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第二十七話 カイとライア1

 家の中は木製の壁が張られていて、外観と違って、ロームよりも木製品が多い。しかも部屋の中に入ると、動物の臭いが強い。

 感覚の鋭いゲドは、少し顔をしかめたが、これでチビを室内に入れても文句は言われないだろうと安心感も出る。


「ただいま~~~! 父さんはいる? ていうか首は繋がってる?」

「大丈夫だよ。あんたのせいで、かなり危なかったけどね・・・・・・ 今も仕事中だ。とりあえず、客人を部屋に案内しな」


 部屋の中はやはり動物が多くいた。ゲド達が通されたこのリビングルームは、食事用の大きなテーブルと椅子、脇にはソファーなどがある。大きな本棚が壁側にかけられていて、奥にはキッチン、他はマジックアイテムと思われる暖房機が設置されている。

 ごく普通の中流よりも少し上の、一般家庭の部屋である。ただこの家、このリビングだけでも猫が三匹・タヌキが一匹・猫と同じぐらいの大きさのカメがいた。いずれも身体の一部に、召喚契約の印が浮き出ている。


「こいつらは、あんたの研究用の動物か?」

「最初はね。今は普通にペットとして飼っているわ」


 先ほどからテトラの口調は、ずいぶん冷たい声色で尖っているように聞こえる。だがこれは不機嫌というわけではなく、元々の地声なのだそうだ。


 チビがソファの上に寝そべっていたタヌキに、鼻を突きつけて小さく鳴いている。遊んで欲しいのだろうか? だがタヌキは彼を嫌がって、さっさとソファから降りて部屋の外に逃げてしまった。

 しかたなしにチビはカメの方に向かう。カメは爬虫類故におとなしく、チビが甲羅の上に乗っても、全く動じた様子はない。


「家に迎え入れてくれて感謝する。それでここに来た理由なんだが・・・・・・」

「知ってるよ。そのおかしな肉体を調べて欲しいんだろ? しかしこれは本当に染めてるわけじゃなさそうだな。黒の女神とかおかしなことを言う奴がいるわけだ・・・・・・」


 ゲドの頭の髪をわしゃわしゃと触りながら、そう言ってくるテトラ。だがこの会話に、ステラは違和感を感じていた。


「ねえ母さん? 何でそんなに乗り気なの? 最初念話でこの話をしたときは、あんまり信じてなかったじゃない・・・・・・」

「ああ・・・・・・何か聞いた話と様子が違うんだが?」


 最初にステラが実家に連絡を取ったとき、ステラはゲドのこと・自分たちがしてきことを、彼女の母はあまり真に受けていなかった。

 ともかく家に何か用なら、何でも良いからさっさと帰ってこいと、きつく言われたのだ。事情は不明だが、ステラが他国で傭兵をやっていたことは、家族から良く思われていないらしい。


 だが今の彼女の返答は、ゲドのことに関してかなり乗り気のように見える。証拠になるような物は、まだ何も見せていない。せいぜいさっきの防目の結界を張ったことぐらいだ。


「ああ、今なら信じるよ。お前らのせいで、ローム王国がどれだけの騒ぎになっているか、知らないと思うの?」

「ああ・・・・・・うん知ってるわ。なるほど・・・・・・」


 この返答で二人は納得する。あの後のローム王国での変化は、ゲドも千里眼で確認している。どうやらあの情報は、すでにフレット王国にも伝わっているようだ。


「私としては、今すぐにでもあなたの身体を検査したいところだけれども・・・・・・でもその前に、ステラと話をさせてもらえないか?」

「うっ・・・・・・・・・」


 この言葉に、ステラが気まずそうなめんどくさそうな反応を示した。何だか家族間の、面倒な事情がありそうだと、ゲドは素直にその提案を受け入れた。


「ええ、いいですよ。それじゃあ、俺は少しの間、外の散歩をしてきますね」

「ああ、それなら私が今から案内したげるわ。この街は初めてでしょう?」

「いいよ。こう見えても俺は子供じゃないんだ。それに面倒な話だからって、逃げちゃ駄目なこともあるだろう?」

「あう・・・・・・」


 何か言いたげなステラを他所に、ゲドはテトラに挨拶を済ませ。チビと共にさっさと扉の方へと向かう。


「それじゃあいってらっしゃい。ちゃんと気をつけて、知らない人には何を言われてもついて行っちゃ駄目よ」

「だから俺は子供じゃないっての!」

「知ってるわよ。どんなに強くても、子供を一人で外に出す許可が下りるわけないだろう?」


 カラカラと軽く笑うテトラ。ゲドは少しむすっとしながらも、外へと出て行った。ちなみにゲドの周辺数十メートルにも、防目の結界が張られていて、今の彼女の監視は不可能である。






 ゲドがロックツリーに到着するよりも数日前のこと。


 都市の中央区には、貴族の住まう上流街を初めとして、一般区画にはない様々な施設がある。これはロームのエイドアと、ほとんど変わらない格式の付け方だ。


 そしてその一つに学校がある。別に学校自体は珍しくも何ともない。少し生活に余裕がある人々は、身分関係なく皆学校に通わせている。

 ゲドが通りかかる村々にも、学校もしくはそれに類する教育施設があった。だが上流区に設置された学校は少し特別である。


「てりゃぁああああああ~~~!」

「はぁ! ていっ!」


 ある区画に、多くの若者のかけ声が、元気よく響き渡っていた。学校らしい元気な掛け声である。

 だが民間の学校とは違い、この地域では高価な白い大理石に赤い煉瓦屋根の、結構目立つ建物だ。校舎の大きさは結構なもので、この規模なら数百人の生徒が通うことも可能だろう。

 だがその学校を囲う塀を境界に、何故か目に見えない魔法の結界が張られている。まるで砦などの、戦闘拠点に施されているような防護である。

 これは外部からの敵に備えるための物ではない。これは内部で行われている“戦闘”の余波が、他所の土地に迷惑をかけない為の処置だ。


 学校のグラウンドは、平均的な学校と比べるとかなり広く作られていた。通常の3~4倍はあるのではなかろうか?

 そのグラウンドには、土を盛って境界を作った、いくつもの簡易的な闘技場が設立されている。各々のその中で、現在幼き剣士達が、力の限りを放って戦っていた。

 彼らの持っているロングソードは、どれも刃がついておらず殺傷力はあまりない。それでも当たれば相当痛いし、下手をすれば骨折もしかねない。

 それを惜しみもなく、子供らが振るって、お互い打ち合っているのだ。一応防護用のプロテクターを付けてはいるが。

 しかも彼の持つ剣は、全て剣身が青白く発光している。魔法のように見えるが、これは違う。これは気功という生命エネルギーの加護だ。


 この学校は“フレット国立気功学校”といい、この国では唯一ある気功術士育成専門の学校である。


 気功とは、生命エネルギーそのものを放出・操作させて、力を強化する、魔法とは別分野の術式である。肉体を鍛えれば鍛えるほど、その力が強まるため、格闘術の延長という認識が高い。

 戦闘能力においては、魔法よりも優れているとされている。また肉体だけでなく、金属・鉱物などを強化させる技術もあり、鍛冶技術にも応用されている。


 フレット王国は、召喚術・地術を重宝している国であるが、気功術の育成も手を抜いてはいない。

 というより戦闘能力に優れる気功術士は、どの国でも必要とされており、それに手を抜いている国というのは、ほとんど聞かないだろう。


 いわば気功術士というのは戦闘のエリートなのだ。また戦闘以外にも、上記で説明した鍛冶技術など、魔法では難しい系統の生産術を、容易に作れる場合もある(最も全体的には、その逆の場合の方が多いのだが)。

 そしてこの気功学校は、そのエリートを育てる格式高い学校と言うことである。最も学費に金がかかるために、素質を見込まれて奨励金を貰った者を除けば、生徒の大部分が貴族であるが。


 十二の区画に分けられた戦闘用のリングには、それぞれ生徒達が一対一で模擬戦を行っている。だが一区画だけ、一対三で行っているところがあった。


「どうしたの? 三人がかりでこの程度?」

「くっ!」


 一人で戦っている片側が、三人で参加しているもう片側を、余裕の表情で相手をしていた。単独で参加している者は、赤髪の小柄な少女であった。

 三人の方は、男二人・女一人のグループで、全員対戦相手の女よりも大柄である。にも関わらず、戦況は赤髪の少女の方が有利であった。


 三人分の剣撃が、赤髪の少女に襲い来る。だが少女はそれらの攻撃を全て受け止め、あるいはかわしていく。

 彼女の気功術の力と、本人の卓越した戦闘技能がおりなす技である。赤髪は、息を切らせずそれらの攻撃を受け流していくが、三人のほうは大分息が上がっていた。

 三人は学校の中では成績下位であるが、それでもこれほどの実力差が起きることはそうない。


「そろそろ交代の時間ね。じゃあさっさと決めるわよ!」


 今まで攻撃を受け止めてばかりだった赤髪が、初めて自ら攻撃に出た。ロングソードを機敏に回転させて、三人の対戦相手を次々と打ち払っていく。

 プロテクター越しにその強力な剣撃の衝撃を受けた彼らは、その一撃であっさり膝をついた。余裕の大勝利である。


「おし第一の模擬戦は終わりだ! 次の班、リングに上がれ!」


 赤髪を初めとして、今まで戦っていた生徒が、次々とリングから降りて次の者達に場を譲る。

 幸い今回の模擬戦では、全員深刻な怪我を負っていない。まあ多少の怪我を負ったとしても、生命力の高い気功術士はすぐに全回復してしまうのだが。


「すごいですライアさん! 今日も見事な実力でした!」

「ライア様素敵です! 今度私達の訓練も付き合ってください!」

「お疲れ様でした! ああ汗をお拭きしますね!」

「いや、別にいいわよ・・・・・・そんなに汗かいていないし」


 リングから降りてきた先ほど圧倒的な実力を示した赤髪の少女=ライアの元に、大勢の生徒が歓喜の声を上げて集まってくる。まるでアイドルのように、言えるだけの賛辞をありったけ送られているのだ。


(うわ~~~つくづく鬱陶しいなあ・・・・・・この人たち・・・・・・。世辞がワンパターン過ぎなのよ。毎回毎回、何かあるごとに同じようなことばかり叫んで、そっちは飽きないのかしら?)


 精一杯の笑顔で彼らの世辞を受け流していくライア。内心ではもの凄い毒が混じったことを思考している。

 正直彼らにはさっさと消えて欲しいのだが、そういうわけにはいかない。内心苦笑しながら、人の波を掻き分けてどうにか待機所に戻っていく。

 しばらくすればお世辞の声はおさまったが、こちらに色々な想いを混ざった視線は消え去らない。その中には歓喜とは別の、妬みの視線もいくつか混じっている。


 見ての通りライアはこの学校の優等生である。別に彼女のような扱いを受ける生徒は、学校史上さほど珍しくも何ともない。

 実力主義のこの学校では、常に強い者は憧れの的であるのだ。しかもその人物が、容貌も良い美人さんとなれば尚更だ。


 ライアも最初はこの持ち上げられ方に高揚し、大分舞い上がっていた。だがそれが繰り返されていくと、逆に今彼女が考えているとおり、鬱陶しいとしか思えなくなってくる。

 またこの頃は、それとは別の人間関係の面で、彼らを嫌悪するようになった。


 やがて今まで待機所に座っていた第二班が、次の模擬戦を開始する。このときはライアのような飛び抜けた実力を発揮する者はいなかった。だがその逆ならばいた。


「かかかかっ、何だそのへなちょこ剣は? ほらほら、待っててやるから打ち込んで来いよ」

「くうっ!」


 あるリングで、一人の茶髪の少年が精一杯剣を振っている。少なくとも本人は、全力で打ち込んでいるつもりだ。

 だがその一撃はあまりに弱かった。少年はしきりに剣を打ち付けているが、相手には全く通じていない。相手は大した構えもせず、余裕で茶髪の少年の剣を受け止めている。

 両者の実力差は圧倒的であった。だがそれは、茶髪の少年の対戦相手が強いことを意味しない。


「はあ・・・・・・お前本当にやる気あんのか?て感じだな・・・・・・もういいや飽きてきたし」


 相手は茶髪の剣をあっさり弾き返すと、自らの気功剣を少年の肩に打ち付けた。その痛みに少年は苦悶の声を上げる。


「くう・・・・・・! はぁっ!」


 だがすぐに態勢を立て直して、再び斬りかかった。だがあっさり返り討ちにあう。だがそれでも茶髪は倒れない。


「うぜえよ!」


 何度叩かれても、茶髪は中々倒れない。ただ繰り返し、相手にとっては弱すぎる剣撃を打ち付けてくる。


「弱ええくせに、打たれ強さだけはありやがって! この! おら! 死ねえっ! おりゃっ!」


 相手は何度も何度も、執拗に茶髪を叩きつける。やがて茶髪も限界に来て、とうとう倒れ込んだ。普通ならここで勝負ありの判定が出る。だが何故か審判の声が出なかった。


「どうした、どうした!? さっさと立ち上がれよ! この虫けらが! 死ね死ね死ね~~~♫」


 倒れた茶髪を、相手は何度も何度も叩きつけた。やがて剣では面倒になったのか、相手は足で茶髪の頭や手を何度も強く踏みつけた。

 もはや試合とは呼べない暴虐。だがそれでも審判は何も言ってこない。


「何してんのよあんたっ!?」


 止めに入ったのは、待機所に控えていたライアであった。闘牛のように猛速でリングに突っ込み、暴虐を行ってい男子生徒を思いっきり横から蹴りつけた。


「ぶげえっ!?」


 男子生徒はその砲弾のように強烈な気功のキックに、豚のような鳴き声を上げて吹っ飛んだ。

 リングから飛び出し、さらにグラウンドの地上を鳥のように飛び、やがて高さ十メートルの位置の、塀上の結界に衝突して墜落した。

 プロテクターは見事に凹み、男子生徒は白目をむいて失神している。これはこれでやりすぎな気がするが・・・・・・


「ちょっとライアさん! 試合の乱入は駄目ですよ!」


 ここに来て初めて審判が声を出してきた。やれやれ困ったな~という感じの軽いノリで、ライアに注意する。


「ふざけないでよ! 明らかに試合を超えた暴力があったっていうのに、あんたは何してたのよ!」

「あれぇ~~~そうでしたっけ~~~? あまりにつまらない試合だったもんだから、うっかり目を離してましたよ」


 当然嘘である。この審判は、試合中ずっと茶髪に振るわれる暴力を見て、ニヤニヤと楽しそうに笑っていた。


「もういいわ! カイは私が保健室に連れて行きます!」


 ライアは頭が噴火しそうなほど腹を立てて、気絶した茶髪の少年=カイを横抱きにして持ち上げて、グラウンドから校舎の方へ走っていった。

 この一連の騒ぎは、当然グラウンド中で注目を受けていた。試合を行っていた者も、途中で剣撃を中止して見入っていた。


「あの野郎、またライア様に気を遣われやがって・・・・・・」

「雑魚の分際で何て生意気な! 未だにライア様と言葉を交わせない、私への当てつけかしら!?」

「この前、あれだけ釘を刺してやったのに、まだ改心しないのか!? あの人間のクズめ!」

「もう百発殴るだけでは済まさないわ! 今度のお仕置きでは千発・・・・・・いえ、いっそのこと殺してやろうかしら?」

「いやいやいや・・・・・・いくら相手が外道でも、殺しはまずいだろう? つらいだろうが皆ここは抑えておけ」


 彼らは口々に、カイに対しての妬みと怒りを口にする。


 実力主義の彼らの世界における、優等生と劣等生に対する、極端な扱いの差を、実に判りやすく見せつけてくれる構図であった。


 ちなみに気功学校は、多くの騎士やエリート憲兵を輩出している名門校であるが、それと同時に“勇者”を大勢世の中にばらまいている。

 勇者達の正義論も、こういった魔法や気功の専門学校で育まれた部分が多い。ある意味この世界を乱している、元凶の一つでもあった。


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