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超危険生物『のじゃー』  作者: アトリーム人
第2章 帝国編
23/27

23話 ワカハゲ

 ここは、ダイクロス帝国の首都であるロブラン市。

 戦争によって、街は疲弊をしているものの、未だに戦火がここまで襲い掛かっていない。

 ただし、今は徴兵により、戦地に出向いた影響により、男性の数が大幅に減少してしまったのである。

 この街で大きな問題となっている現象の一つでもあった。


 そんな首都の中心に位置すして、皇帝の住まう城には、とある一人の少年が来場していた。

 戦時の途中で颯爽とダイクロス帝国に現れた存在。

 彼は、この短期間で最高戦力と云われる程の地位を獲得しているのである。


 そんな少年は、ゆっくりと、エリーズ陛下が待機している。

 謁見の間へと向かう。

 唯一ため口を許された存在。

その並外れた化け物に。

 誰もが恐怖しているのである。

 


「む、来たか。皆のもの! 下がれ!」


 エリーズ皇帝の護衛をしている騎士を下げさせ、一人の少年を温かく歓迎させていた。

 少年はニヤリとほほ笑み、皇帝に話しかける。


「無事に、敵の要塞を制圧した。これで残る敵の戦力は、帝都イスタルに大勢も待機させている軍隊だけなんよ」

「ご苦労。私は、有能な人物は好きだ。君が発案したワカハゲウイルスの注入は、想像以上の成果を発揮させているぞ」

「当然さ……。僕は古代人の生き残り……その程度の技術なら、今の文明でも可能なのさ」


 ワカハゲが開発したワカハゲウイルス……

 これを注入されたモノは、多くの髪の毛と記憶、言語を失う代償として、大幅に戦闘力を増幅する事が出来る。

 失敗したとしても、髪の毛が全て失い、二度と生えなくなる事による精神的ショックが引き起こされてしまうリスクがあるぐらいであり、死亡事故は起きてはいない。

 まさに外見さえ気にしなければ、安易に究極の兵士を誕生するのである。

 全てに、【服従の首輪】を填められたハゲの集団たちは、もはや陛下に刃向う事もない。

 完全なる服従をさせる効果があり、この首輪もまた、この少年が量産させたのである。

 ただし、製造法は少年しか知らず、今のところは、ハゲの軍団にしか効果を発揮する事が出来ない欠陥品でもあった。


「では、何が欲しい? もはや、貴様の出番は無いだろう。後は、ゆっくりと休むが良い」

「それは、駄目さ。最大の敵がまだ残っている」

「……あの【大悪魔のじゃー】か」

「流石は、陛下。よくわかっていらっしゃる。 今、バロンズ帝国には、『のじゃー』が味方に付いてしまった。 これから一気に反撃が始まると僕は予想するよ」

「全く……何処までも忌々しい存在だ」


 エーリス陛下にも、フェリー総督が『大悪魔のじゃー』によって、敗北された情報が瞬く間に広がった。

 古代兵器が本当に埋蔵されていた事に驚いたものの、大地を破壊する古代兵器すら傷を付ける事が出来なかった『大悪魔のじゃー』に恐怖を抱いていた。

 クローネ人以外は、全て劣等種の下等生物。

 その劣等種の存在を覆す圧倒的な神の力に等しい存在を持つ化け物が現れたのである。

 それは、ダイクロス帝国が信仰する、キリナ教に匹敵、またはそれ以上に勢力を急激にパンゲア大陸で拡大しているのじゃー教であり、エーリス皇帝は、その事にも危機感を抱いていた。


「ご心配ならさずに安心するがいい。全ては予定通りに事が進んでいる。悪魔の侵略……『のじゃー』の加勢……その全てが、未来に描かれた筋書どおりなんよ」

「全く。古代人と云う存在は、本当に化け物だな 未来を予知する能力など初めは信じなかったものの、ここまで予言が的中するのならば、もはや信じられなければならぬ」

「でも旧人類の人々は滅んだ。どうしようもない終焉の訪れを告げる存在にね」

「過去の話はどうでもいい。私は、今が大事なのだ!」

「それは、僕も同感さ。『のじゃー』と決着をつけなれるのならば、僕は、なんだってやる」

「では、一つ問う。 何故、ワカハゲ軍の数割の大軍を、バロンズ帝国とは違う方角に飛ばせたのだ?」


 エーリス皇帝は、その事に疑問を感じていた。

 貴重な戦力であるワカハゲ軍団の精鋭を別方向へと向かわせる愚策。

 とても古代人が発案したとは、思えないような戦略であった。


「そこにも、僕の敵が存在する」

「そうか。まだ居たのか。ならば別動隊を送るのも仕方ないか……」


 ワカハゲですら厄介な敵がまだ存在している。

 その事実に何も疑問もなく、皇帝は信じていた。


「じゃあ、そろそろ僕も準備をするよ。『のじゃー』の親玉は、僕一人で仕留める。他のワカハゲ軍団は、そのまま最前線で待機をしている連合軍と一緒に帝都イスタルを攻めれば大丈夫さ」


 そして報告が終った後、後ろを振り向く事もなく、そそくさと立ち去って行った。

 まさに、嵐が去った後の静けさであった。


「やっと、ワカハゲ殿が立ち去りましたな」

「……奴の顔は、いつみても慣れぬ」

「あれほどの威圧感を放たれては、誰でも怖気づくでしょう。エーリス陛下だけですな。あの少年を直視出来るのは」

「ああ。私もワカハゲを信用してなければ、ここまで落ち着いてはおらぬ。全ては、奴の予言通りに事が進んだのだ。この戦争によって、数多くの邪魔者も排除する事が出来た。もはや我々の勝利は目前だ」


 そう言って拳を握りしめ、ニヤリと笑うエーリス皇帝。

 彼の存在によって、この腐敗したダイクロス帝国や邪魔な国の多くを粛清できた。

 全ては計画通りであり、この戦争がどちらへ傾こうが、皇帝にとっては、都合の良い未来が約束されていたのである。

 故に皇帝は、ワカハゲに敬意を払う。

 彼のおかげで、エーリス皇帝は、この腐った国から解放されたのだ。


 ………………………

 

 …………………………………………


 ………………………………………………………………



「……さて、そろそろ来る時間帯だね」


 ワカハゲは、たった一人で何もない荒地に、腕を構えながら待機をしている。

 全ては、計画通り。

 『のじゃー』は、ここへ来るのだ。

 これは、決して抗えない運命であり。

 ワカハゲが唯一『のじゃー』に勝てるルートでもあるのだ。


 そしてもうすぐで到着すると確信した後、ピリピリとするほどに、大きな力を感じた。

 この嵐のようにピリピリと肌で感じるほどの膨大なる風の流れ……

 そう……。彼女は予定時刻通りに、宿敵の姿が遂に現したのである。

 疾風の如く、勢いよく地上へと着地した姿は、あの頃からまるで変わっていない。

 白いワンピースを着た美しい銀髪の少女。

 彼女は、にっこりと歩いて行き、ハゲ少年に向けて話しかける。


「久しぶりじゃのう……ワカハゲ。このような茶番を仕掛けたのは、全てお主の仕業か?」

「悪魔の事は、僕が仕掛けた訳じゃない。全ては、運命の赴くままに確定した未来を突き進んでいたに過ぎない」


 ワカハゲは、のじゃー語を喋れる。

 何故なら、全ての言語を理解できる頭脳を持っているのである。

 だが、そんな少年でも失敗作の烙印を押されてしまったのだ。


「なるほどのう……。じゃが、ここまで大がかりな作戦を実行するとは流石じゃな。そこまでして、このワシを憎いのか?」

「憎い? 違うね。 これは、どちらが最強なのかを決める戦いさ」

「お主は、まだその事に根を持っておったのか!? 実に執念深い爺じゃ! 全く、これだからお主の事が嫌いなのじゃー!」

「お前には、分からないだろうさ。貴様とは違って、言語を理解し、全ての言語を話せる能力……そして優れた力があったのにもかかわらず、必ず髪の毛が抜け去ってしまう理由だけで……失敗作の烙印を押された僕の気持ちなんて、誰も分からないさ!」


 ワカハゲを中心に突風を吹き荒れるほどに激怒していた。

 どうでもいい事に執念を燃やしていた存在に、すっかりと呆れ顔となってしまっている『のじゃー』。

 その素顔に、ますますワカハゲは苛立ちを表に出してしまう。


「たった、そのような理由で、このワシに勝負を挑むつもりか……? たまげた動機じゃのぅ」

「それだけじゃないさ。僕達……いや、この世界には、もう残されている時間が少ない。だから僕は、せめて、『のじゃー』との決着を果たさなければならない!」

「どういう意味じゃ? ワシらは、不老に等しい肉体を手に入れるのじゃぞ? 寿命でくたばる訳がないではないか!」

「これから死ぬババアに言っても意味がないんよ。 ……そろそろ決闘の舞台へと案内してやるんよ!」

「ババアじゃないのじゃー! ワシはピチピチの美少女なのじゃー!」


 怒鳴ってきたロリババアを無視したワカハゲは、指をパチンと鳴らし、事前に仕掛けていたこの場所を、真の姿へと変える。

 それは魔法陣すら必要のない秘術。

 今まさに、世界が変わろうとしていたのである。


「な、なんじゃ!? 景色が?」

「僕のワカハゲワールドにようこそ。壮大に歓迎してやるよ」


 辺りは、荒地では無くなり、雑草が生い茂っている緑の草原が広がる世界へと変わった。

 ここが、ワカハゲのホームタウンであり、『のじゃー』の墓場となる墓標でもある場所なのである。


 驚愕な表情で驚いていた『のじゃー』は、直ぐに落ち着きを取り戻している。

 このホームタウンをある程度理解したのである。


「世界との繋がりを断ったか……」

「ご名答……僕達は空間ごと、あの世界から切り離したのさ」

「さしずめ、ワカハゲの創りだした小さな世界と云う訳か……」

「そうだよ。あの世界の崩壊から唯一逃れられる、ノアの方舟計画でもあった場所……まあ結局、その計画は失敗してしまったけどね」

「……当たり前じゃ。世界を創りだす事は、神に等しい創造なのじゃー。全ての要素を創りだす事など、旧人類でも不可能じゃよ」

「そうだよ。無謀にもこの計画を強行したおかげで、僕の仲間たちは大勢死んでしまった。おかげでさらなる失敗作の烙印を押され、ワカハゲ計画は、白紙となってしまった」

「まあその計画とやらが失敗した原因……それは、この小さな世界に充満している毒じゃろ?」


 『のじゃー』は、その毒がどのような作用を及ぼす事を理解していた。

 それは、人では生活が困難になるほどの毒であり、移住が不可能なほどに汚染された世界だったのである。


「そうさ。……この世界は、常に高濃度の酸素とガルパ放射線を浴び続けている失敗作の世界。圧倒的な抗体能力を持つ緑の草原……そして植物以外では、僕と『のじゃー』しか生きられない。だから僕は、密かに失敗作であるワカハゲワールドに逃げたおかげで、あの世界の崩壊から逃れる事が出来た。……そして、ここが君の墓場に相応しい場所でもあるのさ!」

「ほほぅ……随分と強気に出るのう。ワシは、そこまで落ちぶれてはおらぬぞぃ」

「最強の強者である『のじゃー』は、この僕の世界へ隔離させる事に成功させた。死亡率が高すぎて、全く量産出来なかった、君の可愛い量産型も、僕が大量に生産させたワカハゲ達が一斉に襲い掛かっている。全ては未来の道筋通り。もはや、僕の勝利は揺るぎない!」


 ワカハゲは、大きく声を出して顔の頭に光が差し込めるほどに強烈な笑みを浮かべた。

 全ては『のじゃー』あ敗北する運命のルートへと突き進んだのである。

 もはや勝機はこちら側にある。

 だが、そんな運命など、知った事ではない『のじゃー』は、いつものようににっこりとほほ笑み、そのまま戦闘態勢に入る。


「ワシの仲間たちは、そう簡単に倒されるほど弱くはないのじゃ! ならばワシらは、その筋書き通りの未来を……ワシが変えてやるのじゃー!」

「決まった運命は、決して変えられない! 今ここで、それを証明させてやる!」


 今ここに、二匹の少年少女の戦いが始まろうとしている。

 それは太古の昔からの因縁の相手でもあり、ワカハゲの一方的な執着でもあるのだ。


 そして帝都イスタルやのじゃー島へと飛来してくるワカハゲ軍の大軍。

 『のじゃー』達の死の運命から覆す戦いが始まる。


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