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第二十三話 契約

 翌日の朝、貴族院の議事堂では相変わらずの会議が行われていた。


「ガンガルは今日も欠席か? 全く相変わらず、不真面目な若造だ・・・・・・」

「あの偽女神に怯えて逃げたんじゃないのかい? それともドルドの件がばれたか? まあいい、さっさと会議を始めるわよ!」


 件はゲドの討伐隊の編成について。誰がどの範囲でどのぐらいの負担をするかで、相当揉めている。

 最終的には民衆への税を上げるという風に、話が進んでいったのだが・・・・・・


「うあっ・・・・・・・・・・・・?」

「ですから~~~~武器の支給に関しては~~~~~あ~~~~~」

「ぐごーーーーーーーー!」


 ブツブツと小言や口げんかで騒がしかった会議室が、急に静かになった。会話中だった議員達の声も、随分と小さくなる。

 彼らの目はとろけて、酔っ払いのように身体がふらふらに揺れている。やがて彼らは、椅子に腰掛けたまま、次々と倒れ始めた。

 バタバタと、腰を前屈みに曲げて、机に顔を激突させる議員達。警備にいた者全員が、何の前触れもなく突然に、あっとうまに倒れてしまったのだ。当然何が起こったのかを知覚できる者などいない。


 しばらくすると、会議場は口汚い討議の声の代わりに、無数の寝息の多重奏が奏でられた。彼らは全員死んだのではなく、眠ってしまったのだ。

 グガ-グガ-ともの凄いいびきが騒音となって会議室に響き渡る。議員達の中には、口からよだれを垂らして、机をベトベトした液体で濡らしている者もいる。全員見事な大爆睡であった。


 全員が間抜けな形で意識を失った会議室の扉が、廊下側から何者によって開け放たれた。開けた人物は議員でも警備員でもない。一人の女と子供と小動物=ゲド・ステラ・チビであった。

 外にいた屈強の警備兵達は、全員ゲドによって、ここの連中と同じように眠っている。


 ステラの考えたとおり、貴族院の守りなど彼女にとっては、何の障害にもならなかった。貴族院も、まさかゲドが敵の本陣の真っ只中に乗り込んでくるとは、誰も思っていなかった。

 ただ最初は破壊的攻撃で強行突破しようとしたのを、急いで諫めたのだが。別に派手に暴れなくても、ゲドが得た魔法の知識には、様々手段があるはず。それで聞いてみたら、やはりこの眠りの魔法も、しっかりと習得していた。


「さあて・・・・・・・・・一仕事をしますか?」


 あまりにも簡単に、敵の本陣を占拠してしまったゲド。彼女は邪悪な笑みを浮かべ、天井に向かって手をかざし、次の魔法を放った。


 そして十分ほどして・・・・・・・・・


「「「ふがぁああああああああああああああああっ!?」」」


 先ほどまで面白い醜態をさらして眠っていた議員達が、これまた面白い寝起きの声を上げて、一斉に飛び上がった。

 さっきまでそう簡単に目覚めようがないほどの、深い眠りについていたのが、突然全身に高圧電流が流れたような痛みが一気にほとばしったのだ。


 苦痛に歪んで、強制的に眠りから目覚めさせられた議員達。

 しばし痛みで昏倒し、やがて意識がはっきりしてくると、事態が飲み込めず困惑した。とりあえずしばらくの間、意識が飛んでいたらしいことは認識できた。


「一体何が・・・・・・・・・はぁああああああっ!?」


 彼らの目線が会議室の中心に向くと、そこにいるはずのない人物の姿を目にして、皆飛び上がるように仰天した。

 大勢の議員達が座る、半円状に並べられた机と、向かい合う形で設置された縦一列の机。その真ん中及び、他の机よりも一歩前に出ている上座の議長の机には、さっきまでそこに座っていた議長の姿がない。

 当の議長は、その机の前、議員達と机の間の床に、腰を地面に付けて座り込んでいる。議長もまた、他の議員と同じように仰天しきっていた。


「やあ初めまして、貴族院議員の方々♫」


 椅子ではなく机の上で、前足を突き出して座っている (恐らく背が低くて、上手く座れなかったのだろう)人物は、他ならぬゲドであった。

 後ろ隣の席では、にやけ顔のステラとチビが、それぞれ一席ずつ座っていた。ちなみに議長だけでなく、上座の席に座っていた者は全員会議室の壁側に追いやられていた。


「おおおっお前は!? ゲド!」

「ひぃいいいっ! 来るな、化け物!」


 瞬く間に恐怖の絶叫で大混乱となる会議室。何人かが椅子から立ち上がって、扉を通って廊下へ逃げだそうとするが・・・・・・


「おいっ! 何してんだ!?」

「開かないんだよ! 何でだ!? おいっ、外の奴ら! 敵襲だ! あの小娘が侵入してきたぞ!」


 廊下へと続く扉は、まるで壁に固定されているように動かない。扉をどんどん叩いて、外にいるはずの警備兵に向かって叫ぶが、それに答えてくる者はいなかった。

 ある物が、窓を叩き破って外に出ようとする者がいた。だがどんなに椅子を叩きつけても、魔法を撃っても、窓ガラスはまるで鋼鉄の壁のように傷一つつかなかった。

 ちなみに窓の鍵も、まるで溶接したかのようにビクともしなかった。


 しばし議員達の無駄なあがきは続いた。次第に議員達に疲れが見え始め、悲鳴のトーンが下がってくると、頃合いと初めてゲドが口を開く。


「あい、そろそろいいか? じゃあ俺からこの会議での新しい議題を提案するぞ」

「「「ひぃっ!」」」


 初めて発したゲドの言葉に、議員達が一斉に振り向き、そして一斉に小さな悲鳴を上げた。この辺りやけに息が合っていて、まるでコントのようだ。


「よせっ! 何でもやる! お前の手配も解く! だから助けてくれ!」

「言っておくが、俺は討伐隊には何も口を出していないぞ! こいつらが勝手にやったんだ!」

「あああああ・・・・・・・・・・うわぁああああああっ! 助けてくれぇえええええっ!」


 皆口々に言い訳を叫び、ある者は意味すら持たないような絶叫を上げ続ける。正直話をするどころでない状態だ。


「うっさい・・・・・・お前ら少し黙れ!」


 ゲドが目元に右手の人差し指を突き出す。するとそこに電線漏れのような、僅かな電気の火花が放射された。


「「「・・・・・・・・・・・・・・・・!?」」」


 すると議員全員が、声を上げないうちに苦しみだした。半分ぐらいが立ったまま硬直し、残り半分が床に腰を落として倒れ込む。

 ゲドが何をしたのかというと、この部屋に小さな (あくまでゲドにとっては)電気の波を発生させたのだ。

 それはステラ以外の人体に影響を及ぼし、感電を引き起こす。死にはしないが、しばらく生き地獄を味わらせるぐらいのことは出来る。


「俺の話を聞くか、それともこの場で処刑されるか、好きな方を選べ。前者だったら頷いて、後者だったら首を振れ!」


 その言葉に議員達全員が、こくこくと必死に首を上下に振り動かした。すっかり恐縮しきった議員達に、ゲドは満足げに言葉を並べた。


「俺からの議題は、国内で起きている犯罪行為を明確に処罰することだ! 傭兵だろうが冒険者だろうが、略奪・暴行・脅迫・家宅侵入は、全て犯罪行為として正当な裁きを与えろ! ここで言う裁きの度合いは、王国の今の法に準じるもので結構だ。お前らがまともに守ろうとしていない法律通りにな! 当然お前ら貴族や神官も、罪を犯せば刑罰を与えろ! 勿論猿屋もだ!」


 ゲドが懐から、手紙のような封筒を、目の前で腰を抜かしている議長に差し出した。


「これには俺が、千里眼とスピリットロードで調べ上げた、猿屋の情報が全て書いてある。奴らの各地のアジトや、組織幹部・取引相手の名前も全て書いてある。大部分は俺が潰し回って、半壊状態だがな。だが最後のとどめはお前らが刺して、善政転換を民衆に示せ」

「「!?」」


 差し出された書類を、黙ったまま受け取る議員。議員達が声を上げられずとも、僅かに困惑しているのが見える。彼らはゲドが何を目的に来たと思っていたのか?


「勿論猿屋だけでない。特に“勇者”に関しては厳しい警戒を持て。ここで新しい法律を提案するが、国内で勇者を名乗る者は、前科のあるなしに関係なく、全て犯罪者として捕まえるんだ!」

「・・・・・・うっ・・・うむ」

「しかし・・・・・・最初の議題通りにすると、国内のほとんどの兵力を捕まえることに・・・・・・」


 ようやく声を上げられるまでに回復してきた議員達。ゲドに自分たちを殺す意思がないと判ったためか、最初よりやや落ち着いてきている。


「別に全員を捕まえる必要はないさ。殺人などの重すぎる前科がなければ、現時点では見逃して良い。ただし、ムツ村のように略奪した土地を、私有地にしている奴らは、即刻退去して持ち主に土地を返還させるんだ!」


 議員達がお互いの顔を見合わせて、ブツブツと小声で討議を始めている、どのみちゲドの議題は、貴族院に莫大な損失を与えることに変わりはない。


(面倒なことを・・・・・・何様のつもりだ? いつまでも我らを脅せると思ってるのか?)

(いや、下手に敵意を示すより、今のところは約束を守ってみてはどうか? 上手いこといけば、この小娘の力を、我らの手で利用できるかも・・・・・・)


 その一方で、自分たちに交渉という選択で接触したゲドを、自分たちの手中に動かせるかも?という考えが見え始めた。超感覚を持つゲドは、それらの会話を全て聞き取っていた。


「下手な策は考えない方が身のためだぞ? お前ら自分の右手の甲を見てみろ」


 考えを見透かされたことに驚いた同時に、反射的に言われたとおりに、議員達は自分の右手に目を向けた。

 そこにはついさっきまで、彼らの手にはなかった物が、彼らの目に映っていた。


「なっ!? 何だこのダサい紋章は!?」

「ちょっと待て! これはお前がやったのか? こんな刺青をつけて何のために・・・・・・」

「お前らまだ判らんのか!? これは召喚獣の契約の印だぞ!」


 訳が分からず混迷する議員達。その中の一人が、その言葉を発したことで、会議場は戦慄した。

 彼らの右手の甲に、何故か浮き出ている模様は、召喚獣と召喚士の力をつなげる魔方陣の契約印であったのだ。

 この様子に、何故かゲドだけでなく、ただ一言も発さず傍観していたステラまで、得意げな表情だ。


「ステラ直伝 (※第十六話)の召喚魔法の契約だ。言っておくがその印には、お前達の力を上げてくれるような効果はないぞ。そういう風に魔力を調節したからな」

「貴様・・・・・・・・・!?」


 通常召喚魔法の契約は、召喚者と召喚主の同意の下で行われる。対象の知性の低い動物だと、自分より多少の上の力を持つ者とでも、こちらに優位な契約内容で使役することも可能だ。

 だが召喚の対象となる存在が、召喚主よりも遙かに脆弱な存在であった場合、もはや契約とは言えない服従関係を生み出すことが可能である。

 相手の意思など無視して強制的に契約の印を焼き付け、更に相手の都合など関係なく強制召喚することが可能だ。以前エイドアの宿屋で、ゲドが試しに契約を交わしたネズミがそれにあたる。

 しかも召喚主は召喚獣の、現在位置・健康状態・会話などの言葉全てを、遠く離れていても常にチェックできるので、実質召喚主に24時間監視状態である。


「それがお前らと、俺との約束を守るかどうかを確認する絆だ。もしお前らが俺の議題を放棄したり、その契約印を無理矢理剝がそうとしたりしたら、即刻俺の元に召喚して処罰を与える。それとこの契約のことを、王宮の方にばらしても同じだからな」


 最初の頃から思っていたが、ゲドが言っている“議題”という呼び方は、明らかにおかしい。これは貴族院全員の自らの命を人質に取った脅迫である。


 議員達は誰も声を上げることが出来なかった。自分たちは常にこの小娘に縛り付けられ、逃げることも逆らうことも出来ないのだ。


 召喚は対象がどこにいても、例え異世界に渡っていても、召喚主の意思でいつでもどこでも呼び出せるのだ。

 どんなに大勢の護衛を雇っても、そんなのは全くの無意味である。敵は外部から来るのではなく、こちらから敵陣に連れ出されてしまうのだから。


「どうしても嫌なら、貴族院を退職するのも構わないぞ? どうせお前らの代わりなんて、王都にはたくさんいるだろうからな。その場合、俺がまた出向いて契約を交わしなおす。逃げたお前らは・・・・・・そうだなあ~~。まあ生かしておくかどうかは、俺の気分次第だな♫」


 そう言ってケラケラと笑う、麦わら帽子の少女剣士。地位を捨てるというのも嫌だし、そうしても自分たちの命の保証はないというのだから、彼らに選ぶ道など最初から決められている。

 状況は圧倒的にゲドに優位な状態。貴族院には、こいつに背くという選択肢は、最初から用意されていない。こいつは実質、エイドア地方をたった一人で占領してしまったのだ。


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