策・2
「僕は『雲雀』という、所謂成金の家に産まれた。とは言え、下地だけは鎌倉時代まで遡って積み上げてきたのだとか。本当かどうか疑わしいけどねい。まあとにかく、歴史と格を気にする家だったんだ。そしてどんな勘違いか、堅苦しい態度を貫いてこそ格は上がる、なんて当主様たちは考えたわけ。その結果、碌でもない家ができあがった。女は子供を生産する畑程度の役割しか果たさせない。格下の者は人類という枠ですらない。格上と認識した『モノ』は、蛇のように丸呑みをして、自らの血肉としてしまう。……僕はそんな雲雀を軽蔑していた。
金字と出会ったのは、僕が八つの頃だった。
当時やんちゃ坊主だった僕は、自宅近くにある家に興味を持った。肌が雪のように白く、髪は真夏の太陽のように黄色く、瞳が滴る血のように赤い、幽霊が住まうと噂されていた家だ。
手を尽くしてどうにか潜入に成功した僕は、塀から飛び降りた瞬間、心地のいい声を耳にした。子守唄のような、とても安らぐ声。実際その詩は単なる童歌だったけれど、当時の僕は、女神の紡いだ詩だと思った。知識のついた今なら、セイレーンと言った方が適切かもしれない。
ふらふらと、虫が火に誘われるように、僕は無意識のうちに声の出所を確かめようとした。
縁側を上がり、戸を一つ一つ、誰もいないことを確認しながら開けていく。少しずつ核心へ迫る。他人の家に忍び込んでいるという自覚は持てなかった。夢うつつの世界では、これは夢であると理解できないのと同じだ。
そして、ついに見つけることができたんだ。
屋敷の最奥。隔離された納屋。雪のように白い肌と髪、血のように赤い瞳を持った少年。女神の声を持った年上の女性。その二人が、まさに待ち構えていたんだ。
僕が我に返ったのは、計四つの目に自身の身体を穿たれたその時になってようやくだった。家人にばれてどうする。僕は幽霊を探しに来たんだ。断じて女神を探しに来たのではない。
……まあそんな葛藤は、すぐに無駄となって散ることになったんだけれど。
少年の方はお分かりの通り、龍ヶ崎金字。
年上の女性は、その名をハツと言った。
突如現れた乱入者に金字は、目だけで呪い殺されるのではないか、というぐらいに力を込めて僕を睨んできた。後で聴いたところ、それはただ単に、驚いていただけだと知ったけれど。
しかし金字は当たり前な反応をしたというのに、ハツの方は、ニコニコとした笑顔のまま、
『あらあら。坊ちゃんのお友達?』
そんな、呑気極まりないことを言ったんだ。
この一件から僕は、金字の家へ遊びに行くようになった。最初の頃こそ塀を何度も乗り越えて家へ入っていたものだったけれど、ハツが僕を見て、
『折角できた坊ちゃんのお友達を、そんな所から入らせるわけにはいきません』
と、門から入れてくれるようになった。