第9話
「ねえ父さん、これどう?」
王宮では、パレード前の最終確認という事で、次期国王候補のアステノル王子が煌びやかな衣装をひらめかせていた。
「うむ、似合っておる。」
すぐ側には彼の義理の父であり王の、サスティアン王が座って見ていた。
サスティアン王は結構な高齢者ではあり、かなり長い間国を治め続けていた。
しかし何を思ったのか、この年に入って突然生前退位を表明し、義理の息子を含めた貴族の中から国民投票で決めるとした。そこから支持を受けたのがデットル・オルゲイン氏と、アステノル王子であった。ここから先は、前に記述した通りである。
「今日は僕が王になるお祝いのパレードだもんねー」
アステノル王子がマントをひらひらさせ楽しそうに言った。
「おいおい、気が早いのではないか?」
サスティアン王が諭すように言った。
するとアステノル王子はくるりと振り返り、ニッと笑った。
「だってトーマは死んだよ。だから、10割の確率で僕が王だ。」
自信満々であった。
「だいたい、僕が王になった方がこの国のためにもなるよ。現状維持するし!」
「ふっふ、王になるというのは大変だぞ。それに、トーマ氏は誘拐されたという話もあるではないか。」
「ありえない!絶対!!」
「その自信はどこからくるのだ。」
「さて、僕が主役のパレードに行こうか」
2人は特注の乗り物に乗り、国民の待つ街へと向かった。
2人の乗った乗り物が街道に現れるとたちまち辺りは騒ぎになり、国王になるであろうアステノル王子を祝った。
その中に、シンとトーマがいた。
「あ、」
2人のいる地区にパレードが差し掛かった。
「来た。」
2人の姿を確認し、気持ちを高ぶらせた。
「さて、これで役者が揃った…。主役殺しを始めよう。」
暗殺団の長年の目標が果たされる。
「トーマは周りの危険なSP供を頼む。」
「おっけ!」
2人は銃に薬莢を詰めた。
周りの人々は皆、パレードに釘付けで2人が何をしようと見向きもしなかった。
シンがパレードに銃口を向けていたとしてもだ。
(狙う的は2つ。玉は10発…大丈夫…、いける。)
シンは自分に言い聞かせ、集中力を高めるために目を瞑り息を吸った。
カッと目を見開く。
バン。
銃声に驚いたアステノル王子が振り向くと、頭から血を吹き出しながら横に倒れるサスティアン王を目にした。
「っ、父さん!!!!」
その場はパニックとなり、人々が雪崩のように逃げて行く。
その中に、自分に銃口を向ける人物が居るのを、アステノルは一瞬だけ見た。
「死ねクソ王子。」
バン。
2回目の銃声。
弾丸はアステノルの左胸を貫通し、後ろに倒れた。
側にいた侍従やボディーガードの、悲鳴や叫び声が響いた。
「よし…っ!」
人の波に流されながらシンは小さく拳を握りしめた。
アステノルの周りには彼を助けようとSPが集まった。
しかし致命傷を食らった彼は虫の息で、助かる見込みなどなかった。
「死にたくないよぉ…」
アステノルは涙を流しながら何かを喋り、弱々しく近くのSPの服の裾を握った。
「父さんの…ために、僕、ずっと…がん、ばったの、に、ィ…。」
しかしその声は悲鳴と叫び声に掻き消され、誰にも届くことはなかった。
「誰か、たすけて…よ、ぅ…」
そして、息を引き取った。
「シン!!」
そこから少しばかり離れたところで、人の波に揉まれながらシンとトーマが落ち合った。
「トーマ!無事か!」
「うんっ!やったね!出来たよ!!」
2人は作戦の成功を喜んでいた。
「ああ、このまま早く店にーー」
そうして2人は周りが見えなくなっていた。
ぱん、と、どこからか乾いた銃声。
その弾丸はシンの脚を撃ち抜いた。
「なっ…」
シンは一瞬、自分に何が起こったかわからなかった。
「シン!!!」
そしてトーマの声で全て把握し、やっと脚に激痛が走った。
「いっ…、て…」
ぐらりと体が崩れ落ちそうになる。
「だめっ!倒れないで!!!」
トーマが倒れないように支え、そのままシンに肩を貸すように担いだ。
(逃げなきゃ…!!)
その銃声を聞いた人々がシンとトーマから離れるように逃げてしまい、2人は目立っていた。それを、駆けつけたSPが発見し、トーマの行く手を塞いだ。
「待て!」
トーマは懐からナイフを出し、目にも止まらぬ速さで急所を突き、なんとかその場をかいくぐった。
「大丈夫…かよ…。」
シンが弱々しく問いかけた。
「大丈夫、木製だから…」
「違う…」
「え?」
先ほどのSPを昏倒させたため、追っ手はまだ来ておらず、少しだけ余裕を持って逃げていた。
「悪りぃな…手間、かけさせちまった…。」
珍しくシンが詫びた。
「いいよ、仲間でしょ。」
トーマは気にしなくていいよとばかりに優しく言った。そして2人はカイの店には行かず、近くの路地裏に身を潜めた。
表の通りでは2人を探すSPや警察が蔓延っていた。
2人の警官が話をしている。
「1人撃たれてたよな。」
「ああ、脚を引きずってた。」
「チッ…何てことだ…。王と王子が同時に死ぬなんて…。」
「馬鹿ね。運命は狂わないのよ。永遠にね。」
少女が街を見下ろすように、この街で1番高い時計塔の屋上の淵に座り笑っていた。
戦闘という戦闘はないです。うぅむ。