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超危険生物『のじゃー』  作者: アトリーム人
第1章 新大陸
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2話 異国の船団

 ある日、この島に大きな船団が来航した。

 島を発見した航海士は、直ちに船長へと報告をして、この島に上陸する許可を授かった。

 近づいた周りは砂浜の浅瀬で、大きな船では座礁する危険性があったので

 第一陣の船員は小さな船を使って、この島へ上陸する。

 そしてこの船に乗っているのは、遠い異国の大陸から航海の旅に出た、海の男たちである。


「ふん……只の島だな」

「ですが船長! この島はまだ誰も発見されていない可能性が高いですぜ!」


 腕を組んだ船長も、その可能性が高いと考えている。

 未だに移住が可能な程の豊かな大陸は、発見出来ていないが

 無人島は貴重な水と食料を手に入れる事が出来る。

 それに……この島の発見が我々で最初なら、最低限の功績は果たせた。


「確かにそうだな……よし、海図を作るぞ! 後の船員達は水と食糧の調達に当たれ!」


 彼らは、国の援助を授かり、新天地を求めて海の地平線へと旅に出た船団である。

 東からの航路は、近年になって勢力を拡大したバロンズ帝国の制海権に阻まれ、帝国の領土に入国するのは可能ではるが……バロンズ帝国以外の外国には、高い関税を払わされるようになったので、利益が殆ど出せなくなってしまった。

 もはや貴重品や香辛料を自国へ輸入する事が不可能になってしまったのである。


 そのような危機的状況から打開する為、新たに金のなる素材を求め……

 数多くの諸外国が西の海へと旅たった。

 新たなるフロンティア……

 それは、そこに古代から住んでいた先住民達が犠牲になる事で、自国を豊かにさせようしていたのである。

 既に南に存在していた大陸も、列強国に次々と支配下に置かれてしまった。

 そう……これは、新たなる侵略でもあるのだ。

 そんな彼らが島の探検を開始してから数時間後、先に進んでいた船員が慌てた様子で船長の元へと駆け寄る。


「船長! 気になる遺跡を発見いたしました!」

「……遺跡? このような小さな島に遺跡だと?」

「いえ……遺跡と呼べるには小さいのですが、その遺跡の中に気になるモノを見つけました」


 船員の調査団が船長に手渡したのは古ぼけた本。

 その文書に書かれていた文字は祖国の国と同じ文書であり、既に誰かがここに移り住んでいたのかを書き写していたのがうかがえられる。



「この日記の主は、発見したのか?」

「いえ……まだ見つかっておりません」

「まあいい、この古ぼけた本を見る限り……かなりの年月が経っている可能性が高い。大方、既にくたばってしまったのだろう」


 船長はこの日記の持ち主を特に気にする事もなく、古ぼけた本を読み上げた。

 それから注意深く読み上げた船長はプルプルと震えた手で本を閉じ……船長は多少の冷や汗をかいてしまった。


「なんだこの日記は! この日記に出てくる『のじゃー』とはなんなのだ!」

「いや……自分に言われましても、のじゃーと云う少女は発見できておりま……」


 船員は突如、驚いた表情で船長とは違う方角を見つめていた。


「ん? どうした。 何かあったのか?」

「せ……船長。後ろに先住民と思われる少女が居ます!」

「少女だと? まさかこの日記の……」


「のじゃー?」


 船長が振り向いた先には、可愛らしい少女がこちらを見つめていた。

 姿は黒色の髪を生やし、綺麗な黒のドレスを着ていて、この島に住むには似つかわしくないほどに可憐な姿をしている。

 その姿を見た船長は、思わず息を飲む。


「おい、奴を捕獲しろ」

「……えっ? 始めて接触した蛮族は友好的に接したほうがよろしいかと思いますが」

「こんなちっぽけな島の蛮族など、我々の敵ではない……さっさとあの少女を捕獲しろ!」

「は、はいい!」


 彼らにとって、言葉の通じない異民族は蛮族でしかない。

 神の地に住むクローネ人こそが、神に選ばれた民族であり、それ以外は家畜に過ぎない。

 それは他の諸外国も同様に自国こそが選ばれた民族と唄うが、このクローネ人はそれらの民族の国とは違い、かなりの過激な選民思考を持っていた。

 故に、この少女も家畜であり、この船長の性奴隷になる運命だと船員達は感じ取る。

 長い航海の中で、娯楽もなく、ただ、何もない海をひたすら渡っていた船員たちにとっては、数か月ぶりに性欲を発散できるのだ。


「悪く思うなよ、俺もお前のような可愛い少女はたまらんからな」

「へへっ……蛮族に欲情するのも悪くねえな」


 ニヤニヤと笑う船員は、か弱い少女に力強く腕を掴かむ。

 だが……


「の、のじゃのじゃー!」

「えっ?」


 少女は体格の良い船員の腕を振りほどいた瞬間

 気が付けば、腕を掴もうとした船員の胴体は真っ二つに斬り裂かれていた。

 その動作は周辺の船員ですら反応が出来ないほどで、まさに一瞬の出来事である。

 斬り裂かれた船員は何が起こったのかも分からずに絶命。

 ただの少女だと侮り、容易く捕獲が出来ると思っていた幼い少女は、人の皮をした化け物だったのだ。


「ひいぃぃぃ!!!」

「に、にげろぉぉ!」


 さらには、一部の船員が悲鳴を浴びた途端に、その船員の首が喪失してしまう。

 その船員はそのまま地面に倒れ伏せ、それと同時に憤怒の表情をしていた少女の手に掴まれていたの は、悲劇的な表情をしながら絶命をしている……船員の首であった。

 既に二人も殺したというのに、返り血すら浴びていない少女。

 この場に居た船員達は度重なる少女の殺害を目のあたりにして、たちまちとパニック状態に陥ってしまった。

 船員達は脱とのごとく、一目散に逃げ出した。

 明らかに異常事態。

 この少女は人に非ず、人の姿で油断させ、人間を襲い掛かる化け物。

 船長も命の危機を感じ取り、大声で叫びだす。


「皆の者! 隊列を乱すな! 僕を守りながら船へと逃げろ! 絶対に後ろを振り向くなよ!」


 日記に記されていた『のじゃー』……

 その人物が目の前にいる少女であり、さらにはA級のハンターであった船員がいともたやすく殺されてしまうほどの実力者。

 あまりにも危険な化け物だ。

 まさか少女がこれほど危険な蛮族だとは

 船長には夢にも思ってはいなかった。

 今更になって後悔をしても遅い。


 船長はひたすら逃げる。

 誰かが火縄銃を発砲したが、船員の悲鳴は止まない。

 後ろから聞こえる船員達の悲鳴を無視しながら、船長は船へ向かう。

 そして……ついに、後少しで船の場所へと到達する。

 島から脱出さえすれば、あの化け物も追いかけて来るのは、不可能だ。


「はあ……はあ……もうすぐだ。もうすぐでこの島から脱出できる……っ!」


 だが……次の瞬間。

 海の向こうに止めてあった船団に…………謎の閃光が光り、そのまま爆発音と共に、全ての船が一瞬にして爆散してしまった。

 その爆風は船長にも届くほどの衝撃であり、あまりの出来事に船長は思わず尻もちをついてしまった。


「な、ななな何が起きたのだ!」


 船長には理解できない。

 火薬が誘爆した?

 だが、それはない。

 船を沈めるほどの火薬は詰まれてはいない。

 そもそもあれほど光輝く爆発は火薬では不可能だ。

 ならば何故?

 そして……その船を沈めた元凶が姿を現した。

 それはあまりにも可憐な天使のような姿であった。


「のじゃー」


 船を沈めたそこには白いワンピースを着た銀髪の少女が宙に浮き、ニヤニヤと笑っていた。

 実に爽快そうに船長を見つめながら……

 その可愛らしい外見とは裏腹に殺戮を楽しむ少女。

 まさに白い悪魔。

 船長は決して足を踏み入れてはならない禁断の島へと踏み入れてしまった。

 だが……全てはもう手遅れである。


「おお……神よ、どうか我をお救い下さい!」


 船長は目を瞑りながら地面に縋り付き、神に救いを求める。

 それが今に出来る最大限の祈りであった。


「のじゃー?」

「のじゃのじゃ、のじゃー!」


 だが二匹の『のじゃー』はそんな願いが通用する筈も無く

 船長の意識は永遠と閉じる事となった。



………


………………


………………………………



 数年後……この海域は、行方不明者の多発が後を絶たず

 魔の海域として恐れられるようになった。



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