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第四十三話 レグン族

 即日に街を出ることになった一行。ステラの家族と別れの挨拶を交わし、街へ出る。

 一応街の中で飛ぶのは規則違反なので、歩いて街の入り口へ行くゲド・ステラ・カイ・チビ。勿論あのバケツ型の封印器も、ゲドが手で持ち上げて一緒に連れている。

 途中で遠くから、勇者達の悪巧みの声が聞こえて、ゲドが十発ほど風輪を撃った以外では、特に問題なく街の外に出た。そして街の城壁の外の、ある林の中でゲドが今後に関して問いかける。


「それで出発したのは良いけどよ。まずはどこから探すんだ?」

「うん?」

「え?」


 ゲドの問いに、ステラとカイがお互いに顔を見合わせる。しばらくその状態が続いた後、揃ってゲドに向き直り、ゲドに逆に質問してきた。


「う~~~ん、どこへ行けばいいのかしら?」

「何も考えてなかったのかよ!?」

「いや、あんたの魔法でどうにか出来ないかな、て」

「生憎だが、俺に予知能力は無いぞ」


 ライアが街を出たのは、もう十日も前の話だ。今からじゃ、千里眼でどこを探しても、彼女の行き先を補足することなど不可能だ。

 あの後の、国中の混乱を考えれば、人から手がかりを聞き出すのも難しい。というかそれは既にカイがやっている。だが国民は皆、国中の騒ぎに余裕がない日々を送っていたため、通りすがった少女のことなど、いちいち記憶に留めていられない。


「十日前ってことは、まだこの国のどこかにいるんじゃね?」

「列車か空便を使えば、一日で国外に出れるわよ。私たちみたいに、徒歩で行く奴はかなり少ない方よ」

「じゃあ、駅員に聞いてみれば・・・・・・」

「それは僕も聞いてみたけど、やっぱり判らないって言われた・・・・・・」


 列車には一日に何百人もの客が乗る。確かにそれを一人一人、覚えていられないだろう。ゲドのように、目立ちすぎる出で立ちならば、話は別だろうが。

 判ったことは、実質手がかりゼロと言うこと。そもそも何を思って、彼女が家出したのかも判らないのだ。


「カイ、国外であの子の行きそうな所に、何か心当たりとかない? 二人の思い出の場所とか」

「思い出の場所・・・・・・一応あるけど」

「それはどこ?」

「フライド王国。父さんにこの剣を、ライアとお揃いで作ってもらった所・・・・・・」


 カイが自身の腰に差されているロングソードに手をかけて、呟くようにそう答える。

 何でも彼の両親が数年前に、二人の将来を願って、特注の剣を作ってもらうために、カイとライアを連れてその国を訪れたというのだ。いずれ二人が騎士になったときに、その剣を持たせて祝福しようと。ちなみに二人が国外に出たのは、これまでのその一度きりである。


「フライド王国、レグン族の国ね」

「確か数年前に、ロームと交易を断絶した国だよな。何でも戦争のことで、王がロームに文句を言ってきたとか」

「まあ、他に心当たりがなって言うなら、そこを探してみたら? あそこはフレットとも、鉄道が繋がってる国だし、可能性は高いと思うわ」

「うん・・・・・・」


 ともあれ行き先は決まった。ステラはカイを手招きして、封印器の中に入った。狭い金属器の中で、女性の肌と接触してカイが少し緊張しているようだ。

 足下ではチビが、二人分の足に踏まれかけてあたふたしている。


「それじゃあ、また空からよろしく♫」

「はいよ」


 ゲドが封印器から伸びるロープを手に持ち、空へと舞い上がった。






 空の旅は順調に進んでいた。飛行移動の風圧による風が、彼らの肌に強めにかかるが、元々鍛えている彼らにはどうということはない。

 徒歩だと数日はかかる道のりを、ゲドは僅か数時間で、ぐんぐん超えていく。カイとステラは、地上の山脈・山林を眺めながら、退屈そうな装いだ。

 空の旅はフレット人にとっては、実に馴れたものだ。彼らにとってこれは、とても速い気球に乗っているような感覚である。


 飛んでいくと、途中で鉄道の線路の姿が、地上から見えるようなった。

 険しい山々の中を、木々が取り払われ、果てしなく続くほど長い線路が四本、並んで伸びている光景が、一筋の河のようにどこまでも続いている。


「あれがフライド王国行きの鉄道よ。あれを辿っていけば、すぐにフライドとの関所に着くわ」

「迷わない目印があるのは助かるよ」


 一応不法入国で面倒になるのは避けたい。一応ステラは、フレットでの身分証があるので、問題なく入国できるはずだ。

 しばらくその線路の上を、真っ直ぐ沿って飛んでいると、ステラは妙な違和感を覚えた。


(さっきから列車と一度も鉢合わせしないわね? この時間帯だと、何両かは必ず出会いそうなものだけど・・・・・・)


 先程から線路の上を走る物には、一度も出くわしていない。たまに鹿が、線路の上を越えていくのを見るだけだ。

 国が騒乱状態になった今、国外に出る者が急増している。そのため、列車の需要はかなりあるはずなのに。


 まあ、列車の乗客からこちらを目撃されて、また面倒な騒ぎの元になるよりは良いのだろうが・・・・・・。

 少し疑問に思いながら、彼らはその線路の先、国境の関所を兼ねている駅に到着した。






 フライド王国は、フレット王国より西に存在する小国である。フレット同様に、ローム王国に隣接している国であるが、民族や文化は、両国とは大いに異なる。


 まず人口の九割以上が“レグン”と言われる亜人間であるということ。


 この世界で最も人口が多い人種が、純人(じゅんじん)と言われる種である。一般的に人間というと、この種族を指すことが多い。その純人の中にも、肌・目・髪の色などによる分別があるのだが、それは今はおいておこう。


 レグン族とは、基本的な姿は純人と大差は無い。だが彼らの両腕には、鳥のような短い羽毛が生えている。だからといって、これで空を飛べるわけではないが。

 両足はビッシリと鱗が生えており、鋭い爪が生えた三本指で、まるで鳥のような足である。そして頭には、鶏のような赤い鶏冠が生えているのだ。

 また彼らは基本的に、髪の色は皆茶色で、肌はギール人によく似た褐色の肌をしている。


 彼らレグン達は、ハーフなどの例外を除けば、皆魔法を使えない。だが記憶力・計算力の平均能力が、純人を遙かに凌いでいる。そして異様なほど手先が器用だ。

 彼らのその力で、機械技術をはじめとして、実に優れた職人能力を発揮し、多くの優れた工業製品を開発している。そのためにレグンは、職人の一族と言われている。


 彼らの作り出す品物の中には、当然武器などもあった。数年前まで、その多くがローム王国に販売していたが、今はしていない。

 フライド王国は、黒の女神聖教と精霊信仰、その両方を信仰している国だ。そのどちらかを、明確に国教とは定めていない。だが聖教繋がりで、ローム王国とはそれなりに親交があった。だがローム王国が起こした戦争が元で、その関係は完全に決別となってしまう。

 ロームが起こした戦争は、完全にコンの命に背くものだとして。当然フライドは、異界魔のギール陰謀説など、一切信用していない。


 そんな少々ゴタゴタした状態の国。その国境を挟んだ駅に、ようやく一行はやってきた。駅の下車するための、巨大なプラットフォームに着陸する一行。

 その駅は、駅というより小規模の砦のような建物だった。駅舎はえらく頑丈そうな装いで、屋上には対空専用の機銃砲台が設置されている。駅で働いている者達は、駅員の他に武装した兵隊が何人も警備している。


 空を飛んでここに接近している者達のことは、既に駅で働いている者達に知られていた。大勢の人が、着陸する彼らを囲って、その姿に見入っている。

 だがその彼らは、他の駅の客などではなかった。全員兵隊である。


「何か衛兵の数が、前より多くない? しかも鎧なんか着て、完全武装状態だし・・・・・・」

「俺はここに初めてくるから、前の様子なんて判らんぞ?」

「うん、僕も多いと思う・・・・・・。少なくとも前に来たときは、こんな感じじゃなかった」


 彼らを囲っている数十人の衛兵達は、全てレグン族である。フレット騎士の銀ぴかな鎧とは違い、こちらは黒い塗装がされた地味目なデザインの装備だ。

 彼らの腰にある武器は、全てゲドが差しているのと同じ刀であった。レグン達の解釈では、製法・実用性ともに、これが刀剣の中で最も優れているとのこと。そのため輸出ではなく、自国で使用している武器は、大概これである。


(まあ、当然よね。フレットの方が、あんな混沌状態になってるんだから)


 まるで犯罪者が現れたかのような、警戒の目を向ける衛兵達に、ステラはそう結論づけて納得する。やがて彼らのリーダーらしき、中年の女性衛兵が、彼らに声をかける。


「お前らは何だ? 空からここに来るとは、珍妙な客だが・・・・・・そこにいるのはフレットで騒ぎを起こした、幼き魔法剣士だな?」


 決して警戒を解かずに、ゲドに目線を向けてそう告げる女性衛兵。


「ああ、そうだ。俺も有名になったもんだな」

「当たり前でしょうが・・・・・・あんだけ騒ぎを起こせば・・・・・・」

「あの・・・・・・僕たちは、人を探しにここに来たんです。ライアっていう、髪が赤くて、僕と同じぐらいの女の子なんですけど、何かご存じないでしょうか? できれば入国もして、調べたいんですけど」


 カイの言葉に、女性衛兵はしばし考え込む。


「しばし待て。上に問い合わせる」


 ステラとカイの身分証を受け取った後、女性衛兵は無線のある駅舎に向かっていった。

 一行はしばらくの間、大勢の衛兵に囲まれながら、緊迫した空気の中で立ち続けることになる。最もゲドとステラは、その中でお気楽に談笑していたが。やがてそう時間がかからず、女性衛兵は戻ってきた。


「入国の許可は下りた。それとさっき君が言っていた少女のことだが。それは今君が持っているのと同じような剣を持っている少女で良いか?」

「はっ、はい! そうです!」


 確かにライアは、一緒に作ってもらったあの剣を持って、家出をしている。これが目印になるとは意外だった。


「十日ぐらい前か、フレット王が粛正された翌日に、あの子が来た。確かにあの子は、この国に入国したぞ。身分証にあった名前はライア・コーラン。貴族の娘らしいが、それが武器を持ってやってくるから、少し話題になっていた」


 フレット側の駅では、何の証言も得られなかったのに、こちらはスラスラと答えてくれる。

 確かに入国審査では、身分を証明する必要があるし、当然ライアの様な子は話題に上がるだろう。それと同時に、レグン族の記憶力の良さもあるのかも知れない。


「とにかくこの国には入って良いんだよな? じゃあそろそろ、この包囲網を解いてくれないか?」

「ああ、すまないな」


 周囲にいた衛兵達が、次々と持ち場に戻り、彼らに道を空けていく。ふとステラが、少し前から思っていた小さな疑問を口にした。


「私たち、ずっとあの線路の側を通ってきたんだけど・・・・・・列車は今は運行していないんですか?」

「ああ、昨日から一時運休になった」

「どうして? ていうか運休なら、何でこんなに衛兵がいるわけ?」


 女性衛兵は今まで以上に、険しい顔をして、その問いに答えた。


「その話を含めて、あなた達に忠告しておくことがある。今この国は、謎の奇病・・・・・・か、どうかも今は不明なのだが・・・・・・狂人どもが各所に徘徊する危険地帯になっている。この国に入るなら、十分注意しておきなさい。万一死んでも、私たちは責任をとれないわ」



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