18話 決戦前夜
「さて、そろそろ作戦会議を始めるのじゃー」
「始めるのじゃー!」
決戦前夜に向けて、『のじゃー』の二匹は、帝都イスタルをどう攻略するかについて、操縦席で話し合う。
ちなみに、アルテリス皇女は、『のじゃー』が改造した奥の寝室で熟睡している。
「のじゃー2よ、お主には、何か良い作戦はあるか?」
「私は、主砲の一撃で帝都イスタルを滅ぼすのが一番手っ取り早いと思うのじゃー!」
のじゃー2は、にっこりとほほ笑み、迷いなく帝都の住民達を焼き殺す策を提案する。
彼女にとっては、『のじゃー』の安全こそが第一だからである。
人間の命など、『のじゃー』様の命の前では塵に等しい存在であるのだ。
そんな物騒な提案に、『のじゃー』は、首を横に振るう。
「じゃがのぅ……そうすると、アルテリス皇女は悲しむじゃろうし、なるべく穏便に仕留めたいのじゃー」
「『のじゃー』様がそうおっしゃるのなら、仕方ないのじゃ……。むしろ、民にお優しくなった『のじゃー』様も素敵なのじゃよ!」
「ふふん、もっと褒めるのじゃ! ……って話が脱線する所じゃったな。 やはりワシは、【ハイパースリープ】を唱えるのが一番楽に侵入出来ると思うのじゃ」
『のじゃー』が提案した【ハイパースリープ】は、大規模に生体を眠らせる事が出来る禁術である。
既に失われた古代魔術であり、今唱えられるのは、『のじゃー』だけなのだ。
これを唱えれば、国民に気づかれる事もなく、宮廷に潜む大魔神を仕留める事が可能。
まさに、この作戦でうってつけの魔術なのである。
「私もそれがいいと思うのじゃー。 運が良ければ、大魔神も、きっと眠るのじゃー」
「流石に大魔神は、耐性があると思うがのぅ……まあ良い。 今はこれが一番の最善手なのじゃ!」
「凄いのじゃ! こんな方法を思いつくなんて流石は『のじゃー』様なのじゃ!」
感激しているのじゃー2に、ウンウンと頷き、『のじゃー』はこの作戦に決めた。
後は、ゆっくりと決戦に向けて、身体を休めるだけである。
「では、明日に備えて、ワシらもゆっくりと休むのじゃー」
「了解したのじゃー! お休みなのじゃー」
操縦をオートモードに切りかえた後、明日に備えるのじゃー2と共に自室の寝室へと戻った『のじゃー』。
だが、寝室に待っていたのは、未だに眠らずに枕をギュっと抱き着いていたアルテリス皇女だった。
「遅いのじゃ……妾を置いていくのはもうやめて欲しいのじゃ」
「よしよし、心配させてしまったようじゃな。今日は、ワシと一緒に寝るのじゃー」
「むー! 私も一緒に、のじゃー様と寝たいのじゃー!」
不満を漏らしているのじゃー2をしり目に、涙目になりそうなアルテリス皇女にやさしく抱きしめる『のじゃー』。
彼女は、すっかりと『のじゃー』に依存してしまっている。
信頼を寄せていた宮廷魔術師もあの事件で死亡済み。
頼れる相手が彼女しかおらず、最愛の家族も今では、生きている可能性すら残されてはいないのだ。
だから彼女は、家族を求めるかのように『のじゃー』を求める。
この時が唯一の弱音を吐く場所であり、表の舞台では、決して見せられない姿なのである。
それほどに、アルテリス皇女は、『のじゃー』が好きになっていたのだった。
「強欲かと思うじゃろうが、妾は『のじゃー』様が欲しい。 けどこれは、妾の願望じゃ。ぬしは、そのまま島へ帰るのじゃろう?」
「そうじゃ」
「じゃから、今だけでも甘えさせ欲しい……。これは、身勝手もない妾の我がままなのじゃ」
「よいよい。ワシも可愛い少女は大好きなのじゃー」
「……本当に感謝するのじゃ」
「うむ! もっと褒めるのじゃ!」
「一人にしないで欲しいのじゃー! 私も会話に混ぜるのじゃー!」
そんな言葉のやり取りをしていたが、『のじゃー』の言葉を聞き取る事は、アルテリスには、不可能である。
だが、『のじゃー』の表情を見るだけで、意思が伝わっているのを感じていた。
今は、かけがえも無く楽しいひと時であり、安心してしまうほどに甘えてしまう。
それは、家族だけに見せる表情でもあった。
「やっと眠ったようじゃな」
「のじゃー様が大好きな皇女様は、私も大好きなのじゃー」
「そうじゃな。ワシもここまで甘えてくる子どもは初めてじゃわい」
「……うん。置いて行かないで欲しいのじゃ……」
『のじゃー』にギュっと抱きしめながら寝言を吐くアルテリシア皇女。
そんな様子で涙を流している少女に手を拭き取ってあげる『のじゃー』。
「むう……ワシも随分とこの少女に甘くなってしまったのじゃ」
「可愛い子どもが大好きな『のじゃー』様には、仕方ないのじゃー」
「こんな可愛い少女をワシも捨てるなんて嫌なのじゃ。『のじゃーウイルス』を撃ちこみたいが……あれを直接注入をする事など殺すようなモノのじゃ。仲間に引き入れられないのが非常に惜しいのぅ……」
そんな風に、もうすぐで迫ってくる別れを惜しむ『のじゃー』。
彼女も、アルテリシア皇女は、是非とも欲しい逸材ではあったが、バロンズ帝国には、無くては、ならない存在であり、いずれは、この国のトップを立つであろう存在に、そんな賭けを挑むような事は、したくなかったのである。
「安心するのじゃー! 私がいっぱい甘えるのじゃー!」
「これこれ、のじゃー2まで抱き着かれては、ワシが息苦しいのじゃー!」
そう言って後ろから抱き着くのじゃー2.
彼女は島でお留守番をしていたお蔭で、最近は、『のじゃー』に甘える事が出来なかった。
だから、すっかりと、優しくなっている今だからこそ好機なのである。
「ふむ。 ワシも随分と良い仲間を手に入れたのじゃ」
決戦に向けて、すやすやと眠りについた『のじゃー』。
帝都イスタルに待ち構えている大魔神。
彼女達の戦いは、明日からが本番なのである。




