策・1
「先生。開けてください」
「…………」
駄目ですか。
もうあれから、一週間は部屋に籠りっぱなし。私が学校に行っている間に外出はしているようですが、私が学校をサボタージュして緑霊館の掃除などに興じていますと、今度は一日中書斎から出てこない始末。当然、扉の前に置くご飯も手をつけてくれなくなるので、しかたないので、私は学校へ行くことしかできないのです。
仕方ありません。本日は三日。本当はこんなことしたくなかったのですが……私は扉の前に、いくつかの品物を置いておきます。
一枚の原稿用紙。束となった原稿用紙。手紙。この三つ。
「私は学校へ行きますが、朝食はちゃんと食べてくださいね。一度でいいですから、せめて部屋から出てくださいよ、先生。お願いです」
さて、勝負です。どこかから湧いた『七君』などという正体不明の女や、まともに仕事もできない使用人の『小娘』なぞに、負けてはならないのです。『倉持美古都』は、
それにはまず……あの方をどうにかしないといけませんね。学校から帰ったら、問い質してみますか。おそらく、逃げないでしょうから。
「宗司様。全てを話してください」
事前に、要件は宗司様宛ての手紙で伝えておきました。私の思惑に気付いているはずです。
応接間。宗司様にとって、他人の家でありながら、自らの所有地とも言える空間。
その場所において、だからこそ私は、宗司様を問い詰めます。
「…………」
あくまでも無言を貫き、しかし顔面の右半分だけを恵比寿様にする宗司様。その狂気は、まるでこの御屋敷の闇を一身に吸い取ってしまったようです。
「私はなにがあろうとも我自権先様の味方なのです。ですからあなたの脅しには屈しません」
このまま、先生を苦しめたままではいられません。
「いつから金字が我先権先と気付いたんだい」
「確信したのは、緑霊観を見た時です」
「そんな早くから。ほぼ最初からも同然じゃないか。なのに知らないフリをここまで押し通した。金字には酷なことをするものだ、君は」
「だって――いつもリーベにきてくれるお客様が、いつも私の様子を観察して、優しく見守ってくれるお客様が私の憧れのあの人だなんて……乙女の妄想が過ぎてしまうではありませんか」
私からは、何をしたわけではありません。ただ向こうから歩み寄ってきただけなのです。自らの行動で得たわけではない施しなど、いとも簡単に手から離れてしまうものです。
「――分かった。はは。話してやろうじゃないか。あいつの、大したこともない過去を。この雲雀宗司の手によってね」