我流自権先・1
「おばあさんは、どうやって旦那さんを誘惑したんですか?」
「ひょっひょっひょ。当時のワシはとても大胆であったのでな、ほれ、耳を貸してみい」
乙女の悩みは、乙女であった大先輩に打ち明けるのがいいでしょう。時代の違いさえ考慮しておけば、きっと役立つものが手に入るはずです。
「――ほう。それはそれは。しかし男性って、それで喜ぶものなんですか?」
「お前さんは男を過剰に考えすぎじゃ。男とはな、もっと単純なものぞ。女の肌がちらりと見えただけで、その日の大半は目に焼き付いたままじゃ」
「んー。たしかにそうかもしれないです。先生はよく私の――を見ています。先書粒子名義での最近の作品、そこの描写が少し力入ってるものになっていますね」
具体的にどんな箇所かは、先生の名誉のためにぼやかしておきます。その視線を感じる度に私は、「へえ、先生っていいご趣味をお持ちで」と思うわけです。
「おばあさんって、とても大胆な若い時代を送っていたんですね。今よりもっと厳しかったんじゃありません?」
「そうでもないぞえ。ワシはいつの時代だって、好きなように生きてきたからな、閉息感なぞ覚えたことはない。ま、大人はワシの生き様を見て、ああはならないようにと子供たちに教えていたがな」
ひぇっひぇっひぇと笑うおばあさん。
「わしはな。女は受け身でなくてはいけない、などと考えていないぞえ。したければ、女からも行動していいではないか。なあに、同じ人間じゃ。飯を食えば排泄もするしいつかは土に還る。そこに一体、どんな違いがあろうて。なら、女がやれることなら、やって悪い道理はなかろうて」
どことなく、宗司様を彷彿としました。あの方はあの方で、女性の権利はもっと大きくするべきという思想があります。まあその影では、男などどうでもいいという考えがちらついていますが。本質的に、女性が好きなナンパモノなのでしょう。
「お、姐さんじゃん。今日も来てくれたの?」
「こんにちは時風君。ええ。お茶をする約束でしたからね」
竹刀掲げ、体中泥だらけにして店内に入ってきたのは、時風君でした。
「ほれ、さっさと裏にまわって泥を落としてきんさい。店内を汚すつもりか貴様は」
「気にするほど綺麗じゃないじゃんこの店」
おばあさんの「大きなお小言」が炸裂すると同時に、時風君はその名の通り、すきま風のようにお店の奥へ逃げました。
「まったく……近頃の坊主ときたら、礼儀というもんを知らん」
「あはは」
乾いた笑いしか出せません。
私も時風君くらい、さらっと言いたいことを言ってから逃げたいものです。見習っておきましょう。いつかは役立つかもしれません。
まあ、時風君がどこかへ行ってくれて、よかったのかもしれません。こんな会話、純朴な少年には聞かせられませんから。
私の心を読んだのか、おばあさんはニヤリと笑いました。
「そうさな。男からすればはしたない、しかしおぬしでも可能なことがあるとすれば――」
ふんふむ。参考にさせてもらいます。私が描いていた青地図を、少しずつ明瞭なものとしていきます。完成までは、あと少し。