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序章

 とある世界のとある国の国境付近で。

 そこは今まさに戦場の真っ只中だった。ついこの間まで、農村の畑が広がっているところを、大勢の武装した人間が、集団で激突して殺し合っている。


 両軍合わせて一万人を超える大規模戦闘。剣や槍などの武器を持った者が、近接戦で殺し合い、銃や魔法を使う者が遠方から攻撃を与えた戦況を補助する態勢が、最初に行われていた。

 だがその連携は次第になくなり、両軍入り乱れての殺し合いに発展している。


 うっかり味方を斬ってしまう者もいる。近接戦が苦手な魔道士が、うっかり前面に出てしまい、ばっさりやられてしまう者もいた。両軍の連携は正直かなりお粗末といえるものだ。


 大量の血が流れ、踏み荒らされた畑には死体が次々と積み重なっていく。この土地で働いていた者が見れば、悲鳴を上げるような光景である。

 だがその心配はいらない。もうこの土地の者は、ここには帰ってこれないだろうから。この合戦が繰り広げられる少し前、ここに暮らしていた村が、今戦っている者達によって他所に締め出された。

 男や年寄りを散々快楽暴力のために痛めつけ、少しでも抵抗したものは殺された。若い女や子供は、猿屋と言われる人買いに売るために連れて行かれ、残り少ない金品や食糧は根こそぎ奪われた。


 あまりに凄惨な悪行だが、彼らがこの罪で裁かれることはないだろう。何故ならば彼らは国に雇われた傭兵であり、彼らの行為は接収ということで国に認可された行為だからだ。


 戦っている者達の中には、人でないものもいた。大きなトカゲのような動物が、ある兵団に襲いかかって、尻尾で叩きつけ、兵士に噛みついて肉を食いちぎる。

 だが多勢を相手にするのは難しく、やがて大勢の兵士達に槍を突き刺されて絶命した。彼らの槍の刃は青く発光しており、それが鉄のように堅いオオトカゲの鱗を貫いている。どうやら普通の槍術ではないようだ。


「また一匹やられたわね。この辺でとっておきを見せて上げようかしら?」


 その様子を遠目から眺めていた女性が、そう喋った。

 髪を後ろに縛った金髪ポニーテールの女性だ。年齢はおそらく二十代前半。緑色のローブと先端に妙な飾り付けと球が取り付けられた杖=魔道杖(まどうじょう)を持っていることから、おそらく魔道士であろう。


「てりゃっ!」


 女魔道士は、すぐ側までやってきたロングソード装備の敵兵を、杖の先っちょでぶん殴って昏倒させた。その直後に素早く魔法の準備を始める。


 女性魔道士が杖をかざすと、その先端が緑色に輝き始める。

 彼女は召喚魔道士だった。支配下に置いた他生物を、遠くから呼び出して戦わせることが出来る、支援専門の魔道士である。さきほどやられたトカゲが、彼女が召喚したモンスターである。


 彼女が杖で指し示した先、その数十メートルほど先で地面から十メートル以上離れた位置に、何か緑色の光の渦が発生した。

 オーロラのように形を伴っていなかったそれは、やがて円を組み、その円の中心に空気を貫く穴のような物が出来る。


「おいお前! そこから離れろ! ステラが何かしてるぞ!」


 近くでその様子を目撃した兵士が、近くにいる兵士にそう問いかける。

 実はその魔法の穴が発生した空中の真下には人がいた。長銃を持った金髪の若い男の傭兵である。


「うん?」


 彼は言われて初めて、自分の頭上に起こっている異変に気がついた。気の抜けた表情で、真上に首を曲げる。


「出てきなさい! アイスワイバーン!」


 女性魔道士がそう叫んだと同時に、その穴から空間を飛び越えて何かが呼び出される。


 グシャッ!


 聞こえてきた音は、彼女が想像していたような飛竜の羽ばたきと鳴き声ではなかった。

 空間の穴から出てきたのは、今喋ったアイスワイバーンなどでない。それどころか生き物ですらない。大きなバケツのような形状をした、金属の器であった。


 大きさは大人一人がすっぽり入れるほど。上には蓋がしてあって、内側は見れない。逆に言えば蓋があるということは、内部に何かがあるかも知れないと言うこと。


 それは星の重力に従って、地上へと落下した。そしてそこにいた一人の兵士を、その底面で押しつぶしてしまった。

 上半身が完全底面に叩きつけられ、腹這いの姿勢で倒れた兵士。彼はピクリとも動かない。

 底面に覆われた顔は見えないが、脇から血が流れて出ている。結構な重量があったようで、この様子だとおそらく即死であろう。


「何だよこれ?」

「ガラクタに見えるが・・・・・・こう見えても実は召喚獣なのか?」


 突然現れた珍妙な物体に、その場にいた者が敵味方関係なく、その大バケツに注目する。ついでにそれに潰されて、滑稽な様子で倒れた兵士の死体も。

 注目する人物の中には、それを召喚した張本人もいた。


「あ~~~ちょっと失敗したわね・・・・・・。仕切り直しよ、そうれ!」


 すぐに次の召喚の姿勢に入る女魔道士。潰された兵士は、鎧から見て味方の兵。だがそんなこと全く気にすることなく、女魔道士は戦闘を続行した。


 謎の召喚物に下敷きされた一人の傭兵=ゲド 21歳 職業:傭兵。彼はこの日、一度死にそして生まれ変わった。


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