第四十四話 アンチレグン
国境駅近くにある街=スリースワンプに一行はやってきた。
石造りの建物が中心だった、フレットとは異なり、こちらは木造建築の建物が主流である。ただし屋根は石製の瓦屋根であった。また所々に土作りの建物も、ちらほらと見受けられる。
スリースワンプの人口は一万人程度。街を歩く人々には、今のところゲド達と同じ純人の姿は一人も見受けられない。
街を歩く者の全員が、半鶏半人のレグン族であった。服装は半ズボン・Tシャツの上に、花や動物など各々特徴的な模様が描かれたチョッキを着込んだ、薄着の者が多かった。また鱗が生えた足が頑丈で必要ないためか、靴を履いている者は少ない。
フライド王国は、フレットと同じ位置地域にある国である。だがフレットのような高山地帯ではないので、全域に温暖な気候だ。そのため多くの季節を、住人達は薄着できている。
純人以外の人種を初めて見るゲドには、住人が鳥のような足を丸見えにして出歩いているこの街が、モンスターの集落のように錯覚した。だがそれが差別的な感想だと恥じ、すぐに気を取り直して本題に入る。
「まずライアをどうやって探す? この国に来たのは間違いないようだがな」
「まずは衛兵に聞くのが普通ですけど・・・・・・さっき聞いたばかりですよね」
「剣を差した女の子ってのは、結構珍しいでしょうから、意外と誰か覚えてるかも知れないわね。・・・・・・でも何か話しづらそうな雰囲気ね」
街の住人達は、ゲド一行=見知らぬ純人の一団を、チラチラと注視している。別に純人が珍しいわけではない。それは余所者に対する警戒心であった。
「すいません。お聞きしたいことがあるんですけど・・・・・・うわっ」
試しにステラが、道を歩いている通行人に、適当に声をかける。だが彼は小さな悲鳴を上げて、そそくさと彼女から逃げていった。ためしにもう一人に話しかけると、無言のまま、無理にこちらを無視して走り去っていった。
「これは相当深刻だな・・・・・・」
フレットとの交流が盛んだったこの街は、少し前まではこんな風ではなかった。だがどうやら先程衛兵の話してい事は本当のようだった。
この辺のニュースは、騒乱で忙しかったフレットでは、全く話題に上がっていなかったが。
「どうする? このままじゃ埒が明かないが?」
「酒場に行きましょう。この街にも、情報交換の場所になっている飲み場はあるの。そこなら嫌でも無視なんか出来ないでしょうし」
やがてステラが昔通ったことがあるという酒場に到着した。その酒場も木造の建物だった。中は結構広く、酒の臭いと一緒に、朗らかな木の香りもしてくる。
そろそろ夕方であるためか、人が少しずつ入り始めた時間帯だ。
中にいた客は、一斉にゲド達を眺めて、何やらヒソヒソと話し始めた。やはりここでも純人は警戒されているようだ。
ステラは真っ直ぐに、酒場の店主がいるカウンターに寄っていく。ゲドとカイは二人とも子供で、チビは人間ですらない。こういう場所では、唯一成人のステラが前に出るのが必然になる。
「やあ、マスター。ちょっと聞きたい話があるんだけどさ・・・・・・」
「その前に確認させろ。お前達は“正気”だよな?」
70歳はいってそうな店主が、見た目とは裏腹にしっかりした声色で、彼女らに警戒心あらわにしながら問いかける。周囲にいる客達も、そのやりとりに緊迫しながら聞き入っていた。
「ええ、勿論正気よ。そもそも私たちはローム人じゃないし。ほら」
そう言って、自分の身分証を見せるステラ。一応ゲドはローム人なのだが、あの姿ではそれを誤魔化してもばれないだろう。
「これでも信じられないかしら?」
「いや信じよう。それにそっちの嬢ちゃんは、フレットで色々やらかしたあの子だろう?」
「ええ、そうよ。少なくとも、あの変な病気にかかるほどヤワじゃないわ」
その言葉に、酒場の中から複数の安堵の息が流れた。ようやくこれで、まともな話ができそうである。
「人を探してるんですけど・・・・・・」
「こんなガキを探してる。知らないか?」
カイが戸惑いながら説明する前に、ゲドが用件を率直に述べる。
ゲドがある方向に指先を向けると、ゲドと店主の間の空間に、透明な写真が浮いているような、幻影が映し出された。それはまるで小型の映画スクリーンのようで、ある少女の姿が実写で映し出されていた。
その映像に映っているのは、紛れもなくライアである。服装や彼女の周辺の映像を見る限り、ゲドが二度目に気功学校を訪れたときの記憶映像だろう。
ゲドの珍しい魔法に、店主はやや動揺するものの、すぐに平静になって答える。
「ああ、この嬢ちゃんなら知ってるよ。少し前にここに話をしに来た」
「本当ですか!? どこに!?」
「さあな。人を探していると言ってたが、生憎俺にも分からない情報だったんでね」
こっちはライアを探しに来たのだが、向こうも人を探していた。これは一体どういうことか? 一行は疑問に思う。
「誰を探してるって言ってた?」
「シンシアっていう、呪術士の冒険者さ」
「シンシア!?」
この名前に一行はとても聞き覚えがあった。シンシアというのは、カイにサプレッションの呪いをかけさせるために、アルマが雇った冒険者である。
当時その女呪術士を雇ったのは、もう五年も前のこと。アルマから話を聞き出したが、もう国内にはいないだろうし、今さら捜索しても探しようがない状態だった。まさかそれをライアが探していたとは・・・・・・
「ちょっとゲド・・・・・・。あんたがあんなこと言ったせいじゃないの? 確か“自分じゃ何もできないくせに~~”とか」
「そうかもしれないな。適当に減らず口を叫んだだけだったんだが・・・・・・まさか本気にするとはな」
「そっ、それでライアは!? どこに行くとか?」
店主は無言で首を縦に振った。
「何も言ってない。俺が何も知らないと言ったら、残念そうにここを出て行ったよ」
手がかりは得られたようで、肝心な情報は手に入れられなかった一行。店主に情報料という金を渡して、早々に酒臭い建物の中を出る。
「ステラさんは冒険者だったんですよね? それじゃあシンシアっていう人に、何か聞いたことはありませんか?」
「いや全然。ていうか冒険者なんて腐るほどいるし。そいつから探そうにも、雲を掴むような話ね」
「凄腕の呪術士、ていう特徴で、結構絞り込めるんじゃね?」
「う~~~~ん。どうかしらね?」
一応ライアがこの国に来たという情報は得られた。最もこの国にも鉄道はあるし、早々にこの国を去った可能性は十分にあるが。ひとまず今日の宿を探そうと、街を歩いているときだった。
ヂリリリリリリリリーーーーー!
突如街中を震え上がらせるぐらいの、大音量の固い金属音が、一体に盛大に鳴らされた。
あまりに唐突だっために、通行人の中にはうっかり物を落としたり、反射的に耳を塞ぐ者が大勢いた。これは緊急警報のベルである。すぐに街一帯に警告を伝える、放送が発せられた。
『緊急警報! 緊急警報! 西方の〇〇地区に、アンチレグンが接近している模様! 付近の住人は、速やかにそこから退避してください!』
その警報が指示された場所、街の西区のある工業団地にて。警報が速かったおかげで、住人はいち早く、この場から退避している。
ゴーストタウンのように、人の賑わいが減った農業ハウスのような金属の建物の数々。その場所に騒がしい闖入者が出現していた。
「出てこい汚らわしい鶏共! 出てきて、俺らと勝負しろ!」
「うらうらうらうらうらら~~~~~! 死ね死ね死ね士ね~~~! ひゃっは~~~!」
「ぐわーーーはっはっはっはっは! 悪しき種族は皆殺しだぁーーーーーー!」
闖入者の数は十名ほど、皆軽機関銃を手に持ち、背中に弾倉を大量に詰めた大きなバックを背負っている。
彼らは狙いなど定めず、あちらこちらを撃ちまくって、建物に蜂の巣のような穴を開けていく。弾がなくなると、素早くバックから次の弾倉を装着し直した。
彼らは性別も年齢もバラバラの男女で、薄汚れた庶民の一般的な服を着ている。一体どういう経緯で徒党を組んでいるのか、全くの不明だ。判るのは、彼らが全員が純人であるということと、どう見ても正気とは思えない様相であることだ。
真っ赤に充血した目は据わっており、狂ったように叫ぶ度に、口から大量の唾液がビチャビチャと、濡れたタオルを振り回すように飛ばしている。
表情は醜く歪んでおり、一瞬こいつらは人ではなく鬼なのでは?と疑いたくなるレベルだ。
「きゃっは~~~~! しっねぇええええええ! はぐぁ!?」
誰もいない街の中を無差別に撃ちまくっている内に、彼らの中の一人が、味方の撃った弾丸に被弾した。
背中に二発、首に一発、高速高出力で放たれた金属の塊が貫き、反対側から血しぶきを花火のように散らす。
「うげ・・・・・・がぁ・・・・・・・・・レグン・・・死ね・・・・・・」
胸と喉から水道管のように血をドバドバと流しながらも、その三十代ぐらいの女性は、最後までレグンへの殺意を口にしながら倒れる。後は何も喋らず、ただピクピクと痙攣していたが、やがて全く動かなくなった。
味方が誤写で死亡するという事態が発生したにも関わらず、彼らの無差別攻撃は止まなかった。それどころか死んだ仲間のことなど、誰も気にかけず、最初からいなかったかのように、器物破損という罪を犯し続けていた。
そんな狂気の場所に駆けつけてくる者がいた。それは衛兵ではなく、何とカイを先頭にしたあの一行であった。
「何をしてるんだ、お前達は!」
怒りの声を上げて、カイがこの暴徒達に剣を突きつけて叫ぶ。その後ろでは、ゲドとステラが、呆れ顔で傍観していた。
あの放送を聞いて、カイが一目散にその場所へと走って行ったのだ。いきなりの単独行動に、ゲドとステラが慌てて彼を追い、今に至るのだ。
「おい、カイ・・・・・・正義感溢れるのはいいが、これは余計な手出しだぞ。別に俺らが出なくても、後から衛兵が来る」
暴徒達の方は、一旦発砲を止めて、こちらに注目していた。
最も目の焦点はあっておらず、グラグラと目線が揺れている。叫び疲れているのか、舌を出しながら、犬のように荒い息づかいを放っている。
「ひぃーーーーーーーはぁーーーーーーーー!」
やがて一人の暴徒が、こちらに向かって銃を向けた。今まさにその引き金が放たれようとしたとき・・・・・・
「止まれアンチレグン共!」
ゲド達がいるところと右側の離れた道から、そこに街の衛兵達が駆けつけてきた。人数は七人。ゲド達が駅で出くわした者達と、同じような装備を見つけている。これにゲドがホッと一息をつく。
「ほらな。こういうのは俺達が手を出すまでもないんだよ・・・・・・」
一瞬前までこちらに銃口を向けていた暴徒達も、すぐに関心をそっちの方に向ける。そしてゲド達を無視して銃口の先も、そのレグンの衛兵達に向き直した。
「出たな、レグンーーーー! 皆殺しだぁーーーーー!」
彼らが一斉に衛兵達に発砲した。秒間十発で発射される攻撃が、全部で9門。弾丸の嵐が衛兵達に襲いかかる。
レグン達はそれらを全て、刀でガードした。気功の光で青く輝く刀身に弾丸が当たる。弾丸は刀身と激突と同時に、砂のように細かく砕け散って、空中に拡散していく。
何発か受け止めきれずに、肩や胸に被弾する者もいた。彼らは一瞬痛みで怯むが、態勢を崩すほどでなく、弾丸を刀で受け止めていく。
鉄板を軽く貫く弾丸を受けても、その身体から血が流れることはなく、さほど大したダメージにはならない。肉体の頑強な、気功士ならではの打たれ強さである。
弾倉を全て撃ち尽くして、暴徒達の攻撃に大きな隙が出来た。慌ててバックから、次の弾倉を取り出そうとする。
この隙を逃す手はない。通常ならば、ここで優れた身体能力を持った気功士の衛兵達が、素早く走って間合いを詰めて、彼らを取り押さえるのが通例であろう。だがこの場は、その通例通りにはならなかった。
「「「はぁっ!」」」
衛兵達は一斉に、暴徒達のいる方向目掛けて刀を振るい、飛斬撃を放った。三日月のような形をした飛ぶ斬撃が、矢をも凌ぐ速さでそちらへ飛び、暴徒達を次々と斬り倒していく。
ある者は首が飛んだ。
ある者は右上腕と胸を斬られて倒れる。
ある者は腹から、胴体真っ二つにされた。
野菜のようにバサバサと斬られ、暴徒達はあっという間に倒れていった。逮捕など一切考えない、即決の殲滅である。




