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私の彼氏がヤンデレだったようです。

私の彼氏がヤンデレだったようです。(魔王)

作者: みやこ










 ――――――――恋人の愛が痛い。(主に物理的な意味で)



               氷上 弘子(15歳) 職業 勇者





 

 あー。

 ライトノベルでおなじみの、暴力系ヒロインっているじゃないですか。

 

 鈍感主人公のメインヒロインでどうみても主人公が好きなのに、他のヒロインが主人公とイチャイチャしてるのを目撃したりすると、ついボコボコに殴ってしまうというお約束のやつ。


 あれ、私、嫌いです。


 よくないと思うんですよ。好きなら、好きって言えばいいじゃない。

 なんで殴るの? そんな愛情表現なんて駄目だろ。暴力反対。だめ絶対。

 

 

 人と人は言葉でわかりあうべきなのだ。




「って、何度言っても、わかってくれないんだよなぁ。あのひと」


 困ったもんだ、と 

 ぼやくように呟くが、誰も答えてはくれない。

 それどころじゃないからだ。

 周囲の兵士たちは一分一秒を惜しむようにバタバタバタと砦の詰め所を忙しそうに走り回っている。

 

 伝令係がばんっと木製の扉を開き、駆け足でこちらにやってくる。


「勇者さま!!

 転移魔法はあと、5分で完成です!

 魔王軍の位置は、西の大森林の最北。現在、侵攻され第1結界破壊中です。

 なにかご質問は?」


「ないよ。わかったーありがとー」


 軽く答えて、自身の装備を点検する。

 オルハリコン製の鎧が右半分爛れるように黒く変色してる。うーん。恋人の前で、これはみっともないかも?

 いやでも、これ、前回時のその恋人さまの攻撃のせいだしなー。まあいいや。

 聖剣をひゅんっと軽くふるう。手に馴染んだ感覚に心が落ち着くのを感じる。




 ――――あ。で、暴力系ヒロインの話に戻すけどさ。

 暴力系「ヒーロー」はなんで、テンプレじゃないんだろうね?




 ――――まぁ、普通は洒落にならないからか。恋慕のあまりにいたいけな少女に暴力ふるう男ってさ。





 ――――少女が女神の祝福を受けた、勇者でもないかぎり。






――――――――――――――――――――――――――――










 ゴオゥゥと目の前が特大の黒い炎が襲う。

 ちったぁ手加減しろやゴラという怒りをこめて、地面を蹴り、炎を避ける。

 飛び上がって浮いた私の身体をさらに追加の爆発魔法が襲う。

 瞬時に結界を展開――したところで、魔王の黒い剣が、結界ごと軽く切り裂いて切り込んでくる。

 聖剣を合わせて、止める。鍔競り合い。

 ギチリギチリと嫌な金属音がしてる。

 力負けしそうになるが、必死で押し返す。

 勇者補正があるとは言えど、一応、女の細腕である。


 一瞬の判断を間違えば、死ぬ。まじで死ぬ。あっさり死ぬ。

 



 この戦い、実は私がとても不利なのだ。


 私は彼をあまり傷つけたくない。好きだからね。


 彼は、私の死体でも愛せるという。

「好きだからな」と満面の笑みで言われたが、少しも嬉しくない。


 

 正義は勝つ、とは言っても、少々厳しい戦いである。



 






――――――――――――――――――――――――――――






 消し炭のようになっている黒い物体(恋人)をつんつんつつく。


 ちょっと使ったことのない特大の聖魔法を使うはめになったけど、勝利しました。


 やっぱり、正義は勝つのだ。ぶい。






「会いたかったよ。魔王…」


「……………………我もだ……弘子……」


「いや。いやいやいや。転移魔法で魔王城行っても、全っ然会ってくれなかったの、魔王じゃない?」


「……だってっそのっお前がっ………………う、浮気っ浮気したからっ」


「してねーっす」


「嘘つくなぁぁぁぁっ!!!! 魔法使いのやつと抱き合ってただろぉぉぉっ!!」


「あー?多分、転んだところを抱きとめられただけですねー」


「嘘だっっ!嘘だろうっ。お前はどうせ我のことのことを弄んでおるのだぁぁ!!!!」


「あー。もー。」


 黒く煤けた地面に転がったまま、さめざめ泣く大の大人。


 普段の魔王様は、黒く腰まで伸びた髪をした、涼やかな目元が美しい、寒気を覚えるような美青年だ。


 おどろおどろしい髑髏のモチーフのネックレスと、黒くて長いゆったりとしたローブを身に着けた「ふっ」とか笑うクールなキャラのはずだ。


 なのに、しくしく泣いちゃってるよ。




 ああ。やだ。


 ギャップ萌えが半端ないです。(ほのぼの)




――――――――――――――――――――――――――――






 本当にめんどくさいことに。


 魔王は、魔界にしか住めず。


 勇者は、召喚された国から離れられない。





 距離は誤解を生み、時には暴力系ヒーローを爆誕させたりする。




 だけど、やっぱり人と人は言葉でわかりあうべきなのだ。…………ホントそのほうが周りに迷惑かけないし。大森林が互いの魔法の余波で半分ほど蒸発して消えたからね。痴話げんかとしては代償が大きすぎる。


 


「私は魔王が大好きなんですよ。浮気なんて考えられないくらい」


「………我もだ……弘子……我もお前を愛してる…っ」


「知ってますよー」


「いや、分かってないっっ!!」


「我は、我は、もういっそお前が誰の手も触れぬよう、誰にも渡さないよう、殺して死魂術で縛って我のものにしたい…。それくらいお前を愛してるのだっ!!」



 かなりきわどい危ないことをいいつつ、


 きゅっとしがみついてくる彼が、まるで、子供のようで苦笑する。


 ボロボロになって、煤まみれ。しかも涙でぐしょぐしょでも美しいってすごいよね。


 うう。美形すぎて至近距離だとドキドキするぜ。(もしかしたら、生命の危機を感じてドキドキしてるのかもしれないけど)


 ポンポンと頭を撫でると、子犬のように、鼻をすんすんさせる魔王様。


 ああ。可愛い。


 殺し合いをしていたはずなのに、5分後には、きゅんとときめいている。


 うーん。惚れた弱みってのは、偉大だわ。






 さてと。


 これから、勝手に軍動かしたこと・魔王が単騎攻めてきたことを綺麗に隠蔽する必要がある。……和平条約がっつり破っちゃったもんなぁ。


 勇者の権力と魔法でなんとか……うん。なんとかするしかない。

 あと、さっきの戦いでうっかり地図から半分消えた森を修復する作業も私を待っている。


 正直、とてもめんどくさくて、恋人をちょっと恨んでしまいそうだけども、とりあえず、誤解は解けたし、きっと、めでたしめでたしってやつなのだ。













ヤンデレ魔王と、フトコロヒロイン(懐の広いヒロインのこと)


いろいろ設定の甘いところはありますが、全部スルーで。(笑)






おまけ。




魔法使い「だあああああ。なんで俺が焼けた森の修復全部することになってんの?!作業量おかしくない?!」


勇者「んー。いや、今回、半分魔法使いのせいだったみたいだし……手伝ってもらおうかなってさー」


魔法使い「……半分も俺のせいか?つくづくお前、魔王に甘いよな。で、俺に厳しいよな。」(のの字を書いて拗ねる)


勇者「お。嫉妬か。嫉妬なのか。くふふ。もてる女はつらいわー。」


魔法使い 「バァカっ……」

(その通りなんだよっ!ど畜生ーーーーーーっ!!!!)



という哀れな魔法使いさん。




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