真・4
「ああ、来たのかい」
「はい。先生を放ってなどおけませんから」
私が家に帰らず、こうしてお屋敷に直行しますと同時に、私はお父様から訊いたレシピを元に、風邪によく効く料理の作成に取り掛かります。今日は家の手伝いをしろとお父様から事前に言われているので、これが夕食となるように。
「おや、作ってくれるのかい」
「もしかして、もう必要ないですか?」
「いやいや。今日は家政婦さんも来てくれないし、僕が作らなきゃなーと思っていたところなのさ。すごくありがたいよう」
「まあ。宗司様って、本当に自炊ができるのですね」
「それもこれも、英国時代の名残さ。じゃ、金字は書斎にいるから、後は任せたよ」
「書斎?」
「うん。『ぐっすり』眠れと言っても耳を貸そうともしてくれなくてねい。まあいつもの如くただの風邪だし、気を病む方が重傷だと僕は判断したから。こればっかりは衷心だよ?」
「分かっています。信頼はしていませんが、先生にかけては、悲しいかな、一番が宗司様ですから。最近知ったような私はほいほいと従うしかありません」
「どちらが嘘つきなんだろうねい」
あははと笑う宗司様は、先生の元へ行くのでしょう。
「……よし、できました」
卵味噌と、お粥です。両方をお粥を乗せ、私は書斎へ向かいます。
書斎から先生と宗司様の声が聞こえてきました。思わず聴き耳を立ててしまいます。
「どうしたんだい金字。君らしくない。たかが使用人の一人じゃないか。今まで雇っては捨ててきた、その人数が一人増えるだけさ。どうしてそこまで頑なに彼女を嫌うんだい?」
「……関係ないだろうお前には」
「いいや、関係あるねい。僕たちがどれだけ一緒にいるのか、忘れたのかい? 君のことならすべてを知っているつもりだけどねい。もっとも、数年間ほどは生で見てたわけでもないけどねい。その数年こそ、僕には決して触れられない領域なんだけどさ」
「だったら、それでいい」
「つれないなあ。ここまで薄情だとは、思ってなかったよう」
「それが本当の俺だからな」
「……言っておくが、嘘は言うなよ、金字。行動力で僕に勝つつもりか? 雲雀である僕がその気になれば――」
「やめろ!」
「くっくっく。答えだねそれは。いい加減、美古都ちゃんに尻尾を表したらどうなんだい。君が我自権先であるということを。美古都ちゃんも、金字の口から素直に訊きたいだろう?」
――盗み聞きしていることはばれていましたか。