5話 3人で
車内
卓也「今日は史学であとはなんもないの?」
香奈「うん、今日は午前の講義と史学で終わり」
高速道路に乗り、車内では3人が好きな曲を回して聞いている。
かれこれ2時間半は走っているが、まだ着きそうにもない。
涼「卓也―運転変わってー」
卓也「ええー、せっかく香奈と隣なのに」
香奈「そういうことは言わないで」
卓也「はい……」
涼「次のパーキングで変わってなー」
卓也「はいよー」
卓也「そういえば香奈は今日仕事お休み?」
香奈「そうね、ないわ。」
卓也「そっかそっか、じゃあ大丈夫だね」
涼「おう、そうだな……あ、これ良い曲!」
パーキングエリア
涼「んん~~疲れた~~」
卓也「良い伸びだね、背中の骨鳴ってるし」
香奈「お疲れ様、それにしても遠くまで来たわね……建物も少なくなってきたわよ」
卓也「まぁねー、これから行くのはとある山なんだ」
香奈「山!?」
涼「そう、山だよ、一昨年登山サークルのやつらに教えてもらった山さ」
香奈「山なんて小学生以来だわ」
涼「意外とインドアなんすね」
香奈「家庭が少し厳しかったから」
卓也「そっか……」
車内
香奈「だいぶ日が暮れてきたわねー」
涼「そうだなー、あ、そろそろ山だわ、車酔い注意して」
卓也「俺が酔いそう」
涼「大丈夫だエチケット袋は用意してある!」
卓也「運転変わってよー」
涼「帰りまで我慢してくれー」
香奈「もうほとんど真っ暗じゃない、道わかってるの?」
卓也「大丈夫、ここ一本しかないし、まっすぐ行けばつくんだ」
涼「大丈夫だよ、本当に」
山頂
卓也「ついたー!!」
涼「4時間かかったなぁ」
卓也「大学からだとそんなもんだよ」
香奈「って、なんもないじゃない! どこがとびっきりなのよ」
卓也「香奈、目つむって」
香奈「え? こう?」
卓也「うん、そうそう、俺の手握って、歩くから」
香奈「手? 手はちょっと……」
卓也「いいからほら」
香奈の手を握る。
香奈「あっ、そんなやめて、私汚いから……」
卓也「何言ってんの、ほら歩くからね」
香奈「ちょ、ちょっと!」
涼「先行ってるから楽しんでなー!」
卓也「なかなか粋な事するでござるな」
香奈「ま、まだぁ? ヒールだと歩くにくくて」
卓也「お、おんぶしようか?」
香奈「さっさと歩いて」
卓也「はい」
涼「やっとついたかお前らー」
香奈「なんとかねー」
涼「卓也、香奈の手つないで顔赤くなってるぞ?」
香奈「え?」
卓也「あ、あたりまえじゃないか!」
涼「ま、暗くて全然見えないんだけどねー。ふふ、リア充め」
香奈「からかうのやめなさいよー」
香奈「(撮影じゃ、全然なのに……手握るだけでこんなにドキドキするの……?)」
涼「まだ目つむってるの?」
香奈「そうよ、まだなの?」
涼「上を向いて、目を開けて」
卓也「ゆっくりね」
そこには、星空が広がっていた。さすがにテレビなどにでてくるような景色ではないが、自然の新鮮な空気を味わい、普段から友人がいない彼女にとってこれは、素晴らしいサプライズだった。
香奈「……」
涼「なんとか言ってよ」
香奈「え? そ、そうね、まぁまぁね」
卓也「ま、そうだよねー、絶景スポットとかにはそりゃ負けちゃうけど」
涼「ここは観光客もこないし、余計な建物も少ないから、穴場なんだ」
香奈「へぇーそうなんだ、まぁそうね、悪くないわ」
卓也「俺たちはここが大好きなんだよ、何かあるとすぐここに来るんだ。こうして、星空を見たり夜景を見たり」
香奈「私もそうやって育ちたかったわ」
香奈の一言に二人は黙ってしまった。ただならぬ環境下で育ってきたのだろうと、余計な詮索をしてしまう。香奈は二人を察し、言いつくろった
香奈「そんな大した問題じゃないわ、そう、個人的な問題よ」
涼「まぁそうだな、でも色々な問題がこうやって空を見るとどうでもよくなってくるよなー」
卓也「どうでもよくないよー僕たち就職どうすんのー」
涼「星見て言うことじゃないでしょ……」
香奈「ばかね、もう4年になるのよ、考えなさいよ」
涼「香奈には一番言われたくないわ」
香奈「この業界長く続かないらしいし、私も腹をくくっているわ」
卓也「そうだよねー僕もまじめに考えなきゃ」
香奈「あなたは別に宝くじがあたったからいいじゃないの」
涼「こいつは特別な事にしか使わんぞ多分」
卓也「そうだねー、貧乏性だし家買うのでもまだ我慢するかもしれない」
涼「うそだろ……もっと使ったっていいのによー香奈とその金で遊びにいけよー」
卓也「え……その手があったか」
香奈「馬鹿ね」
3人は尽きることなく、喋り続けた。星の下で。
香奈「ねぇ、どうしてこんな性格の悪い私に二人は良くしてくれるの?」
卓也「好きだか」
香奈「それはもういいよ」
あははと笑う。
涼「最初の印象は、すごく良くて、すごく悪かった。美人だけど、性格がとても悪かった。でも、それでも卓也が好きになった女性だ。どんなやつであれ、悪くする気にはならないし、蓋を開ければ素直じゃないが、香奈はいいやつでしょ。蓋は何重にもあって、なかなか開かなかったけどね」
香奈「うるさいなぁ、でも、ありがと」
卓也「僕もおんなじ感じ。さっきそれについては話したしね、笑顔が素敵だし、交際申し込んでくれたし、この人と一緒に居たいって思ったんだ」
香奈「そっか、ごめんね、私、やっぱこういう世間の風当たり強い職業だからさ、自分の事なんてどう思われてもいいって思っちゃってさ……涼にも当たっちゃったし、結局卓也にも迷惑かけた。私が私自身を嫌いだからってのもあるんだと思う」
涼「え、今名前で呼んだ?」
卓也「ドキっとすんなよ」
香奈「ふふっ」
卓也「自分を嫌いって? どういうこと?」
香奈「それについてはまた今度話すよ、今はまだ……」
卓也「そっか、わかったよ、でもいつでも頼ってね、僕たちのこと。僕たちは香奈の友達だからね」
香奈「(友達……かぁ)」
香奈「うん」
卓也「でも香奈は強いよ、風当たり強いってわかってても頑張ってるじゃないか……立派だ。でも理由はまだ聞かないよ、本当に話す時が来たら、教えてほしい」
香奈「わかった」
車内
涼「さて、帰りの前半俺ね、後半は卓也で」
卓也「ういーじゃあ寝るかな」
涼「いちゃつくなよ」
卓也「ドキドキして死ぬわ」
香奈「ふふ、じゃあおやすみなさい、二人とも」
涼「(やっぱりどこかで塞ぎこんでいたんだ、それも何か強い理由だ。そして、たくさんのお金が必要なんだ。彼女がそれだけ頑張る理由はなんだろう)」