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第六十三話 勇者殲滅

 エイドアに在住していたガンガル派の首脳・幹部らが、何者かに暗殺され全滅。犯人は不明。

 遺体は護衛の者も含めて、全て身元が分からないまでに焼失しており、名前と人数の判断は不明だが、この様子から見てほぼ全員死亡したと想われる。

 犯人は外部から侵入したと思われるが、何者なのかは見当もつかない。この報にエイドアを始め、全国を驚愕させた。


 だが事件が発覚してから、そう時間が経たないうちに、遠く離れたブルーフォレストにも、それ以上の事件が起きていた。


「しっかし、まさかここまで直球で来るとはな・・・・・・流石に予想外だったぜ」

「とりあえずさ、気づいてたなら今度は早めに教えてくる?」


 宿の中でゲド一行が昼食を摂っている最中、ゲドはこちらに近づいてくる大勢の敵意に、感覚で察知していた。

 だがゲドは特に怯えること無く、仲間達にも特に何もいわずに、テーブルについていた。宿の規模の基準通りに、元々あまり広くない食堂で、一つだけあった六人が吸われる大テーブルに一行が腰をつけて、各々の注文したメニュー(ゲドはラーメン)を半分ほど平らげたところで、外が騒がしくなっていることに気がついた。

 ちなみにこの宿に、彼ら以外の宿泊客はいない。


「勇者狩りのゲド・傭兵のステラ・その手下共! 貴様らがここにいることは判っている! 貴様らはローム王室に、許されざる不敬罪を行った! よって王命により、貴様全員の即刻の処刑が決定した! 直ちにそこから出てきて、この場で我らの手によって死ね! 大人しく出てくれば、拷問などせずに、苦しまずに死なせてやる! 貴様らに人としての誇りと良心が、ほんの僅かでもあるならば、自ら命を差し出すことぐらいできるはず! これは我らローム王国騎士団からの、貴様らへの唯一の慈悲である!」


 拡声器で発せられた、随分と偉そうな声が、外からこの店の中にギンギンと響き渡る。音響だけで地震が起こったかと思うほどの響きが感じ取れる。


 何が起こっているのかというと、ゲド達が宿泊しているこの宿に、ローム王国の兵士達二千人以上が取り囲んでいるのだ。

 あまりの人数の多さに、大半は離れた街道で待機している。店の全面と裏口に、バリケードのように兵士達が陣取り、誰も逃がさんと言わんばかりに武装して待ち構えている。

 ちなみに今拡声器で叫んだのは本人が言うとおり騎士であろうが、連れている兵士は恐らく全員傭兵だろう。今この都市には、大勢の勇者が在住しているため、兵力の補給は割と簡単だったのだろう。


 ちなみに後から判るのだが、今回の件には憲兵隊にも合同出陣の命令が出ていたが、罪状がはっきりしないと言って出陣を断っていた。

 王室が具体的な罪状を明かしていないとはいえ、国の兵力である憲兵が、王室の命令を拒否するというのは、ある意味前代未聞である。

 これはゲドという桁外れの強さを持つ者に、挑戦することに恐怖したということだが、それと同時に、憲兵の多くが、王室を見限っていることもあった。


 この事態にゲドは特に慌てる様子もなくラーメンをすすっている。ステラはそんなゲドの様子に呆れながらも、同様にチャーハンをモグモグと噛んでいた。

 二人とも王国その者が敵に回った状況なのに、緊張感など微塵も感じられない。


「ちょっ、ちょっと!? あなたたち何したの!? ていうか何でそんなに落ち着いてるの!?」

「落ち着いてライア! 別に大丈夫だから・・・・・・」


 唐突な事態にライアはかなり動揺している様子だ。本来ならばこれが当然の反応である。一方のカイは、最初こそ動転したものの、今は大分落ち着いて事態を静観している。


「それでどうするんだゲド? あいつら全員殺す?」


 ルディは不思議と最初から驚いた様子はない。むしろ何かを期待したような目線と口調で、ゲドに問いかけている。


「どうするつってもなあ・・・・・・そもそもあいつらが言ってる不敬罪って、いったい何だ?」

「考えても仕方ないと思うわよ。フレットの時みたく、馬鹿みたいな言いがかりをつけられるのが目に見えてるわ」


 黒の女神がどうのと言われている自分が、この王都に入ってきたら、何か面倒が起こる可能性は最初から考えていた。だがまさかここまで直球で敵意を向けられるとは、微塵も思わなかった。

 ゲドは少し戸惑いを感じながらも、まあいいかとその辺を深く考えるのをやめた。そして今のこの事態を処理するか思案している。


 ドドン!


「「「!?」」」


 そんな中、急に外から複数の銃声が聞こえてきた。一行はまだ一人も外に出ていないし

、窓から顔を出したりもしていない。何を撃ったのだろうか? 威嚇射撃か? 一行は各々そう考えていた。


「あいつら・・・・・・・・・やりやがったな」


 唯一人、ゲドだけが超感覚で事態を把握していた。彼女の表情はさっきまでお気楽な様子とは一転、滲み出る怒りを抑えているいった感じで、目つきがつり上がり、口元が引き攣っている。


 突然軍隊に自分の店を取り囲まれたことに動転した、この宿の主人と従業員が、どうにか逃れようと裏口から外に出たのだ。裏口方面にも兵士達はいる。

 彼らは両手を挙げて、無関係・無抵抗の意思を示して彼らの前に出た。そんな彼らを兵士達は問答無用で撃ったのだ。


 この件で兵士達に明確な敵意を得たゲドが、刀を手に取り、正面入り口から同等と、彼らの前へと外に出た。






 先日ゲドを探す者同士で合流したアビーとミカヅキ。これからどの辺りを探そうかと、三人で話をしていたが、途中でその必要はなくなってしまった。

 緊急放送で、件のゲドが、市街地で王国軍と衝突したという報が入ったのだ。


(何で急にこんな事に? ゲド様は何をしたの? それともお父様がまた狂ったことを?)


 ブルーフォレストの街道を、アビーとミカヅキが精一杯の走力で、事件現場に向かっていた。以前自分たちがいた郊外から、ブルーフォレストの市街地へと近づいている為に、すれ違う人の数が、進むごとに増えている。

 道も土むき出しの地面では無く、きちんと舗装されている場所に移っていた。ちなみにもう一人の仲間であるサトルは、その身体能力を駆使しして、既に先に現場の方へと向かったいた。


 やがて到着したのは平民達が住む一般住宅地。ここに来る少し前に、現場から逃げ出したであろう大勢の群衆とぶつかっていた。

 遠くから派手な銃声や爆発音が聞こえて、その数と大きさから相当な戦闘が行われている事が予想される。


「やっと来たか。もう終わる頃だぜ」


 大分前から到着していたサトルが、お気楽に二人を出迎える。彼が今いるのは、街道の上ではない。半壊したとある石造りの民家の瓦礫の山で、まるで祭りを見学するかのように腰掛けている。

 その場は大空襲でもあったかのように凄まじい光景だ。何百という建物が全壊・半壊しており、大地は瓦礫で埋め尽くされている。所々に火が昇っていて、その場の空気は大分煙たい。それと血の臭いも大分濃い。

 一部氷付けになった地面や瓦礫がある。恐らく誰かが氷の魔法を使ったのだろう。そんな凄惨な大地の上には、数百人、いや千人を超える人が倒れている。


「これだけのローム王国軍が・・・・・・こんなにやられるなんて・・・・・・」

「これ全部ゲド様がやったっていうの? ギール王国があの方に手を出さなかったのは、実に懸命な判断だったわね・・・・・・」


 倒れている者達は全員ロームの兵士達であった。身なりからして大部分が勇者だと判る。


「助けてくれ・・・・・・足が・・・・・・」

「いてえ・・・・・・いてえよ・・・・・・」

「ふざけんなてめえ! “これだけの数なら、偽黒の女神も怖くない”だ? ボロ負けじゃねえか!」

「お前だってノリノリだったじゃねえか! 文句あんなら最初から依頼なんて受けるな!」


 肉体の一部を失って呻く者もいれば、足が片方無い状態で取っ組み合う元気のある者達、気絶しているのか一言も喋らない者。状態は色々だが、一纏めに言えば死者は一人もおらず、全員手足を1~2本切断されて、まともに動けない状態になっていることだ。


 ゲドとローム王国軍との戦闘は、本人にとっては意外と長引いた。

 敵の人数が二千人という未だかつて無い人員だったこと。兵士達には王国から高額報酬で雇われた、かなりの実力のある気功士・魔道士が大勢いたこと。そしてゲド自身が、死人が出ないように気を遣って戦うというハンデを背負っていたこと。これらの要因が重なって、ゲドは予想以上に手間取ることになった。

 ただそれは単に手間がかかったというだけであって、苦戦を強いられたという程のことではない。結果ご覧の通り、王国が莫大な金で集めた兵団は、ものの見事に壊滅状態である。


「ゲド様はどこに?」

「途中で逃げた兵達を追ってるぜ。最初は風の刃を飛ばしてやってたんだが、どうもそれだけだと仕留めきれなかった奴がいたらしい」


 この言葉を聞いて、アビーは即座にゲドを探そうと駆け出そうとした。だが直後に、サトルに後ろから髪を引っ張られて制止される。


「何するの!?」

「今あいつは勇者狩りに夢中になってるっぽい。今あいつを追いかければ、勇者と間違われて斬られるかもな」


 髪を引かれた痛みで非難気味にアビーは叫ぶが、サトルの言葉は最もである。彼女からすれば、数と居場所が把握し切れていないブルーフォレストの勇者達が、一斉に集まって向こうからやってきたのだ。これを逃がす手などない。

 そしてアビーは、先日自分が市民から勇者と間違われて逃げられた経験を思い出し、少し背筋が寒くなった。


「ゲド様以外でも逃げる必要はあるみたいね・・・・・・」


 ミカヅキがそう発言する。気づくと自分たちの背後の街道から、大勢の人の気配が近づいてきているのが判った。

 一瞬兵達の増援かと思ったが違った。それは兵ではない一般市民達である。ただ雰囲気が尋常じゃない。

 割合は成人男性が多めで、その数はこちらから見えるだけでも千人以上いる。もしかしたらこの地区の住民以外の人も混じっているかも知れない。

 彼らの表情は、殺意で目つきがきつい者。何かを楽しみにしているのか、薄ら笑いを浮かべている者の二種類に分けられている。そして彼らの手には、鉈・ツルハシ・ノコギリなどの物騒な物が握られている。

 殺人鬼のような様相の連中が、大群衆でこちらに接近している様は、ある意味異界魔よりも恐怖心を感じさせる。


「あの人達は・・・・・・?」

「速く逃げるわよ!」


 ミカヅキが最初に駆け出し、それに続いてアビー・サトルも、瓦礫の大地を駆け抜ける。街が破壊されまくっているので、どの方向が道なのか判らないが、とにかく感覚的に向こう側の街道があると思われる方向へと走り出した。


「逃げたぞ!」

「ふざけんな! お前ら許さんぞ!」


 集団の前方にいた市民達が、向こう側へと駆け出したミカヅキ一行を追って走り出した。この勇者への復讐に訪れた大群は、やはり彼らを王国軍=勇者達の仲間だと思っていたようだ。


 こんな所で殺されてたまるかと、ミカヅキ一行はとにかく逃げる。途中で踏みつけた勇者達の呻き声が聞こえたが、そんなこと気にしない。破壊されていない地区まで走った一行。だが到着した向こう側の街道には、新たな敵がいた。


「勇者だ!」

「こっち側に逃げ込んでくるとは、馬鹿な奴らだ」

「どうするんだ? 俺たちで戦えるのか?」

「相手はたったの三人だ! 袋にしちまえ!」


 勇者への報復に訪れた市民達が、向こう側からも来ていたのだ。その数は二百人程度と、後ろ側よりも少ないが、それでも脅威には違いない。


「上等だ! やってやろうじゃねえか!」

「ちょっと!? 駄目よ!」


 誤解でこちらを敵意を示し、武器を振り上げて突撃してくる市民達に、サトルはやる気満々で拳を振り上げている。ミカヅキの方も抜刀していた。


「駄目よサトル! ここから逃げるのよ!」


 だがミカヅキがサトルのやろうとしていることに制止の言葉をかける。グールであるサトルの主はミカヅキなので、彼女の命令には逆らえず、サトル即座に戦闘態勢をやめる。

 しかし本人も抜刀しておきながら、駄目と叫ぶとはどういうことか? そのことを問おうとしたとき、ミカヅキの持つ刀の鋒が、白く輝きだした。

 電球を刀で刺したかのよう姿で魔法の光を放つ、ミカヅキの魔導剣。ミカヅキが何かを使用としていることに気づいた市民達も、慌てて立ち止まった。


 魔法で攻撃するのかと思ったらそうではなかった。その輝きが指し示す方向、ミカヅキの前方数メートル先の街道の地面に、何かが姿を現した。

 それは一頭の大型の動物である。最初は幻像のように、薄い半透明の姿であった。その姿の向こう側の風景が、後ろ側からもよく見える。それが徐々に透明度がなくなっていき、やがて色がつき始める。そしてミカヅキの刀の光が消えると同時に、それは完全な実体を持って姿を現した。


「キュオオオオオオッツ!」


 不可解な形でそこに姿を現した動物は、市民達に向けて威嚇の鳴き声を張り上げた。それはライオンのような胴体に、鷲のような頭と翼を持つモンスター=グリフォンである。


「なっ何だこれ!? 召喚魔法か?」


 市民達も初めて目の当たりにするモンスターに驚き戸惑っている。実のところこのモンスターは、たった今姿を現したのではない。今までずっとミカヅキの傍にいたのだ。ただ霊感の無い者には、その姿を見ることができなかったというだけである。

 このグリフォンは召喚獣ではなく、ミカヅキの使役する霊魂である。かつてフライドの工作員が使役したワイバーンと同じで、ミカヅキが霊術で実体化させたのだ。


「皆乗って!」


 ミカヅキ達三人が、状況を把握して、一斉にそのグリフォンの背に乗りこむ。

 グリフォンの背には、これも霊術で作ったのか鞍がある。本来二人乗りだが、強引に三人が座り込んだ。そして手綱を引く必要もなく、グリフォンはミカヅキの意志に従って、空へと舞い上がった。


 羽ばたきによる突風と土埃が市民達の目を塞ぎ、気がついたときには一行は空へと逃げていた。本来ローム王国にはない霊術という未知の力に、市民達は呆然と彼らが逃げていった空を見上げていた。


 この後すぐに、ゲドと王国軍の戦場跡で、一方的な暴行と殺戮が行われていた。

 ゲドによって戦闘不能にされた兵士達は、今まで散々民衆を苦しめてきた勇者達であり、そして民の痛みを全て無視してきた騎士達である。どちらも市民にとっては、恨みが堪りまくっている相手だ。

 市民達によって散々に痛みつけられる勇者達の悲鳴が、地獄の底を覗いたかのように、街中に響き渡る。

 それは彼らが声も上げられない程弱ってしまうか、もしくは幸運に早めに息絶えて苦痛を感じなくなるまで延々と街中に奏でられた。



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