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第七十四話 エセラグナログ

「あんたどういうつもりよ! コン様に弓を向ける気!」

「ふざけてる! お前みたいな奴が、一国を支えてきたのか!」


 真っ先に怒声を上げたのがライアだった。続けてカイも、腰の剣に手をかけて叫ぶ。精霊信仰のフレット王国でも、女神コンは尊い存在としてそれなりに敬われている。

 さほど信仰心の強くないライアでも、生まれたときからの養育からか、コウキの言葉には激怒した。


「フライド王国を嵌めようとしたときといい、先祖を敬うギール王国も落ちぶれたものね。ロームがあんたらを敵視したのは、結果的には正解だったかも」


 最初は手を出そうか悩んでいたステラは、既に迷いをなくしていた。目の前のコウキを明確に敵と判断し、彼女に魔導杖を向けている。

 ルディも最初は困惑していていたが、ステラの言葉にハッとしたようにして、同じく魔導杖を向けて、今にも攻撃魔法を放ちそうな態勢である。


『ふざけてるって言ってもしょうがないだろう? もうじきこの世界は滅ぶ。じゃあ新しい世界に移り住む以外の手段がないだろう』


 確かにさっき話したとおり、この大陸はもうじき滅亡する。例えゲド達が今の押し寄せてきている勢力を駆逐できても、しばらく経てば、また次の大群がやってくるかもしれない。

 生まれ育った世界を捨てて、別の世界に移住するというのは、悲痛ではあるが最も現実的な判断だ。ただコウキのとろうとしている手段は、明らかに曲がっている。


「それで何で侵略しよう何て考えるのよ!? 私達が開拓してるあの世界は、人口が極端に少ない状態よ! 普通に頼めば、移住なんていくらでも受け入れられるのよ!」

『頼む? 馬鹿馬鹿しい。何で私が異界の野蛮人に頭を下げなきゃ行けないのよ。お前だって最初から判ってるはずだろう? ゼンキを倒したぐらいで、私が諦めると思ったか? それに私が王でない世界なんて、救う価値も無いわ』


 陽子の実に最もな意見に、コウキは何とも曲がった論理で否定してくれる。最初は対応に迷ったコウキ。だがゲド達面々は、もうそんなことに悩む理由はなくなった。目の前にいる悪霊は、明確に自分たちの・・・・・・いや、世界の敵であると。


「そもそもの疑問なんだがな・・・・・・お前はエセラグナログがなんなのか判ってるのか?」


 ゲドも大分気にくわない印象を感じたようで、眉をひそめたが、すぐに敵意の言葉を向けずに、彼女が最初に感じた疑問を口にする。


『判ってるさ。女神コンがこの世界に残したという、世界を滅ぼす兵器のことだろう?』

「・・・・・・だから、それが具体的に何なのか知ってるのか、ってことだよ」

『知らないね。だが兵器と言い伝えられてるんだから、相当な代物なのだろう? そいつを使って、岩木世界攻略の力としてみせるさ』


 何だか突っ込み所満載の侵略計画である。面々には怒りの他に、コウキの楽観的な嗜好への呆れが強く湧き出ていた。


 エセラグナログとは、かつて女神コンがこの世界のどこかに置いていったという、世界殲滅装置だと言われている。


 女神コン=渡辺紺がこの世界に多くの難民を移住させて、彼女は神と崇められた。だが全ての者達が、紺の好意を素直に受け取ったわけではない。

 この世界に様々な世界から、様々な国家・人種の人々が流れ込んだ。その中には選民思想が強く、自分たちこそが世界の支配者に相応しいと主張して、騒乱を起こしたことは数え切れないほどある。

 特に酷いときにはそういった者達が、多くの他民族を傘下につけて、大群で岩木世界に攻め込んだときだ。これは黒の女神の伝説の中では、この世界の人類の歴史の最大の汚点だと言われている。


 反乱はすぐに鎮められたが、紺の怒りは大きかった。残された者達は、必死に紺に謝罪した。そして“次にまた同じ事をしでかす者が現れたら、その時はお怒りのまま我々を滅ぼしても構わない。ですが今は見逃しください”と懇願した。

 紺の怒りはそこでひとまず鎮まった。だがその代わりとして、この世界を滅ぼす殲滅装置を置いておくと言いだしたのだ。

 紺が言うには、もし今度また反乱を起こすようなことをしたら、自動的にその装置が作動して世界を滅ぼすというのだ。

 その装置が具体的にどういった力を持つもので、それがこの世界のどこにあるのかは不明である。紺が何も教えなかった故に。ただエセラグナログという名前だけが、代々と伝わっているのだ。

 今となっては、紺が人類を脅すための、ハッタリという説が根強く出ているものだ。コウキはそんなよく判らないものを手に入れて、岩木世界侵略の希望としているのだ。


(・・・・・・何だか阿呆なこと言ってるぜ、この女)

(フライド王国で暴れた霊術士もそうだったけど・・・・・・もしかしてギール人って、皆頭が弱い?)

(ロームの馬鹿貴族共は、散々ギール人を低俗と罵っていたが・・・・・・実はそれが正解だったんだな。何とも凄い話だ・・・・・・)

『本人にわざと聞こえるようなヒソヒソ話はやめてくれないかな?』


 小声で語り合うステラ達に、今まで余裕の雰囲気を出していたコウキが、初めて不快感で崩れた声を発する。幽霊なので顔色は判らないが、生者だったら顔が赤くなっていたかも知れない。

 ゲドと陽子は何も言わないが、本人達の表情から彼女らも同じ気持ちのようだ。フライド王国で暗躍した霊術士は、あまりと言えばあまりの阿呆であったが、国王まで同じような阿呆な考えを示されると、ギール人そのものの感性を疑っても仕方がない。


『・・・・・・とにかく私はこの国のために岩木世界を手に入れる! この意思はお前らからどう言われようと変わらん!

 お前らはまだ気づいてないようだが、お前らのおかげでもうすぐこの国はパニックになる。お前らが生き返らせた、あのサトルってガキが、異界魔の群れのことを言いふらしまくってるからな! もう時間がないんだよ!』


 この言葉で一同は思い出した。先日ゲドが生き返らせた元グールの少年と霊術士。彼らも陽子からのあの話を聞いていたことと、その件に関して一切口止めせずに故郷に帰してしまったことに。


「口が軽い奴だったんだな。でもよ、そいつ一人が言い出したからって、どれだけの人間がその話を信じるんだよ?」

『意外と多いものよ。何せ死人が生き返って戻ってきただけでも、非現実的で大騒ぎの出来事だったしね』

「ああ、それもそうか・・・・・・」


 あの後彼らの故郷でどんな騒ぎが起こったかを想像すると、また大事を起こしてしまったことに、ゲドはやや苦いものを感じ取っていた。


『もうこの大陸の滅亡は免れない。私の世界を救うための行いを邪魔しようってんなら、お前達も消えてもらう!』

「別に邪魔なんかしねえよ。ていうかお前、本当に岩木世界の緑人達に勝てるとおもってんのか? エセラグログも多分役立たずの代物だと思うが・・・・・・」

『私を過小評価しないことだ。数百年間力を溜め続けた私の力に、所詮人間に過ぎない緑人共に負けるものか!』


 さっきまで敵意の目でコウキを見ていた陽子は、今は一転して馬鹿を見るような目で、コウキに問いかける。


「でもあなたの右腕のゼンキは負けましたよね? 元人間の海太にあっさりと・・・・・・」

『うるさい!』


 ヒステリー気味に叫ぶコウキ。はっきり言って彼女の言っていることはハチャメチャである。実の所この女は、細かいことは何も考えていないのではと、邪推してしまう。


 話すことはもう全部終わったのか、コウキの全身が、無数の泡のような、魔法の光に包まれる。そしてその光が一気に強くなって、彼女の全身を包むと、コウキの姿は光と共にあっけなく消えてしまった。


「転移魔法が使えるのか、大した魔力だな。しかしよ・・・・・・ギール王国も近々滅ぶなこりゃ」

「「「・・・・・・・・・・・・」」」


 台風の目のように去って行ったコウキの存在に対するゲドの率直な感想。その言葉にその場の全員が、ゆっくりと頷いていた。


「本当に俺の行く先々で国が滅ぶ・・・・・・でも今回は俺のせいじゃないよな?」






 この世界のとある空の上。空の上とは、天国とかの比喩表現ではない。本当の上空数千メートルの天空でのこと。


 上には無限に広がる青い空。下には無数の白い雲が浮かび、それより更に下に、森の色で緑色、一部で湖などで青い大地が見える場所。そんな空の上に、まるで風船のようにプカプカ浮いている、何か変な物体がある。

 それは銀色に輝く大きな円盤だった。基本カラーは銀で、所々に魔方陣のような文様が、黒く引かれている。それ以外は突起や凹凸など全くない、滑らかなデザインで、丸い皿を重ね合わせたようである。

 そして何より特筆すべきは、その大きさである。直径は約2㎞。厚さは中央の一番厚いところで、約600mはありそうだ。見た目は金属製に見えるが、これだけ巨大な金属の塊が、風船のように宙に浮いているなど、実にもの凄い光景であった。

 そしてこれだけの大きさの物が空にあったら、当然地上の者達の目に止まるだろう。だがこの世界のどこにも、空に浮かぶ円盤の話などどこにもない。

 この円盤はある特殊な結界で覆われていて、常人にはその姿を視覚することは不可能である。円盤の真下には、光を曲げているのか原理は不明だが、そこに円盤の影が浮かんだりはせず、通常通りの太陽の光が、大地を何事もなく照らしている。


 ここは以前ゲド達が通過した、ギールとロームの国境地点であり、この大陸の中心点。そして大陸の中心を、全て監視するかのように、巨大な円盤が存在しているのだ。




 その円盤の中はどうなっているのかというと、小さな村があった。これもまた、何かの比喩などではない。本当に円盤の内部に村があるのだ。

 直径800m程の円形の巨大な室内。そこに土が盛られ、草木が植えられている。密閉空間内での空中庭園である。中に土が浅く盛られて、水を引いて池を作っている所まである。

 天井には長い線上の電灯が、先っぽから中心にかけて数本引かれており、天井はまるで皮を剥いたミカンのような形状だ。そこから光が放たれており、この空間内の太陽の代わりを果たしている。

 そんな人工の自然の世界の中には、小さな畑と、数十件の家が建てられている。あまりハイスペックな、超技術の世界の中で、その家々はあまりに原始的で普通であった。

 木造で、地上の村々のどこにでもありそうな、少し大きめの普通の青い屋根の家。中には厩舎と思われる横長の大きな建物もある。その中で飼われているのは、馬ではなく、グリフォンであった。

 ここは空の上だから、もしかしたら、外を出歩くのに、このグリフォンを使っているのかも知れない。グリフォンと言えば空路の乗り物として、地上では大層高価な代物であるが、この超技術世界の空間内では、実に質素な物に思えてくる。


 さてこの不思議空間の家の中には、何がいるのだろうか? 結論を先に言えば、普通に人が住んでいた。

 遺跡のように荒れ果てているわけでも、汚れているわけでもない。多くの家具が綺麗に置かれており、掃除が行き届いているのか、内部はかなり綺麗である。

 何となく田舎っぽい雰囲気だが、台所等は高技術の電化製で、一部はかなりリッチな感じであった。その部屋の中にある、数人分は座れそうな大きなソファーに、一人の老婆が腰掛けていた。

 別段魔女のような怪しい雰囲気でない。齢七十ほどであろうその女性は、地上の霊術士の衣装に似通った感じの服を着ている。ただし普通の霊術士の服と比べて、白い生地に、青い紋様や動物の絵が染められており、かなり派手なデザインだ。

 ソファーの前にはガラス製のテーブルが設置されており、そこに置かれたコーヒーカップに手をかけて、老婆はティータイムの途中であった。


「お婆さま~~~」


 そんな静か時間を老婆が過ごしている中、家の外から元気の良く、かつ何故か焦ったような感じの幼い声が届いてくる。これに老婆は少し驚き、家の出入り口の方に顔を向けた。

 すぐに家のドアが開け放たれて、そこから一人の少年が家の中に入ってくる。老婆と違って、基本カラーは赤だが、派手は色であることには変わらない服装だ。年齢は7~8歳ぐらいであろうか?

 少年は焦った様子で、部屋に上がり込み、老婆の元へと駆け寄る。


「大変! 大変なの!」

「なんだい? またグリフォン共におやつを盗られたかい?」

「ううん! 今度は本当に大変なの! ギールが紺様の世界を攻めるって言ってるの!」


 お気楽な雰囲気だった老婆の目が、驚きに満ち、そして険しい顔で少年を見据える。


「・・・・・・それは確かに大変だね。しかしそれは確かなのかい?」

「うん! 前に下で、目の見えないお姉ちゃんと会ったって言ったよね? その人のこと、千里眼で覗いてたんだけど・・・・・・ほらこれ見て!」


 少年は掌を差し出すと、その先の空中で小さな映像版が浮かび上がる。これは以前ゲドも使った、自分の見聞きした記憶を映し出す記憶映像の能力だ。

 さっき言った千里眼も、記憶映像も、素人には到底扱えないかなり高度な魔法である。その力を、こんな幼い少年が、実に簡単に使いこなしているのだ。


『どうするのかと言えばね、緑人共の住まう世界、岩木世界を手に入れるのに、少しでも力が必要だからだよ』


 そこに映し出された映像・音声は、ギール王国のとある宿屋の中。ゲド達一行と、ギール女王コウキの対談の一部始終であった。

 コウキが岩木世界侵略を目論んでいること、そしてそのためにエセラグナログを狙っていること。その全ての目論みの会話が、この不思議な空間の家屋の中で暴かれている。

 それを見続けている老婆は、最初は実に険しく、怒りに満ちたものだった。だが次第に何故か楽しそうな、これからのことの楽しんでいるような、愉快な表情に変わっていく。いったい何を考えているのか?


 少年が全ての会話を見せ、記憶映像を閉じた後、老婆はゆっくりと重い腰を上げて立ち上がる。


「ついにこの時が来てしまったようだね。代々続くエセラグナログの管理者としての役目。このまま何もせずに世界は終わるかと思ったが、まさか最後にこんなことになるとはね・・・・・・。くくくっ、地上の生意気共を叩きのめしてやるよ」


 よく判らないがこの老婆は地上人が好きではない様子。これから自分がすることに、老婆は実に愉悦を感じているようだ。


「待って! あのお姉ちゃんもサプレッションしちゃうの!?」

「うん? 大丈夫だよ。緑人様とそのお供は特別さ」


 慌てて今にも止めに入りそうな少年を、老婆は優しくそう答える。その返答に、少年はホッとした様子である。

 そして二人は、自らの役目を果たすために、この円盤の中心部に向かって転移した。


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