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第六十二話 伝書鳩

 所変わってゲド一行はどこにいるのかというと、この王都で宿をとっていた。

 平民達が暮らす一般地区のとある小規模な宿屋である。元々観光客を主な客としていた所で、店自体はかなり小さい。この地区ではどこにでもあるような普通の宿だ。この時勢のせいで、客は全盛期よりずっと減っており、この日ゲド達以外の客は来ていない。

 最初に彼らが泊まりに来ていたときには、店の者達に大層驚かれていた。


「それでこれからどうすんの? 戦争を起こしてる王宮に殴り込む?」

「そんなことはガンガル派にで任せておけ。ぶっちゃけ何も考えてねえな・・・・・・」


 天井が低めのいかにも安そうな部屋で、女性陣のゲド・ステラ・ライアの三人が、今後の方針について話し合おうとしているが、そもそも話し合いができるような話題が全くなく、ある意味困っていた。

 ちなみにチビは男部屋の方にいる。


(さすがにここに置いていくのやばいよな・・・・・・)


 ゲドは側にいる全盲の少女のことで、少し考える。椅子に座っている彼女の頭には、ブツブツと毛が生え始めている。幸いにも毛根は死滅していなかったようだ。

 カイとライアは、適当なところに孤児として預けてしまおう思っていたが、さすがローム王国内は不味いと改めて思った。


 上級の異界魔が、王都のすぐ近くに出現したにも関わらず、王宮はこれといった行動を起こさない。世界が直面している危機に、未だに何の対策もとらないつもりだ。

 こんな無能で、世界のもう一つの暗雲を生み出している元凶の国に置いていくのは躊躇われた。もしこの国がやらかした何かで、彼らの身に何かあったら、こっちが後味悪くなる。


 もう一つ厄介なのはルディである。フレット王国の内乱が収まったら、テトラに預ける予定だったが、未だに内乱が収まる気配がない。

 このままいつまで連れ回せばいいのやら・・・・・・


「まあ・・・・・・今まで通り異界魔と勇者狩りを続けるだけでいいんじゃね? ていうか今も勇者共の汚い声が聞こえてくるし」






 所変わって男部屋。ここには現在カイとルディが宿泊中だ。カイは既にベッドに潜り、早めの就寝中である。気持ちよさそうな寝顔を見せている。

 ルディは窓のある壁の方で、椅子に座りながら外の景色を眺めていた。足下には、彼に懐いているのかどうか不明だが、チビがお座りの姿勢で、彼の側にずっといる。


 日は既に落ち、辺りは大分暗くなっている。窓の向こうには、街中を貫く中通りが、いくつもの脇道を横に生やしながら伸びている。

 かつては夜でも多少の賑わいがあっただろう街の風景。だが今はほとんど人の気配がない。明るい内は、それないに人が通っていたのだが、今はゴーストタウンのように静かなものである。


 ブルーフォレストで活動する勇者達は、夜に狩りを行う者が比較的多い。そのために夜間は外出を控えて、家の防衛に尽くす者が多いのだ。


「あっ!」


 思わずルディは声を漏らす。たった今隣の部屋の窓から、何かが飛び出したのだ。

 手裏剣のように過員しながら飛ぶ、魔法の光輪である。それも一つではない。百以上もの光輪が、機関銃のように連続発射されている。秒間十発ぐらいだろうか? 驚くべき連射速度だ。

 それはそれぞれバラバラの方向へと飛んでいく。まるで意思を持った生物のように、己の目的地に向かって、家々の屋根の上を通りながら、街の各地へと飛んでいく。

 それらは全て、隣の部屋にいるゲドが飛ばした魔法に違いなかった。


(勇者狩りか・・・・・・それも一度にあんなに飛ばすなんて、どれだけ大勢いるんだ?)


 まもなく街の各所で、勇者達の悲鳴が鳴り響くであろう。その光景を思い浮かべると、ルディは少し楽しい気分になった。


(それにしてもまたこの街に来るなんて・・・・・・でも全然怖がってない自分が不思議だ。やっぱりゲドのおかげかな?)


 最初にゲドに話した、エイドアの貴族院の子供という話は全部嘘である。猿屋に売り飛ばされたとき、エイドアに住んでいたのは確かだが、本当の意味での彼の言う“帰れない故郷”とは、このブルーフォレストのことであった。


 自分を裏切った母親を探す気は、彼にはなかった。当然父親に頼るつもりも毛頭無い。他に頼れる者が無く、ゲドにすがったのは本当である。正直この先どうなるのか、彼には何の見当もつかない。


 そのとき彼は外から自分がいるこの窓際に、何かが近づいてくるのに気がついた。それは人でもなければ、何かの攻撃でもない。バサバサと羽音を立てて空から近づいてくるそれは、1羽の鳩だった。

 灰色の地味な色をした見た目普通の鳥である。もし昼間だったならば、誰も気にもとめないだろう。だが今は夜である。フクロウならばともかく、夜目の利かない鳥が飛び回っているのは不思議である。

 しかもそれはまっすぐここに近づいてくる。


「うわわっ!」


 ルディは驚いて立ち上がる。何故驚いたのかというと、その鳥が窓際にいるルディの目の前まで接近したからだ。動物にここまで近寄られると、誰でも対応に困る。

 その鳩は、太った外見とは裏腹に、随分華麗なホバリングをしながら、ルディの目の前で空中静止していた。この様子と、鳩に足に取り付けられている物を見て、彼はこの鳩の正体に気がついた。


「誰からの使いだよ?」


 鳩の足には伝書鳩特有の紙が巻き付かれていた。どうやら何者かが、ルディに向かって手紙を送り付けたようだ。

 鳩はあくまで帰巣本能で自分の巣に戻るだけなので、このように特定の誰かに向かって手紙を届けたりはしない。おそらく誰かが魔法で操っているのだろう。


 ルディには、この街で自分に手紙を送り付ける心当たりなど、一つしか思い当たらない。鳩を操ってこちらを観察しているだろう何者かの姿を想像して、明らかな敵意の目を鳩に向ける。

 ルディが鳩の足の手紙を取り外すと、鳩は返事の手紙を待っているのか、そのままホバリングを続けている。


 今の騒ぎでカイが目覚めていないかと、少し心配になって彼のいるベッドに目を向けるが、幸い彼は目を覚ましていなかった。

 相手が魔物ならばともかく、只の小動物の気配に反応するほど、気功士の感覚は鋭敏ではない。ルディはそれに安心する。おそらくこの手紙には、人から見られたくないような物が書かれているだろうから。


「やっぱりあのクソ親父か・・・・・・」


 文面を見ると、彼の予想通り、手紙の送り主はルディの実父=ローム国王であった。一国の王が直々に個人に手紙を送る。これは結構凄いことではあるが、ルディは何のありがたみも感じなかった。


 その手紙にはやたらと無駄な文面が多く、言い回しもかなり遠回りなので、用件を理解するのが困難な物であった。

 しかもえらく尊大で苛つく文章で、最初の一文だけで破り捨てたくなる手紙である。要約するとこうである。


『お前がゲドという卑しい小娘と一緒にいるのは判っている。正直存在だけでも罪とも言える奴だが、寛大な我々はそいつを、使い捨ての手駒として我が王宮に迎えてやることを決定した。そして同じく卑しいながらも、偶然利用価値ができたお前に命ずる。小娘をこちらに来るように説得しろ。上手くいったなら、お前を王宮に昇ることを許可してやる。我が子らの中で最下位のゴミのような扱いになるだろうが、元々虫の命に満たない価値しか無いお前には、十分すぎる褒美であろう。父の慈悲深さに泣いて感謝するがいい』


 手紙の主は、こんな内容の手紙で、相手が承諾すると本気で思っているのだろうか? だとしたら国王の頭の弱さは、あまりに酷すぎる。


 手紙を読むルディは、終始無言無表情だった。全てを読み終えると、彼は即座にその手紙を破り捨てた。

 そして部屋に置いてあった、伝言用の紙とペンを持って、スラスラと返事の手紙を書き始める。


『断る! 死ねクソジジイ! インチキ宗教のデブボス猿! 捨て駒として迎えてやる!? 偉大な黒の女神である私に、よくそんな偉そうな口が聞けたな? 格下で卑しいなのは、てめえの方なんだよバーカ! 次こんなふざけた口を利いてきたら、てめえも取り巻きの雑魚猿共も皆殺し手やるから覚悟しろ!    by ゲド』


 自身が書いた手紙を、あたかもゲドの直筆であるかのように装った文面である。これはどういうつもりなのか?


 ルディはその手紙を、窓の外で待機中の鳩の足にくくりつける。ここまで長くホバリングできるとは、大した体力である。

 返事の手紙をもらった鳩は、用が済んだと言わんばかりに遙か彼方に飛んでいく。その飛んでいく方向=ローム王宮のある場所を見つめるルディは、これから起きるだろう愚かな騒動を想像して、邪悪さを感じる笑みでほくそ笑んでいた。






 場所は変わって、ガンガル派の拠点があるエイドアの街での出来事。

 かつての貴族院議事堂で現ガンガル派の本部である建物。そこにいつものようにガンガルを送迎する車が、議事堂の専用駐車場に訪れていた。

 だが今日は様子が違った。城壁に囲まれた貴族院にはいくつかの門があり、駐車場への入り口もその中の一つにある。いつもは中にいる使用人が、ガンガルの到着と同時に、内側から開けて彼を通すようになっている。

 だが今日は自動車が門の目の前に近づいても、いつまでも開く様子がない。自動車を通すだけにしては、無駄に大きな門はいつまでも静寂を保ったままだ。試しに受付に電話を送ってみたが、何故か繋がらない。


「いったいどうしたというのですか?」


 ガンガルが戸惑いと苛つきを混ぜ合わせた声を上げる。今日も委員達と、エイドア地区の自治問題について話し合う予定であり、代表である自分が遅刻するわけにはいかないのだ。


「さあ・・・・・・どうしたんでしょうか?」

「開かないんだからしょうがいないね。私が開けてくるよ」


 同じく戸惑っている運転手とは対照的に、ガンガルの隣に座っているシンシアは、えらく落ち着き払った様子で、ドアを開けて外に出る。

 そしてその場で、議事堂の城壁を飛び越えて見せた。軽く地面を蹴ると、十メートル程はある城壁の上を、ボールのように軽く飛び越えて見せたのだ。


(あんな簡単に議事堂の壁を突破できるのか・・・・・・いくら優れた護衛がいるとはいえ、防衛機能の作り直しも、少し急がねばな・・・・・・)


 そう思案するガンガル。シンシアが内側から開門のスイッチを押したのだろう。特殊金属製の門がゆっくりと、彼を招くように開いていく。

 シンシアが壁を飛び越えてから、開門までに妙に時間がかかったのに違和感があったが、恐らく馴れない機械の操作に戸惑ったのだろうと、彼は自己完結する。

 その後、最初に開かなかった理由など、全く気にとめずに、車は議事堂の中に入っていく。


 だが彼は気づいていなかった。その考えは既に遅すぎたということを・・・・・・。そして車が通った門の付近にある、林の中に、昨日の夜、ガンガルが帰宅直後に事切れた使用人の遺体が転がっていることを。





「何なんだ・・・・・・・・・これは現実なのか・・・・・・?」


 驚きのあまり、どんな言葉と表情を出せばいいのか判らず、ただ呆けた表情でガンガルは立ち尽くしていた。

 いつもと比べて妙に静かな議事堂の様子に、妙なものを感じながらも議事堂の会議室に入ってくと、ガンガルはそこで即座に理解できないものを目にすることになった。


 既に多くの委員達が既に会議の準備を終えている会議室。だがそこに生きている人間は一人もいなかった。本来委員達が座っているはずの何十もの椅子には、それと同じ数の黒い物体が乗っかっていた。

 それは形は人のようで、椅子に置かれた人形のように寄りかかっている。色は炭のように真っ黒で、炭のような臭いを発して、燃えたたてのようにブスブスと白い煙を立ち込ませて、会議室を喫煙室のように煙たい空間に変異させている。

 その黒い人型の何かがあるのは、椅子だけでは無かった。それらの椅子の後ろ側にも、百以上床に転がっており、折角の高級な絨毯を、黒と白の粉で汚してしまっていた。

 それらの隣には剣・槍・魔導杖といった、何だか物騒な物も沢山転がっている。見たところ展示用の模造品にも見えない。ガンガルはそれらの武器の外観に見覚えがあった。


「そんな! まさか!?」


 それは委員達が雇った護衛達の持っている武器であることに気がついた瞬間、ガンガルの意識は永遠に閉ざされた。


 突然会議室に、落雷のような音と共に、紫色の光に包まれる。その直後に、部屋にあった黒人形の数が一個増えた。

 ガンガルの姿が、瞬き一つ終えない内の一瞬のうちに、どこからか発せられた電撃を受けた。結果、彼は人としての面影をほとんど残さずに即死した。


 ローム王国にあれほどの政変を起こそうとした男の、あまりにあっけない最後である。


 ガンガルが死に、この部屋で・・・・・・いやこの議事堂に残っている人間は一人だけとなった。それは炭と化して倒れたガンガルの、すぐ後ろに立っていた女魔道士。

 彼の護衛のシンシアであった。目の前で雇い主が死んだというのに、彼女は全く動揺する様子がない。それどころか、変わり果てた雇い主を見下ろして、歪んだ笑みを見せている。それもその筈、今の電撃は、このシンシアが撃ったものだからだ。


「悪いねえ~~あんたらより王室の方が、金払いがよくってねえ~~~」


 壁を飛び越えてから開門までの、ほんの数分間の間に、議事堂にいる人間を皆殺しにした女は、それだけを口にして悠々と議事堂を後にしていった。




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