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第六十話 ローム国王

「まいったなこれは・・・・・・俺も逃げたくなってきたよ」


 いつもの通りに、異界魔の気配を探り当てて、高速でそこまで飛んでいったゲド。場所は人工林と思われる、下草刈りが綺麗に行われた杉林の中。

 樹齢十年程度と思われる、あまり背の高くない木々で覆われた、その大地の一カ所に、それらが踏み荒らされて綺麗な平地になっているところがある。敵はそこにいた。


 やや曇り空の空から、星と月の光に照らされて、その場所にいるのは、ナックルウォーキングで四つん這いで立っている、毛むくじゃらの巨人=大猿だった。動物のような姿に、人間のような髪の毛が生えているそれは、紛れもなく異界魔である。

 ゲドはそれと同種の相手に、以前も会ったことがある。それはフライド王国で戦った、上位の異界魔と思われる、あの強大な大猿であった。しかも以前は一匹だけだったが、今回は二匹も同時に出現していた。


「「グルルルルルルルッ!」」


 こちらに敵意を向ける唸り声が、二重になって聞こえてくる。異界魔が一度に複数出現することは珍しくないが、こんな大物が二体同時というのは、かなりきつい。


(一匹だけでも結構手間取ったのに・・・・・・これちょっとまずくね?)


 やがて大猿たちが威嚇のつもりなのか、自分の胸を叩き始めた。ドンドンと派手な音が、砲兵部隊の総攻撃のように、けたたましく林全体に響き渡る。


(駄目だな、俺が自分で正義の味方をやってやるって決めたんだ。・・・・・・それに強い相手だからってすぐびびるようじゃ、あのミルって野郎の言うとおり、俺はとんだ臆病者だ!)


 ゲドは背中から刀を抜き放つ。それと同時に大猿二体も、彼女のいる方向に飛びかかった。

 この後この杉林は、無事な木々が一本も残らないぐらいの、凄まじい激闘の後が残されることになる。






「ライアが言ってた子、多分ここにはいないみたいだよ。それっぽい子供が見つからないし」

「・・・・・・そう。じゃあ別の避難所にいるのかな?」


 村から数十キロほど離れた所にある、あの村より大分大きめの町の中。そこの中央公園に、多くの仮設テントが張られ、臨時の避難所が設けられている。

 各地の村から集まったと思われる、千人以上の避難民と、彼らの援助をする人々で、この広大な公園はかなりごった返していた。


 カイとライアは、公園の外側の公園木に腰掛けて休んでいる。ライアから話を聞いたカイが、子供が集められている場所に出向いて聞き取りをしてみたが、話にあるような子供はいなかった。

 ただこの避難所に全員が入れられているわけではないので、別の場所に送られている可能性はあった。ほんの僅かな間言葉を交わしただけの間だが、事が事だけにライアは未だに気にかかっていた。






「ゲド・・・・・・今回はまた大層なことになってるわね・・・・・・」

「ああ・・・・・・楽勝とはいかなかったがな・・・・・・」


 まもなくして念話で居場所を聞き取って、避難所に姿を現したゲドに、一行は唖然とさせられた。

 ゲドの姿は全身が泥と血で汚れており、何か拷問を受けた後のような様相である。よく見ると肩の肉が少し剥けている。ぱっと見ただけでも、かなりの重症そうだ。こ

 れには周りの者も驚いており、近くにいた憲兵が心配そうに声をかけてくる。


「きっ、君、何があったんだ!? とにかく早くこっちに!」

「別にいらねえよ。何回か猿に蹴られたり踏みつぶされただけだ」


 見た目がずたぼろなせいか、周りの者は、この人物が最近世間を騒がせている黒の女神もどきであることに気づいていないようだ。

 強引にも治療場に連れて行こうとする憲兵を払いのけて、一行は避難所から出て、人気の少ない林の中に逃げるように向かった。





 町のすぐ外側にある林の中で、一行はある者は立ったまま、ある者は近くにあった大きな岩に座り込んで、ゲドの様子を気にかけている。


「てかあんた実際問題として大丈夫なわけ? 骨何本か折れてるんじゃないの?」

「大丈夫だろ? この身体が黒の女神の同類なら、この程度の怪我放って置いてもすぐに治る」

「でもゲドがこんなにやられるなんて・・・・・・出てきた異界魔はそんなに強かったのか?」

「ああ、フライド王国に出てきた猿が二匹出てきた。流石に俺も結構きつかったぜ・・・・・・」


 この言葉に、ステラとカイが気難しい表情を見せる。あの大猿との戦闘は、ゲドの記憶映像で二人は見ていた。無敵に思えたゲドでさえ手こずるような敵が、一気に複数出てきたのだ。

 もしゲドが出てこなかったら、この地域一帯は今頃どうなっていたのだろう? このごろの異界魔の行動の変化には色々注目されていたが、異界魔そのものの戦闘レベルも確実に変化しているように思えてきた。


(世界がこんな不穏な状態なのに・・・・・・未だに人間同士での内輪もめに忙しいこの国って・・・・・・)


 この話にステラがそんな感想を抱いていた。今思えばこの国は、他国に戦争を仕掛ける大義名分を得るために、現状一番の問題の解決を疎かにしている。

 しかも国民に嘘八百を付いて、世界が危機に陥ってることさえ隠そうとしているのだ。


「このままだとこの国滅ぶかも知れないな。まあそうなっても自業自得なんだろうけどさ♫」


 ルディがまるでステラの心を読んだかのような発言をしてきた。その言い回しに、一同は何か違和感を覚える。


「お前・・・・・・随分嬉しそうに言うな?」

「えっ、そう? そりゃ駄目だよな・・・・・・大勢の人が危険な目に遭ってるのに、何か不謹慎なこと言っちゃったよ・・・・・・」


 心底申し訳なそうにルディがそう言い繕ってくる。何か引っかかる感じだが、正直どうでも良い。この言葉に続けて、ステラがさっき手に入れたばかりの情報を口にした。


「さっき町の人達からここがどの辺りなのか聞いてきたんだけどさ・・・・・・」

「うん? そういやここがどこだか知らなかったな。もうローム王国から出てたか?」


 適当に飛び回っていたため、一行は正確な現在位置を全く知らず、そのうえ特に知ろうとさえしなかった。

 ただ住人に言語や文字の特色から、何となくローム王国領だとは皆思っていた。ゲドの言葉にステラが首を横に振って否定した。


「あんな小さな温泉村に、えらく人が来てるなって思ってたけど・・・・・・それもそのはずだったのよね。私らがいるここって、ブルーフォレストのすぐ近くだったのよね・・・・・・」


 王都ブルーフォレスト。ゲド達にとってある意味一番上の敵である、ローム王宮のある都市の、僅か10km先の地区に、一行は辿り着いていた。






 ローム王国王都ブルーフォレスト。この大陸最大規模の都市であり、黒の女神聖教の総本山と自称しているこの国の王都である。


 建物の催しや区画の形など、外見はかつてゲドが訪れたエイドアと酷似している。だがそこはエイドアの数倍の規模があり、高層の建物から町を見渡せば、世界の果てまで町が広がっているように錯覚してしまうだろう。

 町のメインストリートは、毎日のお祭りのように沢山の人々が歩いている。田舎から来た人が見たら、誰もがこの様子に驚くという。


 最もその都市の活気も、最近になって徐々に弱まってきている。エイドア地区で縄張りを追われた勇者達が、最近になってこの都市に多数流れ込んで活動するようになったからだ。

 以前から勇者達の被害は少なからずあったが、ゲドの活動が原因で、この都市の治安は更に悪化してきている。


 そしてそんな都市の中央部。自分こそがこの都市の中心だと主張するように、ご丁寧に土地のど真ん中に、それそれは立派な建物があった。ローム王国王宮である。

 フレット王宮と、エイドア貴族院を足して大規模化したような、広大で巨大な建物群と、その合間に美しい庭園が一つの超巨大公園のように広がっている。

 庭園の最も大きな区画には、湖のように大きな池があり、その中心の巨大噴水には、金色に彩られた女神コンの彫像が据え置かれていた。建物の中は、フレット王宮と同レベルの実に金がかかった装飾が彩られており、廊下を通るだけで目が痛くなりそうだ。


 そんな建物群の中にある一室。劇場のように広いその広間に、この国の最高権力者ローム国王の玉座が、数メートル高い床の上にどっかり乗っている。

 真ん中に一つの道を空けて、大勢の重鎮が列を作って並んでいる。彼らの目線の先にある王座には、黒と白の装いの豪華なローブに、頭に王冠を被った一人の初老の男=ローム国王が鎮座していた。


「ぬう・・・・・・ではあの小娘がこの地に現れたというのは、間違いないのだな?」

「はい。近辺に猿型の異界魔の死骸も発見されています。死骸の損傷から見て、あれは寿命以外の要因で死んだとしか考えられません。これまでの経緯から見ても、あのゲドという少女の仕業と見て間違いないかと・・・・・・」


 いつもは堂々と偉そうな態度で重鎮達に現れている国王だが、今回は少し様子が違った。高位の騎士と思われる人物の口から発せられた報告に、明らかな焦りの表情が見える。国王だけでなく、周囲の重鎮達もどよめき、恐怖で冷や汗を垂れ流している者もいる。


「まさか本当にこの国に戻ってきていたなんて・・・・・・ではやはり猿屋狩りをしていたのはあの娘なのか!?」

「一旦この国を出たと思ったら、何故今さら戻ってきたのだ!? まさかフレットのようにこの国を完全に潰す気か!?」

「ガンガル派の方はどうなってる!? 奴らと手を組んだのか!?」


 重鎮達の恐怖の声が何重にも広間の中に響き渡る。つい先程この王宮にもたらされた情報。最近各地で騒ぎを起こし続けている、あの謎の少女=ゲドが、この王都の目と鼻の先の町に出現したというのだ。

 それが先日近辺の異界魔を撃退したというのだ。


 王都の近辺に異界魔が出現したという時点で、既に国を揺るがす大事態であるが、彼らにとってはそんなことよりゲドの方が優先して考える問題であるらしい。


 多くの市民から新たな黒の女神ともてはやされ、ガンガル派が反逆の大義名分に仕立てているあの謎の少女。

 異界魔を個人の戦闘力で倒したという話は、エイドア地方ではすっかり武勇伝として有名になっているが、このブルーフォレストでは少し違う。ブルーフォレストの市民の大部分が、そのような話を信じてはいない。

 これまでも黒の女神を名乗る詐欺師が現れたこともあり、今回もそういう話だろうと考えている。貴族達の中には、反逆者が祭り上げている彼女を、どうしてさっさと指名手配しないのか、不満の声が上がっている。


 だが王宮の政府上層部の者達は少し違っていた。彼らは雇い入れた信頼できる多くの諜報員の捜索や、各地の憲兵所からの報告で、異界魔討伐の話が真実であることを確証している。

 ある諜報員からもたらされた、ゲドが異界魔と戦っている場面の記憶映像は、彼らを震え上がらせた。あんな化け物みたいな奴を指名手配なんかしたら、すぐにでもこの王宮に攻め寄せてくるかも知れない。そうしたらこの国は完璧に終わりである。


(蛮国で好きに暴れ回っていればよかったものを・・・・・・何という迷惑この上ない小娘だ! いったいどうすれば良い? いつもなら暗殺という手を使うのだが、あの化け物相手には危険すぎる。どうにかしてこちらに取り込めないか? だが黒の女神もどきが、王宮にいられると、儂の権威が下がるかもしれんが、背に腹は変えられんが・・・・・・)


 国王はゲドの存在に、随分久しぶりに真剣に頭を悩ませていた。


 ギールとの戦争・異界魔の被害増加・勇者による王都の治安悪化・ガンガル派による内乱状態。


 これらのように本当ならもっと優先して考えるべき問題があるはずだが、この国王にとってはそんなことどうでもいい話のようだ。


 民の安全なんて知ったこっちゃないし、戦争なんて傭兵共に全部任せておけばいいだけの話だ。こんなの適当に金をばらまけば、すぐに解決する問題である。実際にガンガル派の件も、その金の力(・・・)でもうすぐ片付く頃である。

 だがゲドに関してはそうも行かない。あれが金で動かせる存在ならば良い。だが相手が悪すぎた。本人がその気になれば、すぐにでもこの王宮を制圧できるほどの実力者である。変に干渉して、相手の機嫌を損ねるわけにはいかない。

 まさか自分が他人の機嫌を気にかけねばならない時が来るとは、国王はこれまでにない屈辱を味わっていた。


「それともう一つ報告があるのですが・・・・・・」

「何だ!? まだ何かあるのか!?」


 只でさえ不機嫌な報告を受けて、更にその先を口にしようとする騎士に、国王は怒声を上げる。騎士は怯えたが、どうにか己の僅かな勇気を振り絞って、続きを口にした。


「そのゲドの一味なのですが・・・・・・フレットのカイに引き続いて、また人員が増えているようで・・・・・・」

「だからなんだというのだ? くだらん・・・・・・」


 雑魚が数人増えたからといって、別に気にかけるようなことではない。問題とするのはゲド一人である。心底どうでもいい報告に、国王の声は怒りから呆れへと変化する。


「それなのですが増えた二人の内の一人が・・・・・・どうやらルディ様であるようで・・・・・・」

「ルディ? 誰だそれは?」

「陛下の36番目のご子息です。どうやら母親から猿屋に売られており、その後ゲドに救出されて同行しているようです」

「ああ、そういえばそんな奴おったな」


 現国王は女性遊びがとりわけ酷い男であった。王妃以外の女と関係を結ぶ王など、歴代の中では特に珍しくない。むしろないほうが少ないくらいだ。

 だが現国王はそれが歴史上三番目に酷いと言われている。大勢の貴族の娘や侍女に目をかけては、何度何度も実に大勢の女性と関係を結んできた。その数は既に千人を超えている言われており、その記録は今も継続して増えている。


 その課程で多数の女が、国王の子を宿すことになった。国王は頭は弱いが、魔道士としての能力は優秀であったため、遺伝子が目当てで国王に近づく女もいたという。

 そして生まれた子の大部分は、王族の中に組み入れられず、王宮の外で放置されていた。ルディもその一人であった。

 そしてルディは、母親から莫大な金と引き替えに、猿屋に遺伝子奴隷として売却されていた。別に生活に追い詰められて、苦渋の判断で子を売ったのではない。

 ルディの母は、最初からこれのために彼を育てていたらしい。最低限使い物になるよう、魔法の訓練ばかりを幼い頃から叩き込まれた。そしてある程度魔道士としての能力が高まって、大分値打ちが出てきたところで、彼は猿屋に商品として渡されたのである。


(ぬう? 待てよ、これは使えるかも知れんな・・・・・・)


 どうでもいい話とすぐに忘れそうになったところで、国王はあること閃いた。本人は完璧な策と思っているそれを考えついた彼の顔は、実に判りやすい悪役風に、邪悪に微笑んでいた。



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