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第三十三話 カイとライア3

 ゲドに関して、おおよその研究結果が出された、その翌日のこと。

 リビングで朝食(テトラ作)をとる、ステラとゲド。二人は無言だった。何か気まずいことがあるわけではないが、色々と考えることがあって、話題が出ないのだ。

 ステラが先に食べ終えて、今日の新聞に目を通している。ゲドのほうはと言うと、未だに答えの出ない議題に、頭を悩ませていた。


(俺が黒の女神と同類か・・・・・・。あのミルとかいう男のこともあるが。それだと本当にコンが、この世界に介入したのか? でも姿を現さずに、こんなまどろっこしいことする意味がないよな・・・・・・)


 さっきから同じ思考を、何度も繰り返している。

 テトラによって、ゲドが持っていた、あの刀に関しても、少し調べられている。これも鉄を主成分とした金属で作られており、特に変わった素材は混じっていなかった。


《これに関しては魔道士の私より、本職の武器鍛冶士に聞いたほうがいいな。こんどフライド王国の職人に鑑定してもらったらどうだ?》


 とのお達し。


 ちなみ鞘に書かれた謎の文字に関しては、解読が完了した。その文字は“ナカムラ レイコ”と書かれていたらしい。

 この刀の銘なのか、それとも何かの呪文なのか不明だ。ただこの文字は、女神コンの故郷の“ニホン語”という言語で書かれていたらしい。これでますます、女神関連の説が濃厚になっていく。


 最初はただ力を得たことを喜び、この肉体の正体をあまり深く考えていなかった。だが黒の女神との関連性が示唆された途端、ゲドも今まで通りに楽観的にいられなかった。

 そんなゲドの様子を気にかけたのか、ステラが強引に話題を振ってきた。内容は、今読んでいる新聞に書かれていること。


「なんかさ~貴族街の方で騒ぎになってるみたいよ。貴族の子弟に、サプレッションの呪いがかけられてたんだって。これって昨日母さんが言ってたあれよね? すごくタイムリーだわ」

「ああ、知ってる。俺が呪いを解いたからな」

「えっ!?」


 これは間違いなく、カイのことだろう。あれから数日たつのに、随分と記事になるのが遅いとゲドは感じた。

 ゲドから話を聞き出したステラは、頭を傾かせて、また随分と脱力した様子だ。


「少しの間一人にした間に・・・・・・あんたは何てことしたのよ・・・・・・」

「別にいいじゃんか。良いことしたんだし」

「まあそうだけどさ・・・・・・。やり方が目立ちすぎるっていう文句はあるけど・・・・・・。でもこの記事にはあんたのことは書いてないわね。ていうか呪いが判明した経緯が、何か省かれてるみたいだけど?」

「ほう・・・・・・」


 学校に侵入した来た、見ず知らずの子供に、貴族の子弟への呪術事件が暴かれる。確かに公表しにくい話ではある。そういえばあれ以降、彼の状態を一度も確認していない。


「ちょっと学校の方を、千里眼で覗いてみるか?」

「今はまだ、生徒は登校していないと思うけれど?」

「でも教師はいるだろう?」


 ゲドは早速、気功学校に情報収集のため、千里眼の目を通してみた。






 研究室の方では、テトラがある試みを行おうとしていた。


 昨日、憲兵である彼女の夫=トバイア・フェルメールから、確認のために話を聞いた。最近国内で目撃されている、珍妙な風貌の少女=ゲドに関してである。

 ゲドの姿と行動は、このフレット王国でもあまりに目立ちすぎた。更には彼女が異界魔を殺したらしいという推測も出ている。

 だが何故か、憲兵隊は彼女を積極的に捜索しようとしていないらしい。ゲドを迎え入れたフェルメール家であるトバイアと、二人の息子も何も問われてはいないらしい。


(ゲドが家にいること、気づかれていないはずがないわよね? 混乱を恐れて、様子見をしているのかしら? まあ私が先に、彼女のことを学会に報告すれば、何も問題ないけれどね・・・・・・)


 ゲドは自分の存在を、学会に公にすることを、あっさりと承諾してくれた。前述したとおり、目立つのを厭わない行動を繰り返したゲドは、今更自分の存在を隠匿する気などない。

 何故か憲兵隊が、こちらに接触してこないので、特に世間に何らかの公表を行う理由もないが。


(まあ、向こうが黙ってくれているなら好都合よ。あの子が本当にコンの同類かどうか、最後の確認をすればいいわ)


 彼女の目の前には、一片一メートル以上はある、正方形の大型のガラスケースがある。箱のような開閉式で、上部が蓋となって開くように出来ている。

 これは危険な生物を入れて、監視するための強固なマジックアイテムだ。そしてその中には、初日にチビと遊んでいた、あの猫ほどの大きさがあるカメがいた。


 立ち上がってそのカメを見下ろす彼女の手には、一本の注射器。内部には赤い液体が入っている。

 テトラはしばらく迷いに苦しみながら、じっと立っていた。だがやっと決心がついて、注射器をケースの中のカメに向ける。

 そしてスリープで眠らせた、カメの右足の付け根の部分から、カメの体内に、その赤い液体を注入した。






 所変わって数時間後の気功学校にて。学校のグラウンドでは、いつもの通りに気功士達の模擬戦が行われていた。

 だが今回は、以前語ったときとは、大分様子が違っていた。


 グラウンドに設けられたリングは、一組のみである。それをスポーツ観戦のように、大勢の生徒と教員が、リングを取り囲んで、現在行われている試合の行く末を傍観していた。


「はぁああああああっ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・」


 模擬戦用の装備を付けた二人の生徒が、リングの中で激しく剣を交えている。風のように高速で振るわれる二つの刃が、二人の人間の間で幾重も衝突し、花火大会のように多くの火花を空中に散らしている。


 その二人の生徒とは・・・・・・カイとライアであった。


 二人の攻防は、一見すれば互角に見えるだろう。だがよく見ると、二人の様子に明らかな差があるのが見える。

 一方の生徒=ライアは、全身汗だくで息が荒く、表情もかなり厳しい。幾度もかけ声を上げて、全力で剣を振るっているのが見える。

 だが一方のカイの方は、汗もほとんどかいておらず、息も上がっていない。無表情で疲労の影など微塵もない状態で、作業のようにライアと剣を交え続けていた。


 両者の攻防はもう10分以上に渡って続いていた。実はそれ以前にも、カイはライア以外の生徒数十人と、連続で試合を受け続けていた。

 周りを見ると、カイに一撃でやられたらしい生徒が、苦々しく今の試合を見ている。成績は一度も負けることなく、カイの楽戦全勝だったのだ。

 今までの落ちこぼれぶりが嘘のような、学校史上でも例のない模擬戦大成績である。


「いつまで続けるんだよ?」

「あんたが強いのはもう判ったからさ・・・・・・もういいでしょう・・・・・・」


 カイとライアの試合は、一向に決着がつかない。いや正確には、カイの方が決着を付けようとしていないのが見て取れる。

 審判もどう指し示せばいいのか、かなり迷っている。ライアの身体ももう限界が近い。だがその前に模擬戦用の両者のロングソードが、既にこの時、耐久度の限界を超えていた。


 バキャァアアアアアアアアン!


 何千回目かも判らない剣戟は、最後は無数に響く金属の破砕音で、唐突に打ち切られた。

 既に剣身が枯れ枝のようにボロボロだったロングソードが、最後の衝突で木っ端微塵に砕け散った。何百もの剣の欠片の流星群が、リングや周囲の地面に降り注ぐ。


「勝負あり! 引き分けとする!」


 ようやく審判が試合終了の声を上げる。武器が砕けた場合は、先に壊れた方が負け。両方同時だった場合は引き分けである。


「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・・・・」


 彼にとって軽い運動をこなしたカイは、額に一筋の汗を流して、一つ軽く息を吐いた。

 一方のライアは、水を被ったように大量の汗を垂れ流し、息も呼吸こんな一歩手前まで苦しい状態であった。

 そのライアのその様子を見て、少しやり過ぎたかと後悔しだす。


「ライア・・・・・・大丈夫か?」

「くぅ!」


 膝をついて苦しんでいるライアに、カイが手を差しのばすが、ライアは憤怒を上げて、その手を叩き払った。突然の行動に、カイだけでなく、周りの者も動揺し出す。


「・・・・・・ライア?」

「あんたふざけてんの!? 何で私に限って、手ぇ抜いてくるのよ!? 私がそんなに嫌い!?」


 一週間前まではありえなかった、凄まじい怒りの感情を、自らの大事な幼馴染みにぶつけるライア。

 これにカイも返答に悩んだ。これまでずっと、ライアの後を追っていたカイ。だがここでライアに勝ってしまうと、今までの関係がこじれるような気がしたのだ。

 だからあえて引き分けに持っていこうとしたのだが・・・・・・それは最悪の判断ミスであった。


 負けることに慣れていたカイは、強者のプライドというものを、全く読み取れずにいたのだ。

 全力で堂々と戦いを望む者にとって、手抜き勝負というのは相当な侮辱である。


「別にそんなつもりじゃ・・・・・・・・・」

「もういいわ! カイなんてもう知らない!」


 疲労でもうボロボロの身体を、引き摺るように動かして、リングから出ていくライア。

 一度倒れそうになったライアを、すぐに抱え込もうとしたが、またライアによって拒絶されて、彼女はすっ転んだ。


 そんな様子を、周りの者達が微妙な空気で眺めている。実力主義のこの学校では、基本的に強者は敬われる。

 だがカイに対しては、あまり例外な事例のために、誰も何も声をかけてこない。その中の半数の生徒達=今までカイを侮辱していた者達は、彼に対して尊敬ではなく、地獄のすぐ傍に足を踏み入れているような恐怖を覚えていた。


《ライアさんまで、手も足も出ないのかよ・・・・・・どうするよ?》

《どうするって? どうすればいいんだよ!? 今までの仕返しとかされたら・・・・・・。うう・・・・・・俺死にたくねえぞ!》

《だっ、大丈夫よきっと! あいつ昔から、温厚そうな感じだったし。多分だけど・・・・・・》

《馬鹿な奴らだ。勇者みたいなこと言って、調子こくからこうなるんだよクズ共。怖けりゃさっさと退学しろよ。前からライア様ライア様とか叫んで、ずっと鬱陶しかったんだよ!》


 落ちこぼれが一気に逆転して、学校最強になる。この事態に対し、彼からの報復を恐れる者と、そんな彼らを見下す者で、その場は薄汚い負の思念で充満していた。


「・・・・・・ライア」


 そんな中、当のカイは、大きな喪失感を抱えながら、先にグラウンドを出て行くライアを、呆然と見つめていた。


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