以上に穏やかな日常で、または波乱に満ちた人生を送るだろう。
未だに底が見えない『のじゃー』
だが、今の気分は悪くない。
むしろ清々しい気分だ。
オレは彼女のような圧倒的な力を持つ人物の僕になるのを待ち望んでいたのかもしれない。