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廊下を走らなければいけない理由

 高校生になってから、香ちゃんは、中学校になじめなかった理由をわかりやすい例で教えてくれた。

・たのきんトリオでは、よっちゃんが好き。

・『オレたちひょうきん族』より『8時だョ!全員集合』が好き。

・『Dr.スランプ アラレちゃん』より『ドラえもん』が好き。

 だから、自分はこの中学では少数派だと自覚したのだそうだ。


 聖子ちゃんカットが多い中、香ちゃんは、中学3年間は岩崎宏美のような前髪パッツンのセミロング。

 香ちゃん自身の分析では「人と合わせたり、猫を被ったりができなかった。まあ、中学生の頃は若かったんだわ~」

 香ちゃんは、気を許したら、意外とおもしろい。


 一方、私は気が弱くて、女子と話すときも声が震えるタイプ。男子とは話せないし、話しかけられもしない。顔を隠したくて、大きな黒ブチメガネをかけていた。

 香ちゃんも私も、できるだけうちの中学からは行く人が少ない高校の理数科を志望した。だから、親しくなったのは、高校入試で一緒に行動してから。


 高校入学のとき、二人ともイメチェンした。香ちゃんは髪をレイヤーカットに、私はメガネをやめて、コンタクトレンズに。それでも性格は変えられず、高校でも友達は少な目。だから、二人はいつも一緒。あまりにも一緒だから、先生が名前を取り違えて教室が笑いに包まれたこともあった。


 実は、香ちゃんは性格もちょっと変わった。少しぶりっ子になった。男子の前では話し方が甘い。でも、これはしかたないと思った。私と違い、香ちゃんは、ルックスは上位レベル。それなのに中学では孤立気味。高校で取り返そうと気合いが入ったんだと思う。


 私は香ちゃんの話し方は気にならないけど、廊下で男子とすれ違うときの動作には困惑した。男子とすれ違うとき、うつむいて小走り。恥じらう乙女感を漂わせる。

 私はしかたなくついていく。男子の視線はいつも香ちゃんに向いていた。「お前まで走らなくていいよ」って言われてるような気になった。


 いつも二人でいて隙がなかったせいか、一緒にいる私がレベルを下げていたせいか、香ちゃんも高校3年間で恋はなかった。二人ともクラスの人とは普通に話せて、中学の頃よりマシだったけど、期待したほどのキラめきもなかった。

 二人とも青春が未消化のまま卒業となった。


 それでも私は、このまま、何もないままの卒業にはしたくなかった。私のことを覚えていてほしい人がいた。みんなのことも、私のことも気にかけてくれた先生。私の小走りを見て、微笑んでくれていた先生。

 中学高校と、男子とは満足に話せなかったけど、恋をするなら同級生の男子だと思い込んでいたのに……。

 初恋だった。


 卒業式の日、香ちゃんと私はいつものように二人で登校した。二人とも無口。今までも恋の話は避けていたけど、今日は特にそうだった。

「香ちゃんにはもしかしたら男子からの告白があるかも……」

 私は、香ちゃんに男子が近づいてきたら、すっと身を引く心づもりをした。


 卒業式が終わり、教室に戻って最後のホームルーム。その後、卒業生は教室を出て自然に校庭に集まった。人波に飲まれて香ちゃんと離れた。同級生と別れの言葉を交わしていると、この場をすぐに離れたくない思いが込み上げた。

 先生を探す。目で追う。……視線が重なった。胸がいっぱいになった。

 香ちゃんは先に校門を出て、ぽつんと立っていた。

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