19話 帝都イスタル
もうすぐで帝都イスタルへ辿り着く『のじゃー』達。
だが、その目的地に到着する前、とある異変を『のじゃー』は、感じていた。
首を傾げた『のじゃー』は、思わず口をこぼす。
「おかしいのぅ……帝都イスタルとは、これほどまでに強者がうろついておるのか?」
のじゃー探知から感知したのは、無数の強者が帝都イスタルに住み着いている様子がうかがえられていた。
さらには、明らかに人とは違う魔力を感じ取り、既に街が悪魔の手に堕ちたのだと考えていたのである。
「でも、オカシイのじゃー? 一個体に新人類の反応と悪魔の反応が混ざっておるのじゃー!」
「じゃとすれば、あの帝都イスタルは、全ての住民が、この世界へ渡る事が出来なかった下級悪魔の素体として召喚されてしまった可能性が高いのう。 まさか、ここまで大規模な召喚を行うとは、敵はかなりの使い手のようなのじゃー」
「どうしたのじゃ? 何かよからぬことでも起こったのであるか?」
考え事をしている『のじゃー』に、心配しながら話しかけるアルテリス皇女。
彼女もまた、帝都イスタルに何かの異常が起きているのではないかと察していたのである。
既に悪魔の手に堕ちてしまった祖国の中心都市。
最悪な事態も、アルテリス皇女は、想定をしていたのだ。
「さてさて、そろそろ帝都イスタルの全貌が明らかになるのじゃー」
『のじゃー』が浮かび上がったパネルに、タッチをして、現地の映像の撮影を開始する。
何が起こったのかは、もうすぐで明らかになるのである。
「っ!?」
そして、その浮かび上がった映像は、かなりのショッキングな内容となっていたのである。
そんな映像でアルテリス皇女は、膝をガクリとおとしてしまい。
両手で口を押えてしまった。
帝都イスタルに住んでいた住民の全てが、醜い悪魔へと変貌していたからである。
「ほほう、やはり人の肉体に悪魔が憑依したレッサーデーモンか。人の姿を悪魔に変えるとは……流石は大魔神と名乗るだけはあるようじゃな。……じゃがしかし、街の住民のように平穏に暮らしているレッサデーモンに違和感があるのう。ワシらに襲ってくる様子もなさそうじゃし、何が目的じゃろうか?」
「怖いのじゃー! 悪魔は大嫌いなのじゃー!」
「落ち着くのじゃ。のじゃー2よ。これはチャンスでもあるのじゃ」
「何処がチャンスなのじゃー?」
「人質が居ないのならば、躊躇などせず、主砲をあの帝都イスタルに発射できるのじゃー!」
「凄いのじゃー! 流石はのじゃー様なのじゃー!」
怯えていたのが、嘘のように大喜びをしてしまったのじゃー2。
心配ごとと言えば、アルテリス皇女がそれを許さないかも知れない事ではるが、『のじゃー』達の会話 を聞き取る事が出来ないので、やったもん勝ちなのだ。
大魔神を血祭りにあげる事が、『のじゃー』にとっては、それほどに重要な事なのである。
「さてさて、ではそろそろ【のじゃー砲】を発射するのじゃー! …………のじゃ? どうしたのじゃ? のじゃー2よ、そんなグズグズしてないで、早く【のじゃー砲】の発射をするのじゃー!」
未だに主砲が発射されていない。
のじゃー2は、慌てながらいろいろと操作をしているが、次第にどんどんと悪化してしまった。
「だ、駄目なのじゃ! 急に『のじゃー号』のコントロールが効かなくなったのじゃー!」
「な、なんじゃとー!?」
敵襲すら襲われてはいない中、『のじゃー号』は、激しくガタガタと揺れ、一気に帝都イスタルに向けて墜落しようとしていた。
大魔神の張り巡らせていた対古代兵器用の巨大な結界は、『のじゃー号』にも有効に作用したのである。
「ど、どどうしたのじゃ!? 妾にも説明を要求するのじゃ!」
「のじゃー語を理解出来ないお主に説明など、出来る筈がないのじゃー! 何てことなのじゃー! やはりこの『のじゃー号』は、ポンコツだったのじゃー!」
「あわわわ! もう無理なのじゃー! 墜落するのじゃー!」
大きく揺れた『のじゃー号』に3人の少女は悲鳴を浴びた。
完全にコントロールを失った『のじゃー号』は、そのまま帝都イスタルの皇帝が住まう宮殿へ墜落しようとしていたのである。
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「魔神様。どうやら、例の古代兵器でこの帝都に向かっていたアルテリス皇女は、無事に罠に掛かったようです」
「うむ。ここまでは、予定通りだ。我も真っ直ぐと堕ちて行きよるのが感じとれるぞ。だがしかし……この位置は不味いな」
「何がですか?」
「我の背後に隠れていろ!」
そう言って、険しい顔をしながら大悪神は、詠唱を唱える。
二人に向けた、大きな黒いバリアー。
これは、あらゆる物理攻撃を無に帰す、恐るべき魔術なのである。
そして、そのバリアーに、堕ちてきた飛行物と衝突した。
「むう……まさかこの宮殿に堕ちるとは」
凄まじい衝撃ではあったものの、全ての物理攻撃を無に帰すバリアーのお蔭で、天井が崩れ去る以外は、殆ど宮殿は破壊されてはいなかった。
お蔭で、堕ちた『のじゃー号』も大きな損傷を起きる事もなく不時着する事が出来たのである。
大魔神のバリアーがなければ、『のじゃー号』は、かなりの損害を浴びてしまった可能性が高い。
まさに宮殿に墜落したのが不幸中の幸いだったのだ。
「まさか……あれが古代兵器……!?」
「そのようだな。 あの忌々しい兵器が、未だに使われていたとは、何処までも過去の亡霊は、我の邪魔をしてくれる!」
「ですが、これで古代兵器は、完全に無力化をいたしましたし、残るは、アルテリス皇女を捕えるだけですな」
大魔神の側近である大悪魔は、そう言ってニヤリと笑う。
態々囚われる為にここまで出向いて来てくれたのだ。
こんな笑える話があるだろうか。
そんなニヤニヤとしている大悪魔とは対照的に、大魔神は、依然として、『のじゃー号』から現れる化け物を待っていた。
アルテリス皇女をここまで送ってくれたお礼として、大魔神の配下にしようと考えていたのである。
「さて、そろそろお出ましのようだ」
そして、現れたのは、皇女アルテリシアを守るように立ち塞がる二匹の『のじゃー』。
彼女らにとっても、目標の大魔神に不時着陸したのは幸運であったのだ。
そんな3人に、まずはお礼として『のじゃー』に話しかける。
「娘の護衛を感謝するぞ『のじゃー』よ。我の部下とならぬか? 今なら側近として活躍してもよいぞ」
「のじゃ?」
「女神のじゃー様がぬしの話なぞに聞くものか! この方こそ、妾の……いや、世界の救世主なのじゃ!」
「クックック……世界の救世主と来たか。 だが、この『のじゃー』は果たして、世界の希望となど思っているかな?」
「のじゃのじゃ、のじゃー!」
銀髪の『のじゃー』が何かを言っているが、大魔神でも聞き取る事は出来ない。
だがしかし、大悪神の予想とは違い、その表情は、明らかに敵対の構えを取っていた。
大魔神の勧誘を蹴ったのは、明白である。
「愚かな化け物だ。 我の配下となれば、繁栄の道を究めたというのに……。アルテリス皇女。 汝は、ゆっくりと見物をしておるのだな。 『のじゃー』が倒される姿をゆっくりと拝むがいいわ! 大悪魔ガイウス! あの黒髪の『のじゃー』を仕留めろ! 我は銀髪の『のじゃー』を相手にする」
「ははっ!」
「のじゃー!」
ついに戦いの火蓋は切られた。
にっこりとほほ笑んでいる二匹の『のじゃー』に戦いを仕掛ける二体の悪魔。
この世界の運命を賭けた戦いが今、始まったのである。




