第5話
トーマが着ていた服は、スラムの住人が産まれてから死ぬまでに手にするお金の何倍にもなるらしい。
「おおー、結構似合ってるんじゃない??」
いまトーマは、カイのお下がりの黒いパーカーと黒いズボンを着ている。先ほどまで着ていた服のボタン1つ分よりも安いだろう。
「やっぱ貴族だったからこういう服初めてでしょ?」
フランクにカイがトーマに尋ねた。
「はい、まあ…動きやすくていいですね!」
トーマも楽しそうにしてくれている。
「トーマ、銃。」
シンが中くらいの木箱に入った武器を持ってきた。
「あっ、はい!」
「今までに武器使った経験は?」
「えっと、宮殿でナイフを使った護身術を習ったくらい…」
「じゃあナイフもか…。」
そう言いながらテーブルに武器を並べていった。
「AKと麻酔銃と、あとリボルバーもだな。」
きっと初めて見るのだろう、トーマの目がより一層キラキラしていた。
「とりあえずこれ使って訓練して、何か問題があれば調整しよう。ナイフもあとで使いやすい長さのやつ探そう。」
「は、はいっ!ありがとうございます!」
キラキラした目でハキハキと答えた。
「…あと、さっきからずうっと敬語だけど、それやめて…。」
「はいっ…っえ??」
先ほどからずっとはいと言っていたから流れで返事をしたが、トーマにはよくわからなかった。
「シンずっと1人でやってたから、敬語がムズムズするんだろ。」
カイが半笑いで教えてくれた。
「ううううるせえてめえあとて覚えてろ」
シンが少しだけ慌てた。
「あははっ、わかったよ!できるだけ敬語使わない!」
「…よし…。」
シンの久しぶりの仲間、トーマは、シンの教えた通りにこなし、成長していった。
銃の打ち方、死の心理、剣術は教えることもなかった。
殺しを教える代わりに、貴族から見た国の現状を教えてもらった。
それはとても酷い惨状であった。
スラム街はギャンブルで負けた貧民が借金取りから逃げてきて大きくなった。
スラムの子供達は自分が何を欲してるのかもよくわからず、それを標的としたお面屋が腹這いの子達にお面を売りつけた。
他国と一切干渉しないがために国境の大きなパステル固めの壁を、より一層大きく、厚くした。
野良犬が、まるでパレードの列のように街を蔓延っていた。
麻薬のワンダランダを、国の中心にある教会のシスターが出回らせていた。
重度のギャンブル依存からなる発狂人のための、まるで監獄のような高額収容施設が正当化された。
雑居が増え、雑音が響き、発砲音が鳴る。
トーマはそれを全て、最前線に近いところから見ていた。
シンは話に聞いていただけだったが、トーマが話すことで実感した。
そして、
オルゲイン公暗殺計画、当日。
語彙力がない