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我流自権先  作者: いせゆも
39/52

真・5

 私は臆するところなく、書斎へ脚を踏み入れます。

 お粥は少々冷めてしまいました。しかし、効能はまだまだ有能なはず。

 宗司様を無視するように、私は先生へ、お粥を渡しました。

「もう無理なんだよ金字。美古都ちゃんは、ずっと前から気づいている。それこそ、出会った頃からではないかな?」

「はい」

 私も白状した方がよろしいでしょうか。

「宗司様に連れられ、この洋館に踏み入れた時。その瞬間です」

 相手があの我自権先様と知りながら、決して明かしてはならぬという、この葛藤。

 どれほど私の身を焦がしたことか。

 龍ヶ崎金字。この名前をアナグラムにしたものが、先書粒子。

 先生は、「俺の心に龍はすでにいない」と発言をしていました。それは、このアナグラムの意味も含まっていることを、私は気が付いていました。

 名前から龍を抜けば、ガサキキンジ。我自権先は、漢字の読みを変えればガジケンサキ。まあ、そういうカラクリです。

「ですが、だからなんだという話です」

 最初から知っていたのですから、先生がどのような言葉を残してもそれは詮無きことです。

「まあ、僕が本気になって口説いているのに、全くなびかない女学生なんて、有り得ないのさ。普通に考えてみなよ。こんな家に籠っているだけで使用人に愛情もなにもない主人と、たまに家へやってきては優しい言葉をかけてくれる客人。君も自由恋愛小説を書いている身だ。主人を選ぶなんて展開、するはずがないだろう?」

 宗司様は自信過剰ではなく、本当にそう思っているようです。

「申し訳ありません、宗司様。私は昔から、我自権先様一筋ですので」

「……となると、知らぬは僕だけだったというわけか。いや、我自権先と七君の正体を、一番知るのが遅かっただけか。道化だねい僕は。ま、楽しめたからいいんだけどねい」

 からからと笑う宗司様は、心の底から愉快そうでした。

「――――」

 対する先生は、言葉を失う、それを行動に移したように、口をパクパクとさせていて……。

「――知って、いた、あ、ああ……」

「……先生? どうしました?」

 おかしい。すぐに分かるほど、今の先生は常軌を逸していました。

「ああ……あ、あ、……じゃあ、どうして、俺は、七君に向かって、あんな態度を取っていた、意味が――」

「……ふふ、はははは! やっぱり君は、ハツを『殺した』んだね!」

 先生がおかしくなったと同時に、宗司様まで狂ったように笑い出し……私には、どうすることもできませんでした。


・・・

・・

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