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第四十九話 フライド王国

 場面は変わって、ある街道を数十台の輸送車両が、アリのように綺麗に列をなして、大急ぎで走っていた。

 牽引車の中には、大勢の一般市民が何かに怯えるように、震えてながらギュウギュウ詰めになって乗っている。

 彼らは先程ゲドが遭遇した、村の避難民達である。異界魔からの脅威から逃れるために、奴の寿命が尽きるまでの間、遠方へと逃げるつもりだ。


 異界魔の死亡が確認されたら、すぐ元の村に戻れるかどうかは、かなり微妙な可能性である。異界魔の生体反応が確認された場所は、あの村から結構近い距離にある。恐らくあの土地は、異界魔に全て破壊し尽くされるだろうと、誰もが諦めていた。


 そんな絶望感漂う空気を纏った一行の元に、空からの来客が現れた。車両の運転手達が、強い魔力の流れから、真っ先に気がつく。


「あいつは・・・・・・ゲドか!?」


 窓から後ろを覗くと、さっきも空から目撃した、あの空飛ぶ麦わら帽子少女が、こちらに向けて飛んでくるのが判った。

 うっかり追い越してしまわないように、大分スピードを抑えている。そしてこちらに向けて、手を振っている。もしかして止まれと言ってるのだろうか。


 先頭車両にいる隊長から、全車両に向けて無線が送られてきた。


『全車両、一時停止しろ! あの娘に確認したいことがある!』

「ええ!? いいのですか!?」

『ああ、私の読み通りなら、このまま逃げる必要は無いのかも知れない』


 隊列を乱さないように注意しながら、全速力で走っている車両部隊が、次々と停止していく。

 急な停止命令だったので、車両同士が接触して、中の避難民がひっくり返るほどの衝撃を出してしまった者もいた。


「どういうことだ!? もう安全地区に着いたのか?」

『一時停止です。しばらくそこでお待ちください』

「何を待つんだよ!? 理由を説明しろ!」


 困惑しながらも、何人かの勇気ある村人達が、牽引車から外に出てきてみる。彼らが見たのは、最近新聞でもよく取り上げられるようになった、あの謎の少女=ゲドが、衛兵達と何かを話している光景であった。


「では出現した異界魔は、あなたが倒したと言うことで間違いないのですね」

「ああ、そうだ。嘘だと思うなら見に行ってみればいいさ。派手に森が荒れてるから、すぐに判るぜ」


 異界魔を寿命が来る前に倒すなど、普通ならば考えられないこと。だが目の前の少女のことならば、大分信憑性がある。

 すぐに探索用の鳥型ロボットを出撃させて、確認に向かわせる。実はその前にも、監視用の鳥を送っていたのだが、大猿の雄叫びの音撃で壊れてしまった。

 だが直前にゲドが大猿と接触したところまでは、鳥の目を通して操っていた衛兵も見ていた。そのため衛兵達のゲドの話への理解が、驚くほど早かったのである。


「あの・・・・・・では村は無事なんでしょうか?」

「ああ、無事だぜ。ただ森が少し壊れちまったがな」

「今、こちらから確認に向かわせているので、それまで皆さんお待ちを!」


 ゲドの言葉で村人達がざわめきはじめたのを、衛兵達が必死に静めている。そんな時、ゲドがその場の全員に向けて、大きく声を上げてあることを発表した。


「ええ~~~~丁度いいから、今ここで言っちゃうぜ! お前らもこのことを、ちゃんと上に伝えておけ! 俺はアンチレグン狂乱の原因を突き止めた!」

「「「!!??」」」


 その場が一気に静まった。だが人々の表情は驚きに満ちている。異界魔関連の話が中心で進んでたのに、急にアンチレグンの話が出てきた。しかもその原因に気づいたというのだ。


「実は異界魔と戦ってる間に、アンチレグンが乱入してきたんだ。そいつの死体も、あいつのすぐ近くにあるはずだ。それでそいつの身体を調べて判った。奴らは死霊に憑依されている!」


 静かだったその場が、再びざわめき始める。


「憑依だって!? 呪術じゃないのか!?」

「ゲド殿、それは本当に確かなのか?」


 ゲドが肯定の意思を込めて、首を縦に振る。


「信じられないなら、信じなくていい。俺はただ知ったことを言うだけだから、後の判断はお前らに任せる。やつらの身体は、死霊に意識も身体も完全に乗っ取られた状態だった。しかもその霊は皆自我を失っていて、明らかに自分から憑依したわけじゃない。恐らく世間で言うところの“霊術士”て奴の仕業だろうよ! しかもかなり上位レベルのな。そいつが死霊を操って人に取り憑かせて、二重の形で操ってたんだな!」


 唐突に出てきた話に、すぐには信じられない衛兵達。だがどこかで納得できる部分があった。犯人は呪術士という説が有力視されていたが、霊術士説も一部であったのだ。

 普通ならば、こんな得体の知れない奴の言うことなど、そうそう間に受けることなどない。だがゲドがこれまでしてきたことと、異界魔を倒したらしい事実を考えれば、考慮に入れる価値無しとバッサリ切るのは、愚かな判断に思える。


「とりあえず、言うべきとは言った。それじゃあな!」


 もうここに用はないと言わんばかりに、ゲドは再び空へと飛んでいき、遙か彼方に去って行った。

 後に残された者達は、ある者達は今の発言の真偽で議論し合い、ある者達は呆然とした表情でゲドの飛び去った方向を凝視し続けている。

 そんな中、すぐに我を取り戻した衛兵隊の隊長らしき人物が、車両に戻って無線に手を取った。そして彼は、たった今起こった出来事を、包み隠さず本部に話し始めた。






 一時間ほどで帰還したゲドは、そこの宿で待っていた二人に向けて、さっきと同じ話をした。


「・・・・・・ていうわけで、あれは呪術じゃなくて、霊術だったわけだ。ようするにシンシアの手がかりは無しって訳だ」

「霊術ね。確かに憑依した奴には、借り物の肉体がどう壊れようが屁でもないわね。納得だわ。でも何が目的で、こんな血生臭い騒ぎを起こしたのかしら?」

「それでゲドさんはどうするんですか?」


 カイの問いに、少々悩ましげな様子を見せながら、ゲドは答える。


「う~~~~~ん・・・・・・。呪術士の手がかりがないとなると、ライアのことを虱潰しに聞き回ってみるか? それとも勇者や闇商売の奴らを、片っ端から叩いて聞き出してみるか・・・・・・?」

「いや、そうじゃなくて・・・・・・アンチレグンをどうするのかって話だよ」

「どうするのかって? どうもしないけれど?」

「ええっ!?」


 これにカイは何故か驚いた様子を見せる。ステラもカイほどではないが、やや驚いているようだ。ゲドは呆れながら、その二人が疑問に思ってるだろうことを答えてみる。


「こういうのは、お国の奴らに任しときゃいいんだよ。ここは無法地帯のロームとは事情が違うんだ。相手が霊術士と判れば、それなりに新しい策を衛兵共が考えるだろうさ」

「意外な反応ね。どこでも好き勝手に暴れる脳筋だと思ってたわ」

「フレットのことで、俺も少しは学習したんだよ。ただの猿みたいに侮るなよ」

「でも・・・・・・もし衛兵の手に負えないような事態だったら?」


 そこまで考えていなかったようで、ゲドが再び思い直してみる。


「う~~~ん。少しの間、様子見とするか? この国から出て、しばらくして様子を見に来ればいい。政府の対策が、上手くいってるかで判断するよ」


 まるで国の力量を試すかのような、上から目線のゲドの発想。だがステラもカイも、それが傲慢だとは思わなかった。彼女にはそれだけの力があるのだ。

 ひとまずライア探しの為に、考え出されたのは、今まで通り勇者や盗賊・猿屋を狩りながら、シンシアの情報を聞き出してみる方向に話は進んでいった。





 所変わってここは王都の中心にあるウェストメヤ城の中。その中のある一室に、彼女はいた。

 その彼女とは、三十歳ぐらいのレグン族の女性で、Tシャツに短パン一丁という、あまりに薄着過ぎる身なりをしていた。服も少し汚れており、ずぼらな印象を受けるが、髪だけは綺麗に整えられている。


 彼女の部屋はかなり広めで、壁側にある窓やカーテンは、それなりに高級そうな品質である。だが部屋の中は、酷い散らかりようだった。

 本棚が多く並んでいるが、その機能の半分が上手く活用されていない。大量の本が床一帯にばらまかれている。その本の多くが、漫画や小説などの娯楽本であった。


 彼女はある一台の機械と正面から向き合っている。その機械は、現在起動中のテレビであった。これもレグン族の、優れた機械技術の賜である。

 そのテレビと繋がれた機械のコントローラをピコピコと押しながら、傍らにある更に山盛りになったスナック菓子に、何度も手を突っ込んでいる。結論を言えばこの女は、部屋の中で菓子をむさぼりながら、胡座をかいてゲームをしていた。


 そのちょっと不潔なその空間の扉から、複数回のノックの音が聞こえてきた。


「掃除ならいらないわよ! ここは私以外立ち入り禁止!」

「ベンジーです! あのゲドという少女の件で、お伝えしたいことがあります!」

「う~~~ん? じゃあ、あまり散らかさないように入って頂戴ね」

「これ以上この部屋を、どう散らかせと?」


 部屋の扉が開かれ、四十代ぐらいのレグン男性=ベンジーが入室してくる。地味で質素なファッションデザインが多いレグン族の服装の中では、この男性の身なりは結構豪華な装いである。

 長袖のチョッキには、金のラインとキリンを模った刺繍の文様が施されている。腕の羽には、髪飾りの翼版のような装飾品が止められていた。異文化的な貴族の装いである。


「陛下、あなたもそろそろ仕事に戻ってくださいよ。もう大分溜まってますよ・・・・・・」

「うん・・・・・・後一時間ぐらい待って」


 ベンジーが陛下と呼んだ女。なんとこの人こそが、このフライド王国の国王であった。怠け癖があって、よく仕事を抜け出しては、こうしてゲームや読書(漫画など)に長時間没頭して、王宮の者達を困らせていた。


「あのゲドという少女に関しての話ですが・・・・・・」

「え? ああ、どうだったの?」


 めんどくさそうだった国王は、ゲドの話題に少しだ興味を示した素振りである。ただしゲームは未だプレイ中。ベンジーの方に顔を向けてはいない。


「彼女の言った霊術士説。対策班の話では、十分あり得る話だとのことです。ですが何者が言ったにせよ、所詮は一個人の証言ですので確定は出来ません。ですが衛兵達にはその説を確信している者が多数いて、霊術士の捜索を独自に行っている者がいるようです」

「ふーーーん。そんで異界魔は?」

「大型の猿型の異界魔の死体が確認されました。現在検死中ですが、あれは明らかに寿命による死ではないとのこと。それと彼女の証言通り、アンチレグンと思われる純人の死体が付近で発見されました」

「へえ、やっぱりすごいじゃんあの子! 本当に異界魔を倒せちゃうんだ!」


 国王がカラカラ笑いながら、感心の声を上げる。そして続けてこう言いだした。


「これなら後のこと、私らが真剣に考える必要はなさそうね」

「はい?」


 意図の判らない発言に、今まで無表情に報告していたベンジーの表情が、やや崩れた。


「アンチレグン共のことよ。私らが何もしなくたって、どうせあの子が不思議な女神パワーでどうにかしてくれるわ。いやあ、丁度いいときにこの国に来てくれて助かったわ! これで全て一件落着って感じ? あはははははっ!」


 ゲドが情報をフライド王国に提供したが、結局政府が何か新しい政策を立てることはなかった。



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