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第三十四話 告発

 昼頃になって、その気功学校にゲドとステラが来訪していた。

 ゲドが正門前に出ようとしたところを、ステラが慌てて番兵の刺客の所まで留める。正門の所では、以前ゲドが来たときよりも、五倍以上の番兵が待機しており、かなり危ないところであった。


「何やってんのよ、あんた!?」

「何って校内に入るんだけど?」


 ついさっき、何故かゲドがこの学校にもう一度行くと言い出したのだ。保護者役のステラは、ずっと嫌な予感を抱いていたが、今のゲドの行動と発言からして正解だったようだ。


 大慌てで怒鳴るステラに、ゲドがあっけらかんととんでもないことを答える。


「また不法侵入する気!?」

「大丈夫だ、怪我人は出さないから」


 確かにゲドのスリープを使えば、以前と同様に番兵を眠らせることが出来るだろうが、それは完全に犯罪だ。

 そして学校の警備態勢が面目丸つぶれだ。そんなこと二度も繰り返されるわけにはいかない。


「そういう問題じゃないわ!? 何をする気か知らないけどね。その子に用があるのなら、学校が終わってからにしなさい! 登校中なら、顔を合わせることも出来るでしょう!」

「お前が学校に入って、面会を申し出るという方法はないのか?」

「あんな大騒ぎを起こして、どの面下げて学校に顔を出せと? いいから、ここに来るのは放課後辺りからよ! ほら、今日は私も付き添って上げるから、また街巡りでもしなさい!」


 ステラに手を引かれ、引き摺られるようにゲドはその場を後にした。このあと二人は、前に通えなかった酒場で、しばらく時間を潰すことになる。






 同じ頃、今は学校では昼食時間だ。校内の大型食堂。綺麗な木目のある床と壁、白くて綺麗なクロスがかけられたテーブルの数々、まるで高級レストランのような場所である。

 そこで二百人以上の生徒達が、一斉に食事をとっている。


 いつもならば、がやがやと貴族の子弟が賑やかに話しながら食べて(貴族の礼法など、ほとんどの生徒が守っていない)、騒がしい食堂。

 だが今回はその賑やかさが、いつもよりも低かった。別に人数はいつもと変わらないというのに。原因はカイである。

 一週間前のあの事件以降、彼のクラスメイト含めた多数の生徒が、彼に対して萎縮してしまって、通学中はずいぶんと大人しくなってしまった。それはそれで学校にとって良いことではあるのだが・・・・・・


 カイは食堂の端っこのテーブルで、一人で食事をとっていた。六人分がまとめて食べれる大きさのテーブルだが、彼のテーブル及びその周辺では、生徒がほとんど座っていない。

 彼は完全に学校の腫れ物で、誰も近づかないのだ。これまでの常識的な優等生の扱いと比べれば、かなり悪い対応である。


「やあ・・・・・・カイ」


 彼の周りには誰も近づかない・・・・・・と思ったら、一人だけいた。ライアである。

 彼らが二人で食べるのはいつものことであるが、今日はライアの方は随分と元気がない。まあ、ついさっきあのようなことがあっては当然と言えるだろうが。


 テーブルに料理の皿を置いて、向かいの席に座るライアに、カイは一瞬動揺したが、すぐに元のように無表情で料理を口に運ぶ。


「あのさ・・・・・・さっきはゴメンね・・・・・・何だかちょっとカッとしちゃって・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」


 気まずそうに謝罪の言葉をかけるライア。カイは一応ライアを見ているが、何も答えない。ただ一旦食事をする手を止めてはいる。


「でもお願いだから、今度からあんなことはやめて。あういうのって、絶対にやっちゃ駄目だと思うんだ。私だけでなく、誰に対しても・・・・・・。別に誰が勝ったから駄目って言うことじゃないんだけど」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「私カイの呪いのことを知って、それを解いてもらって、すごく嬉しかったんだ。前に言ってた騎士の話も、これできっと二人で一緒に行けるって。だから・・・・・・うん・・・・・・何て言えばいいのかな? おめでとう、てのは何か違うような・・・・・・」

「そういう話は別の機会でやってくれない? ここは周りに大勢、人がいるんだよ?」


 かける言葉が思い当たらず口ごもるライアに、そうカイは冷たく言い放った。ライアはハッとして一気に口を閉ざした。

 そして恐る恐る、小声でカイに話しかける。


「ゴメン・・・・・・今日また家に来るから・・・・・・その時に・・・・・・」

 それっきり二人は会話をしなかった。遠巻きにチラチラと他生徒の視線を浴びながら、二人は無言で食事を続ける。

 長い付き合いで、ここまで気まずい雰囲気の食事は、この日が初めてかも知れなかった。


 だがライアはこの時まで信じていた。しばらく立てば、カイとすぐに打ち解けられると。

 そして今までと違って本当の意味で、カイと一緒の楽しい学園生活を、これから先続けられると。ライアはそんな希望に満ちあふれた未来を、この日まで信じ切っていた。






 やがて放課後になり、共に帰路につく二人。大勢の生徒達が、次々と下校していく、いつもの正門を見て、カイはほっと安心のため息を吐いた。

 登校時のこの学校の正門では、発表された自分の身のことで、大勢の報道関係者が詰め寄っていた、最初はあの事件は、騒ぎが起こらないよう、しばらく伏せて捜査する方針だった。

 だがカイの両親がそれに反発し、己の権力で憲兵隊に圧力をかけたことで、やむなく真実のいくつかを伏せた上で、先日公表されたのだ。


(正直、余計なお世話だったよな・・・・・・)


 内心そう毒づきながら、ライアと共に正門まで近づいていく。正門に設置された番兵はいつもより多い。

 彼らが報道陣を追い払い、更に学校関係者への取材を禁止する上からの命令を伝えたため、今は大人しくなっている。このままいつもの通りに、自宅に帰宅し、さっき言ってたライアとの話をつけるつもりだった。だが・・・・・・


「来たみたいだな。今正門から出た」

「判ったわ。ちょっと待ってて。今私が呼びに・・・・・・て、ちょっと!?」


 ステラは自分が彼らに接触して、家に招き入れてゲドと話をさせるつもりだった。だ

 が当のゲドは、ステラが動くよりも先に、自ら走り出してカイ達の方へと向かっていく。


「あの麦わら帽子!? あの時の奴だ!」

「まっ、また出やがった!」


 校門周辺では、現在数十人の生徒達が歩いている。その真っ只中に突っ込んでいくゲド。

 彼女のことを知っている生徒が、それに気づいて叫びだし、一帯は騒然となる。これに頭を痛くしながら、ステラも彼女の元を追いかけていった。


「あの人は!?」

「なっ、何でまたくるの!?」


 カイとライアもまた、ある意味一番接触したくなかった人物の出現に動揺し、固まってしまった。

 ゲドは彼の目線の数十メートルの地点で立ち止まる。そして周りの生徒&番兵達全員に向けて、こう声を上げた。


「俺から公表したいことがある! お前らこれを見ろ!」


 ゲドが自分の後ろ側の、他人の家の庭の上空にある空に向けて、掌をかざした。


 何事かと、周りがその方向の空に目を向ける。ゲドの右掌から、虹色の輝きが発せられた。それは映画のスクリーンのように、極大に拡大しながら上に向けて放射された。

 その光は、空中のある一点で止まる。壁など何もないのに、そこで光が何かに遮れたかのように、そこに一つの大型映画館を作り上げた。


 ゲドの魔法によって生み出された、空中のスクリーン映像。

 その映像の中には、二人の人物がある部屋で会話している光景が映し出されていた。そのうちの一人、高級なそうな椅子と机に乗っているスーツ姿の中年男性は、この場にいる何人かは見知った顔だった。


(あれは・・・・・・校長先生?)


 その二人の人物は、気功学校の校長と、憲兵らしき人物だった。


「これは今朝、記者共を追い払ってすぐの場面を、俺が千里眼で見た記憶だ! お前ら、よく見ろよ!」


 ゲドがそう観衆に向かって叫ぶ。今彼らが見ているのは、ゲドが視認した記憶を映し出した記憶映像である。

 ゲドが千里眼で、この学校を除いてみた記憶を、こうして映像として抽出しているのだ。それは映像だけでなく、聴覚の記憶=人物の話し声まで発生させていた。


《随分と騒ぎになってしまったが・・・・・・アルマ婦人の件は、最後まで伏せてくれるのだよな?》

《ええ、勿論です。我々もこれ以上国の名誉を傷つけるような事態は避けたいですし》


 何やらホッとした様子で校長に報告している憲兵。そしてその会話には、明確な一人の人間の名が出ていた。


《この件はプライス夫妻には・・・・・・?》

《勿論伝えていません。変に情報を与えすぎたら、また余計に話がこじれそうですしね・・・・・・。ただ以前彼が受けた暴行事件を隠した件に関しては、色々と言われるでしょうが・・・・・・》

《それは仕方ないだろうな。色々と協力してくれて、感謝する。・・・・・・しかし困ったものだ。まさか貴族の子女が、別の家の子弟に呪いをかけているなどと・・・・・・前代未聞だよまったく・・・・・・ それでテッド・コーラン氏は?》

《これを機に、正式に離婚届を出すつもりのようです。また彼女の実家も、アルマ婦人を受け入れる気はないと》

《名家の婦人が、あっとうまに家無し文無しに格下げか。自業自得とはいえ、哀れなものだ》


 何とも胡散臭い会話が繰り返されている。そしてその会話に出た名前に、とても聞き覚えのある人物がいた。ライアとカイであった。


「アルマ・・・・・・母さん?」


 すでに騒ぎを聞きつけて、学校の他の生徒や教師も、その場に駆けつけている。そして映し出された映像に、皆が困惑しきっていた。


 ある程度会話が行われた後、映像は息を吹きかけられた蝋燭のように、一瞬で空中から消える。

 ゲドはかざした手を引っ込めて、後ろにいる生徒達に目線を向き直す。これを見た者達が、目の前の不審な少女の疑問を後回しにして、今の映像に関してザワザワと騒ぎ立てていた。


「どういうことだよ? あれってカイの呪いの話だよな? 犯人の特定は不可能に近いとか言ってなかったか?」

「ていうか、そもそもあの子何者? 校長室の中を千里眼で覗けるなんて。偽造映像には見えないけれど・・・・・・」


 様々な疑惑の声が上がる中、当の二人は信じられないと言った様子で硬直していた。ゲドの目線が、彼らの目線とあった瞬間、ゲドはカイのいる方向を指さし、再び高らかに叫びだした。


「皆聞いてくれ! こいつに呪いをかけるよう指示した犯人は、アルマ・コーラン! 今こいつの隣にいるライア・コーランの母親だ!」


 この言葉に、百人以上の視線が、一斉に二人の方へと降り注いだ。唐突な告発に、皆先ほど以上に騒ぎ始めた。


「ちょっと待て! 何を言ってるんだよお前! そもそもお前なんだよ!?」


 カイが激怒の感情を込めて、ゲドに向かって叫び出す。だがゲドは、そんな彼を無視して、話の続きを始めた。


「ずっと昔、この二人は一緒に気功を学んでいたそうだが。幼い頃はこのライアという小娘よりも、カイのほうが強かったらしい! 小娘の母親が、それが気にいらず、呪術士の勇者を雇って、カイに気功の力を抑え込むサプレッションをかけさせたのだそうだ! それからずっと、カイは気功士の落ちこぼれとして過ごさされていた! 全ては貴族の家の見栄のためにな!

 学校側は、最初の入学時の身体検査で、既にそれに気づいていたが、それを全て伏せていた! それどころか事態を大きくして、このことが明るみにでないように、こいつの受けた暴行事件をもみ消したりもしていた! 全てはフレット王国貴族の名誉を守るためという、これもまたただの見栄のためにな!」


 一気に今回の呪い事件の真相を捲し立てるゲド。

 これは彼女が千里眼で、学校や憲兵所の会話を盗み聞きして得た情報である。一部はゲドの推測で言っている部分もあるが、おおよそ真実と合致している。


 人々のどよめきが更に加速する。中には「そんな話信じられない!」と叫ぶ者もいた。だが貴族の子弟に呪いがかけられていたという、深刻な事件があったのは真実であるのだ。

 それだけでも、常識では信じられない話である。そして目の前の少女は、不審人物ではあるが、その真相を暴いた張本人である。彼女の言葉を、根っから否定する根拠はない。


 今ここで映し出されている映像が、偽造か真実かは、少し調べればすぐに判るだろう。少なくとも憲兵隊の高官の一人であり、以前から気功学校の対応に疑問を持っていたカイの父は、力を上げて調べようとするはずだ。


 そこでもし、ゲドの明かした言葉が真実だと確認が取れた場合は、どうなってしまうのだろう?


 少なくとも国中を騒がせる大スキャンダルになるのは間違いない。

 気功学校・隠蔽に協力した憲兵・・・・・・そしてライアを含めたコーラン家の者全員に、相当なペナルティが科せられることは、間違いないだろう。


「何てことをしたんだよ・・・・・・」


 カイのゲドを見る目は、明確な怒りで燃え上がっていた。

 実はカイは、おおよその真相を大体察していた。だからこそあの坊主剣士を、憲兵に差し出さずに放置したのだ。あの口の軽い男を憲兵署に送れば、アルマの行ったことをあっさりバラしてしまうかもしれないから。

 だがその配慮も、ゲドのせいで全て台無しである。


「そんな・・・・・・嘘でしょ?」


 この中で、一番衝撃を受けたのはライアであった。自分の母親の容疑に関しては、彼女にとっても心当たりがある話だ。

 彼女の中では、既にゲドの言葉が真実だと確信していた。


「ライア・・・・・・? ちょっと、ライア!?」


 糸の切れた人形のように力が抜け、校門前の地面に仰向けになって倒れるライア。カイが動転して、彼女の身体を揺さぶるが、全く反応がない。彼女の目はもはや死人のようであった。


「何であいつあんなに怒ってんだ? 犯人暴いてやったのに」


 一方のゲドは、カイから感じ取れる明確な憎悪の感情に困惑していた。

 自分がしたことは良いことの筈なのにどうして、助けた本人から睨まれるのか?


「ちょっとゲド!? これ、どういうこと!?」


 騒然となる校門前、既に学校関係者だけでなく、近辺を通りかかった者達にも、次々と今の話が広がっていっていた。

 そんな中ただ一人、その騒ぎの張本人に食って掛かる者がいた。ステラである。

 彼女の行動を、すぐにでも止めるべきだったのだろうが、ゲドの公表した事実に、彼女も動揺して、うっかり聞き入ってしまったのだ。


「どういうことって? 隠されそうになった悪事を、俺が暴いてやったんだが? この国の憲兵も、やっぱろくでもない奴らだな。こんな重大な事実を隠そうなんてな。だがこれで一件落着、ハッピーエンドだな!」

「それは・・・・・・ああ、もういいわ! とっとと来なさい!」


 ゲドの手を引っ張って、その場から逃走を図るステラ。

 番兵の何人かが、彼らの元を追おうとしたが、どんどん拡大していく、一体の騒ぎに阻まれて、結局彼らを見失ってしまった。


 この日、カイの呪い事件に関して、またもや国を騒がす事実が報道されることになった。



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