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超危険生物『のじゃー』  作者: アトリーム人
第2章 帝国編
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25話 『のじゃー』VSワカハゲ

 戦闘が始まろうとしていた二人の少年と少女……。

 ワカハゲは腰にぶら下がっていた古代兵器の剣を捨てて。

 身軽となったワカハゲは、何も武器を持たないまま、『のじゃー』を睨み、戦闘態勢に入る。


「おや? まさかこのワシに、格闘戦を挑む気なのかのぅ?」

「ここは、僕のホームタウン。今の貴女には、この拳だけで十分さ」

「ふむふむ。そこまで強気ならば、ワシもお主の挑発に乗ってやるのじゃー!」


 『のじゃー』も拳を構えて、魔術を発動するそぶりを見せない。

 完全に相手に合わせて戦う気のようである。

 それは、今までの戦いも相手の出方をうかがう戦いを繰り広げていた癖でもあり。

 絶対に負ける筈がないという、余裕の表れでもあったのだ。


 そんな態度に気に入らないワカハゲは、口を噛みしめる。

 だが、直ぐには打って出る事はしない。

 慎重に相手の隙を窺っているのである。


 それは、長い静寂でもあり、開戦を告げたものの、未だに二人と一歩も動こうとはしていなかった。

 一瞬でも気を抜けてしまえば、襲い掛かって来るからである。


 そして、『のじゃー』が僅かに動こうとした瞬間、ワカハゲは地面を蹴って、高速で走りだした

 その突進は、ぎりぎり射程距離寸前で体を捻り、後ろ蹴りを突き出す。


 その蹴りを『のじゃー』が身を半歩分ずらして、横に避ける。

 だが、その蹴りは囮であり、ワカハゲは振り向きざまに魔力で固めた拳をぶつける。

 しかしニッコリとほほ笑んだ『のじゃー』は、迫るワカハゲの拳を力ずくでつかみ、そのまま勢いにまかせて、空へ投げつけた。


「ちぃ!」


 激しく遠くへ投げられたまま、追撃をしかける『のじゃー』。

 あの僅かな隙は、ワザと誘った隙だったのである。


「足元がお留守番じゃ!」

「……っ!? 舐めるなー!」


 ワカハゲは空中で姿勢を変え、『のじゃー』の拳が下ろす右ストレートのパンチを、最大出力で上げた。

 魔力で彼自身を敵に向けて一直線に『のじゃー』に向けて蹴り下りる。

 だがそんな攻撃もお構いなしにスルーをして、のじゃーは拳をワカハゲのボディにめがけて殴りかける。


 「グハァッ!!」

 「のじゃ!?」


 両者はぶつかり合い、ワカハゲは空高く吹っ飛び、『のじゃー』は、勢いよく大地に衝突してしまった。

 吹っ飛ばされながら態勢を立て直す為に、空中で停止したワカハゲ。

 そして『のじゃー』の衝突によって出来た多きなクレータを見つめた。

 そこに居たのは、墜落現場に仁王立ちしている『のじゃー』の姿。


 「むぅ……けっこう痛いのじゃ……ペッ!」


 それは両者共にダメージを被る一撃であり、お互いに吹っ飛ばされ。

 モロに内蔵がめちゃくちゃに破壊される程のダメージを食らったワカハゲではあるが、持ち前の再生力で瞬時に回復させる。


 それは、顔面を食らった『のじゃー』も同じであり、口の端に血を滲ませながらも、喉に詰まらせた血を吐き出し、直ぐに完治させていた。


 再びワカハゲの元へと空へ飛ぶ『のじゃー』。

その表情には余裕が満ち溢れており、未だに本気を出していない事をうかがえられていた。


「なかなか力をつけて来たようじゃが、その程度の実力では、ワシを倒せないのじゃー!」

「相変わらずの化け物だね。まだ僕が全力を出していないからと言っても、これほどまでに力の差を感じるとは思わなかったよ。……今までの修行が無駄になってしまったかもしれないね」

「ふふふ、ワシも久々に傷を受けてしまうとは、少し驚いてしまったのじゃ。あの時よりは、成長しているようじゃな。 ワシも本気の3%ぐらいは出したかもしれぬのう」

「……そうか。やはり正々堂々とでは、勝つことが難しいのは昔と変わらないな」


 その事実は、認めなければならない。

 実力の差は、圧倒的に相手が上だった事。

 そんな、悔しそうに見つめていたワカハゲに、『のじゃー』は、心配そうに話しかける。


「どうしたのじゃ? お主が描いた、ワシを殺す未来とは、その程度の妄想じゃったのか?」

「違うね。これから、……『のじゃー』が死ぬ運命が始まるのさ。この絶好の土地から誘い込む事が出来た時から、既に準備は完了しているんよ」

「ほほう。それは実に楽しみじゃ。そのワシを殺せると宣言出来るほどの切り札……それを見せて貰うのじゃー!」

「そうやって、油断している貴様の態度は、前々から大嫌いだったんだよ! 【そこを動くな!】」

「何を訳のわからぬ……のじゃ?」


 ワカハゲは、顔に喜色が表れるほどに笑っている。

 異変に気付いた『のじゃー』は、顔に表を出すほどに慌てている。

 そう……。あまりにも数多くの規約を必要とし、今の時間帯とこの位置こそが最大限に力を発揮でき、『のじゃー』すら封じ込める能力を発動する事が出来るのだ。


「ふははははは! どうだい? 僕の命令に逆らえなくなったご感想は?」

「ぐぬぬ! なんという事じゃ……完全に身動きが取れなくなっているのじゃ!」


 『のじゃー』も必死にその場から動こうとするも、まるで体の言う事が効かない。

 この日の為に新たに会得する事に成功させた、ワカハゲワールド限定の能力である【神の命令】。

 それは、絶対に逃れられない神の命令でもあり、『のじゃー』ですら、その命令を無視する事が出来ない。


「ここは、僕が創りだした世界。 つまりは、僕こそ神だ。【神の命令】に逆らう事なんて、出来る筈がないだろ?」

「なるほどのう……ワシがこの世界に招待された時には、既に決着が着いてしまったと言う訳か。……まんまと嵌められてしまったのじゃー!」


 悔しがっている『のじゃー』の姿を見たワカハゲは、勝利を確信する。

 そして、身動きが出来ない『のじゃー』をあざ笑うかのように両手に頭の額を当てて、魔力を集中させた。


「必ず訪れる運命からは、決して逃れられない……これでチェックメイトだ! 『のじゃー』!」


 ワカハゲは、身動きを封じられた『のじゃー』に最後のトドメを刺す。

 渾身の【ワカハゲレーザ】を発射させた。

 100%の出力を持つ、本気の力。

 もはや無防備となってしまった『のじゃー』は、なすすべなく消滅させる。

 それこそが、ワカハゲの【未来予知】からの情報を得られたルートなのだ。

 このルートこそが、絶対に『のじゃー』を倒せるのである。

 勝利を確信したワカハゲは、隠し切れないほどの表情で歓喜する。

(勝った……ついに、僕の勝利の運命が確定した!)


 しかし……『のじゃー』は、この絶望的な状況の中。

 いつもの通り、ニッコリとほほ笑んだ。


「さて、そろそろ演技も疲れたのじゃ」

「……えっ!?」


 動きを封じられていた筈の『のじゃー』は、腕を上げて一指し指を伸ばし、まるで避雷針の如く、ワカハゲレーザがその指に向かって方向転換をしてしまい、そのまま指に吸収されてしまう。

 その呆気にとられた状況に、何が起きたのかが理解できないワカハゲは、激しく動揺をしていた。


「な、何故動ける!? 【神の命令】は、絶対だ! 【その場で自害しろ!】」


 だが、辺りは静けさを保ち、『のじゃー』は、自害する素ぶりすら見せない。

 そんな慌てているワカハゲに、少女は、ため息を吐いてしまった。


「はあ……やれやれ。 既にお主なら理解しているであろう? ふふふ……実はのぅ。このワカハゲワールドは、このワシが既に乗っ取ったのじゃー! やーいやーい! ざまー見ろなのじゃー!」


 そう言ってVサインをしてニヤリとドヤ顔をする『のじゃー』。

 動きが封じられて、焦っていた表情は、全てがこの時の為の演技だったのである。

 ワカハゲを驚かす為の、『のじゃー』のささやかなドッキリ作戦でもあったのだ。


「う、嘘だ……この世界を構築されている物質は非常に複雑であり、所有権に対するセキュルティーも万全の防備を構えていた。……こんな短時間で乗っ取る事なんて不可能だ! それに、この運命のルートでは、『のじゃー』を完全に仕留められる未来だと決まっていた! こんな出来事など、あってはならないんよ!」


 ワカハゲは怒鳴りながらも、『のじゃー』に攻撃を仕掛ける。

 それは、この小さな世界を消滅させるほどの莫大な魔力……いままさにワカハゲは、フルパワーを使って彼女を仕留めようとしたのである。

 だが、そんな状況に、『のじゃー』は、無慈悲な命令を送る。


「ワカハゲよ……【そこから動いたら駄目なのじゃー!】」

「……っ!? な、馬鹿な……!!」


『のじゃー』の命令によって、その攻撃はなすすべなく中断されてしまった。

 ワカハゲは完全にその場から動けなくなってしまったのである。

 激しく動揺しているワカハゲを面白おかしくニヤニヤと眺めていた『のじゃー』。

 ゆっくりと口を開いて、ワカハゲに語りかけた。


「お主は、ワシの能力を、ちと勘違いしておったようじゃ。ワシは『魔術だけしかトレース出来ぬ』とは、一言も言ってはおらぬぞ。……そう、ワシは『一度見た技は、全て会得出来る』能力者なのじゃー!」

「そ、そんなインチキじみた能力なんて過去に一度も聞いた事もないぞ! 僕の【未来予知】ですら、そんな情報は何処にもなかった!」


 どんなルートに辿ったとしても、彼は『のじゃー』に勝てる事すら出来ずに完敗をしてしまう。

 その描かれた運命のルートでは、そんな情報を得る事が出来なかったのである。

 そもそも、このルートだけは、『のじゃー』を完璧に仕留める事が出来る運命が決まっていたのだ。

 それが何故違うルートへと脱線してしまったのか……

 その事が理解できない。

 ワカハゲは、必ず訪れる運命を覆された事で、かなりの動揺をしていたのだ。


「お主は、【未来予知】に頼り過ぎたのじゃよ。可能性は自らで切り開くモノ。そのようなまやかしの運命など、ワシは認めぬ!」


 運命を変えてしまう程の影響力を持つ『のじゃー』。

 その堂々としている姿はあまりにも眩しく。

 ワカハゲの頭上に光る頭よりも眩しい存在であった。


「ククク……なるほど。まさか本来の運命とは違う道を辿ってしまうなんてね。……やはり『のじゃー』こそが、最後の希望となる訳か。途中から諦めてしまった僕なんかよりも、明らかに適任かもしれないな」

「さっきから、何を訳のわからぬ事を言っておるのじゃ? ワシに分かりやすく、詳しい説明を要求するのじゃー!」

「嫌だね」

「【隅々まで詳しく説明するのじゃー!】」

「き、貴様! ぼ、僕の能力を利用するなんて、卑怯だぞー!」



こうして、ワカハゲの罠を難なく切り抜けた『のじゃー』。

見事に最古のライバルに完勝させ、彼女の戦いは、ひとまず終了した。






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