第三十八話 尋問3
「おい、さっき俺とステラが国家反逆とか言ってたな? 何だかガンガルの名前も出てたし。それはどういうことなんだよ?」
「ああ・・・・・・・・・ああああ・・・・・・」
「喋らないんなら、また殴るぞ?」
「ひぃいいいいっ! 言う! 言うから、もう止めてくれ!」
ようやくまともな言葉を発して、ゲドの質問に答えていく。彼は恐怖で声が上ずっていたが、まとめるとこうである。
実はゲドがローム王国を出たから、エイドアで内乱が発生していたのだ。だがそれは民衆が起こした物ではない。
ガンガルという、元貴族院の若き議員が、大勢の憲兵や傭兵(勇者・盗賊除く)を率いて、貴族院を制圧したのである。
実はこのガンガルという人物、ゲドより先に勇者狩りを行っていた、あのドルドの甥であったのだ。
彼はローム王国の現状を少しでもどうにかしたいと思い、冒険者である叔父に頼み込んで、各地で狼藉を働いている勇者や盗賊を討ち取っていたのだ。
だがその行為が一部の議員に勘づかれてしまい、ドルドを脅迫してきたのだ。ガンガルを議員の座から落とされたくなければ、すぐに勇者狩りをやめて、自分たちに従えと・・・・・・
だがドルドが死に、貴族院がゲドによって脅迫されて、大きな政治転換をせざる負えなくなった。
これに対して何を思ったのか、ガンガルが反乱を起こしたのである。しかもゲドの名前を出して。ゲドは黒の女神の使いに違いなく、自分は彼女の望みを叶えるために戦うと。
本人に会ったことなど一度もないくせに、ゲドを勝手に自分たちの謀反の大義名分にしたのである。
ぶっちゃけ紺を勝手に祭り上げて権威を手にした、従来の聖教のやり方と全く同じだが、それに多くの民衆が付き従った。
ローム王宮ではこの現状に対し、まだ具体的な方策を出していない。だが近いうちに、エイドアに対して討伐軍を派遣すると思われる。
だがこれを機に、各地の民衆の決起を招かないように、慎重に動いているようだが。
さてその大国での大騒ぎを起こした張本人=ゲドであるが、何とそれらしき人物が、このフレット王国内にいるという情報が飛び込んできたのだ。
フレット王国は、ガンガルの主張するゲド=コンの使いという話を一切信用していない。
彼女の存在は、ガンガルが己の反乱行為を正当化するために、担ぎ上げた彼の手先だと考えている。
確かに腕の立つ魔法剣士ではあるのだろうが、所詮はどこにでもいる冒険者の類いであろうと。そしてその人物がこのフレット王国に入り込んできたということは、間違いなく反乱者のガンガルの手が、この国に及ぼうとしているということ。
彼女は空を飛べるにも関わらず、何故か陸路でこの国を渡っていた。しかも人を入れた巨大容器を持ち上げながら歩くなど、あからさまに目立つ姿で、である。
これはあえて、自分の存在が大勢の目に止まるようにして、いずれこの国で自分が起こすことに、国中の注目を浴びせようという宣伝に違いない。
寿命で死んだ異界魔の死骸を焼き払い、あたかも自分で倒したかのように見せつけるなど、その自作自演ぶりはあまりに露骨である。
更に気功学校での、カイ・プライスの呪いを暴き、治療して見せた。
こうやって黒の女神の使いが、この国で大きな功績を与えたという話を広げ、精霊信仰のこの国に、ジワジワと黒の女神聖教を浸透させていく。
そしていずれはフレットの信仰を追いやり、この国の信仰を、ガンガルの開いた新たな聖教で支配する。つまりはガンガルの国家乗っ取りの企みであることは、ほぼ間違いないと、フレット王国政府は判断した。
もちろんそんな卑劣な企みを見過ごすわけにはいかない。しばらくは様子見をしていたが、先日の気功学校の件で、国は一気に動き出した。
生憎その企みの、確定的な証拠となるものが何もないのだが、それは大した問題ではない。どんなに強かろうが、相手は所詮子供である。勢いよく怒鳴りつけて威圧すれば、すぐにそっちから泣いてボロを出すだろう。
そして現在に至るというわけである・・・・・・
「私知らなかった・・・・・・フレット王国って、こんなにも馬鹿だったなんて」
「ああ、どうやらそうみたいだな」
話を聞き出した二人は、心底呆れかえっていた。妄想・過信・暴力的、公的機関としてのあまりに滅茶苦茶な行動である。
「まあ、いいさ。この国が堂々と俺に喧嘩を売ってきたっていうなら、この国そのものを潰してやるよ! サプレッション!」
ゲドがつい最近覚えた魔法を、口を割らせた憲兵にかける。サプレッション、以前カイの呪いを直したときに、ゲドはその魔道術式の構造を、全て覚えていた。
そしていつものごとく、常識では考えられない速度で、その技を体得していた。黒い霧のような魔法の粒子が、ゲドの掌から放射され、憲兵の身体に纏わり付いていく。
「うぐっ!?」
全身に何百キロもの重りを乗せられたかのような重圧を受け、憲兵はもがき苦しみ始める。
「お前の力を全て封印してやった。解呪法はない。どうしても治したきゃ、俺より強い魔道士を探すんだな!」
憲兵の首根っこを強く掴みかかる。彼が今にも窒息死しそうな圧迫を首に受けながら、ゲドは彼を部屋の壁に思いっきりぶん投げた。
自分の三倍以上の体重はあるだろう大男を、軽々と紙箱のようにぶん投げる。
「がぁっ!」
憲兵は堅固な石材の壁に、盛大に激突する。だが憲兵は、そのまま床に落ちることはなかった。何故なら彼の身体が、壁に見事にめり込んでいるから。
大量の石の欠片と粉塵が飛び散り、石壁に人型の穴ができ、それに彼の身体がすっぽり収まっている。衝撃と共に壁を破壊し、彼の身体がそこに埋まってしまったのだ。
憲兵は大の字の姿勢に固定されて、石壁にパズルのピースのように固まって動かない。全身からダラダラと血が、地獄の川のように流れて、そのまま白目を剥いて失神してしまった。
「さて、お前ら。俺に何か話でもあるのか?」
「えっ?」
ステラが取調室の扉の方に向くと、そこにはいつの間にか、二人の少年少女が立っていた。
今まで憲兵苛めに気をとられていたステラは、この二人の存在に驚く。その二人は、カイとライアである。
彼らは、憲兵に対する13回目のお仕置きの辺りから、ずっとその場所にいた。ゲドは彼らに気づいていたが、こっちの用事を優先してスルーしていたのだ。
これまでのゲドの行動を見続けていた二人。その表情は、明確なゲドへの恐怖と敵意に満ちていた。
「あんた・・・・・・一体何やってるのよ!?」
今まで恐怖ですくんで、何も口を出せなかったライア。だがゲドに直接声をかけられたことで、ようやく意を決して口を出す。最もその声色は、未だに震えていたが・・・・・・
「何って悪党にお仕置きをしてやってただけだが? ていうか文句があるのなら、途中で止めに入れば良かったんじゃないのか? この意気地無しが」
「くっ!」
正論とも言える事を指摘され、ライアも一旦怯む。腹を押さえて、三階ほど深呼吸した後、僅かだが調子を整えて、再度彼らに口を出した。
「意気地無しって言うのは・・・・・・事実だから反論しないわ。でも今からでも言わせてもらうわ! あんた何てことしてんの! お仕置きですって!? ただの弱い者苛めじゃないの!」
一度決意をしたライアの言葉は固い。
弱い者苛め。ライアにとっては、この世で最も嫌いな言葉である。だがそんな程度の言葉では、当然ゲドは怯まない。
「あの場を見もしていないくせに、何を偉そうに。先に手を上げたのはあいつだぜ?」
「その上げた手、ていうのは、あそこまでの仕返しをしないといけないほど、非道いものだって言うの!?」
「当然だ! この俺を不愉快にさせやがった。殺さなかっただけでも、慈悲深いと思って欲しいわ」
「自分が気に入らない奴は罪だって言うの!? それだと勇者達や、あたしのクラスメイトのクズ共と同類だわ! このクズ小僧!」
所詮は子供の言うことと、軽く流すつもりだったゲドだが、流石にこの発言にはこめかみが震えた。
「ひぃっ!?」
「うう・・・・・・・・・」
彼女から発せられる殺気に当てられ、二人が今にも意識が飛びそうなほど、精神が圧迫されている。二人は今まで体験したこともない、死の恐怖で震え上がっていた。
「偉そうなことをべらべらと・・・・・・じゃあ自分はどうなんだ!? 自分の栄光のために、他人の一生が台無しになりかけたんだぞ! そのことでお前は、どれぐらいのことをする気でいた!? どうせ退学なり何なりして、逃げようとか思ってたんじゃないのか!?
自分じゃ何も出来なくせいに、ただ人のやることに、ぐちぐち文句をつけやがって! 弱い奴に偉そうな口を叩ける権利などあるか!」
勇者と同類扱いされたことに、ゲドは滅茶苦茶腹を立てて、そう捲し立てた。
力を得たことで、自らの目標を見つけたゲド。そんな彼女に、ライアの言葉は、弱者の傲慢にしか聞こえなかった。
「ちょっとゲド! 相手は子供よ! それと言っていることが滅茶苦茶よ!」
ゲドの拳が今にも飛びそうな所を、今まで黙っていたステラが、慌てて止めに入った。彼女の小さな頭を軽く叩き、彼女の怒りをどうにか収めようとする。
ゲドは不愉快ぶりは変わらないが、一応は拳を収めてくれた。
「ちっ! 不愉快だ、もう行くぞ!」
「ええ・・・・・・ごめん、ちょっとどいてちょうだい」
取調室の扉へと足を進める二人。ライアとカイは、何も言わずに彼らに道を空けた。向かいの廊下へと、彼らが二人に背を向けたとき、初めてカイが彼らに口を開く。
「これからどこに行くの?」
先ほどのライアとは違い、大分落ち着いた口調での、カイの問いかけ。その様子にゲドは、少し意外に思いながら、言葉を返す。
「うん? 何って、決まってるだろう? これから俺に喧嘩を売った、王宮に殴り込みさ」
「この国を滅ぼすの?」
「どうだろうな? まあ、なるべく死人は出ないようにはしておくがな」
カイはしばし沈黙したが、すぐに気を取り直して、何か覚悟を決めたかような装いで問いかける。
「ゲドさん・・・・・・あなたのしたことで、僕はとても感謝しています。でもだからこそ、あなたに言いたいことがあります。これからも良いことをしていきたいのなら・・・・・・もう少し、自分が周りにどう思われているか考えてください」
「俺に容疑がかけられたのは、全部俺のせいだって言うのか?」
「いいえ、全然思いません。でもあんなやり方ばかりだと、誰もゲドさんを良い人だなんて思ってくれませんよ・・・・・・これからもどんな疑いをかけられるか、僕にはそれはつらいです」
えらく落ち着いた、丁寧な口調でそう言われ、ゲドは初めて少し考え込む。考えてみれば、王宮には騎士であるこいつの両親もいたはず。
少々何か言いたげだったが、いい言葉が思い当たらず、とうとう根を上げた。
「判った、一応善処するよ・・・・・・」
それだけ言って、憲兵署の廊下を歩く二人。その姿を見送ったカイは、隣で力なく座り込んでいるライアに手を差し伸べる。
「・・・・・・もう行こうライア」




