2話 行方のわからぬ恋の展開
1階トイレ前
「君ってその、AV女優なの?」
香奈「はぁー……バレんの早すぎだろ」
涼「え……?」
香奈「チッ、そんなにすぐ気付くなんて私のことよくオカズにしてたんでしょ?」
涼「いや、そんなわけないだろ! ただ、その、たまたま見たことあっただけであって」
香奈「へぇー……見たんだぁ」
香奈はにやっと微笑を浮かべる。
涼「ぐ……」
言葉に詰まる涼。
香奈「まぁいいや、そんだけ? 話って」
涼「そんだけって、そんだけもこんだけも、AV女優やってるやつがなんであいつに近づくんだよ」
香奈「あんたもなかなか察しが悪いなぁ」
涼「まさか」
香奈「お・か・ね」
涼「やっぱりそうか」
卓也は二月末に宝くじを当てており、大学内にも少なからずは知れ渡っているはずだ。本人は喋ったわけでもないのに、なぜか噂がたっていた。
涼「宝くじの金目的か?」
香奈「ビンゴ」
涼「そういうことなら、もう近づくのはやめてくれよ」
香奈「どうして? 彼は私にもうゾッコンよ? それに、バレたらバレたで捨てればいいだけだし、いいじゃない、お互いにとって害はないはず」
涼「そうやってあいつの気持ちをもて遊ぶなよ! あいつは彼女がやっとできたって喜んでたんだぞ!」
香奈「宝くじ当たったんだからそうやって寄ってくる女だって私だけじゃないはずよ、作ろうと思えば彼の環境ならいつでも彼女なんて作れるわ、それでも彼には私だった。いい?彼には、私だったのよ」
まるで、億万長者と付き合う資格があると、そう言ってるようにも聞こえた。
涼「くそ……なんとか卓也を説得してやる」
香奈「お好きにどうぞ、ま、せいぜいそんなことであなたたちの友情関係がギスギスしないようにね」
涼「(これから俺はどうすればいいんだ、卓也にその動画を見せれば納得するか? でも、傷ついたりしないか、いや、それでもいい、まだあいつとの関係が浅いうちに知っておくべきだ)」
食堂
涼「悪い、少し遅くなった」
卓也「おお! 気分は大丈夫?」
涼「ああ、なんとか良くなったよ」
香奈「あの、大丈夫ですか……?」
涼「(クソ、わざとらしい演技をしやがって)」
涼「卓也、ちょっと後で話があるんだ、俺の家に来てくれ、授業が終わったらでいい、とにかく頼む」
涼は頭を深く下げた。
卓也「そんなどうしたんだよ、急に……」
涼「大事な話なんだよ」
卓也「でも、今日はデートなんだよね……悪いけど」
香奈「いいよ、大事な用事なんでしょう?」
卓也「でも……」
香奈「いいっていいって、また明日デートしましょう? 私今日実は夜からバイト入っちゃって」
卓也「そうか、わかった」
涼「じゃあ……」
卓也「オーケー、行くよ」
涼は複雑な気持ちだった。これから、幼馴染である卓也とその彼女を切り離そうとしているのだ。卓也が香奈とデートできないとわかった時、悲しい顔をしていたのを思い出し、心を痛めた。
自宅
涼「ごめん、わざわざ来てもらって」
卓也「いいんだ、全然、もちろん彼女もそうだけど涼のことも大事だ」
涼「ありがとう」
卓也「それで、大事な話って?」
涼「ああ、そのことなんだが」
涼はノートパソコンを起動して、インターネットで検索し始めた。
卓也にはさっぱりわからず、ただ黙って待っていた。
涼「これを見てほしい」
涼は内山はるの名を名乗る女性のブログを、卓也に見せた。さすがに動画や画像のものを見せるのはまずいと思ったので、ブログにした。
『内山はる公式ブログ』
2014年3月18日 第97回目
〇〇アダルト放送大賞の宣伝ありがとうございます……
今回の撮影はー……
……
…
卓也はじっとその公式ブログを見ていた。長い時間、1時間は見ていただろう。マウスのクリック音と、時計の針の音が錯覚するくらい、静かで重たい空気だった。
卓也「なんだこれ……」
涼「これが、香奈ちゃんなんだよ、さっき、実は話したんだ」
卓也「冗談だろ……」
涼「……」
卓也はポケットから携帯電話を取り出して、電話をかけた。
長い間耳にあてていたが相手は出なかったようだ。
卓也「出なかった。まさか、AV女優だったなんて……今も、撮影してるのかな……」
卓也の声は震えていた。
涼「その、気づくのが早い方がいいかなと思ったんだよ、ごめん」
卓也「いいんだ、ありがとう、明日二人でゆっくり話すよ、とにかく今日はもう帰る。本当にありがとう、涼」
涼「ああ……」
卓也が部屋から出ていく。
ノートパソコンには内山はるの公式ブログ第一回のページが表示されたままだった。
涼「(やってしまった。これで本当にいいんだろうか……)」