3話 伝説のS級ハンター
のじゃー島……
ここに生息する『のじゃー』は
この島に訪れた数々の招かざる来航者を殲滅させ
未だに、『のじゃー』の討伐を成功した者は誰もいない。
生き残りのA級ハンターの証言によれば……
そのあまりにも強力な魔力と……その小さな身体には考えられない力は
もはや天災級のレベルであり、自分が生き残る事が出来たのは、『のじゃー』が見逃してくれたからであり、本当なら死んでいたそうだ。
そして、今までの航海で引き起こった、大量の死者と行方不明者が発生した事件を元に、年を追うごとに討伐難易度のランクが上昇していき、ついには、『のじゃー』の難易度は、もっとも危険な天災級のSランクとなっていた。
だが、基本的には、この島でしか活動をしていない為
大陸に住む一般人には、無害であり。
船もここを訪れさえしなければ、基本的に被害は0。
今は命知らずのハンターがここをたまに訪れる程度である。
……………そして今日も、その命知らずのハンターがこの島を訪れようとしていた。
「本当に行くのか?」
「ああ。オレはあの島へ向かう」
「いくらあんたが、あの伝説のS級ハンターだからって、あの島はやめた方がいい」
「へえ……このオレが忠告されるほどに危険生物なのか。ますますのじゃー島に行きたくなったぜ」
「……そうやって、忠告しても、命知らずのハンター達は、結局『のじゃー』を仕留める事が出来なかった。お前も『のじゃー』の餌食になるぞ!」
この船長は、この近辺の海を詳しく知っている熟練者だ。
故に、この島に訪れようとするハンターの依頼が後を絶たない。
……船長は忠告をするものの、殆どは無謀にも『のじゃー』に挑み、多くのハンターが散って行った。
だから彼にも忠告をする。
決して油断するなと。
「安心しろ。オレは絶対に戻ってくる。オレをそこらのS級ランクのハンターと一緒にするなよ? オレは、たった一人で、S級モンスターを討伐した経験を持つ男だ。慢心も油断もしない。常に全力で挑むさ」
「……分かった。そこまで言うなら、のじゃー島へと案内してやろう。だが約束しろ。片道切符になるだけは、勘弁してくれ。おれに言う事は一つ……生きて帰ってこい!」
そう言い放った船長に向けて彼はにっこりと笑う。
「……ああ。約束するよ」
そして迷いなく、生きて帰ると約束した。
まっすぐな目で見つめながら堂々と
「……野郎ども! 聞いての通りだ! のじゃー島へと向かうぞ!」
「「了解!」」
そう力強く言い放つ事は、船長は、今までになかった。
それほどに彼には、圧倒的強さを感じとり、そして死ぬには、惜しい逸材だ。
船長は、ただ彼の無事を祈る……
ここで無謀な挑戦に挑むハンターの話をしよう。
彼は伝説のS級ハンターと呼ばれている。
四大元素の魔術を全てが扱える天才魔術師であり、人類最強の魔術師と云われている。
成り行きで新大陸を訪れた彼は、大陸に住んでいた先住民族の中でも有数の強敵を次々と殺害し、その先住民の神として君臨していた龍神を、討伐する事に成功した。
特に龍神との死闘は彼にとっては一番、白熱した戦いであった。
彼は、その功績を認められ、金と名誉を手に入れる。
その気になれば元々は、貴族だったので、領地を与えられる事も可能である。
だが、国に縛られるのを嫌った彼は、世界各地へと放浪の旅をする事を選択した。
彼は未だに血を飢えていたのだ。
あの龍神ですら期待していた程の強敵ではなかった。
だから彼は、旅立つ。
自分と同格の強さを誇る化け物を求めて……
そんな時、新大陸パンゲアの旅を続けていた彼に速報が届く。
決して足を踏み入れてはならない悪魔の島。
その名は、のじゃー島。
『のじゃー』は、美しい少女の姿をしている。
だが……その外見に騙されてはならない。彼女は、人の姿に化けている化け物であり、ある時は堕天使……ある時は悪魔など……
様々な伝承が広がっていた。
天災級のモンスターは、今まで数える程でしか存在していない。
突然と現れ、国を壊滅的に追いやる化け物。
そして……その一体である龍神を滅ぼした伝説のS級ハンター
今まさに……『のじゃー』にとって、最大の強敵が向かおうとしていたのである。
……
…………
……………………
船は、のじゃー島が裸眼から確認できない位置で停止した。
ここから先は、悪魔が住み着く……魔の海域だからである。
「もうこれ以上は先に進めない。オレは死にたくないからな」
「ああ、ここまで来れたなら、もう十分だ……フライ!」
そう言って彼は、その場から大きく飛出し、宙へ浮いた。
伝説のS級ハンターは、そのままのじゃー島へと向かい、船長では確認できないほどに、遠くへと消えた。
空を飛ぶ風の魔術は非常に高度な技術であり、並の魔術師では空を飛ぶことは非常に困難である。
一度、操作を誤れば、壁の激突や落下などで命を落とす事故が発生するのである。
それをやすやすと飛び回れる程の実力者。
あのS級ランクの龍神を単独で撃破した実力は、本物だったのだ。
「流石は伝説のS級ハンター……彼ならばこの島の主である『のじゃー』を討伐できるかもしれないぞ」
船長はそう期待を込めながら、約束の時間まで、ハンターの帰りを待つのであった。