第五十一話 アンチレグン壊滅
ローム・フライドの国境付近の森の中。その中にあまりに異様な一団が進行していた。いや、これは一団と言うより、大群という呼び方の方が似つかわしいだろう。
「アンチレグン万歳! アンチレグン万歳! 純人族万歳! 純人族万歳!」
「レグンは人類の敵ぃいいいいい~~~! 敵は我らが滅ぼす~~~!」
「アハハハハハハハッ! ヒャハハハハハハッ! ミンナシネェエエエ~~~~!」
森の中を進軍する彼らは、ついさっきまでローム王国の一般市民だった者達。だが今はゾンビと変わらない、生き人形の軍団と化している。
皆目には生気というものが微塵も感じられず、譫言のようにぶつくさ喋りながら、グングン森の中を突っ切っている。手にはノコギリ・包丁・ピッケルなどの凶器が握られていた。
そんな異常者の集団が二万人。あまりに壮絶な光景であった。
お世辞でも通りやすいとは言えない森の地面の上を、強引に突っ切るアンチレグン軍団。軟らかい土や藪に足をとられたり、前方不注意で樹木に頭をぶつけて、ひっくり返る者が大勢いたが、すぐ何事もなかったかのように立ち上がる。
一団の密集度はかなり高いので、転んだ後で、他の仲間に踏まれる者がいたが、そんなこと誰も気にしない。踏んだ者も、踏まれた本人も含めて。
中には森の獣の餌になった者もいた。すぐ側で、仲間がオオカミの群れに囓られている所を、誰も気にもとめず、そこを通り過ぎる。
そんな奇々怪々な軍勢が、国境を越えて、このフライド王国に侵入してきたのだ。もうじき国境付近の最初の村に辿り着くだろう。
村レベルの集落だと、この手勢にあっとうまに潰されてしまう。果たして村の避難は間違っているかどうか。
そんな時、その軍勢を空から見下ろす者がいた。風を纏って飛行中のゲドであった。
(話には聞いていたが・・・・・・何て気色悪い光景だよ)
上空からだと、森の枝葉のせいで地上の様子が見えにくい。だが二万人分の無数の足音・無数の譫言の大合唱・枝葉の合間から見える無数の影が、姿が見えなくてもその大群の存在感が十分に伝わってくる。
「とにかく村には行かせない! イリュージョン!」
ゲドが上空から魔法を唱えた。数時間前に大猿の異界魔に使った幻影の魔法である。だが今回出現したのは、偽ゲドではなかった。
現れたのはレグンの姿をした幻影達。衛兵・市民を含めて、ゲドの記憶にあるレグン達の姿を、ありったけ投影したのだ。
その数は約二千。アンチレグンの進軍する森の正面に、一斉に出没した。ちょうど相手の軍勢とぶつかる形である。
多くの樹木の影に隠れて見えにくいが、二千もの数となると、遠くからでもその姿がはっきりと見える。例えそれが、正気を失った狂人であっても。
「「「うがぁああああああああああああっ!!」」」
レグンの姿を視認した途端、アンチレグン達は猿の群れのように一斉に吠えだした。そして手持ちの凶器を振り回し、津波のように一斉にレグンの幻影に突撃した。
レグンの幻影達は、アンチレグンが動き出した途端に、一斉に逃げ出した。二千人の大所帯の大逃走。
幻影であり実体がないので、障害物の有無など関係ない。多くの幻影が、大木の幹や岩などを、幽霊のようにすり抜けながら走り続ける。
普通ならこの時点で、相手が追っても意味の無い者だと気づくだろう。だがアンチレグン達には、そこまでの判断能力が無かった。ニンジンをつられた馬のように、真っ直ぐにその幻影の一団を追い続けた。
その無数の猛牛のごとく駆ける足音は、森に僅かな地響きを与えるほど凄まじい。
(上手くいったな・・・・・・。だが何人か、走り出したときに転んで、仲間に踏みつぶされて死んだ奴がいる・・・・・・くそっ、後味わりぃ・・・・・・)
上空からアンチレグン達を追いながら、ゲドが心中そう毒づいた。アンチレグンは麻痺攻撃が一切通じない。何しろ彼らは、ゾンビと同じ要領で操られているから。
かといって魔法で拘束しようとすると、今朝の時のように自殺行動に出てしまう。一人でも生かして、国内の被害を食い止めるには、これが最善の方法と彼らは判断したのだ。
一方その頃の、最初に大群が目的地としていた国境付近で野村。あの大群から三キロほど離れた距離にある地区。
茅葺き屋根の木造家屋が建ち並び、一帯に田畑が広がる農業主産の、のどかな村。
今ここには、住人が一人もいなかった。
いつもなら多くの農夫が働いている畑も、仕事の一服に大勢の客が訪れていた喫茶店も、各々の家屋も、全く人の気配がない。人だけでなく犬一匹の姿もない。牧舎の中にいるはずの、豚や鶏もおらず、檻の中はスッカラカンだ。たまに小鳥の鳴き声が、僅かに聞こえてくる程度。まさにゴーストタウン状態である。
この村の住人達は、ほんの数分ほど前に、全ての住人・家畜が避難を完了させていた。
今はこんなだが、ついさっきまでは多くの輸送車両と衛兵達が行き交い、かなり騒がしかったのだ。ゲドの危惧とは違って、衛兵達の迅速な動きで、住民に危険はなさそうだ。
だが田畑・家屋の被害の可能性も考えれば、ゲドのしたことも十分意味があったと言えるだろう。
そんな静寂の場と化した無人の村で、何故かボリボリとだらしのない音が、どこかから聞こえてくる。それは休耕中の畑の方から聞こえてきた。
「くそっ! あのガキが!」
その音の発信源は、あの工作員の霊術士であった。畑の上であのワイバーンが腹這いになってしゃがんでいる。その背中の上に、工作員が近くの家屋から盗ってきた菓子を貪っているのだ。
ローム王国で行った、大掛かりな降霊召喚術。その術を常に維持し続けるためには、彼自身がその操っている対象から、あまり離れすぎてはならない。
彼はギールの霊術士の中でも、かなり強大な魔力を持つエリート術士であった。そんな彼でも、二万もの霊体を現世に呼び起こし操り続けるには、相当骨が折れる。あまり離れすぎると、彼と霊達との魔力の繋がりが途絶えて、彼らは勝手にあの世に戻ってしまうのだ。
先回りして破壊予定のこの村に来て、アンチレグン達の来訪を待っていたときに、予定外のことが起きた。ゲドが行ったイリュージョンである。まやかしのレグン達の姿に引っかかり、想定外の所に彼らは進んでいった。
(あれぐらいの数で大規模破壊を行えば、確実にフライドとロームの関係をぶち壊せたはずなのに・・・・・・・・・何で邪魔するんだよ! ガキが国の外交に手出しすんじゃねえよ! くそ! だがここで新しい命令を送れば、魔力探知でばれるかもしれんし・・・・・・)
二万分の霊に、新しい命令を上書きするには、また相当な術式を発動する必要がある。その際に出た大量の魔力で、ここの居場所がばれるかも知れない。
「どうにかして・・・・・・奴にばれないように動かす手は・・・・・・」
「必要ないよ。もうばれてるし」
ぼそぼそと独り言を呟く中、突然近くから聞こえてきた一人の若い声に、工作員は仰天した。
見ると農道の方に、ロングソードをこちらに向けて構える、一人の純人の少年がこちらを睨んでいる。その目は明確な敵意を発しており、こちらの正体がばれているようだった。
「何だお前は!? あのガキの仲間か!? いや、そもそも何故俺がここにいると判った!?」
「何故っていうか・・・・・・こんな見晴らしのいいところで、ワイバーンなんて目立つ生き物の上で、一目で霊術士だと分かる姿の人がいたわけだし・・・・・・」
ゲド達が立てた作戦はこう。まずゲドが今やっているように、アンチレグン達を人のいないところまで引き寄せる。
その間にカイが、そう遠くないところに隠れているだろう術士を見つけ出し、撃退することである。
優れた感覚能力を持つ気功士のカイならば、地上からそいつの気配を見つけ出せるかも知れない。
最初、敵は森の中のどこかに隠れているだろうと思い、森の中をくまなく走って探し回るつもりだった。キリのない作業に思えるかも知れないが、高い身体能力を持つ上位気功士のカイならば、さほど無茶な話でない。
だがその予定は、ある意味で狂った。とりあえず村の安全を確認しようと、最初にこの場所にやってきたら、見ての通りあからさまに怪しい男が、畑の真ん中でふんぞり返っていたのである。
あまりに簡単に見つけられたことと、その原因を判っていない霊術士の様子に、カイは大分白けた様子である。
「くそっ! こいつを殺せ!」
悔しさで歯ぎしりしながら、工作員はワイバーンから飛び降り、彼にカイを攻撃する命令を出した。ワイバーンは二本の足で立ち上がり、塀のように大きな翼を広げて、カイに敵意の声を上げる。
ワイバーンの胴体から、強烈な炎の魔力が、彼の口の方へと流れ込んでいく。炉のような高熱のエネルギーが、喉の中に溜まっていき、大口を開けたと共に、それが一気に放出される。
ワイバーンの口から、数十メートル離れた農道に立っているカイに向かって、盛大な炎の塊が、砲弾のごとく発射された。
直径1メートルはありそうな、竜の火球が剛速球でカイに接近していく。もし喰らったら、小さな村一つ吹き飛ばせるほどの大爆発と共に、全てが吹き飛ぶだろう。
「はぁっ!」
だがカイは、逃げも隠れもせずに、正面からその火球にぶつかっていった。気功強化が成された、ライアとの思い出の業物のロングソードを、こちらに直撃する僅か一瞬前の火球目掛けて、勢いよく斬り付けた。
ボンッ!
その激突の音は、以外と間抜けな感じであった。カイの太刀筋は、見事に火球を一刀両断にしていた。飛んでくる大型物体を斬るなど、まるで曲芸のような技である。
事はそれだけではない。カイの気功の斬撃は、火球の中に内包されていた魔力そのものを断ち切った。それによって、火の精霊力から生み出された魔法の力が消滅し、火球はまるで蝋燭の火のようにあっさりと消滅してしまった。
カイ自身も含めて、一帯の村や畑には全く損壊箇所がない。あれほどの火力エネルギーが、カイの一太刀でかき消されてしまったのだ。
(何だと!? このガキは!?)
工作員が動揺している最中にも、カイは休まずに動いた。剣を構え直し、イノシシのように勢いよく、ワイバーン目掛けて突っ込んでいった。
正面から飛び込んでくるカイに向けて、ワイバーンは二度目の炎を放った。だがたった今大技を使った直後に、すぐに発射できる小技の炎の威力などたかが知れていた。
ワイバーンの口から一筋の火炎放射が放たれた。それは今まさに、目と鼻の先にまで接近していたカイの小さな身体に直撃した。
(くっ!)
全身が炎に包まれて、カイは僅かに怯んだ。だが所詮はそれだけであった。剣技自体は未熟な点があるカイだが、肉体の強さと気功力においては、超一級の気功士である。彼の強靱な肉体からすれば、この程度の炎などさほど大した威力ではない。
剣に流し込む気功力を更に高め、剣身に必殺の力を更に溜め込む。そしてカイの突撃も止まらず、すぐに威力を落とした炎を掻き分けて、ワイバーンの胴体に向かって斬り付けた。
ただ気功を纏った斬撃ではない。以前ゲドが大猿に向かって使った技と同じ、伸びる斬撃である。伸びた剣身の長さは、あちらよりも遙かに短いが、このワイバーン分の大きさを斬るには十分な長さである。
ザシュゥウウウッ!
カイの必殺の一撃は、そのワイバーンの両翼・腹部分の胴体を、野菜のように見事に真っ二つにした。
「ギャ・・・・・・」
短い悲鳴を上げた後、身体が二つに分けられたワイバーンは、全身から細かい泡のような魔力の粒子を発散させ始める。
致命的なダメージを受けたことで、霊体の魔力と具現化状態を維持できなくなり、ワイバーンは元の幽霊も戻って消失してしまった。
自分の最強の手駒であったワイバーンをやられて、工作員は今まで以上に狼狽えた。最上級のレベルの霊術士である自分の力が、こうも容易く破られるとは・・・・・・
「馬鹿な! こんなガキにこんな簡単に倒されるなんて! 何故なんだ!?」
「あの人達を操るのに、思いっきり魔力を消費したからじゃないの?」
「あっ!」
呆れ顔のカイの指摘に、工作員は今になって気がついた。彼はアンチレグンの大群の憑依状態を維持するのに、膨大な魔力を消費していたのだ。それによってワイバーン実体化に割り当てていた魔力が、大幅に減少していた。
そうなれば当然ワイバーンの戦闘力も、いつもよりも劣る。見ると炎を被ったカイには、目立った火傷など負っていない。僅かに服が煤けた程度である。正直あんな大技を使わなくても、あの程度の敵、簡単に倒せただろう。
(くそっ! こうなったらやむを得ん!)
アンチレグンの術を全て解き、今一度完全な状態のワイバーンを、再実体化しようと試みる工作員。
だが全ては遅かった。気がつけばカイは、工作員のすぐ目の前にまで接近して、剣の柄をこちらに向けていた。
「ふぎゃ!」
カイに柄で頭を殴られて、間抜けな悲鳴を上げて工作員はあっさりと倒れる。カイの役目は想像以上に簡単に達成できた。一撃で気絶した工作員の姿を見下ろして、カイはホッとして胸をなで下ろした。
工作員の気絶は、すぐにアンチレグン達に影響を与えた。食べ物を求めるイナゴの大群のごとく、二万人もの人間がレグン達の幻影を追って、森の中を突撃する。だがその走る速度が、徐々に和らぎ始めた。
今まで一般的な人間の水準を超えた速度で、肉体の限界など全く気にせずに走り続けた一同。だがその歩が弱まっていき、やがて全員が完全に停止した。
今まで譫言のように呻いていたのが、驚くほど静かになっている。視線は皆バラバラで、虚ろな目を適当な方向にブラリブラリと動かしていたが、次第に目に生きた人間の活力が戻り始めた。
「あれ? ここどこだ?」
「私は確か・・・・・・晩ご飯の用意をしていたはずじゃ・・・・・・」
「ちょっと!? 何でこんなに汚れてるのよ!? この服いくらしたと思ってるの!」
「いったい何が・・・・・・・・・ぎゃぁああああっ! いてぇえええ!?」
彼らに乗り移った死霊達が、次々と彼らの肉体から離れて、本来居るべき世界へと昇天していく。それによって次々と正気を取り戻し始めるアンチレグン達。
彼らの声は困惑から、次第に痛みへと変わっていく。今まで無茶をして肉体を酷使して森の中を走っていた彼ら。憑依自体はそんなこと何の苦痛も感じていなかったが、今になってその反動が帰ってきたようだ。
多くの人々が全身から感じる痛みと疲労で、森の地面の上をのたうち回っていた。そんな彼らを、森の上空から、ゲドがめんどくさそうに見下ろしていた。
(このまま退散したら・・・・・・こいつら間違いなく森の中で遭難するな。あ~あ、これから先の方が大変そうだ)
それから一時間ほどして、大分日が沈み始めた頃の王都ウェストメヤ。
「それでこいつが、そのアンチレグン狂乱を起こした犯人だと?」
「はい、本当です。アンチレグンの近くで、この人が霊術の波動を発しているのを確かに見ました」
王都の入り口の方で、大勢の衛兵達を前にして、カイがそう言っている。彼の側にはステラとチビもいる。そして足下には、鎖をグルグルに巻かれて地面に倒れている、あの工作員の男がいた。
ちなみにゲドは動けないアンチレグン達の側にまだおり、今現在報告を受けた衛兵部隊が救助に向かっていた。
「なめるなよガキが! 俺を倒したからって、あいつらを止めたからって、いい気になるな! 言っとくが俺は、何をされようが絶対に口を割らんぞ!」
ついさっき目を覚ました工作員が、足下で地面に頭を寝かせながら、そう喚いていた。その発言に、衛兵達の表情に明らかな警戒心を表した。
(現状、こいつが犯人だという証拠はカイの証言だけで、何の裏付けもないわ。なのにこいつ・・・・・・自分から犯人だと白状してやがるわね・・・・・・)
この顛末にステラは呆れた。呆れたついでに、一言彼に言ってみた。
「しっかし意味不明な行為を繰り返したわね、あんたは。もしかしてフライドとロームを仲違いさせる作戦だった? だとしたらこんな作戦を考えたギール王国は、とんだ無能者ぞろいだわ」
「貴様ぁあああああああっ! 我が祖国を侮辱するか!?」
「あっ、やっぱりギールの手先だったんだ。あんたは」
口を割らないと言っておきながら、あっさりギール王国の陰謀であった事実を、怒号と共に暴露する工作員。無能もここまでいくと、ある意味見事であった。
その後、工作員は衛兵達に引っ張られていき、まもなくして空からゲドがやってきた。操られた者達も、皆無事に保護できたようだ。
翌朝になって、アンチレグン狂乱の犯人逮捕のニュースは、国中を駆け回った。原因は何者かの術による者と言うことは、以前から多くの者が認識されていた。
だがそれがギール王国の手の者であることは、フライド・ローム双方に、少なからず衝撃を与えていた。
またその報道では、犯人を捕らえたのがゲドとカイであることが、実に正直に公表されている。彼らからすれば、このことは伏せてもらった方が好都合であったのだが・・・・・・
まもなく国を出る予定だったが、しばし様子を見ようと、もう一晩王都の宿に泊まったのだが、これはまた面倒なことになった。
新聞でこの自分たちの写真を見た直後に、一行は即座に宿から出て、速攻で王都を出る。あのままこの国にいれば、どんな波風を受けるか判った者ではない。
入国と同様に、封印器にステラ達を乗せて、空へと舞い上がったゲド。飛び立った直後に、街の方から、こっちを見て何か騒いでいる様子だったが、勿論無視である。
山々の上を、逃げるよう焦りを感じさせながら、一行は飛んでいく。
「しかし今回は前ほど後味悪くなく終わったな。後始末は全部、あの国が片付けてくれたしな」
「本当なら、こんな国家レベルの騒動に巻き込まれなきゃいいんだけどね」
空の上で会話する一行。カイは無言であるが、事の顛末には大分満足しているようである。ライアを探すという目標はまだ達していないが、大分充実しきった表情で、たった今通り過ぎた国境線を眺めていた。今
回は急いでいるので、入国証などの手続きは無しである。
「でもさあ・・・・・・これで本当に一件落着かというと、ちょっと微妙なのよね」
「「何で?」」
ステラの言葉に、カイとゲドの言葉が重なった。今回のどこに、駄目なところがあったというのか?
「今回ギール王国がしたことは、前代未聞のテロ行為だわ。黒の女神が約束させた、不戦の盟約を盛大に破ってる。しかも他国を騙して、仲違いをさせようっていう最悪のやり方ね。これでロームは、異界魔の話を抜きにしても、ギールに攻め込む大義名分を得たわ」
「そもそも最初に盟約を破って、戦争を仕掛けたのはロームだったんじゃ?」
「フライドは元々戦争には反対してたし、ギールとの戦乱にも全く関与してないの。そんな無関係の国まで巻き込んだのよ? 千人近い市民を虐殺する行為でね」
「ああ・・・・・・」
納得の声を上げる二人。確かに今回のこれは、ローム・ギールの二国間の問題を、完全に超えた行為である。
これはローム以外の、これまで無関係であった国々にも、ギールを敵視する理由が出来たことになる。
ギールの指導者達は、自分のした行為の重大さを判っているのだろうか?
「ロームは多分、ギールの卑劣さを最大限にアピールして、世界中に報道するわ。もしかしたらギールの異界魔召喚なんていう戯言を、信じる国も出てくるかも・・・・・・」
一国を危機に追いやっていた問題を、英雄的に解決したつもりが、想像以上に政治的な問題を引き起こしていた。
不可抗力ではあるが、自分たちがしたことの重大さに、初めて二人が心象悪いもの感じていた。更にステラが話を続けた。
「それにフライド王国の態度も何か気になるのよね。一国の問題に、素性の知れない馬の骨が手を出したってのに・・・・・・非難を言われるわけでもなければ、感謝されるわけでもなかったわ。何だか自分たちに手を貸すのは当然って感じ・・・・・・」
「確かに言われてみれば、そんな感じだったな。あんま気にしてなかったけど」
最初は自分が余計な手出しをすれば、国の顔を潰すのではとやや心配していたゲド。だがそういったことは全くなかったのは、果たして良かったのか悪かったのか・・・・・・
「これから先、何かやるにしても、少し自重した方がいいかもしれないわね。人から勝手に動いてくれる便利屋みたいに思われると、何か色々と別の問題が起きそうだし」
大分複雑な問題の存在に気がついた一行。何とも微妙な心境に立ちながら、一行は一度逃げ去った、ローム王国領内に足を踏み入れていた。




