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超危険生物『のじゃー』  作者: アトリーム人
第2章 帝国編
15/27

15話 悪魔

 寝室でゴロンと寝転がっていた『のじゃー』。

 既に外は真っ暗の夜となり、今は熟睡中である。

 だが、思わぬ来客によって、目をパチリと開き、抱き枕にしていたのじゃー3と共にベッドから起き上がる。

 まだ眠たそうなのじゃー3は目をゴシゴシとしていたが、『のじゃー』は、完全に目を覚まし、既に侵入者をどう始末するかを考えていた。


「むっ! これは侵入者の匂いがするぞい!」

「……ふわぁ、眠い……。確かに怪しい奴の反応がするな。しかもこんな真夜中の空を飛びながら、高速で向かってきている……。これは、かなりの実力者かもしれないぜ」


 謎の飛行物体が真っ直ぐとのじゃー島へ向かう侵入者。

 態々この島に訪れる動機は、信者の礼拝と、別の目的……。


「まあ、十中八九、あの小娘の追手じゃろうな」

「お前もそう思うか?」

「パンゲア大陸の方角ではなく、遥か遠くのクロス大陸から飛来してきているのじゃよ。態々、この島にやって来ているのじゃ。あの小娘がバロンズ帝国の皇女ならば、その敵対している人物からの追手がくるのも道理なのじゃー!」

「しかし、この島を特定し、こんな遠方から駆けつける程に空を飛べるとは……かなりの強敵かもしれないな」


 天才魔術師のS級ハンターと言えども、遥か彼方にあるクロス大陸から、この島まで空を飛ぶ事は不可能である。

 のじゃー探知から感じる大きな力。

 これは、かなりの強者が近づいている事を意味していた。


「お主には、この人物に心辺りはないのかのう?」

「いや、オレには特に無いな。そもそも遥か遠くの距離まで飛べる魔術師なんて、オレは知らない」

「そうか。じゃが明らかに、敵対者の香りがプンプンとしておるようじゃし、ワシの敵なのは間違いないじゃろう。……さっさと愚かな害虫は、駆除をしなければならぬのじゃー!」


 そう言ってニヤリと笑う『のじゃー』。

 最近は、あまり暴れていなかったのである。

 今回は、思う存分に暴れようとしていた。

 『のじゃー』は、これから始まる久々の血祭りにワクワクしていたのだ。


「はあ、オレは、その少女の世話をしているのじゃー2に連絡をしに行く」

「そうかそうか。では、ワシも行って来るのじゃー!」


 そして、のじゃー3に別れを済ませた『のじゃー』は、愚かな侵略者を血祭りに上げる為に、侵略者の元へ飛び立ったのである。



 ……………


 ……………………………


 ……………………………………………………………




「……もうすぐで目的地に到達するな」


 彼の名は、上級悪魔グラエル。

 遥か遠くの島へ訪れる目的は、皇女アルテリスの捕獲。

 彼女は、主の大事な素体、または生贄としての役割がある為、取り逃がしたアルテリスが住まう島へとただちに向かったのである。


「確か、情報によれば、ここは、自称『大悪魔のじゃー』が住み着いているらしいが……」


 彼は、その噂に半信半疑であった。

 大悪魔とは、悪魔では、最上級に位置するランクであるのだ

 大方、この地上人達が手におえない化け物を拡張して広めたのだろうと感じていた。

 そもそも、このような小さな島に潜んでいる事態がおかしいのである。


「しかし、皇女アルテリスが存命なのは好都合だぜ……」


 その反応に記されていたのは、未だに続いている、確かなる生存反応。

 どうやら、その自称『大悪魔のじゃー』は、アルテリスを殺害してはいない様子であった。

 別に半殺しにされていたとしても問題ない。

 生きてさえいれば、手足が無くなっていようとも大丈夫なのである。


「……っむ!」


 高速で接近中、島の中から一筋の物体がグラエルに向けて、何者かが高速で接近していた。

 グラエルは、あまりの嬉しさに、空中で急停止し、相手の接近を待ち構える。

 空を飛べる程のモンスター……ある程度の戦いには期待が出来たからだ。

 とはいえ、今回は、戦いを遊ぶ暇が無い。

 早急に片付けようと、グラエルは準備を整える。


 だが、その準備を整えた時、相手の姿は、あまりにも貧弱な人間の子どもであった。


「のじゃー」


 あまりにも、期待外れな姿に、思わず質問をなげかける。

 このような貧弱な存在が天災級などと云われる化け物だとは、思えなかったからだ。


「おい、お前が『大悪魔のじゃー』か?」

「のじゃ!」


 だがその返答に、思わず深い失望を感じてしまった。

 言葉すら理解出来ないほどに知能が無い事が分かってしまったからだ。


「っち! 言葉すら理解出来ない程の小悪魔か。まあいい。俺の名は悪魔グラエル……貴様のような小悪魔と違い、正真正銘の悪魔だ! 貴様の命……貰い受ける!」


 人の姿とかけ離れたグラエルに笑って答える自称『大悪魔のじゃー』。

 その姿から感じる力は、あまりにも貧弱であり、あまりにも弱い魔力であった。

 只の雑魚だと察したグラエルは高らかに笑いながら、暗黒の魔術を唱える。

 周囲は一気に暗闇へと変わり、相手の聴覚、視覚、嗅覚を奪う。

 最強のダークワールドを生み出す結界。

 半径数十キロメートルが闇の世界へと変わったのである。

 これは上級悪魔でしか唱えられない魔術であり、ぬるい地上で暮らす小悪魔には、防ぎようがない。


「さて、俺も忙しい身なのでね、さっさと仕留めさせて貰うぜ!」


 グラエルは、ニヤリと笑いながらダークソードを闇の空間から呼び出し、右手で掴む。

 そのままゆっくりと『のじゃー』に近づく。

 何が起こったのかも理解できない小娘に向けて、無慈悲なるダークソードを振り下ろした。

 だが、その時、グラエルは何かがおかしいと、警戒をしていた。

(オカシイな……小娘がこちらに振り向いたぞ……いや、まさか!?)


「のじゃ!」

「な、なにぃ!」

 

 背後から切り裂いたと思ったダークソードは、突如として少女はぐるりと回って

 手加減を一切していなかった一撃が、片手の素手で受け止められる。

 そんなあり得ない事が引き起こされてしまったグラエルは、驚いた顔をしながら、激しく動揺してしまう。

 こんなバカな事がある筈がない。

 ダークソードは、相手が少しでも触れれば、大幅に力を奪う効果もあるのだ。

 その剣をやすやすと受け止め、このダークワールドの効果を受け付けていないと言う事だ……こんなバカな事はありえない事なのである。

 しかし、全力で力を入れた筈のダークソードは、未だに片手で防がれたままであり、そんな混乱をしているグラエルに、少女は、さらなる追撃を加えた。


「のじゃのじゃー!」


 その言葉を最後に……辺りの視界は一斉に暗黒となった。

 そう……これではまるで……。


「ば……馬鹿な……これはダークワールドの上位版だと……!?」


 全ての感覚すら奪うほどの無が襲い掛かる。

 これは、本来、あり得ない事なのであった。

 大悪魔でなければ、この闇魔術を発動るる事は不可能なのだ。

 彼女は、本当に大悪魔だったのか?

 だが、悪魔の面影が無かった。

 では、何者なのか……?

 そんな思考をしながら、動揺をしている悪魔グラエル。

 そして全ての感覚を奪われた悪魔に、小さな小悪魔は、無慈悲な鉄槌を下す。


「のじゃ!」


『のじゃー』は聞こえる筈もない悪魔にそう叫び、瞬時にして右ストレートで悪魔の背中に叩きつけた。


「がはっ!」


 背後ろから衝撃がグラエルに襲う。

 既に痛覚も無くなり、何も対応が出来ない。

 いったい何が起こったのかが分からない。

 だが、解った事がある。

 さっきの一撃は、グラエルにとって致命傷であり、もはや、命が残り僅かだったったという事だ。


「くそっ……簡単な……世界では……」

「のじゃ!」


 そして愚かな侵略者は、『のじゃー』の一撃によって、跡形もなく消滅してしまった。


 ………………


 …………………………


 ………………………………………………



「……と、言う事があったのじゃよ!」

「悪魔か……まさか実在していたとは思わなかったぜ」

「怖いのじゃー! 悪魔は嫌なのじゃー!」


 のじゃのじゃと叫びながら怯えているのじゃー2に頭を撫でながら慰める『のじゃー』。

 襲撃者の情報を仲間に知らせた『のじゃー』は、この島に訪れた悪魔の侵入によって、ある一つの確信をした。


「むぅ……あの悪魔共を血祭りにあげなければ、このままでは、世界が滅ぶ可能性が高いのじゃー!」

「滅ぶ? ……いくらなんでも大げさすぎじゃないか?」


 のじゃー3は、首を傾げながら疑問に思っていた。

 いくら悪魔が強かろうと、この世界を滅ぼすほどの力があるとは思えなかった。

 あの古代兵器も、大地を更地へと変える程度であり、世界そのものは滅ぼす事が不可能であったからだ。

 だが、そんな言葉を投げかけたのじゃー3に、のじゃーはゆっくりと答える。


「実はのう……この世界は過去に、何度も滅ぼされた歴史を持つのじゃ。滅びと再生の繰り返し……それこそが、この世界の歴史でもあるのじゃー」

「じゃあ、あの古代兵器を操っていた古代人を滅ぼしたのも悪魔なのか!?」


 驚愕していたのじゃー3に、『のじゃー』は首を横に振る。


「違うのじゃ。あの時代は、旧人類の全盛期じゃったからのぅ……悪魔は返り討ちにされてしまったのじゃ」

「弱すぎるのじゃー!」


 爆笑をしながら、無邪気に笑いだす『のじゃー2』。

 旧人類に撃退されるほどのザコなど、『のじゃー』の敵ではないと感じたからである。

 

「のじゃー2よ、決して悪魔が弱かった訳ではない。旧人類が強すぎただけじゃ。まあ、その旧人類も、結局は滅んでしまったのじゃがのぅ……」

「じゃあ、何か? その悪魔は、過去に何度も滅びと再生を繰り返すこの世界へ侵略してきているって事か?」

「そうじゃ! ワシの知る限りでは、ある一定の周期でこの世界へ侵略するようじゃ。まさか今がその季節だったとはのぅ……。運が悪すぎるのじゃー!」


 過去の出来事を思い出し、遠い目をする『のじゃー』。

 かつて、この世界に突如として襲った悪魔たち。

 事前に悪魔の襲撃を予知していた旧人類は、圧倒的な軍事力によって、悪魔たちを返り討ちにしたのである。

 あの時は、敵の親玉の姿が居なかったと、当時の人々が告げていた。

 故に、今回は、悪魔の親玉が来るのではないかと危惧していたのだ。


「じゃあ、あの皇女は、悪魔にとっては、必要な何かを持っているって事になるな」

「まあ、十中八九、大魔神の素体候補の確保じゃろう。大魔神は、よく周期事に素体を変えるからのぅ。 前回は、侵略に失敗したお蔭で、今回はかなり必死になっていそうじゃ。 全く、素体確保のついでに世界を滅ぼす悪魔は、本当に迷惑な集団なのじゃー!」

「のじゃー様の迷惑をかける愚か者には、血祭りにしてあげるのじゃー!」


 怒っている『のじゃー』に同調して『のじゃー2』も魔力が一気に増大するほどに怒り出す。

 彼女は、主である『のじゃー』を困らせる存在が許せないのである。


「素体候補は、あの皇女だけではないかもしれぬが、一応は念には念を入れて、監視を続けたほうが良さそうじゃな。準備が出来次第、悪魔の本拠地を攻略するぞい!」

「悪魔の本拠地って、何処だよ?」

「……そ、それは、クロス大陸に向かってから、ゆっくりと考えるのじゃ!」

「何も考えてないじゃないかー!」


 無計画なのを悟らせない為に手をぶんぶんと振って誤魔化す『のじゃー』。

 そんな様子に『のじゃー3』は、頭を抱えてしまう。

 だが、いつもと変わらない様子で前向きに考えている少女も居た。


「のじゃー様に任せればきっと上手くいくのじゃー!」

「そうなのじゃ! ワシに任せれば、絶対に任務が成功するのじゃー!」


 こうして、様々な議論をしている内に、全員一致で、愚かにも『のじゃー』が住まう世界を滅ぼそうとする悪魔に天誅を下す事が決まったのであった。



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