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超危険生物『のじゃー』  作者: アトリーム人
第2章 帝国編
20/27

20話 『のじゃー』VS大魔神

 皇帝の姿から本性を現した大魔神。

 それは、圧倒的な威圧感を放つほどにおぞましい姿をしている。

 だが『のじゃー』は、全く動揺すらしていない。


「大悪魔のじゃーと恐れられていた割には、随分と可愛らしい外見をしているのだな」

「のじゃ!」


 大魔神の問いかけにニッコリと喜ぶ『のじゃー』。

 その姿は、これから始まる死闘が始まる緊張感とは、かけ離れ、随分と無邪気に笑っていた。


「だが、我も貴様に構っている暇が無いのでな。一気に決着を付けさせてもらうぞ!」


 『のじゃー』の背後には、死神の鎌が現れる。

 これは、悪魔に伝わる最強の即死魔術。

 どんな魔術よりも優れ、生体反応のある生き物には、全て息の根を止める最強の黒魔術の一つであるのだ。

 この即死魔術を発動された後では、逃げる事も出来ない。

 死神の鎌は、対象者から、ベッタリと張り付いているからである。

 避けようのない、鎌の一撃。

 今まさに、死を誘う鎌が『のじゃー』に振り下ろされた。


「のじゃー?」

「……馬鹿な!? デスサイズが無効にされただと!?」


 だが、振り下ろされた死神の鎌は、『のじゃー』に触れた途端にパリンと割れ、そのまま粉々に砕き、この世からデスサイズが消滅してしまったのである。

 あまりの出来事に、思わず驚きを隠しきれない大魔神。

 この即死魔術から逃れられる悪魔は、この世に存在してはいなかった。

 誰もがこの魔術を恐れたデスサイズを、この『のじゃー』は、その即死攻撃を無効にしたのである。


「なるほど……即死系統の耐性持ちがこの世に存在していたとは、我も迂闊だったようだ」

「のじゃのじゃー!」

「ならば力ずくで仕留めてやるわ!」


 一斉にその場から走りだし、眼にも止まらない速度で『のじゃー』に迫る。

 そして至近距離で近づき、弱い少女の腹に鋭い爪を突き刺す。

 だが、その瞬間。

 仕留めたと思っていた『のじゃー』の姿が突如として消える。

 そして気がつけば、大魔神は床に倒れていた。

 自身の口から滲み出る血。

 大魔神は、何をされたのかが理解できない。

 それ以外には、どこにも外傷がないのに既に肉体は、立ち上がれる事すら困難になっていた。

 瞬時に、その異常を引き起こした肉体を回復させ、大魔神は、再び立ち上がった。


「何処だ……何処に消えた!?」


 再び立ち上がり、周囲を見渡す大魔神。

 彼は、見失った『のじゃー』を探し出す。


「のじゃー!」

「なっ!」


 突如として、目の前に現れた『のじゃー』は、そのまま大魔神の腕をつかまえた。

 のじゃーは、そのまま捕まえた腕を大きく振り回し、一気に大魔神を叩き潰そうとしていたのだ。

 尋常じゃない、腕力。

 床に叩きつけられてはひとたまりもないと感じた大魔神は、無理やり掴まれた腕を引きちぎった。

 その衝撃で後ろへと飛ばされてしまうが、すかさずに態勢を立て直し、無事に着地させた。

 失った腕も即座に再生した大魔神は、只々驚いていた。

 未だにニッコリとほほ笑む『のじゃー』。

 その姿は、まさに悪魔である。


 そして、その時、別の場所で戦闘を繰り広げていた戦いも決着が着いてしまったのだ。


「のじゃ!」


 黒髪の『のじゃー』。

 その少女が掴んでいるのは、氷漬けにされてしまった大悪魔ガイウスの首。

 彼女は、この短時間で、大悪魔ガイウスを仕留めたのである。

 もはや、大魔神には、余裕などなくなっていた。

 生まれてから、初めて死の恐怖を感じていたのだ。

 人智を超えた力。

 まさに化け物に相応しい存在。

 本気を出さなければ殺される相手だと瞬時に悟ったのである。


「仕方あるまい……予定が早まってしまったが。もはや使うしかないようだな」

「のじゃ?」

「のじゃのじゃー」

「女神のじゃー様! 気を付けるのじゃ! まだ何かを企んでおるぞ!」


 大魔神は、警戒をしている『のじゃー』達を無視し、巨大な闇の空間を広げだした。

 それは、闇であり、無の世界。

 世界の終焉が今、始まろうとしていたのである。


「ここは何処じゃ……? 返事をしてくれぬのか? 妾を一人にしないでくれ!」


 闇に取り込まれたアルテリス皇女は、悲鳴を上げる。

 突如として暗闇の中へ『のじゃー』達は、閉じ込められたのである。

 それは、この宮殿だけではなく、一斉にクロス大陸全土へと広がり、今まさに、この世界の全てを無の世界へと変えようとしていた。


「もはや、この我ですら、この無の世界を止める事が出来ぬ。残念だったな。我の勝ちだ! ふはははははは!!」

「のじゃのじゃ、のじゃー!?」

「のじゃ!?」

「…………っは?」


 大魔神が勝利を確信した時、不思議な事がおきた。

 遥か遠くから、巨大な光が現れたのだ。

 たったそれだけで、無の世界は、一斉にその光に呑みこまれたのである。

 なすすべなく、無の世界は、終わりを告げる。

 実にあっけなく、たった一筋の閃光だけで消滅してしまった。

 あまりの出来事に、思わず錯乱してしまう大魔神。

 もはや、彼の必殺技が封じられてしまった瞬間でもあったのだ。


「き、貴様!? いったい何をした! 無の世界を消し去る事など、この世界の理では不可能!? それなのに何故!?」

「のじゃ?」

「のじゃのじゃ? のじゃー?」

「決まっておるじゃろう……『女神のじゃー』様が封じ込めたのじゃ!」


 そう言って大魔神に向けて指を突き指すアルテリス皇女は、すっかりと無の世界からの恐怖から解き放たれていた。

 あの光には、恐怖を解除する力も備わっていたのである。


「ククク……確かにこの肉体では勝ち目が無いようだな。では、我に相応しい肉体を頂戴しよう……グハ!」

「のじゃ!?」

「どういう事じゃ? 勝手に自害しおったぞ!?」


 そう言って自らの胸を突き指し、実にあっけなく大魔神は自害した。

 その表情は、恐怖ではなく喜び……まるで、これから大魔神にとって、素晴らしい事が起きるかのような表情であった。

アルテリス皇女は、その表情の真意を読み取る事が出来なかったのである。


 ……大魔神の狙いは、『のじゃー』の肉体。

 アルテリス皇女よりも素晴らしい素体だと分かった大魔神は、迷わずに、この素体を捨てたのである。

 全ては、新しい素体を手に入れる為に……。

 アトラス体となった大魔神は、最大の強者に侵入を開始した。


 その異物をモロに浴びてしまった銀髪の『のじゃー』は、その場で膝をガクリとついてしまう。

 その様子に驚いた『のじゃー2』とアルテリス皇女は、慌てて駆け付ける。


「の、のじゃ……」

「のじゃ!? のじゃのじゃー!」

「どうしたのじゃ? 何か具合が悪いのか?」


 具合が悪くなってしまった『のじゃー』は、そのまま目を閉じてしまい、深い眠りへと入ってしまった。


「のじゃ!? のじゃのじゃ、のじゃー!」


 のじゃー2が体を揺すっても、全く起きようとしない『のじゃー』。

 そして、何が起こったのかを知らない二人の動揺なぞ知る由もなく。

 体内に侵入した『のじゃー』と大魔神の戦いが始まろうとしていた。



 ………………


 …………………………


 ……………………………………………




 『のじゃー』の精神世界へと侵入した大魔神。

 大魔神の狙いは、『のじゃー』の心を完全に死滅させる事である。

 そして、その精神を大魔神へと移り変わり、この肉体は、完全に乗り移る事が可能となるのだ。


 彼が精神世界を彷徨って数分後、とあるただ広い場所に辿り着いた時、辺りは真っ白に染まっていた。

 ここが『のじゃー』の最深部であり、この白い世界を黒く染めれば、彼女の精神は完全に死に絶えてしまうのだ。

 だが、想像以上に広い空間の部屋だったのは、想定外であったようだ。

 本来であれば、小さな部屋に過ぎず、たった数十秒で黒く塗りつぶせる部屋なのである。

 しかも、この部屋には、何も道具が置かれていない。

 普通ならば、精神世界の好きな物がたくさん置かれている筈の部屋は、何もない真っ白な部屋だったのだ。

 そんな不気味な部屋でも、大魔神は、特に気にするそぶりを見せない。

 どちらにせよ、『のじゃー』を乗っ取る計画には、支障が無いからである。



「ククク……ここが、『のじゃー』の最深部か……。この部屋の精神を完全に破壊すれば、もはや我の勝ちだ。『のじゃー』の素体こそが! 我の本体にふさわしい!」


 真っ白な空間であり、辺りには、誰も邪魔者が居ない。

 それは、当然である。

 このアトラス体となった大魔神の姿を確認する事など、誰も出来ないのだ。

 故にこの精神世界では無敵であり、誰も大魔神を倒す事が出来ない。

 外部からも内部からも追手が来ない。

 完全なる自分だけの世界。

 これこそが、大魔神が長い年月もの間、生き延びた秘訣でもあるのだ。


「さて、ではそろそろ、この忌々しい部屋を黒く染めてやるか。かなりの広さがあるようだが……我に掛かればそこまで時間は、掛かるまい」

「それは困るのぅ」

「クク、これで我は本当の無敵となるのだ」

「雑菌如きが調子に乗っては駄目なのじゃー」

「そして、我は雑菌から……って、貴様は何者だ!?」


 黒く染めようと技を発動しようとしたとき、目の前には、銀髪の少女が現れていた。

 ……そう。

 本来は、ここに居る筈が無い存在である、『のじゃー』が目の前に出現したのである。

 少女は、いつもと変わりのない様子で大魔神にニコニコと笑っていた。

 その姿は、大魔神をあざ笑うかのような仕草である。

 あまりの出来事に、気が動転してしまう。

 なぜ『のじゃー』がここに居るのか?

 なぜ、この精神世界で、普通に会話を出来るのか?

 数多の可能性を考え込み、結局は、謎の『のじゃー』に震えるほどに動揺しながらも、質問を言う。


「馬鹿な……なぜ、貴様がここに居る!? アトラス体は、我だけにしか扱えない技であるぞ!」

「勝手にワシをアトラス体にするのではない。 ワシの名は『のじゃーウイルス』。

ある時は、宿り主の体で大繁殖をしてしまったお蔭で、うっかりと殺してしまうワシ。ある時は、宿り主である。『のじゃー』に敵対する存在を抹消する存在として、侵入者の元へ駆けつける最終免疫システム。それこそがワシの存在意義なのじゃ!」

「ウイルスだと!? そんなマイクロメートル以下の存在が、どうして我と接触できるのだ!」

「只のウイルスと思っていては困るのぅ。ワシは、あのようなゴミとは比べ物にならない感染力と増殖力を持つのじゃ! たとえば、このようにな事も出来るのじゃー!」


 そして、一匹の『のじゃーウイルス』が指をパチンと音を出した途端、一斉に白い部屋から、無数の『のじゃー』が出現する。

 その数は無限に湧くのだ。

 敵対者を排除するまでに永遠と……


「のじゃ」

「のじゃ?」

「のじゃー?」

「褒めてつかわすのじゃー」

「のじゃ!」

「おつなのじゃー」

「のじゃのじゃのじゃー!」

「のじゃぁ?のじゃーっ! 」

「のじゃのじゃ、のじゃー!」

「の、のじゃー……」

「「「「「「のじゃー」」」」」」


 既に数は、数えきれないほどに増殖を繰り返していた。

 たった一体の病原菌に対して、あまりにも多すぎる『のじゃーウイルス』。

 大魔神は只々、そのおびただしい数を眺める事しか出来なかった。


「あり得ない……このアトラス空間に、どうやってウイルス如きが侵入出来ると言うのだ……」

「じゃから、ワシを下等なウイルスと一緒にしては困るのじゃー。 もう、そなたの帰る道は閉ざした。 侵入者は、生かして返さないのじゃー!」

「ウイルス如きが……! この我を舐めるなよ! この我こそが、大魔神ガイドラ! この程度の数など、捻りつぶしてやるわー!」


 怒鳴り散らすかのように、闘気を一斉に放つ大魔神。

 本体とは違い、所詮はこの体内に寄生しているウイルスなのだ。

 この大魔神の敵では無いと悟ったのである。


 だが、その険しい表情の大魔神に、『のじゃーウイルス』は、ニヤリとほほ笑えむ。


「ちなみに、ワシは宿り主の『のじゃー』と、同等の戦闘力があるのじゃー! ……どうじゃ? 驚いたじゃろう!」

 

 ドヤ顔をしながら言い放った『のじゃーウイルス』。

 あまりにも理不尽りふじんな宣告に、大魔神は一気に闘志が抜け去ってしまい。

 大きく震えながら動揺してしまった。

 死の予感が、大魔神に激しく語りかけているのだ。

 今まで悪のカリスマを誇っていた面影は既になく。

 その表情は、非常に弱弱しかった。


「…………嘘だ。そのような戯言を信じられる筈がない!」

「嘘かどうかは、戦って見れば分かるのじゃー! では、皆の衆! 宿り主に危害を加える雑菌を仕留めるのじゃー!」


「のじゃ!」

「のじゃのじゃ」

「行って来るのじゃー」

「のじゃ? のじゃー!」

「のじゃ……」

「「「「「「「「「「「「「「のじゃー!」」」」」」」」」」」」」」


 あまりにも絶望的な戦力差。

 無言に立ちすくみ、もはや抵抗の意思すら残されていなかった。

 始めての絶望。

 始めて涙を流してしまった大魔神。

 前の侵略からの失敗で諦めなかったのが、大魔神の敗因である。

 成功続きだった中で、初めての完敗。

 だが、次の機会は、既に残されていない。

 大魔神の憑依能力も封じられ、退路は、何処にも存在しない。

 大量の『のじゃーウイルス』は、そんな大魔神に、容赦なく襲い掛かる。


「やはり我は、この地に訪れるべきではなかった……グハァ!」



 こうして、無数の『のじゃー』に襲われた大魔神は、抵抗も出来ないまま、アトラス体ごと消滅してしまったのである。

 もはや、二度とこの世界に悪魔が訪れる事は無い。

 親玉を失った暗黒界は、それほどに痛手を葬ってしまったのだから……。


 ……………………


 ………………………………


 …………………………………………………



 ここは、バロンズ帝国の国境に近い、ダイクロス帝国領内の平原。

 今ここに、バロンズ帝国から攻めて来た大悪魔を、圧倒的な力でねじ伏せている存在がいた。

 しかし、大悪魔は追い詰められてしまったものの、大魔神が発動させた無の世界が現れたのを確認した大悪魔は、勝利を確信する。


 だが…………そんな窮地に陥った筈の相手は、動揺する事もなく、対大魔神用の技を唱えた。


「【ワカハゲフラッシュ】!!」


 ハゲている前方の頭から一斉に光輝く閃光。

 たったそれだけで、無の世界が一斉に崩れ去ってしまったのである。



「あ、あり得ない……大魔神様が発動させた無の世界があいつの光でかき消された……!?」

「僕は、太古の昔に対悪魔用として開発された経歴を持つ男なのさ。【ワカハゲフラッシュ】を発動させれば、無の世界など無力。聖なるワカハゲの光こそが正義なのさ」

「ちくしょう……古代人の生き残りが残っていたなんて、聞いてないぞ」

「侵略者の分際で生意気だね。世界を滅ぼす悪魔の存在は死、あるのみ!」


 そして、ハゲた少年は、最後のトドメを刺した。

 その表情は非常にスッキリとした顔であり。

 目立ってしまうハゲさえ除けば、非常に絵になるほどの少年であった。


「さて、これで粗方の悪魔は片付けたようだね。予定通り、あの『のじゃー』が大魔神を仕留めたようだし、運命通りに事が進んでいる」


 そして、そんな少年に、ハゲたおっさんが近づいていく。


「ワカハゲ様。バロンズ帝国の兵士を片付けたのじゃ」

「ご苦労。流石は、僕の分身達だ。君たちは元に位置に戻っていい」

「了解したのじゃ」


 その場から飛び去るハゲたおっさん。

 本来であれば、飛ぶ事は、S級ハンターでも飛べる存在は限られていた。

 だが彼らには『のじゃー』と共通点がある。

 彼らもまた、『のじゃーウイルス』とは別のウイルスを注入されてしまった存在だったのだ。


「さて、因縁の決着を付けさせて貰うよ。 精々、ズタボロとなったバロンズ帝国で、待っていればいい。この僕が『のじゃー』を必ず仕留めてみせる!」


 そう言って、『ワカハゲ』の少年も陛下の報告の為に飛び出す。

 全ては、このルートへ導くの為にあらゆる工作を仕掛けた程の計画。

 後はそのまま、ダイクロス帝国が新たに加わったワカハゲ軍で、バロンズ帝国を攻めるだけなのである。



 『のじゃー』の戦いは、まだ終わらない。





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