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第十六話 坊主剣士

 夕方になって、二人は宿を取った。中心街にも宿泊施設はあるが、値段が馬鹿高い上に、貴族達が多く暮らすこの場所では、汚い思念をゲドは強く感じ取っていた。

 正直そこはいるだけで気分が悪くなる。それに高級な宿では動物(イノシシ含む)お断りの場合が多い。それでゲド達は中心街から大分離れた地区まで、わざわざ足を運んで宿を選んだ。


「マジで全部覚えきったわけ? 信じられないわ・・・・・・」

「ああ、何でだか覚えられちまったんだわ・・・・・・」


 暗い夜に電灯で明るく照らされた木造の部屋の中。宿で借りたその部屋で、一人はテーブルの側の椅子で、一人はベッドに座りながら、神妙な面持ちで会話していた。

 今回は二人で一つの部屋を取っている。毎度二人組で別々の宿にいるのは、周りから変に思われるし、それに宿代がかかる。

 お互いが気にすることがないというので、結局二人一部屋で泊まることになった。ゲドの方はステラに対して思うことはないし、ステラもまた相手の中身が男であるという実感が薄れていた。


 二人が見下ろす床には、一匹のネズミがいる。ついさっきゲドが捕まえたものだ。そしてそいつにある魔法をかけた。召喚獣の契約である。

 契約は見事成功し、証拠にネズミの背中には、契約の印が入れ墨のように焼き付いている。ついさっきこのネズミを、遠いところに移して、たった今この場所に空間を飛び越えて呼び寄せることに成功したばかりである。


「召喚魔法なんて、私だって覚えるのに数年かかったのに・・・・・・あんたを見ると何かやる気なくすわ・・・・・・」

「すごいのは俺じゃなくて、この身体の持ち主だ。今日魔法を使ってみて、何となく判ったんだがな・・・・・・」


 ゲドの表情が何となく苦々しいものになる。どういうことかとステラが首を捻ると、次にこう発言した。


「何者かは知らないが・・・・・・多分この肉体の本来の持ち主の魂は・・・・・・まだこの中にいるな・・・・・・」


 ゲドは自分自身の胸を指し、そう発言する。これにステラは大分動揺した。


「ちょっと・・・・・・それってどういう・・・・・・」

「さあな、俺もほとんど勘で言ってるだけだし・・・・・・ああ~失礼。また敵だ」


 話途中にゲドはベッドから飛び降り、部屋の窓を開け放つ。そして外に向かって、またあの風輪を飛ばした。

 機関銃のように次々と連射される風の刃が、宿から遙か遠くの彼方へ高速で飛んでいった。


「また勇者? これで何回目だったかしら?」

「昼間にやったのも含めて十五回目だ。最初から判っていたが、相当治安が悪いな、この街は・・・・・・」






 後日、ステラとゲドは街巡りをしていた。簡単に言えば中心街の周りを歩いて、都市内部をグルリと一回転した。

 途中食べ歩きなどしながら。いつもならば勇者や盗賊の匂いを探し回り、あちこち走りまくって撃退していったのだが、もうその必要など無くなった。何故ならゲドは、魔法を覚えたから。


 とある軽食喫茶店で、二人で麺料理を食べている二人。人通りの少ない小道に立っている小さな木造の店だ。

 外見は少し古くさいが、こういう所にこそ、意外と旨い所があると、経験上ステラは知っている。人が少ないのに所なのに、何故か客の出入りが多いのを見て、ここに狙いを定めてみたのだ。


 そして狙いの通りだった。ゲドも満足しているようだ。霊術士風の少女と、魔道士の女が一緒にいる姿は、多少目に引くものの、田舎の村や町ほどではない。

 こういう都市では武装した戦士・魔道士など、さほど珍しくもないのだ、中には彼らを勇者(=強盗)ではないかと疑い、恐怖の目で見る者もいた。


「しかし俺たちこんだけ食べて太らないか?」


 少し前にも昼食には早い時期に、別の場所で二人は軽食を取っていた。少し食べ過ぎな気がする。


「大丈夫よ。魔道士や気功士は、技のエネルギー消費が多いから、その分人より多めに食べる物なのよ」

「なるほど。でもお前最近魔法使ってないよな? 戦闘もしてないし」

「あ・・・・・・・・・」


 事実を突きつけられて、ちょっと顔色が変わるステラ。本当を言えば、ゲドだって同じだ。魔法を使っているが、それは疲れを感じるほどの力は消費していない。

 ゲドの底なしのパワーでは、どのくらいの力の発揮で、どの程度のカロリーを消費するのか、計算は不可能だ。


 ふとゲドが食べかけのスパゲティにスプーンを突っ込み、椅子から立ち上がった。


「用を足してくる」


 ステラは無言でその言葉に頷く。彼らの間でかわされる「用を足す」とは、本来とは別の意味が込められていた。

 ゲドは一旦外に出ると、またあの回転輪の魔法を放った。今回は風ではなく、火属性だ。


 二十数発の火炎車輪は真っ直ぐ上に上り、家々の屋根の上を通り抜けて、街のある方角へと飛んでいく。

 しばらくして確かな手応えを感じたゲドは、満足した表情で店の中に戻り、再び椅子に座る。


「今回は多かったわね?」

「ああ、団体さんだった」


 ゲドの超聴覚と千里眼のおかげで、このエイドア全域の悪事は、彼女に全て筒抜けである。悪事を発見すれば、こうして魔法で遠くから狙い撃てばいいのだ。実にぬるい人助けである。

 だからこそこうして観光旅行をしながら、勇者狩りを続けることなど造作もない。


 ただ外に出歩きながらの勇者狩りは、以前のように直接殴り込んでいた時期ほどではないが、それなに人目を引く。

 ゲドが町中で魔法を使っている光景を、既に大勢の人間が目撃しているのだ。もっともゲドもステラも、それをあまり深刻に考えてはいなかった。


「でもこれだと、勇者共から金を剥ぎ取れないわね・・・・・・」

「それもそうだな。次は直に行くか・・・・・・。おっ!? ちょうどいいところに獲物の気配が」


 この後すぐに、街の中央通りの大観衆の前で、勇者一団二十人が、麦わら帽子の少女にいたぶられる光景が繰り広げられたという。






「久しぶりだなゲド! ここであったが百年目!」


 観光中に何か変なのと鉢合わせした。

 坊主頭の痩せ形長身の男性で、年は三十前後。両腰には、2本の刀身長めのククリ刀が差されている。他に身につけているのは、短パン一つで、上には何も着ていない。

 鍛え抜いた筋骨たくましく汗臭い肌が丸見えである。街中でこの身なりは、どう見ても変態である。


 ちなみに彼の左下脚は、他と肌色が違っていた。というかそれは有機物ですらない、金属製の手足である。

 鎧を着込んでいるようにも見えるが、その割には脚が細い。しかも鎧をつけていない箇所と、プラモデルの部品のように接続されているように見える。

 おそらくレグン族制作の機械義手であろう。レグン族との交易が途絶えた今、それはかなり値が張る品物の筈だ。


「誰この人?」


 いきなり見覚えのない男の出現に、ステラは驚くより呆れてゲドに問う。場所は街道のど真ん中、これまた道行く大勢の人間の注目を浴びまくっている。

 どこまでいっても彼らは、目立ちすぎる事態に陥ってばかりだ。


「いつだったか潰した盗賊の一人だな」

「ははははっ、俺のことを覚えてくれたか! 流石に俺の剣捌きは忘れられなかったか!?」

「いや、禿げ頭でしかも裸で目立ってたからな・・・・・・」

「今の俺はあの時とは違うぞ! 今の俺はかつての二倍の実力だ!」


 ゲドの言葉を無視するように、威勢良く張り上げる坊主頭。

 別に二倍になったからといって、大した強敵にはならない。そもそも“二倍”という具体的な数値は、何に基づいて言っているのか?


 坊主頭は素早く両腰の得物を引き抜いた。刀身六十センチ程の、ククリ二刀流である。以前は一本だった気がするが・・・・・・


「まさか武器が二つあるから、二倍って言ってるのか?」

「そうだ!」


 馬鹿である。


 というか長い得物の二刀流というのは、戦闘中に己の武器同士がぶつかる恐れがあって、かなり扱いづらいと思うのだが・・・・・・


「今でもお前に斬られた、この脚が疼く。だがそれも今日で終わりだ! 見よ! 俺の剣捌き!」


 坊主頭はその場で、曲芸ショーのような行動を始めた。指先を器用に動かして、ククリ刀を風車のように回転させている。ヒュンヒュンと風を切る二重奏が、心地よく流れている。

 さらに彼は両腕をも不規則に回転させて、ククリ2本を二重に回転させている。その間、刀身同士は一度も接触しておらず、本人の言うとおり見事なバランスでの剣捌きだ。


「ああ、確かにすごいな。大道芸としてはな。でもそれが実戦に何の役に・・・・・・・・・」


 ザシュ!


 肉が切れる軽快な音が聞こえた。さっき図書館でも、これを大きくしたような音を聞いた気がする。

 今回は何が斬れたかというと、坊主頭の首の肉が三割ほど。骨と気管には届いてないだろうが、かなり深刻な傷である。


「うが・・・・・・」


 斬れた首肉から、ドバドバと滝のように血が流れ出て、坊主頭の目からどんどん生気が消えていく。彼はあの高速剣舞の最中に、うっかり自分の首を斬ってしまったのだ。

 もう少し刃が短ければ、こんなことにはならなかっただろうが・・・・・・


 ゲドとステラ、そして周りの観衆達も、それを理解した途端、あまりの間抜けぶりに絶句していた。


 やがて血を流しすぎた坊主頭は、その場で膝を落とし、ばったりと倒れた。


「大変だ! 救急隊を呼べ!」


 観衆達がざわめき、何人かが近くの電話がある家に駆け込んでいく。この様子だと、救急隊の到着は早いだろうが、彼が助かるかは微妙な所である。


「さて行くか・・・・・・」

「ええ・・・・・・」


 何もしない内に、刺客を撃退してしまった二人。もはや呆れて何の感想も言えない。大観衆の脇をそれて、街道を元通りに進んでいく。


「しかし、今日だけで二人も刺客が来るか。少しは周りに用心した方がいいかもな。俺はともかく、お前は危ないぜ」

「あら、私のこと心配してくれるの? もうすっかり良い子ね♫」

「何言ってる? 俺は最初から、心清い善人だぜ」


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