10話 古代兵器『エリザベス』
ここは、反乱軍の駐留基地であるラベス。
各地に奴隷だった先住民が開放され、今では殆どの土地を奪還させる事に成功させた。
この駐留基地も、その一つである。
「ふう……ついに、首都ワシールを攻める時が来たな」
「ああ、本当に長く耐え忍んだモノだ。これも全て、女神のじゃー様のお蔭だ」
この駐留基地では、ある作戦会議をしていた。
……そう、ついに占領軍の本拠地を攻める時が来たのだ。
『のじゃー』の加護を授かった少数の軍団で攻め逝ったが、占領軍の本拠地が想像以上に守りが堅く、殆どが返り討ちにされてしまっていた。
だが今回は違う。大軍を率いて、最後のトドメを刺そうとしたのである。
だがそのトドメを刺す偉大な仲間が欠けていた。
その疑問に、思わず一人の反乱軍が呟く。
「……なぜ女神のじゃー様は、我々と共に戦わなくなったのだろうか……」
「僕に聞かれても分からないさ。……彼女も彼女なりに、やならなければならない使命があるのだろう。……あまり女神様に頼る事なんてしたくないしね」
「だが……女神のじゃー様がもっと戦ってくれれば、早期に決着出来た筈なんだ! 何故、女神のじゃー様は、我々に試練を与えるのだ!」
「そもそも女神様のお蔭で、僕らが開放されたんだ。これ以上のお願いは、流石に聞き及んではくれないよ、きっと……」
青年は、そう言って遠い目で遠方を眺めた。
本来なら、絶望の淵に彷徨い、いずれは、滅ぶ運命であった民族達。
お互いに、縄張り意識をもっていた民族が、今では共通の敵を持ち、お互いに協力しあって魔族を滅ぼそうとしているのだ。
こんな奇跡を起こした女神のじゃーに、これ以上のお願いは、したくはなかった。
せめて、最後の本拠地だけは、自らの手でトドメを刺したかったのである。
だが、その時、ふと大きな影が現れる。
不思議に思った青年が空を見上げると、そこには、とてつもないモノが浮かんでいた。
それは、あまりにも大きく、はるか上空には、あまりにも巨大な鉄の城であった。
そのあまりの巨大さに、駐屯していた反乱軍達は、次々とどよめきの声があがる。
「な、なんだあれは!? 」
「わ、分からん! だが我々にはとてつもなく嫌な予感がする……! 即刻に散れ!
あの城から逃げるのだ!」
危機感を感じた反乱軍は、一目散に散る。
彼らの判断は、間違っていない。
だがしかし、全ては遅すぎた。
この鉄の城にとっては、スローモーションで移動する小さな蟻に過ぎず
広範囲に及ぶ大量破壊兵器を所有している鉄の城には、あまりにも無意味な抵抗であった。
今、この鉄の城には、多くのフェリー総督の家臣達が駐留している。
そして映像から反乱軍が逃げ出している様子を眺めた、AIは、主に告げる。
次は、どうするのかを
『マスター、敵が一目散に逃げ出しております』
「かまわん、そのまま撃て!」
『了解いたしました。爆風の衝撃から守る為に、対粒子バリアーを張ります』
…………その後、駐留基地ラベスは、跡形もなく消滅し、二度と足を踏み入れなくなるほどの毒が蔓延したのであった。
……
…………
……………………
私の名はフェリー・グレイセス・バース総督。
古から続く、名家であり、莫大な財力を持つ一族である。
だが……長年の夢であった建国は、下等生物にすぎなかった蛮族と、のじゃー島から飛来した、S級ランクと云われる天災級の化け物である『大悪魔のじゃー』によって打ち破られてしまう。
しかし、追い詰められた私に、神は見捨てていなかった。
私の首都ワズールの地下には、神の城が眠っていたのである。
占い師の証言は、本当だったのだ。
散々に、この私をコケにした、あの生意気なエリーズ陛下は、その話を信じなかったようだが。
それは、誠のない真実だったのである。
……神の城は、本当に素晴らしい性能を誇っていた。
今まで開発された、ダイクロス帝国の最新技術の兵器が、ゴミクズと化すほに凄まじい力と、この巨大な神の城を浮かせるほどの浮力を持つ古代兵器だったのだ。
さらには、優秀なサポートをしてくれる自立思考を持つゴーレムが神の城には内蔵されていたのである。
今では、私を王のように忠実に命令を聞いてくれる。
まあ、急浮上させた影響で、首都ワズールが半壊するほどの被害が出てしまったが、今はそれを気にするほどではない。
今は、この素晴らしい力を使い、この私をここまでコケにした愚か者に、神の鉄槌を下すのが先決なのだ!
神の城は、私を王と認めたのだ。
私こそが世界を統べる王にふさわしいのだから当然の結果である。
もはや私を止められる奴は誰も居ない……
今も反乱軍が駐屯していた基地のひとつを、跡形も無く滅ぼしたのだ。
たった、一発の実弾を発射しただけで……
あの圧倒的な威力……まさに国を滅ぼすにはふさわしい威力だ。
この実弾もまだたくさん残っており、光線を放つ主砲まで存在している。
それも大砲とは、くらべものにならない威力であり、さっきの発射した実弾と同等の破壊力を持っている。
……攻撃力も、守備力もさらには、移動速度もスバ抜けた性能を誇る神の城……
もはや、今の私に勝てる国は存在しない。
「くくく……この城さえあれば……私は世界を獲れる……。反乱軍を滅ぼした後は、あのにっくきエリースの住み着くダイクロス帝国を滅ぼしてやる! この私をコケにした恨みを思い知らせてやるわ! ふははははは!」
愉快でたまらない。
吹きこぼれる喜びを抑えられない。
この城に総員されている家臣も同じだ。
皆、笑い、圧倒的なる大勝に酔いしれていた。
そう、これから始まるのだ……私の新しい国が……!
『マスター。遥か前方に、高速で急接近してくる小型の人間が空を飛びながら近づいてきます。いかかがいたしますか?』
その知らせを聞き届いた私は、笑みを漏らす。
この私を散々追い詰めた最大の怨敵が向こうからやってきたのだ。
S級ランクで天災級の化け物が国を滅ぼすほどの力を持とうが、この巨大な神の城の前では、無力。
「……くくく、相手のほうから態々寄ってくるとは、探す手間が省けたわ! 構わん。主砲を撃て!」
………
………………
………………………………
「ほほう……派手に爆発しておるのぅ……」
「なんだよ……ここまで大気が震えるなんて、信じられねえぞ……」
その様子をのじゃーアイを使って、遠方を眺めた『のじゃー』の二人は、驚きの表情で、その様子を眺め続けていた。
反乱軍の駐留基地であったラベスは、一発の実弾によって消滅した。
広範囲の毒をまき散らしながら……。
「言ったじゃろう。あれが毒をまき散らす実弾じゃ……まあ、人や島など跡形も無く消滅させるほどの破壊力もあるが、真に恐ろしいのは、あの毒じゃよ。ワシもあれだけは、浄化出来ぬ。後、ワシらにはその毒が効かんので、安心するがよい」
「……その時代に生まれなくてよかったわ……いくら天才魔術師であるオレも、あれは防ぎようにないな」
のじゃーアイからも確認できるほどの大きなキノコ雲。
それはここからでも爆風が到達する距離であり、どれだけ凄まじい威力が発揮されているかを証明されていた。
「では予定通り、敵は空中戦艦エリザベスを起動させたようじゃし、さっさとあれを破壊しに行くのじゃー!」
「……その前に何か情報をくれ、あれを真面に受けたらひとたまりもなさそうなんだが」
のじゃー3は、あまりの破壊力に、怖気ついていた。
『のじゃー』との戦いに敗北した時の絶望……それに匹敵か、それ以上の恐れを感じていたのである。
「……怖いなら、ここで待っていてもいいのじゃぞ? ワシは、部下思いの上司なのじゃー」
何も恐れている様子もなく、『のじゃー』がニヤニヤと子供のような仕草をして、のじゃー3に向けてほほ笑んでいた。
のじゃー3は、それだけで、恐れが消え失せた。
そう……この策を提案したのは、『のじゃー』なのである。
ならば、なぜ恐れる必要がある?
むしろこちら側が予定通りにおびき寄せた側だった筈だ。
ならば、『のじゃー』には、何かの秘策がある。
あの実弾をモノともしない、圧倒的な力が……
「すまん、愚問だったな」
「ほほう、良い心がけじゃ。では、一つだけ命令をしてやろう……ワシの背中から離れてはいかん。離れれば、命を落とすと思え」
「……久々の命がけって事か。いいさ、一度失った命だ。最後まで付き合ってやるよ!」
二匹の『のじゃー』が決戦の地へと向かう。
相手は超巨大な空中戦艦エリザベス。
こうして今、占領軍と先住民の運命を握った……最後の戦いが始まろうとしていた。




