表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/83

第四十四話 アンチレグン

 国境駅近くにある街=スリースワンプに一行はやってきた。

 石造りの建物が中心だった、フレットとは異なり、こちらは木造建築の建物が主流である。ただし屋根は石製の瓦屋根であった。また所々に土作りの建物も、ちらほらと見受けられる。


 スリースワンプの人口は一万人程度。街を歩く人々には、今のところゲド達と同じ純人の姿は一人も見受けられない。

 街を歩く者の全員が、半鶏半人のレグン族であった。服装は半ズボン・Tシャツの上に、花や動物など各々特徴的な模様が描かれたチョッキを着込んだ、薄着の者が多かった。また鱗が生えた足が頑丈で必要ないためか、靴を履いている者は少ない。

フライド王国は、フレットと同じ位置地域にある国である。だがフレットのような高山地帯ではないので、全域に温暖な気候だ。そのため多くの季節を、住人達は薄着できている。


 純人以外の人種を初めて見るゲドには、住人が鳥のような足を丸見えにして出歩いているこの街が、モンスターの集落のように錯覚した。だがそれが差別的な感想だと恥じ、すぐに気を取り直して本題に入る。


「まずライアをどうやって探す? この国に来たのは間違いないようだがな」

「まずは衛兵に聞くのが普通ですけど・・・・・・さっき聞いたばかりですよね」

「剣を差した女の子ってのは、結構珍しいでしょうから、意外と誰か覚えてるかも知れないわね。・・・・・・でも何か話しづらそうな雰囲気ね」


 街の住人達は、ゲド一行=見知らぬ純人の一団を、チラチラと注視している。別に純人が珍しいわけではない。それは余所者に対する警戒心であった。


「すいません。お聞きしたいことがあるんですけど・・・・・・うわっ」


 試しにステラが、道を歩いている通行人に、適当に声をかける。だが彼は小さな悲鳴を上げて、そそくさと彼女から逃げていった。ためしにもう一人に話しかけると、無言のまま、無理にこちらを無視して走り去っていった。


「これは相当深刻だな・・・・・・」


 フレットとの交流が盛んだったこの街は、少し前まではこんな風ではなかった。だがどうやら先程衛兵の話してい事は本当のようだった。

 この辺のニュースは、騒乱で忙しかったフレットでは、全く話題に上がっていなかったが。


「どうする? このままじゃ埒が明かないが?」

「酒場に行きましょう。この街にも、情報交換の場所になっている飲み場はあるの。そこなら嫌でも無視なんか出来ないでしょうし」






 やがてステラが昔通ったことがあるという酒場に到着した。その酒場も木造の建物だった。中は結構広く、酒の臭いと一緒に、朗らかな木の香りもしてくる。

 そろそろ夕方であるためか、人が少しずつ入り始めた時間帯だ。


 中にいた客は、一斉にゲド達を眺めて、何やらヒソヒソと話し始めた。やはりここでも純人は警戒されているようだ。

 ステラは真っ直ぐに、酒場の店主がいるカウンターに寄っていく。ゲドとカイは二人とも子供で、チビは人間ですらない。こういう場所では、唯一成人のステラが前に出るのが必然になる。


「やあ、マスター。ちょっと聞きたい話があるんだけどさ・・・・・・」

「その前に確認させろ。お前達は“正気”だよな?」


 70歳はいってそうな店主が、見た目とは裏腹にしっかりした声色で、彼女らに警戒心あらわにしながら問いかける。周囲にいる客達も、そのやりとりに緊迫しながら聞き入っていた。


「ええ、勿論正気よ。そもそも私たちはローム人じゃないし。ほら」


 そう言って、自分の身分証を見せるステラ。一応ゲドはローム人なのだが、あの姿ではそれを誤魔化してもばれないだろう。


「これでも信じられないかしら?」

「いや信じよう。それにそっちの嬢ちゃんは、フレットで色々やらかしたあの子だろう?」

「ええ、そうよ。少なくとも、あの変な病気にかかるほどヤワじゃないわ」


 その言葉に、酒場の中から複数の安堵の息が流れた。ようやくこれで、まともな話ができそうである。


「人を探してるんですけど・・・・・・」

「こんなガキを探してる。知らないか?」


 カイが戸惑いながら説明する前に、ゲドが用件を率直に述べる。

 ゲドがある方向に指先を向けると、ゲドと店主の間の空間に、透明な写真が浮いているような、幻影が映し出された。それはまるで小型の映画スクリーンのようで、ある少女の姿が実写で映し出されていた。

 その映像に映っているのは、紛れもなくライアである。服装や彼女の周辺の映像を見る限り、ゲドが二度目に気功学校を訪れたときの記憶映像だろう。


 ゲドの珍しい魔法に、店主はやや動揺するものの、すぐに平静になって答える。


「ああ、この嬢ちゃんなら知ってるよ。少し前にここに話をしに来た」

「本当ですか!? どこに!?」

「さあな。人を探していると言ってたが、生憎俺にも分からない情報だったんでね」


 こっちはライアを探しに来たのだが、向こうも人を探していた。これは一体どういうことか? 一行は疑問に思う。


「誰を探してるって言ってた?」

「シンシアっていう、呪術士の冒険者さ」

「シンシア!?」


 この名前に一行はとても聞き覚えがあった。シンシアというのは、カイにサプレッションの呪いをかけさせるために、アルマが雇った冒険者である。

 当時その女呪術士を雇ったのは、もう五年も前のこと。アルマから話を聞き出したが、もう国内にはいないだろうし、今さら捜索しても探しようがない状態だった。まさかそれをライアが探していたとは・・・・・・


「ちょっとゲド・・・・・・。あんたがあんなこと言ったせいじゃないの? 確か“自分じゃ何もできないくせに~~”とか」

「そうかもしれないな。適当に減らず口を叫んだだけだったんだが・・・・・・まさか本気にするとはな」

「そっ、それでライアは!? どこに行くとか?」


 店主は無言で首を縦に振った。


「何も言ってない。俺が何も知らないと言ったら、残念そうにここを出て行ったよ」






 手がかりは得られたようで、肝心な情報は手に入れられなかった一行。店主に情報料という金を渡して、早々に酒臭い建物の中を出る。


「ステラさんは冒険者だったんですよね? それじゃあシンシアっていう人に、何か聞いたことはありませんか?」

「いや全然。ていうか冒険者なんて腐るほどいるし。そいつから探そうにも、雲を掴むような話ね」

「凄腕の呪術士、ていう特徴で、結構絞り込めるんじゃね?」

「う~~~~ん。どうかしらね?」


 一応ライアがこの国に来たという情報は得られた。最もこの国にも鉄道はあるし、早々にこの国を去った可能性は十分にあるが。ひとまず今日の宿を探そうと、街を歩いているときだった。


 ヂリリリリリリリリーーーーー!


 突如街中を震え上がらせるぐらいの、大音量の固い金属音が、一体に盛大に鳴らされた。

 あまりに唐突だっために、通行人の中にはうっかり物を落としたり、反射的に耳を塞ぐ者が大勢いた。これは緊急警報のベルである。すぐに街一帯に警告を伝える、放送が発せられた。


『緊急警報! 緊急警報! 西方の〇〇地区に、アンチレグンが接近している模様! 付近の住人は、速やかにそこから退避してください!』






 その警報が指示された場所、街の西区のある工業団地にて。警報が速かったおかげで、住人はいち早く、この場から退避している。

 ゴーストタウンのように、人の賑わいが減った農業ハウスのような金属の建物の数々。その場所に騒がしい闖入者が出現していた。


「出てこい汚らわしい鶏共! 出てきて、俺らと勝負しろ!」

「うらうらうらうらうらら~~~~~! 死ね死ね死ね士ね~~~! ひゃっは~~~!」

「ぐわーーーはっはっはっはっは! 悪しき種族は皆殺しだぁーーーーーー!」


 闖入者の数は十名ほど、皆軽機関銃を手に持ち、背中に弾倉を大量に詰めた大きなバックを背負っている。

 彼らは狙いなど定めず、あちらこちらを撃ちまくって、建物に蜂の巣のような穴を開けていく。弾がなくなると、素早くバックから次の弾倉を装着し直した。

 彼らは性別も年齢もバラバラの男女で、薄汚れた庶民の一般的な服を着ている。一体どういう経緯で徒党を組んでいるのか、全くの不明だ。判るのは、彼らが全員が純人であるということと、どう見ても正気とは思えない様相であることだ。


 真っ赤に充血した目は据わっており、狂ったように叫ぶ度に、口から大量の唾液がビチャビチャと、濡れたタオルを振り回すように飛ばしている。

 表情は醜く歪んでおり、一瞬こいつらは人ではなく鬼なのでは?と疑いたくなるレベルだ。


「きゃっは~~~~! しっねぇええええええ! はぐぁ!?」


 誰もいない街の中を無差別に撃ちまくっている内に、彼らの中の一人が、味方の撃った弾丸に被弾した。

 背中に二発、首に一発、高速高出力で放たれた金属の塊が貫き、反対側から血しぶきを花火のように散らす。


「うげ・・・・・・がぁ・・・・・・・・・レグン・・・死ね・・・・・・」


 胸と喉から水道管のように血をドバドバと流しながらも、その三十代ぐらいの女性は、最後までレグンへの殺意を口にしながら倒れる。後は何も喋らず、ただピクピクと痙攣していたが、やがて全く動かなくなった。

 味方が誤写で死亡するという事態が発生したにも関わらず、彼らの無差別攻撃は止まなかった。それどころか死んだ仲間のことなど、誰も気にかけず、最初からいなかったかのように、器物破損という罪を犯し続けていた。


 そんな狂気の場所に駆けつけてくる者がいた。それは衛兵ではなく、何とカイを先頭にしたあの一行であった。


「何をしてるんだ、お前達は!」


 怒りの声を上げて、カイがこの暴徒達に剣を突きつけて叫ぶ。その後ろでは、ゲドとステラが、呆れ顔で傍観していた。

 あの放送を聞いて、カイが一目散にその場所へと走って行ったのだ。いきなりの単独行動に、ゲドとステラが慌てて彼を追い、今に至るのだ。


「おい、カイ・・・・・・正義感溢れるのはいいが、これは余計な手出しだぞ。別に俺らが出なくても、後から衛兵が来る」


 暴徒達の方は、一旦発砲を止めて、こちらに注目していた。

 最も目の焦点はあっておらず、グラグラと目線が揺れている。叫び疲れているのか、舌を出しながら、犬のように荒い息づかいを放っている。


「ひぃーーーーーーーはぁーーーーーーーー!」


 やがて一人の暴徒が、こちらに向かって銃を向けた。今まさにその引き金が放たれようとしたとき・・・・・・


「止まれアンチレグン共!」


 ゲド達がいるところと右側の離れた道から、そこに街の衛兵達が駆けつけてきた。人数は七人。ゲド達が駅で出くわした者達と、同じような装備を見つけている。これにゲドがホッと一息をつく。


「ほらな。こういうのは俺達が手を出すまでもないんだよ・・・・・・」


 一瞬前までこちらに銃口を向けていた暴徒達も、すぐに関心をそっちの方に向ける。そしてゲド達を無視して銃口の先も、そのレグンの衛兵達に向き直した。


「出たな、レグンーーーー! 皆殺しだぁーーーーー!」


 彼らが一斉に衛兵達に発砲した。秒間十発で発射される攻撃が、全部で9門。弾丸の嵐が衛兵達に襲いかかる。

 レグン達はそれらを全て、刀でガードした。気功の光で青く輝く刀身に弾丸が当たる。弾丸は刀身と激突と同時に、砂のように細かく砕け散って、空中に拡散していく。

 何発か受け止めきれずに、肩や胸に被弾する者もいた。彼らは一瞬痛みで怯むが、態勢を崩すほどでなく、弾丸を刀で受け止めていく。

 鉄板を軽く貫く弾丸を受けても、その身体から血が流れることはなく、さほど大したダメージにはならない。肉体の頑強な、気功士ならではの打たれ強さである。


 弾倉を全て撃ち尽くして、暴徒達の攻撃に大きな隙が出来た。慌ててバックから、次の弾倉を取り出そうとする。

 この隙を逃す手はない。通常ならば、ここで優れた身体能力を持った気功士の衛兵達が、素早く走って間合いを詰めて、彼らを取り押さえるのが通例であろう。だがこの場は、その通例通りにはならなかった。


「「「はぁっ!」」」


 衛兵達は一斉に、暴徒達のいる方向目掛けて刀を振るい、飛斬撃を放った。三日月のような形をした飛ぶ斬撃が、矢をも凌ぐ速さでそちらへ飛び、暴徒達を次々と斬り倒していく。


 ある者は首が飛んだ。

 ある者は右上腕と胸を斬られて倒れる。

 ある者は腹から、胴体真っ二つにされた。


 野菜のようにバサバサと斬られ、暴徒達はあっという間に倒れていった。逮捕など一切考えない、即決の殲滅である。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ