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超危険生物『のじゃー』  作者: アトリーム人
第1章 新大陸
11/27

11話 『のじゃー』VSフェリー総督

 二匹の『のじゃー』は、高速で空中戦艦エリザベスに接近しようとしていた。

 だが、距離はまだ100km以上も先であり、まだまだ射程距離までは近づいていない。

 未だにのじゃーアイを発動させなければ、姿を確認する事が出来ない。

 そんな時、『のじゃー』は、空中要塞エリザベスから一筋の光が現れたのを目撃する……


「……そろそろ来るぞい」

「……ん? なにがだ?」

「ええい!ワシの背後に捕まるのじゃー!」


 のじゃーに言われるがまま、抱き着いた瞬間、辺りは一斉に光に包まれれていた。

 それは、まさに気づくことが出来ない程の一瞬であり、超高速の光線であった。

 のじゃーは、あらかじめ発動させていた『のじゃーバリアー』で覆い隠し、なんとかその光から逃れる事に成功する。


「な、何が起こっているんだ!? まるでジャッジメントが横から降り出しているかのようじゃないか!」

「空中戦艦エリザベスの主砲じゃよ。別名……神の雷とも呼ばれておったのぅ……相変わらず、高威力の破壊兵器じゃー」

「ははは……聖書に載っていたあの本は、この空中戦艦の事だったのか……」


 後ろを振り向けば、その主砲からの一撃を浴びた標高の高い山に、風穴が空いていた。

 山は、その衝撃で大きく崩れ、その遠方の彼方では、大きな閃光と爆発音が響き渡っていた。

 まさに地形を変える程の一撃

 それは、まるで聖書に書かれていた天から降り注ぐ一撃は、辺りを更地に変えるほどの一撃であり、のじゃー3がそれをアレンジで工夫をこなしたものの、あそこまで威力を出す事は、不可能であった。


 「驚いている暇は、ないのじゃ! 棒立ちしていては、また狙われるぞい!」

 「……そうだな。さっさとあのデカ物をなんとかしないと、このパンゲア大陸の殆どが更地に変わってしまう!」


 2匹の『のじゃー』は、空中戦艦エリザベスの元へ、接近を再開する。

 あの、巨大な古代兵器を破壊する事が、今回、このパンゲア大陸に訪れた理由なのだから……


…………

 

……………………


…………………………………………



 『のじゃー』が神の雷を食らうのを確認したフェリー総督は、思わずにやける。

 だが、安心した訳ではない、相手は、天災級の化け物だ。

 故に油断はしない。


「やったか!?」

『いえ、未だに二体の生体反応があります。主砲の直撃を受けましたが、対電子バリアーを貼られたので無傷のようですね。そのご様子を映し出します』


 AIが遥か遠くの『のじゃー』を超電子カメラで写し、その映像を大きなモニターに映し出されれる。


『のじゃ!? のじゃー!』

『のじゃのじゃ』

『の、のじゃー……』


 映像から映し出されていたのは、相変わらずに無傷で空を飛び続ける『のじゃー』映っていた。

 その生意気な様子を見たフェリー総督は顔を歪める。


「……あのような一撃を食らっても無傷だとは……やはり、あの実弾を使わなければならないようだ」

『ホーミング式の粒子爆ミサイルを発射しますか?』

「ああ、出し惜しみをする必要はない。徹底的にやれ!」

『はい、マスター。命令を受け付けました。』


 次に発射されるのは、あの駐屯基地ラベスを更地に変えたミサイル。

 さらには、毒をまき散らす悪魔の兵器。

 いくら、S級の化け物といえでも、この数には一たまりもあない。

 フェリー総督は、今度こそ『大悪魔のじゃー』を殺すことができると確信している。


…………


……………………


…………………………………………



「さて、そろそろ本番のようじゃな」


 『のじゃー』が真面目な顔をして、そう告げるの理由。

 それは、破壊力と毒を兼ね備えた、数多くのミサイルが発射されたのを確認されたからだ。

 そんな様子を見ていたのじゃー3も、その予感を感じとり、恐る恐ると、『のじゃー』に話しかける。


「……あの複数も発射された実弾が、全てあの兵器なのか?」

「そうじゃ」

「マジかよ……」


 高速で接近中の大量のミサイルの全てがあの毒をまき散らす大量破壊兵器。

 普通なら、跡形もなく消滅し、生き残ったとしても毒にやられてしまう。

 『のじゃー』は、それを知ってか知らずか、『のじゃー3』に、真面目な顔で伝える。


「後それと、伝えなくては、ならない事があるのじゃ」

「手短に頼む」

「ワシは、そろそろ世代交代をすべきだと思うのじゃ。……だから後は頼んだぞい」

「はっ? 何を言って……」


 『のじゃー』が何を言っているのかが理解できない。

 まるで、これからお別れをするのかのような言葉を出す『のじゃー』。

 だが、気づいた時には、全てが遅かった。


「じゃあの」

「お、おい!」


 笑顔でその言葉を聞いた時、ミサイルの一発が爆発し、辺りは一面に、赤い光に包まれた。


…………


……………………


…………………………………………



「どうだ!? 今度こそ仕留めることが出来ただろう!?」


 映像に映し出されていたのは、さっきの主砲よりも超える地獄絵図。

 数十発以上も撃ちこまれた爆発は凄まじく、灰が高度数万メートルまで上り上げでいた。

 あの周辺のほぼ全てが毒と灼熱の世界へと変わったのである。


『少女一人の生命反応が消えました。ですが後一名が未だにご健在であります』

「つ、ついに仕留めたのか!? あの化け物の一体を!?」


 まだ一人残っているというのに、フェリー総督は、両手を強く握りガッツポーズを獲り、その報告に喜んだ。

 それは、この戦艦に乗り込んでいる人達も同じだ。

 ついにあの『大悪魔のじゃー』の一体を滅ぼしたのだ。

 もはやこちらの勝利は、目前だと過言ではない。


 そして、生き残りの『のじゃー』を映し出されていたのは

 涙を流しながら、絶望に震えている『のじゃー』。


『の、のじゃぁ……』


 魔法少女の衣装もボロボロとなり、あまりにも頼りない姿をしている『のじゃー』。

 フェリー総督は、もはやこちらが勝ち戦と確信した。


「くく、見てみろ! あの『大悪魔のじゃー』が絶望しているぞ! こんな楽しいショーが観る事が出来るとは、今日は上手い飯が食えそうだな! ワハハハ!」

『マスター。油断してはいけません。今、あの人型には、想定を超える力が増大しております』

「ふん、最後の抵抗と云う事か。では、最後のトドメを刺すのだ、撃てー!」


 主砲とホーミングミサイルの同時攻撃。

 もはや防ぎきる事は、不可能。

 一匹の『のじゃー』が消え、生き残りの『のじゃー』が無傷だという事は、消えた『のじゃー』が庇ったのだろう。

 ならば、次で最後だ。


『のじゃぁぁぁぁぁーー!』


 だがそこに映し出されていたのは、その砲撃に、怯みもせずに、こちらへ向かっている姿であった。

 大爆発を起こした粒子爆弾にもひるまず、照射される主砲にも怯まない。

 レーダから送信された発信されている『のじゃー』は、真っ直ぐにこちらへ接近していたのである。


「ど、どうなっている! 何故、効かんのだ!?」

『測定不能、測定不能、謎のジャウイルス……侵…あdふぁ;ふぁ』

「お、おい。 どうしたんだ!? しっかりしろ!」


『だd;あいj;おいjガdジdギガノジャー………』


「な、なにがどうなっているんだ……!?」

『…………』


 AIは、それを最後に、何も告げなくなった。

 それは、何者かによって、この空中戦艦の自立型AIに向けて、攻撃ウイルスが撃ちこまれたのだ。

 そんな事を知らない、フェリー総督は、動揺しながらも、操縦席へと向かい、自らが操縦する。


「くそ!? お前らもボサっとしてないで操縦を手伝え!」

「で、ですが我々には、これを動かす操縦技術が……」

「あの程度の説明をまだ理解できていないのか!? こうなったら私一人でやる!」


 AIから授かった莫大なる操縦に必要な技量の説明。

 一朝一夕では、覚えられないほどの量であった。

 もちろん、フェリー総督もその事は、解っている。

 だが、一部の部門をある程度理解した家臣達が、次々と自分の席へと向かう。


「私は、王となる男だ……こんな所で負けてたまるかっ!」


 フェリー総督は空中戦艦エリザベスを操縦し、家臣の力も借りて、高速移動で向かって来る『のじゃー』から遠ざけ、ひたすら遠距離で、主砲とミサイルを撃ち続ける。

 さらには、家臣の一人が、戦闘機の操作をする事に成功させ、『のじゃー』をけん制する為に無人戦闘機を発進させた。


 自身すらも驚くほどの操縦技術……丸暗記をしていたフェリー総督は、思わぬところでその才能を開花させたのだ。

だが、その才能の前でも『のじゃー』には、無力であった。


『のじゃああああああーーーー!!』


「だ、駄目です! 全ての戦闘機は落とされました!」

「おのれぇ……またしても私の野望を邪魔するのか……っ!」


 『のじゃー』の力は凄まじく、あの一撃でボロボロになったのを最後に

 全くダメージを受け付けていなかった。

 避ける事もせず、臆せずにまっすぐとこちらへ向かう『のじゃー』。

 その姿は、まさに死神。


「『大悪魔のじゃー』の移動速度が速すぎます!このままでは直撃を……!?」


 動揺しながら家臣の一人がその言葉を発した時、空中戦艦エリザベスの空から閃光の柱が大量に舞い降りた。

 本来なら、粒子フィールドである程度なら守れる筈であった。

 だが、才能を開花したフェリー総督の操縦と素人の家臣では限界があり、AIの不在も重なり、閃光の柱に直撃してしまう。

 

「うわぁぁ!」


 激しい揺れと爆発に襲われた一部の家臣たちは、バランスを崩し、悲鳴を叫びながら倒れてしまう。

 幸いにして、操縦室には、直撃を逃れたものの、空中戦艦エリザベスは、多くの風穴を開けられたのである。

 それはかつて、伝説のS級ハンターが唱えられた魔術であり、その威力は、同時に複数のジャッジメントを一斉に放てるまでに強化されていたのだ。


「ぐっ! 被害状況はどうなっている!?」

「浮力のコントロールが出来ません! このままでは落ちます!?」


 激しい揺れと、閃光の柱を貫かれた事で、浮力が不安定になった。

 自己修復機能ですら間に合わない速度での破壊。

 空中戦艦は、今まさに、ゆっくりと落ちようとしている。

 ……そして。爆発音を響き渡りながら前方の操縦室の窓際に穴が開き。

 背中をつららで撫でられたように悪寒が走る程の、悪魔が侵入した。


「のじゃ……」


 『大悪魔のじゃー』は、そのまま空中戦艦の中へと乗り込んだ。

 金髪の魔法少女が憤怒の様子で操縦席の彼らを睨みつきていたのだ。

 その表情は、怒りに満ち溢れるほどに、力が漏れ出していた。

 助かる道が無い。もはや、こちら側の詰みであり、完全なる敗北が決まった。

 一体は、撃破したものの、残りもう一体がそれ以上の化け物。

 なぜ、私がこのような目にあってしまうのか?

 なぜ、今まで築き上げたモノが、雪崩のように崩されてしまったのか……

 そんな絶望をしていたフェリー総督は、今までの出来事を思わず振り返る。


「私は、ダイクロス帝国で最大の財力を持ち、最強の軍隊を手駒のように操り、国をも滅ぼせる力を持つ神の城の切り札があった。……その全てが、悪魔の島から飛来した『大悪魔のじゃー』敗れ去るとはな。……ククク、これが国を滅ぼす天災と呼ばれる程の生物。もはや、私の命運も尽きたか」


 思わずに、目を瞑り、そう呟くしかなかった。

 世界の王となる野望は、たった二人の『大悪魔のじゃー』によって、打ち破られたのだ。

 もはや、切り札の全てが失われ、今度こそ袋のネズミとなってしまったフェリー総督。

 言いようのない悔しさがこみ上げる。

 そして、次々と『大悪魔のじゃー』に虐殺される、仲間の家臣達。

 フェリー総督は、一体の『のじゃー』を殺した復讐相手として、自分を最後のお楽しみとして生かされているように感じていた。


「私が憎いか……? だがその判断は、命取りだ。……貴様も道ずれにしてやるぞ!? 『大悪魔のじゃー』!!」


 船長の操縦席にある、厳重に守られた壁を壊し、ボタンを押した。

 そのボタンは、この空中戦艦エリザベスを自爆させるボタン。

 本来は、この戦艦を乗っ取られないようにする、最後の自決装置であり、その意味をフェリー総督は、理解していた。


「……最後の最後で私は、『大悪魔のじゃー』に一泡吹かせれたぞ……」


 そして、大爆発を起こした空中戦艦エリザベスは、跡形も無く消し飛んだのである。



…………


……………………


…………………………………………




「……はあ」


 ここは、只の緑が溢れる草原だ。

 あの決戦の舞台からかなり離れた位置に存在する牧草地帯。

 今は、飼い主が無人となり、放牧された動物は、野生化をしている。


 そんな場所で、オレは、座り込みながら落ち込んでいた。

 オレは、復讐の相手だった相手にトドメを刺す事が出来なかった。

 まさか、自爆をするとなは……


 せっかく今まで孤独だったオレに、仕えるべき主が見つかったのに

 あっという間に失ってしまった。

 未だにその喪失感に明け暮れ、のじゃー島に住まうのじゃー2にどう説明すればいいのかが分からなかった。

 それほどに、大変なショックを受けていたようだ。


「馬鹿野郎……勝手に死ぬなんて身勝手すぎるだろ!」


 涙を手で擦りながら落ち込んでいるオレは、未だに気力が湧いて来ない。

 のじゃーは、オレに力を与えた。

 自らを代償とした力。


 本来ならオレがそれを使う筈だ……

 どうしてあいつは、オレを生かしたんだのかが分からなった。


「なんじゃ? まだ落ち込んでおるのか。本当に情けない奴なのじゃー!」


 そう……落ち込んでいるオレにそんな言葉をかけてくれる筈だ。

 これからは、オレが頑張らないといけない。

 のじゃー島を守る……それこそが彼女の使命であり、それを受け継いだオレの使命だ!


「のぅ……このワシを無視しておるじゃろう?」


 オレは、そう決意し、座り込んでいた態勢から立ち上がった。


「『のじゃー』、地獄で見て居ろよ……オレは死ぬまでのじゃー島を守り抜いてみせる!」

「ワシは、生きておるのじゃが」

「さっきからうるさいぞ! そこの小娘……って!?」


 夢を見ているのだろうか……

 振り返った先には、いつもと変わりない様子の、美しい銀髪の少女が立っていた。

 確かに、あの時、跡形もなく消滅した筈だ……

 それが何故?

 そんな動揺しているオレを尻目に、のじゃーは、子供のように大笑いをしていた。


「まんまと騙されおったな! ワシは、あの時に、ワザと姿を隠したのじゃ! ちょっと脅しただけで弱気になったお主に喝を入れる為にのぅ。ちょっとした一芝居を売ったのじゃー。じゃが……まさかあれ程に怒り狂うとは、予想しては、いなかったがのう」

「なっ!?」

「しかしあの時のセリフは、臭すぎるぞぃ! なにが「のじゃーを返せーーーー!」じゃ! 乙女なワシでも赤面す……のじゃ!?」


 オレは喋り続けている『のじゃー』を無視して、強く抱き着く。

 今まで、感じたこともない喜びに満ち溢れていたのだ……

 知らない間に、ここまでオレは『のじゃー』に依存していたようだ。

 母のような温もりを感じる感触……

 これがのじゃー化の影響なのかは、分からない。

 だが、主であるのじゃー生きていた事が、とてつもなく嬉しかった。


「…………むう、そこまで落ち込んでおったとは、少しやり過ぎたのじゃー。 すまぬ……『のじゃー3』よ」

「馬鹿野郎……帰ってくるのが遅いのじゃ……」

「よしよし、ほら、泣くのではない。お主の綺麗な顔が台無しなのじゃー」


 大粒で涙を流していたオレは、『のじゃー』に頭を撫でられ、やさしく抱き返してくれる。

 当たり前のように、側に居てくれる『のじゃー』。

 いつの間にか、恥ずかしいほどに、子供のように泣いてしまった。

 そしてオレは、安心したかのように、泣きつかれた後、深い眠りにつく。





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