14話 のじゃーと少女
「……で、その捕獲した少女は、どうする気なんだ?」
謎の少女をワシの地下室の空き部屋に保護をした後、ワシは仲間達を集め、この少女をどうすかの議論を始めたのじゃ。
まるでワシがこの少女を誘拐したかのようにジド目になっている『のじゃー3』と、ウキウキとワシを見つめる『のじゃー2』。
ワシは、この少女の処遇をいち早く伝える事にしたのじゃ。
「侵入者には、のじゃーウイルスを注入するのじゃ。慈悲はないのじゃー!」
「やったのじゃー! また仲間が増えるのじゃー!」
どうやってこの島に転移したのかが気になるのじゃが、ワシは、情報を聞き出すのが面倒になったのじゃー。
なので、さっさとのじゃー化にさせる事を選択したのじゃ。
じゃが、のじゃー3は、ワシを疑いをかけるような目つきで睨みつけておった。
「……で、その『のじゃーウイルス』の生存率は?」
「………な、内緒なのじゃ!」
「つまりそれは、生存率が低いと自白していると言っても言い訳だな?」
「そうなのじゃー! 私とのじゃー3は特別だったって事なのじゃー!」
いかん、どうやら生存率が限りなく低い事が、のじゃー3にはバレバレじゃったようなのじゃ……。
むぅ……まあ、ワシ以外で生存者が2人しか居ない時点で、確信しておったのじゃろぅ。
ワシは、その問題点を切り出し、新たにのじゃー3を問いかける。
「では、どうするのじゃ? この少女の面倒を見るとかぬかしおるのではないじゃろうな?」
「せめて情報を聞き出すまでは、我慢しろよ。何か事情がある筈だ」
「じゃからと言って……」
「子どもの面倒を見るのじゃー! 嬉しいのじゃー!」
「……はあ、もう勝手にするがよい!」
のじゃー2までもが、話に流れるまま、この少女の面倒を見る事に喜んでいるようじゃ。
2対1になってしまったのじゃ……ぐぬぬ! 主に刃向うとは、なんたる事態なのじゃ!
まあ、イエスマンしか言わない人形のような部下よりは、こうして議論を出来る分は、合格点じゃな。
ワシは、ため息をつきながら、すたすたと、未だにベッドに眠っている少女の姿を確かめた。
その青白く描かれたドレスの模様は、非常に煌びやかであり、可愛い少女の姿も合わさって、まさに可憐な姿をしていたのじゃー。
「うむ! 実に豪華な衣装じゃわい。ワシが着ている『のじゃーワンピース』に負けておらん出来じゃのぅ」
「あっ! そうだ、一つ気になる事があったぞ」
のじゃー3は、何かを思い出したかのように、ワシに話しかけてきた。
何やら重要そうな情報でも得られた様子なのじゃ。
「このドレスの右腕に描かれている白い翼みたいな模様……これって、バロンズ帝国の家紋じゃないか?
しかもこれって、皇族が着るようなドレスだぞ……」
「つまりお主は、この少女が皇女様だと言いたいのかのう?」
のじゃー3は、ワシの問いに、素早く頷いたのじゃ。
何てことなのじゃー……。
「ああ。その可能性が高い」
「凄いのじゃー! 皇族なのじゃー!」
「はあ……。また厄介な事件が発生したのじゃろうか?」
ため息を吐いたワシは、そう愚痴をこぼしたのじゃ。
バロンズ帝国と言えば、クロス大陸で最大の領土を持つ大国じゃったな。
その国の最高権力者である皇帝の娘が、このワシの島に転移するほどの事件が発生したという事じゃ。
実に面倒な事になったわい……。
「では、のじゃー2とのじゃー3よ。お主たちは、引き続き、魔術の研究を再開するのじゃー! 今日はワシが小娘の面倒を見るのじゃ」
「むー! 私も世話をしたかったのじゃー!」
「はいはい、のじゃー2も我慢しろよ。それとお前も変な実験とかするなよ?」
何やらワシが悪巧みでもしているかのように、疑いの目をかけておる。
…………あれほどに、このワシを好いていた筈じゃった『のじゃー3』が、このような仕打ちをするとなどとは、非常に不理屈なのじゃー!
じゃが、そんな不満を表に出すことはなく、ワシはその返答をするのじゃ。
「安心するが良い。今回は、情報を聞き出すだけじゃ」
「そ、そうか」
「お主らも、さっさと幻影の魔術を完成させるのじゃぞ!」
「のじゃー様の為に頑張るのじゃー!」
「ああ。任せとけ!」
そう言って、のじゃー2は、にこやかに手を振りながら、立ち去り、のじゃー3もスタスタと立ち去った。
あの鬱々しい信者共をここに立ち寄らんようにする事が、今のワシにとっては重大である。
この皇女の事件など、この島に訪れるのが激増した事件と比べれば安いモノなのじゃ!
……じゃがしかし、全然、目覚める様子が無いのう。
どういう事じゃろうか?
何か特別な呪いでもあるのじゃろうか?
どれどれ……ちょっと少女の意識の中を探ってみるのじゃー。
ワシは少女の額に手を優しく当てて、深層部分がどうなっているのかを探った。
「むっ! これは……!? …………特に何もないようじゃ。 ワシの気のせいじゃったか」
只の気絶のようじゃ。
いらぬ心配をしてしまったのじゃー。
てっきり、呪いか何かで蝕まれておるかと思ったのじゃ。
「うーん……ん?」
「おや? やっと目を覚ましたようじゃ!」
眠っていた少女はそのまま目を開き、何やら目をゴシゴシと拭いた後、そのまま、ワシを警戒しながら睨みつけておった。
しかし、こんな可愛い少女に見つめられてると、ワシが照れてしまうのじゃー。
「き、貴様! 妾をこのような場所に拉致してどうするつもりじゃ! あ奴らの仲間なのか!?」
「仲間とはなんじゃ?」
何やら、いろいろと誤解をしているようじゃ。
あ奴らの仲間とは、なんじゃろうか?
ワシは、のじゃー島の頂点に立つ『のじゃー』じゃぞ?
「のじゃーと言わずに、ハッキリ言わぬか!」
ふむふむ……かなり厄介な事件に巻き込まれてしまったかもしれぬのじゃー。
ワシは、やれやれとため息を吐いて、ただひたすらに「のじゃー」と鳴いた。




