恋・4
「日本人は、自分の気持ちを伝えないからねい。文化に貴賤はないと言っても、そこは個人的には西洋に分が上がっちゃうね。以心伝心なんて言葉などという言葉もあるけど、そんなものは無理だよ。人間は言葉を使わないと意見をすり合わすことはできない」
「そうでしょうか。在る冬の寒い夜、お母様が寒さで震えているのを見て、自分の着ている着物を羽織らせるというお父様の姿を拝見したことが私はあります。あれはまさに、言葉が必要ないといったものでした」
「ふん。人間が得る情報というものは視覚聴覚味覚嗅覚触覚の五つだ。それらの情報を統合し過去の事例を引っ張り上げたことでごく僅かな反応を見て判断したに過ぎん」
「それはそれで夢がないねい。シックス・センス――日本で言う虫の知らせ。概念で説明できないこともあると思ってるよ僕は」
「……貴様はどちらの味方だ」
「どちらの味方でもないさ。どうして誰かの意見に擦り寄せなければならない」
「では宗司様。女性は慎み深くなければいけないと思いますか?」
「僕はそれこそ女性が男に愛を囁いてもいいではないかと思っているよう。『女性は慎み深くなければならない。自らの感情を表に出すなどもってのほかであり、これは平安より続く女性の文化である』……これは、僕も否定はしないけどねい。でも実際、女性はそんな枠には収まってくれないのさ。というより、僕たち男は女性に大して畏怖の感情を持っている。男は一度生まれたら、もうその命を燃やすことしかできない。しかし女性は違う。新たな命を宿すことができる。それも、幾つも。これが恐怖の他にないだろう? だから男は女性を封殺するのさ。命をはぐくむ、神を」
「俺もそこは同意する。以心伝心なんてものは無理だということだ小娘」
「しかし私は、以心伝心よりも、イタイユウシンとなりたいと常々思っています」
「…………」
「イタイユウシン? そんな四字熟語なんてあったかい?」
「【異体融心】。私の好きな作家の造語でして、その方はよくこの言葉を好んで使います」
「ほう? 知らないな僕は。どんな意味なんだい?」
「文字通りですよ。身体はこうして離れ離れでも、心で結びつくという枠を飛翔し、一つの存在とまで混ざり合う。この境地に至れば、もはや言葉などいらない。そして身体が分離していることで、二つの視点を持つことができる。一つの心に幾つもの考え。こうなることができれば、猿からヒトへと進化したように、ヒトはそこから、更に人間へと進化することができる。……こういう考えです」
「へえ。面白いことを考えるものだねその人も」
「くだらん。そんな女々しいことを考えるなどと」
「私は! ……先生。私は、いつかしかるべき人と、そうなりたいと思います。否定するのならば、私は先生を、先生と呼ぶことはできなくなります」




