第6話
今回ちょっと長めです。
「銃の調子も良さそうだ。」
今日はデットル・オルゲインーーートーマの両親の仇討ちの日であった。
「行くか?」
シンは愛用のピストルをホルダーにしまいながら聞いた。
「うん、行くよ。ーーー今日の為に、僕の仇殺しの練習は、死ぬほどしたから。」
あれからまだ3ヶ月と経っていないのにもかかわらず、トーマの殺人能力は開花し、シンと同等になった。
シンが小さい頃からコウに教わっていた練習法をずっとしていたからだ。
内容はというと、最初に人型撃ち、次に生きた家畜撃ち、たまにシンが殺した死体撃ち。そして、実戦。
この練習法で出た死肉は全て、カイの店の食材となった。
「それじゃあ、行くか。」
オルゲイン家の屋敷の扉の前に、1人の門番が立っていた。
「ただいま〜!」
トーマが横を通った。
作戦1、帰る
「おかえり〜。…………………………
トーマ様!!???!!?!」
※出来れば見つからずに。
「やっぱ見つかるよねぇ〜」
苦笑し、立ち止まった。
「いっ、今までどちらに…!!」
しかし見つかったとしても、何ら問題はない。
門番がトーマに近づく前に、シンが門番を撃った。
「シン…彼は…」
トーマは門番の身を案じた。
「大丈夫だ、ただの麻酔銃だから。」
バビロンの『無駄な殺しはしない』というのは、昔からの決まりであった。
「まあいまの銃声で人が集まるから、早く行こう。」
「うん!」
2人はすぐ近くの掃除用具置き場になっている部屋に駆け込んだ。
「ーーーデットル様!!!銃声がしましたので部屋に居てください!!!!!」
扉の外から、使用人の声がした。
デットルの部屋は、この14階建ての屋敷の1番上、1番奥にあった。
「あぁ、分かってますよ。」
長い髪を後ろに束ね、長身で細身の男、声の主、デットルが扉に向かって言った。
「ーーおや?」
部屋の天井近くにある排気口から人が出てきた。
「おやおやおや、いままで無断外泊をしていたトーマ君ではないですか。」
作戦2、会う
2人はいま、久しぶりの対面を果たした。
トーマも、貼り付けたような笑顔でデットルと会話をしている。
「お久しぶりです、デットル叔父さん。」
「先程銃声がしたようですが、怪我はありませんか?」
「あははっ、絶対そんなこと思ってないですよね。大丈夫です、元気ですよ。」
「じゃあなぜ、排気口からここに来たのです?」
「死んでください、叔父さん。」
懐からピストルを取り、銃口をデットルに向けた。
作戦3、殺す
「貴方は僕の、本当の両親を殺しました。覚えていますか?」
トーマの顔から笑顔は消え、じっとデットルが返事をするのを待った。
「ーーーええ、覚えていますよ。」
デットルは、まるで卑下しているかのような笑顔でトーマの方を見た。
「あの汚らしい夫婦でしょう。」
トーマの顔が強張った。
「君によく似た美男美女でした。しかし、私の兄も馬鹿ですね。」
トーマの、ピストルを持った手が震えていた。
「そんな、物以下の価値もない奴隷を保護するだなんて…」
「煩い!!!!!!!!!!!!」
トーマは引き金を引いた。
銃声がなり、玉はデットルの鳩尾あたりに当たった。
「ーーーやってくれましたね。」
「っ!!」
しかしデットルは怯むことなどなかった。それどころか、先程以上に、人を見下したような笑みを浮かべ、嘲笑している。
「残念ながら、私を殺すには頭を撃たなければ。」
そう言って彼は自分の頭を指差した。
「っ、くそっ!!」
焦燥したトーマは、使い慣れたナイフに持ち替え、デットルに向かって走った。
その間もデットルは何か喋っている。
「私は他の者より少しばかり頑丈でね。過去に私を撃った者は皆ーーー」
トーマのナイフを持った腕を取り、動きを止めた。
「死んでしまったよ。」
静寂。
それをまた自らが断ち切って、トーマに話しかけた。
「私の下に戻りなさい。そうすれば、ここでは殺さないでおいてあげましょう。」
先程までの、卑下した顔ではなく、冷酷な顔で言い放った。
トーマは、熱くなった頭が冷えると同時に、目から涙が流れてきた。
万一の失敗と、敗北
は、ありえない。
バン、と、銃声がした。
玉はデットルの右肩を貫通した。
「っぐああああああああああっ!!!!!!!」
「トーマ、奴は胸腹部に鉄板を仕込んでる。そこ以外を狙え」
「シン!!!!」
シンはずっと物陰に隠れて様子を見ていた。
「なっ、貴様はバビロンの…!!」
デットルが驚いて力を緩めた内に、トーマは手を振りほどき、左肩にナイフを突き刺し壁に貼り付けた。
「ゔああああああああああっ!!!!!!!」
「よし、殺れるな。」
シンも勝ちを確信し、物陰から出た。
トーマはピストルに持ち替え、意気消沈したデットルの前に立った。
「ふふ、私の負けです。早く殺りなさい。」
デットルはプライド故の笑みで喋った。
「なぜ、殺したのですか。僕は、叔父さんのこと、家族だと…思っていた…なのになぜ…。」
トーマの目は赤く充血していた。
「過去の自分と重なったから殺しました。…あと邪魔だったので。」
デットルは最期までプライドを捨てずにいた。
「…分かりました。さよなら。」
頭を撃った。
「どうだ?」
「へ??」
作戦4、屋上から逃げる
ために移動中
「だから、仇殺しの感想は??」
シンとトーマは屋上までの階段を急ぎ足で登っていた。シンは余裕の笑顔を浮かべながらトーマにそう聞いた。
「うぅーん…今は…ちょっと…」
「そうか、ならいいんだ。」
屋上の扉を開けた。
「で、さ。どうやって逃げるの??」
トーマがシンの背中を見て聞いた。シンは下を覗き込み、そして振り向きながら笑った。
「もしかしたら死んじゃうかもね」
「えっ!?」
「はっは、まあ来い。」
シンはトーマの後ろに回り、何やら頑丈そうなベルトを巻いた。
「えっちょ??」
戸惑うトーマを横目に、自分にもベルトを巻きつけ準備を進めていた。
「よしできた。あくまでも、大人しく静かにな。」
目が点になるトーマを、屋上の淵に立たせ、
「えっ」
そして、飛んだ。
「えええええええええええええええええええええええええええ!!???!!?!!!?!!!」
どんどん落下する。
あと少しで地面だ。
というところで、シンは背負っていた鞄から出ている紐を引っ張った。
バッと出たのは、化学繊維の厚めの布でできた、大きな大きな翼のようなものだった。
それが落下する際の風の抵抗を受け、上にぐん、と上昇した。
「っうおを!?!!?!」
そしてそのまま街並みを見下ろしながら空を飛んだ。今日は強い追い風が吹いていて、順調に帰路についている。
「びびびびびっくりしたぁぁ……っってか、飛んでる!!」
冷や汗を拭きながらトーマが興奮気味に言った。
「すげえだろ。シルクっつうやつが外国の機密組織から買ったんだってよ。」
まあ会ったことないからわかんないだろうがなんて、シンが自慢気に答えた。
「シルクさん?あの情報屋の??」
「……おうよ…………。あとで奴のことどうして知ってるのか教えてくれ。」
「えっ??」
シンはシルクのことがよくわからなくなった。
二人が飛び立った頃、オルゲイン公の遺体が発見された。
騒がしくなった屋敷の、丁度二人が飛び降りたところに、黒くて癖のある長髪を2つに結んだ、身体中縫い目だらけの少女が腰かけ、二人が飛び去った方向を見て笑っていた。
花が咲きましたね。