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第八十二話 最後の戦いと決着

 そういうわけでゲド達一行と、新しく仲間になったステラの召喚獣=フレット2が、これから戦場になるだろうこの海岸に立っている。

 ぶっちゃけフレット2が、あまりに目立ちすぎて、遠くからだとゲド達の存在に、誰も気づかないだろう。


 時間が立ち、いよいよ水上異界魔達の存在が、こちらから露わになってきた。最も目で見ただけでは、何かが近づいているのには気づかない。だが一行は、無限に存在する恐ろしい気配が、こちらに迫ってきているのに気づいていた。

 その脅威の軍団は、どんどんこちらに迫ってきている。何故その姿が目に見えないのかという、彼らは皆水中を進んでいるせいだ。

 その速さはイルカでも追いつけないほど早い。恐らく後数分で、海面に姿を現し、こちらの海岸に上陸するだろうという事態にまで迫ってきた。


 その時になって、ゲドは改めて皆に向かって声をかけてきた。


「これはお前らにとって最初の異界魔との戦いだ。そしてもしかしたら、異界魔とやり合うのは、これが最後かも知れねえ! 俺の念話に従う奴らが、移住の準備を終わらせる時間を稼ぐためにも、こいつらだけは絶対に全滅させなきゃいけねえ! まあ半緑人だから、死んでも生き返れるだろうが、皆戦いの覚悟は決めたか!?」

「あるに決まってるでしょ! 初めてあんたのために、戦いで役に立てるんだからね!」

「僕も頑張ります! 騎士にはなれなかったけど、この世界の人達は、何としても守ってみせる!」

「私もよ! まさか女神の力を貰って、こうやって世界のために戦えるなんてね。私みたいな泥棒女にはもったいないぐらいだわ!」

「俺もだよ! まあ俺の力じゃ、大したことは出来ないかも知れないが、やれるだけのことは全力でやってみせる! クソ親父も、あの世で俺を羨ましがってるだろうな!」

「ほとんど成り行きだけど、最後まで付き合うわ! 頑張りましょう!」

『うぉおおおおおおっ! 俄然気合いが湧いてきたわ!』


 ステラ・カイ・ライア・ルディ・陽子・フレット2が、それぞれ気合いを込めた声で、ゲドに返答した。


 それから数秒と立たずして、近くの海面に無数の水柱が立つ。機関銃を海に撃ったのかというほどの、大量の水しぶきと共に、とうとう奴らが海面から姿を現した。


 それは水棲生物のような姿をしているが、皆人間のような体型をしており、後頭部から人のような髪の毛が伸びている、水棲異界魔達である。

 全身に鱗が生え、エラやヒレが付いている半魚人。

 全身が真っ赤な肌で覆われ、背中から六本の触手が生え、顔がタコそのまんまのタコ怪人。

 全身が鎧のように硬そうな甲殻で覆われ、両手がハサミになっており、のっぺらぼうのような顔に角のような二本の目が付いたカニ男。

 多種多様の水棲異界魔達が数百、いや数千匹と、どんどん数を増やしながら浅瀬の海面に上半身を露わにする。こいつらは先に到着した前進部隊で、後からまだまだ、何万匹と姿を現すだろう。


「おっしゃ、いくぜ!」


 ゲド達一行と、異界魔との、最後の戦いが始まった。






『まとめて吹き飛べ!』


 ゲド達と異界魔の群れが、海岸で衝突するまえに、フレット2が先陣を切って攻撃を加えた。

 フレット2が異界魔達に向かって咆哮を上げると、目の前の海が吹き飛んだ。先程異界魔達が海面に姿を現したときも、無数の水柱がたった。だが今、それよりも遥かに高い水柱が、目の前の海に何千も、大空襲のように次々と爆音を上げて吹き上がる。

 立ち上がったのは水だけではない。海の底にあった、大量の土が形を変えて地表に突き出す。土は太くて長い棘の彫刻となっていた。しかも魔法の効果なのか、岩を越えて鉄をも凌ぐ硬さの物質になっている。

 それが地面から海中を突き抜けて、無数の棘が剣山のように無数に海面から生えてくる。根元の太さは1メートル前後、高さは10~15メートルはある。その数は、数千はおろか、1万を越えるかもしれない。

 その生える速度も凄まじく、弾丸でも放たれたかと思うほどの速度だ。岩石化した土の剣山が生えると共に、無数の海水が、棘と棘の合間を流れて、剣山地帯と化した海の外側に流れていく。

 海の水が減ると同時に、剣山地帯に大量の赤い液体が広範囲に流れ落ち、下に新しい赤い海を形成していった。


 今の岩石の剣山によって、一挙に数千もの異界魔達、即ち先陣を切って出てきた異界魔達を、全て串刺しにしてしまった。

 残虐な処刑場のように、無数の異界魔達が巨大な棘に、早贄となっている実におぞましい光景が、面積1キロ近くに渡って、ゲド達の目の前に広がっている。

 腹や尻から貫通させられて、即死又は瀕死で藻掻いている異界魔達。彼らの身体から夥しい血液や流れ落ち、下の棘の合間を赤く濡らしていく。中には棘の合間に挟まって、潰れて死んでいる異界魔もいた。


 凄まじい殺傷力を持った、土魔法攻撃である。


「すげえな。これお前の魔力で強くなった召喚獣だろう?」

「ええ・・・・・・そうね。オリジナルのフレット様より、強くなっているのは確かね」


 以前ゲドが放った万雷砲に負けない殲滅能力に、ゲドは感嘆の言葉をステラに向ける。言われたステラは、表情は嬉しそうだが、何故か息が荒い。額から汗も滲み出ている。


「おい・・・・・・大丈夫なのか?」

「まだ大丈夫よ。まあ、確かに半緑人初めての実戦で、この技はきつかったみたいだけど・・・・・・」


 召喚獣は基本的に召喚士から力を分け与えられることで、契約前の本来の力よりもパワーアップしている。だがそれは召喚獣の力の消耗は、召喚獣自身だけでなく、契約主にも負担がかかることにしている。

 まだ半緑人になってまもない訓練不足の身体では、この技はやはりかなり無理をしなければならなかったようだ。


 そんなやりとりしている間に、向こうから無数のドゴン!ドゴン!と、岩を砕く無数の破壊音が聞こえてきた。

 ゲド達一行の前にあった海は、無数の棘によって、向こう側の海が完全に視界を遮られている。だがその棘が、向こう側の後方の剣山地帯から、その本数をどんどん減らしていく。後続にいた異界魔達が、敵がいる方向の障害物になっている棘を、次々と破壊しているのだ。

 迂回してこちら側に攻めようという発想はないらしい。魔力による硬度強化が切れた棘は実に脆く、異界魔達の蹴りや一太刀で、簡単に折られ又は斬られていく。棘の森の大量伐採だ。

 倒木した棘は、地面に倒れたり、隣の棘にぶつかったりすると、砂の城のように簡単に崩れていった。


 異界魔達は剣山地帯を伐採しながら、どんどんゲド達の一行に接近してくる。このままだと目の前の視界が開けて、再び異界魔達の大群が、ゲド達の前に姿を現すのもそう時間はかからない。


「フレット2! もう一発撃つわよ! 今度は今の倍ぐらいの数、串刺しにして上げるわ!」

『・・・・・・しかしステラ様は大丈夫なのですか? 今のでもかなり無理をしているようですが!』

「私も無理しすぎる気はないわ! 後一発撃てば、ゲド達に残りを任せて臨時休憩に入る! 行くわよ!」


 その言葉に従い、フレット2は再びさっきの技を使おうと、身体に力を溜め、二度目の咆哮の準備をする。


「待って! まだ攻撃しては駄目!」


 待ったをかけたのは陽子の方。そういえば何故こいつは、ここまで付き合ってくれて、今さらながらに思いながらも、一行は彼女に注目する。


「後一発しか撃てないって言うのなら、なるべく多くの異界魔を、一カ所に集めた方がいいわ! 私達が接近戦で、あの大群の足を止めて、奴らが数を十分溜めてから、まとめて殲滅して!」


 まっとうな戦略である。ステラを含めた一行は、彼女の言葉に頷く。ステラとフレット2は一旦下がって(といってもフレット2は、後方にいてもかなり目立つのだが・・・・・・)、ゲド達が改めて戦いの構えをとる。


 やがて異界魔達の喧騒が大きく聞こえるようになり、目の前にあった棘の林が、全て薙ぎ倒された。

 視界を覆っていた物が全てなくなり、ゲド達の目の前の、かつて海があった場所には、大量に積み重なった棘の残骸と異界魔の死骸、そしてそれらを踏みつけながら、こちらの突進してくる異界魔の大群が、姿を現した。


 五対数万の合戦が始まった。ゲド・カイ・チビ・ライア・番犬大将軍(陽子)が、敵の大群にミサイルのように真正面から突っ込む。

 途端に既に血で濡れた大地に、再び新しい流れて、大地の赤色化した面積を広げていく。突っ込んだ四人が、大量の異界魔達を次々と斬殺しているのだ。

 ゲドは以前別の海岸で戦ったのと同じように、大量の異界魔達の、首を跳ね、腹を斬る。隙を見つけると、気功の伸びる斬撃で、数百の異界魔達をなで切りにした。

 その無双ぶりを見ると、以前の戦いの疲労は完全に快復したようだ。それどころ以前よりも切れが良くなっている気がする。


 残りの三人も、ゲドほどではないが、多くの異界魔達を無双していた。今彼らが持っている武器は、彼らが使い慣れたロングソードとは、使う要領が少し違う。

 日本刀はロングソードよりも、武器としての性能は高いらしいが、使いこなすに高い技量が求められる。

 二人は陽子の故郷にもある剣道術の心得など全くない。だが彼らは数時間陽子から手ほどきを貰っただけで、あっさりと基本をマスターしてしまった。恐ろしいまでの格闘センスである。幼い頃からの鍛錬の賜だろうか?


 勿論陽子も、鉄鬼の身体強化と装備を最大限に使い、彼らと共に異界魔達を切り裂いていった。そんな彼らを、ルディがステラ達のいるすぐ傍から、後方から支援する。

 水系に聞きそうな感じのする、雷属性の攻撃魔法を、異界魔達に向けて放つ。つい最近貰った魔導杖からは、幾本もの電光が伸び、ゲドの万雷砲ほどではないものの、まとめて大量の異界魔達に攻撃を当てている。

 その攻撃は主に、ゲドよりも戦力の劣る三人のいる付近と、群れから外れて、自分たちの方に向かってくる者に集中して当てた。

 ルディの攻撃力では、生憎一撃で彼らを倒すことは出来なかったが、怯ませて足を止めるには十分な威力があるようだった。カイ達がそれで弱った異界魔達を、次々と斬殺し、彼らの実力以上の撃対数を上げている。


『おりゃ、おりゃ!』


 後方の彼らの方に向かっている異界魔で、ルディに倒しきれなかった異界魔は、フレット2が代わりにまとめて始末していた。

 さっきのような大技ではなく、異界魔のいる地面に向かって、パンチを打ったり、踏みつぶしたりして、彼らを虫のように潰している。


 ゲドが五百の敵を倒した頃には、チビは二百、カイは百五十、ライアは百、陽子は八十の異界魔を撃退している。

 意外なことに陽子が一番、撃墜数が少ない。実はパワースペックも戦闘技術も、彼らの中で陽子が一番低かった。


 そんなこんなで戦闘を積み重ねた結果、異界魔の一カ所の集合密度は凄まじく上がった。味方の死体を踏み越える人海戦術で、何とかゲド達を仕留めようと、後方から次ぎ次へと異界魔達が詰め寄ってくる。

 その増加速度は、ゲド達が倒す速度を超えている。それでいてゲド達は全く退く様子がない。

 そのため異界魔の群れは、どんどん密度が上がり、押しくら饅頭のようにギュウギュウ詰めになっていた。中にはまだ生きているにも関わらず、倒れて味方に踏みまくられている者もいる。

 彼らの数の溜まりが十分と判断した陽子が、声を張り上げる。


「皆群れから離れて! フレットさん!ステラさん!お願い!」


 その声と共に、ゲドと陽子が、自前の飛行能力で空へと舞い上がる。カイとライアも、今まで一歩も退かずに異界魔を攻撃していたのを、即座に切り上げる。


 眼前の異界魔数匹を一蹴り入れて倒すと、彼らの後方にいる異界魔達が、ドミノ倒しのように次々と倒れていく。

 その隙に二人は、ステラ達のいる海岸の方へと向かって、自分が創り出した異界魔の死骸と血の池の上をかけて、大急ぎで走っていった。


 すぐに立ち上がった異界魔達が、彼らの後ろを追う、銃などの遠距離攻撃を彼らの背中に向かって撃つ者もいたが、彼は背を向けながらもそれを見切ってあっさりと避ける。

 ゲド達も地面に降りて、彼らと同じ方向に走る。彼らの走力は異界魔よりも早く、一行と異界魔の群れに一定の距離ができた。

 その瞬間に、フレット2が、再びあの咆哮を上げた。


 今日二度目の剣山地帯の発生現象。盛り上がった大地に海の水は引いているため、水しぶきは上がらなかった。だが代わりに血しぶきは、以前よりも多く飛ぶ。

 先程の倍以上の数の棘が、逃げる彼らの背後数メートルの距離に、一気に生えてきた。その結果二万を越える異界魔達が、身体に穴を開けながら天高く上がり、もしくは棘同士の根元に挟まって圧死する。


 彼らの連携戦法で、異界魔達は一気に数を減らした。以前ゲドが単騎で挑んだ時とは、比べものにならない効率の撃退数だ。


「・・・・・・じゃあ、あとよろしく」


 もっとも力を使いすぎて、すっかりやつれたステラが、そこで戦線離脱した。フレット2の大きな手の中に入りながら、彼と共に海岸から丘の方へと上がっていった。


「よし、よくやった! 後は任せろ!」


 ゲドの激励の言葉に、ステラは満足げな笑みを浮かべた。ただの小間使いに等しい存在だった自分が、初めて彼女に戦闘面で貢献できたのだ。ステラにとってこれほど嬉しい日はなかった。


 ステラ達が去った後も、まだ戦いは終わらない。まだ敵は半数近く残っている。すぐに視界に入らない剣山地帯の向こう側から、さっきと同じように異界魔達が棘をへし折る音が聞こえてくる。

 まだ後方にいる者が、再びこちらに近づいてくる。どんなに仲間を倒されても、彼らは撤退というものを一切しない。最後の一匹になるまで、奴らはゲドに挑んでくるだろう。


「さて、俺はまだまだやれるが、お前達はどうだ!」


 まだまだ余力がありそうなゲドが、一緒に海岸に逃げた仲間に、気合いのこもった声を上げた。


「勿論行けるよ!」

「例え倒れそうになっても、私は絶対に引かないわ!」

「俺もまだまだ、魔法を撃ち足りないぞ!」

「・・・・・・私はちょっと疲れたかも」

「よっしゃ、皆行くぜ!」


 最後の陽子の弱気な発言を無視して、一行は再び異界魔と、どちらかが全滅するまで続く大合戦を再び始めた。

 かつて平和だった海に、再び多くの血が流れ、赤い海を広げていった。



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