17話 雑魚キャラは瞬殺なのじゃー
ここは、帝都イスタル。
多くの人々が賑わい、最大の領土を持つバロンズ帝国の本土でもある。
依然として、戦争は続き、バロンズ帝国は順調に列強国の国々を次々と侵攻をしていた。
その原動力となったのは、人々の間で、神話として恐れられていた悪魔。
山羊のような角を持ち、翼を生やし、蒼黒い肉体に覆われた人外の存在。
たった一個体の低級悪魔ですらB級ランク以上の戦力を持ち、上級悪魔となれば、S級ランクに匹敵か、それを超える力を持つ化け物である。
そんな存在を、手足のように操る事が出来るバロンズ帝国。
バロンズ帝国の最新魔術によって、召喚士が悪魔を召喚し、使徒する事に成功させた事になっていた。
しかしそれは、表向きの理由にすぎない。
裏では、既に国の中枢機関は、悪魔に乗っ取られている事を、国民は、知る由もなかったのである。
そして、皇帝に成りすましている大魔神は、今日も戦況の様子をゲームのようにクロス大陸の地図を机に広げ、兵隊の駒を置きながら楽しんでいる。
「さて、そろそろこの国もチェックメイトか。これでダリアス王国の王族は、全て捕える事が出来た。ククク……王族は、我の贄となる事こそがふさわしい。だが未だに力を十分に発揮する事が出来ぬ。引き続き、我の印がつけられた素体候補をかき集めろ!」
「はっ! ですが一つ気になる情報があります……素体候補である皇女アルテリスが、この帝都に向かっているようです」
「知っている。我の悪魔を倒した『大悪魔のじゃー』を従えた皇女アルテリスが、態々この地へ訪れてくるのだろう? ならば壮大に歓迎してやろうではないか」
「おおっ! では壮大に歓迎しなくては、いけませぬな」
大魔神は、そう言ってニヤリとほほ笑む。
前回は、自らが出向かなかったお蔭で侵略から撤退してしまう失態を犯してしまったが。今回は、大魔神自らが早々と暗黒界から攻めて来たのだ。
故に失敗は、しない。
その気になれば、今すぐにでもこの地上を暗黒の闇へと変える事が出来るのである。
さらには、前回の文明は既に滅び、今は大幅に退化してしまった貧弱な地上人となっている今では、危機感などなかった。
皇女が潜伏している島に向かわせた悪魔が倒された事など気にしてはいない。
あの悪魔は、只の上級悪魔に過ぎない。
その程度ならば、この地上で天災級の強さを持つ『大悪魔のじゃー』に返り討ちにされても仕方ないからである。
「ククク……大悪魔のじゃーか。 大悪魔と名乗るのであれば、我の肩慣らしには丁度良いかもしれぬな」
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クロス大陸のバロンズ帝国領の海領付近。
ここには、複数の悪魔が謎の飛行物体に潜んでいるアルテテリス皇女を捕獲する為に向かっていた。
それは、彼らの独断であり、無事に捕獲する事で大魔神から褒美を授かるのを期待して、持ち場の守備から離れたのである。
「で、もうすぐでこの場所に、謎の飛行物体が来るんだな?」
「そうですぜ! まさか、地上人如きに、空を飛ぶ飛行船を開発されていたとはな。まあ、所詮は、地上人の兵器だ。俺たちには恐れる事がない……ケケ!」
二体の悪魔は、そう言ってゲラゲラと笑っていた。
あの油断した上級悪魔とは違い、こちらは、既に対古代兵器用の魔法陣を展開しているのだ。
この魔法陣に嵌れば、あの飛行物体の機能が失われ、容易く船内へ侵入する事が出来る。
古代兵器に頼っている貧弱な地上人如きならば、我ら悪魔で容易く葬り去る事が出来るのである。
だが、その真っ直ぐにこちらへ向かっている飛行物体に、一つ気になる点が浮上していた。
「……おい、飛行物体の速度が上昇していないか?」
「確かに速度が上がっているようだが、そこまで気にするほどでもないですぜ! あの巨大な魔法陣に嵌れば、一気に一網打尽ですぜ! ケケッ!」
「ふむ……まあいくら速度が上がろうとも、こちらの罠を掻い潜る事は出来ん。 さっさと俺らも隠れ潜むか……むっ!」
二人の悪魔が隠れ潜もうとしたその時、罠を填めている隠された魔法陣に異常が発生する。
その異変に気付いた悪魔の一体は、慌てて魔法陣を正常に戻す為に修復を行う。
だが全ては手遅れだったのである。
「おかしいですぜ! 謎の飛行物体が消えた!? ……ってゲギャー!!!!!」
仲間に報告をしようとした悪魔の一体は、そのまま光の中へと消えてしまっていた。
そして残りもう一体も……
「なに!? 空間の中から光線だ……グハァ!?」
最後までセリフを言う事も出来ずに、木端微塵に消え失せてしまった。
そう……『のじゃー号』は、遥か彼方から、彼らの罠がバレバレだったのである。
故に対策も万全であり、不意打ちを仕掛けるのも容易かったのだ。
悪魔の浅はかな知恵は、『のじゃー』の前では無力なのである。
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そんな中継を画面から眺めていた3人は、悪魔が瞬殺された事に喜び合っていた。
特にアルテリス皇女は、あの恐怖の悪魔が簡単に滅ぼされるのを観たお蔭で、すっかりと感激をしていたのである。
「おお!? あの悪魔が一瞬にして滅んだのじゃ! 女神様は本当に凄いお方なのじゃ!」
「のじゃのじゃー!」
「のじゃ!」
一匹の銀髪の『のじゃー』は、くるくると回りだし、もう一匹の黒髪『のじゃー2』は、操縦席で、拳を握り、ガッツポーズをしていた。
主砲の一発で悪魔を命中させたのが嬉しかったからである。
皇女アルテリスもそんな驚異的な性能を持つこの古代兵器に只々関心するしかなかった。
あの悪魔ですら滅ぼせる古代兵器。
つくづく古代人達の文明のすさまじさを窺えられたからである。
「もうすぐで妾の故郷か…………どうかご無事であって欲しいのじゃ……」
悪魔の襲撃から隠し通路へ逃してくれた皇帝と皇妃……
もう死んでいるかもしれない不安を逃避するかのように、彼女は手を握り、祈りだす。
そんな様子を眺めていた『のじゃー』は、ゆっくにと彼女の頭を優しく撫でた。
「のじゃー」
「すまぬ……。 どうやら心配させてしまったようじゃ」
「のじゃ? のじゃー!」
そして、ニッコリと笑ってくれる『のじゃー』。
アルテリスは、そんな彼女が頼もしい存在として心の支えとなっていたのである。
もう彼女には、クロス大陸で恐れられていた『大悪魔のじゃー』の面影など感じてはいない。
その姿は、どうしようも無くなった絶望の民に救いの手を差し伸べる『女神』。
パンゲア大陸の先住民を救い。占領軍を完全に壊滅させた『のじゃー』
彼女こそが、この世界の希望なのである。
そんな存在が、一国の皇女如きに力を差し伸べる事が出来た幸運。
宮廷魔術師が、そんな女神様の島へと転移させてくれた幸運。
もはや、アルテリスには、迷いはない。
ただ、父と宮廷魔術師の意思を受け継ぎ、バロンズ帝国に仇なす悪魔を滅ぼすだけである。
「女神のじゃー様……本当に有難うなのじゃ!」
「のじゃ!」
そして、もうすぐでバロンズ帝国領のクロス大陸である。
『のじゃー』の標的である大魔神は、もはや目前へと迫っていた。




