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第七十九話 緑人の血

「・・・・・・ううん」

「あっ! おはよう」


 翌日の朝のこと。次の襲来までに回復するかどうか危惧されたゲドが、倒れてから一日も経たずに目を覚ました。

 場所は家の子供部屋。竜の絵や人形などが多く置かれた、部屋のベッドの中で、ゲドは裸で毛布の中にいた。今まで熟睡していたのが、急に目を覚まして、上半身を起き上がらせる。

 隣で看護(と言っても様子を見ていただけだが)ステラが元気に挨拶した。


「おう・・・・・・おはよう。ええと・・・・・・」

「昨日の異界魔は全部倒したわ。その後あんたは倒れて、そしてここで寝かされて、今起きたの」


 予想より遙かに早く目覚めたゲドに、ステラが簡潔に状況を説明する。記憶もはっきりしてきたのか、ゲドも「ああ・・・・・・」と言って頷いた。


「次の襲来は三日後よ。身体はどう? 緑人の治癒力がどのぐらいか判らないから、色々不安だったけど」

 以前にも大猿の時にこれ以上の傷を負ったことがある。あの時は一日も経たずに傷が消えたが、今回はどうだろうか? 今回は負傷の他に、過度の過労もある。

 一応身体に開いていた傷は、既にほとんど消えており、僅かな後が残っているぐらいだ。


「まだ身体のあちこちが痛いな。それに無性に肉が食いたい気分だ」

「休息と、カロリーと、血に必要な栄養、の補給ね。冷蔵庫に魚が一杯あったから、今からライアに頼んで調理してもらうわ。あの子、料理もできるそうよ。貴族なのに大層な子よね」


 確かにボンクラの多い貴族としては、高いスキルに違いはない。だがそれ以前に、ゲドは不思議に思ったことがあった。


(料理って、目が見えなくてもできるもんなのか?)






「あっ、ゲドさん! もう起きても大丈夫なの!」


 しばらく時間が立って、台所から良い匂いが立ちこめてきたところ、ゲドは子供部屋から出てきた。台所の近くの食卓には、かつては大家族が使っていただろう、八人分の椅子と、大きなテーブルがある。

 出来上がりが近いのか、既にテーブルが箸やフォークなどが用意されていた。だがゲドが気になったのは、今台所から顔を出した人物のことだった。


 それは青いエプロンを着た、見た目十代ぐらいの若者だった。髪は燃えるように赤く、そして極端に短い。丸刈りから少しずつ生やし始めた感じの短髪である。

 見た目では性別の判断は付きにくいが、先程の声からして女性のようだ。発言からして、自分の知り合いだろう人物に、ゲドは首を傾げた。


 こいつは誰かと考えれば、髪型と声からして、思いつく人物はいる。だがゲドの知ってるその人物は、両目を包帯で巻いて隠していたはずだ。その包帯の裏には、何とも悲惨な穴が二つ開いていたはず。

 一応そうなる前の彼女と会ったことはあるが、その時はもっと髪が長かったので、大分見た目の印象が異なる。だが今の彼女の目は、傷一つない綺麗なものだった。

 空っぽになった目の穴も、消失した筈の瞼もしっかりある。クリクリした幼さを感じさせる金色の目が、彼女にはしっかりあった。


「・・・・・・お前はライアか?」

「うん!」


 あっさりと肯定された。久しぶりに見るライアの素顔に、ゲドは未だに戸惑っている。


「その目はどうした?」

「治った♫」


 随分嬉しそうに、はっきりと、そしてあっさりとした返事をするライア。ますます意味が分からない。自分が寝ている半日足らずの間に、ライアの目の治療をしたというのだろうか?


「誰が治した?」

「ゲドさんによ! 本当にありがとう!」

「意味が分からんぞ?」


 その時にいつのまにか食卓部屋に入ってきた者達が、後ろからゲドに声をかけてきた。


「ごめんなさい! ゲドさんが寝てる間に、ゲドさんの血を皆で飲んだんだ・・・・・・」

「あの時があんたから血を貰う、一番いい機会だったからね。サトルの時は、あっさり血をやるって、言ってたぐらいだから、別にいいわよね?」

「おかげで俺たち、前から比べものにならないぐらい強くなったよ! 俺が一番弱かったけど・・・・・・まあ当然だよな」

「私の目も、それ飲んだらすぐ治っちゃった! ギョロリって、目玉が急に生えてきた感じで。まさかこんなに効果があるなんて、ゲドさん凄すぎ!」


 できかけの料理のおいしい匂いが立ちこめる中、仲間達の告白に、ゲドは驚き、呆れ、そして脱力してこう答えた。


「・・・・・・・・・・・・はあ、そうすか」






 それから二日ほどして、ゲド達が戦った海辺より遙かに彼方。以前ゲド達も訪れたこともある、レグン族が住まうフライド王国。


 その王都ウェストメヤの王宮では、国王が相変わらず、仕事をサボって、ゲームに執心中だった。彼女の部屋は相変わらず本やゴミで散らかっており、彼女の身なりは薄汚れたTシャツに短パン一丁という王族らしかぬ姿であった。

 ゲド達が国を離れてしばらく経っても、彼女のこの有様は何も変わっていなかった。全世界の人間がサプレッションにかけられるという異常事態が起こっても、知らんぷりである。


 その部屋に臣下のベンジーが、ノックをした後で入室してきた。今日はいつも以上に険しい表情である。


「陛下! 至急お耳に入れたいことが!」

「何? また異界魔でも出た?」

「ギール王国から、とんでもない情報が通達されまして!」

「ギールが? 何でよ?」


 ギール王国はこのフライド王国で起きたアンチレグン事件で、大陸中の国々から信頼を失っている国である。それが以前こちらに陰謀を仕掛けてきた国に、突然電報で通達してきたというのだ。


 その内容は、遥か海の彼方の大陸から、万単位の異界魔達が大群でこちらに押し寄せてきているというのだ。

 当初は地方に住む霊術士の証言一つであったが、先日ゲドが海辺で撃退した異界魔の死骸が数万、ギール王国領の海辺にて発見され、これは事実だと確信を得たというのだ。

 これから先、まだまだ異界魔は押し寄せてきて、この大陸を滅ぼしかねないと、そういう内容であった。

 この通達はフライド王国だけでなく、大陸中の国々の代表に送られていた。ゲド達が、コウキを失って混乱しているギール王国政府に乗りこみ、この報告をするよう命じたのである。


 もうじき大陸が滅ぶかもしれないという話に、ベンジーはこれまでに焦った雰囲気で、国王に返答を求めている。

 だが国王は、相も変わらず気楽な表情だ。


「つうかこれ本当なの? またギールの陰謀じゃないの?」

「あのゲドが証明したと、ギールは説明しています。証拠となる記憶映像も届けられましたし・・・・・・」

「記憶映像が? それって魔法よね?」

「ええ、どうもゲドとそのお付きには、サプレッションをかけられなかったようで・・・・・・」

「へぇ・・・・・・」


 ここまで聞いて、差し出された記憶映像を焼き付けた写真を見ても、やはり国王は動じない。世界の滅亡が目前にまで迫っているのに、未だに彼女は他人事のような印象を持っていた。


「まあ、仮に本当だとしてもさ、その異界魔ってゲドが最初のは全部殺したんでしょ? だったらまたそいつに任せときゃいいんじゃない?」


 今回もまた人に全部任せればいいという考え方で、話を終わらせる流れになっている。だがその時、彼らの耳に不審な声が聞こえた。


『ああああああ・・・・・・・・・あ~~~ああ~~~~』


 頭の中に響いてくるような奇妙な声。声質からして子供のように聞こえる。唐突な自体に、ベンジーもお気楽だった国王も、一瞬驚き戸惑いの表情を見せる。


「ちょっと! 今のあんたの声じゃないわよね!?」

「いえっ、私にも聞こえました! 念話のようですが・・・・・・?」


 一応彼らにも、念話で話をするような相手は、いないわけでもない。だが今頭の中に響いた声は、全く聞き覚えのない声だった。

 しかも自分とベンジーの二人に同時に話しかける相手など、一体何者で一体何のようだというのか? そもそも全世界の異能力者は、サプレッションで能力喪失したはずであり、念話を使える者などいないはずである。今話したゲド一行を覗いて・・・・・・


『ああああああ・・・・・・ちょっと確認中。大陸中の人間共、俺の声、ちゃんと聞こえてるか?』

「大陸中?」






 場所はまた移り変わり、ローム王国王都ブルーフォレストの元王宮にて。

 王宮は以前勇者狩り暴動による略奪で、すっかり荒れ果てていた。城にあった金品や食糧は全てなくなり、壁や扉などあちこちが破壊され、一部の施設が放火で燃やされ、数日で廃墟に等しい状態になっていた。


 だが今は大勢の清掃員が動き回り、壊された壁の補修工事も行われ、前よりは少しはまともな状態になっている。

 庭園の折れたり、壊されたりした、木々や泉は相変わらずそのままであるが、今はそこまで気を回す余裕はないので仕方がない。現在この元王宮は、この元ローム王国領をまとめる新自治体の臨時拠点となっている。


 王室とガンガル派。かつてローム王国を二分していた二つの勢力が、ほぼ同時期に壊滅してしまった。人々にとっては彼らに代わる、新たな指導者が必要だったのだ。

 その新自治体の指導の下、国に新たな法が敷かれようとしている。街もかつての活気を取り戻そうと、人々が一丸となって、物資の流通や街の補修に力を入れていた。

 以前ゲドが暴れ回り、勇者達が全滅に等しい状態になったこともあって、最悪だったこの国の治安も少しずつ戻ろうとしていた。

 最もその最中に、あのサプレッション騒動が起きて、再び混乱が起きてしまったのだが。


 その新自治体のリーダーは、何とこの王宮でゲド達と別れた、あのアビー王女であった。

 国中から恨みをかっている筈の、ローム王族の一人が、何故新たな指導者として、人々から受け入れられているのだろうか?


 その方法は実にちょろいものであった。アビーは自分はこの国を救った、ゲドの仲間だと言いだしたのだ。

 自分とゲドが、玉座の間で一緒にいた時の記憶映像も人々に見せた。実際の所、彼女がゲと一緒にいたのは、この時の数分足らずだったのだが、人々は実に簡単に騙されてくれた。

 自分はゲドからこの国を任せられたと、嘘八百を並べたてたら、皆一様にアビーに敬服しくれた。あまりに素直で、騙されやすい民衆である。

 新たな黒の女神・ゲドの存在が、それだけ人々の中で大きな存在となっていたこと。混乱の中、人々が新しい指導者を欲する心境だったことを含めても、本当に騙されやすい・・・・・・


 何はともあれ、アビーがゲドを攻め立てた、この国の基盤の問題は解決した。皮肉にも国の崩壊を意図せず招いたゲドのおかげで、である。


 さてこんな状態の王宮であるが、今回また謎の現象が発生して、人々を困惑させた。それは突然、自分たちの頭の中に響いてきた、謎の念話の声にである。

 城の中で働いていた補修員や清掃員達も、今は手を止めている。自分の耳や頭に手を当てて、困惑しきった表情で、聞こえてきた謎の声を聞いていた。当然それは王宮の、元玉座の間で、書類に目を通していたアビーも同様だった。


「・・・・・・ゲドさん? どうして?」


 以前旅人風の服ではなく、以前の王族の衣装をイメージチェンジしたような、身なりのよい姿で、仕事用の椅子に座っていたアビー。

 山のように机に積まれた書類の中、アビーはその声に驚いていた。他の者達は、これが誰の声なのか判らず困惑しているが、アビーはその声が何者なのか知っている。


『俺の名前はゲドだ。この名前を知ってる奴も知らない奴も、全員含めてどうも初めましてだな』


 この日、大陸中の全ての人間に、ゲドからの念話の声が届けられた。


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